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ANAと豊田織機、羽田で自動運転トーイングトラクター実証 '25年実用化
2021年3月31日 08:00
全日本空輸(ANA)と豊田自動織機は、新開発の自動運転トーイングトラクターによる貨物搬送を想定した実証実験(自動運転レベル3相当)を羽田空港の制限区域で初めて実施した。期間は3月29日から4月2日の5日間。
トーイングトラクターとは、空港等で手荷物・貨物を収容した荷車・コンテナ等を牽引する車両のこと。自動運転レベル3とは、限定領域での条件付自動運転で、システムが自動運転を行なうが、必要に応じて運転者が運転する状態のこと。自動運転コースは、西貨物上屋~407番スポット~西貨物上屋までの1周約3km。約15分間で、トーイングトラクターが6連結ドーリーを牽引して自動走行する。
両社は、2019年2月から九州佐賀国際空港および中部国際空港において、自動運転トーイングトラクターの実用化に向けた実証実験ならびに試験運用を重ねてきた。その成果を踏まえ、多くの航空機や複数種の空港支援車両が混在する国内最大の羽田空港でトーイングトラクターが安全かつスムーズに自動走行できるかどうか、検証を行なう。
大規模空港での運用に向けた技術面などの課題を早期に洗い出し、10月の実運航便での試験運用へとつなげていく予定。そして2025年には完全自動運転での無人搬送実用化を目指し、「空港業務のSimple & Smart化」を進める。
空港運用に特化した自動運転
電動トーイングトラクター「3TE25」をベース車両として豊田自動織機が新たに開発した自動運転車両を導入した。全長3,680mm、幅1,793mm、高さ2,394mm。重量は5,260kg。取り扱い貨物量が多くて坂道やアンダーパスなど走行条件の厳しい羽田空港での運用に対応するため、高精度な屋内外シームレス自動走行を実現する自己位置推定性能と、牽引重量の増加や坂路走行にも対応可能な走行性能を兼ね備えている。
自己位置推定と車体の制御には、車両底面に搭載したカメラで撮影した路面画像と事前に作成した路面画像マップデータをマッチングすることで車両の位置・姿勢情報を取得する「路面パターンマッチング」技術と、GPSと基地局を用いるGNSS(高精度衛星測位)のほか、3D LiDAR(レーザーセンサー)、2D LiDAR、歩行者検知用の魚眼カメラなどを組み合わせて使っている。走行速度は最大15km/h。これは羽田空港内の制限速度に合わせたもの。停止位置精度は20mm。
自動運転車だがキャビンがあり、乗車定員は2名。キャビン部分には豊田自動織機が開発した樹脂ウインドウを採用。車両の安全性・デザイン性を兼ね備えるとともに、軽量化をはかり、オペレーターの快適性を上げた。実際の運用でも自動運転と手動運転を切り替えながら用いることになるのではないかと考えられているという。今回はおおよそ平均的な重さであるコンテナあたり200kg程度の重りを搭載して走行実験を行なった。
空港業務の「Simple & Smart」化
全日本空輸 執行役員でオペレーションサポートセンター長 兼 空港センター長の要海昌樹氏は「航空業界は労働集約型の産業。機種にもよるが、飛行機一機が到着すると10名くらいが作業を行なうが、何十年も同じように人がハンドリングしてきており、仕事の仕方は変わってない」と状況を紹介。なおそのうち3から4名は搬送作業に携わっているという。
そして「現在はコロナ禍のために便数が少なくなっているため余裕があるが、つい最近まではグラウンドハンドリングの人間の採用も困難だった。今後は生産年齢人口の減少が見込まれており、事業発展を図っていく上では空港業務でのイノベーションが不可欠だ。ロボットや自動運転を活用し、少ない労力と人数で誰でも働きやすい『Simple & Smart』化に継続して取り組んでいく」と語った。
そして空港内は制限速度30km(搬送時は時速15km)であり、人が飛び出してくるわけでもないことから自動走行には適しているとみており、2月にはバスの自動運転実験も行なっていると紹介。今後は、トーイングトラクターの自動化と合わせて推進していくと述べた。
トーイングトラクターの自動運転は2018年に佐賀空港、その後、中部空港でも実験を行なっている。そして「いよいよ今回、最大のネットワークを持つ羽田空港で実証実験を行なう。10月からは実際のオペレーションに導入し、2025年には無人化を図る。ANAグループは『Simple & Smart』な空港オペレーションの取り組みをさらに加速していく。乗客の快適性や利便性の向上、地域社会の発展にも貢献していきたい」と締めくくった。
群制御の上位システムも開発へ
豊田自動織機 執行職 トヨタL&FカンパニーR&Dセンター長の一条恒氏は「将来の物流の姿は『スマート物流』。すなわちモノの動きの全てを自動化し、自動的に情報収集しながらオペレーションを行なう。この『スマート物流』の考え方と、ANAの『Simple & Smart』の考え方は方向性が一致していると考え、空港業務の効率化に向けて2019年から協業してきた」と背景を紹介した。
今回の実証実験ではハードウェアは牽引力を上げ、ソフトウェア面でも自己位置推定や経路計画、制御などのバージョンアップを行なった。樹脂製のキャビンによって軽量化し、デザイン性や視認性も向上させた。今後はさらに信頼性、耐久性、ロバスト性を上げ、コストダウンを図る。そして「今後は、車両だけではなく、多数台の機器の群制御を行なう上位システム、AIの開発にも注力する」と強調、「オペレーションの効率化に向けて協業していきたい」と語った。
空港ならではの難しさ
実証実験の概要は全日本空輸 オペレーションサポートセンター 品質企画部オペレーション企画チームリーダーの岡田稔氏と、豊田自動織機 トヨタL&Fカンパニー R&DセンターARプロジェクトの渋谷修氏が解説した。
ANAの岡田氏はまず、空港のグラウンド業務のイノベーションの方向性の概要を紹介した。前述のように、空港業務は長年、人海戦術的なやり方で業務が行なわれている。ANAでは、感染症対策や今後のイベントリスクへの耐性強化に向けた労働集約型からの脱却を目指している。中長期的な視点からは生産年齢人口の減少や首都圏発着容量拡大に対する持続可能な体制の構築を行なう必要があると認識している。また、空港支援業務を行なうほとんどの部分が共用施設であることから、自動化を進めるためには国/自治体・空港ビル・エアラインの相互連携などの必要もある。
新技術を活用した「業務のSimple & Smart化」の目指す姿は、デジタル化・機械化の推進による作業品質の安定と、人の役割の高度化だ。仕事を脱専門化(簡単化)することで、担い手の柔軟化、安全性・作業精度の向上、作業負荷の低減、離職率低下を実現し、省力化・省人化を進める。
これまでにANAは空港地上支援業務の「Simple & Smart」化のために、空港内外バスの自動運転、ロボットを使った手荷物の自動積みつけ、ロボットスーツによる軽労化、リモコン式航空牽引機器の活用、旅客搭乗橋の自動着脱、延長型ベルトローダーの活用などの取り組みを進めてきた。今回のトーイングトラクターの自動運転もその一環。
空港には独特の難しさもある。航空機が駐機するランプエリアには目印となる構造物が少ない。そこに建物くらいの大きさのものが移動してくる。これが自動運転での技術的課題となる。また空港では全てが共用なので、一つの事業者だけで取り組むことはできない。国もインフラ設備を進めているが空港ごとに設備要件が異なるため、現在は車両側に多くの機能が求められている。そんななか、これまでにANAでは2018年から佐賀空港専用エリアで実証実験を行ない、その後、2020年には中部空港などでも実証実験を行なった。2020年には佐賀空港で実際の運行便での手荷物を扱う無人搬送を実現している。
豊田自動織機の渋谷氏は、佐賀空港での実験動画を示し、他車両が混在する環境下で問題なく走行できることを確認したと述べた。今回の自動運転トーイングトラクターは、センサーを活用することで屋内外をシームレスに自動走行でき、羽田空港での手荷物ニーズに応え、坂やアンダーパスに対応することができるという。自動運転モデルの車両自体は2022年の発売を目指す。
なお、現在ANAが羽田空港で運用しているトーイングトラクターはおよそ250台弱。2025年以降は順次自動運転車両への置き換えを目指す。そのためには給電施設も増やす必要があるが、そこはエアライン側の持ち物ではないため施設側とも話しながら進めていくという。