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MaaSを支えるAWS。小田急「EMot」が目指す“いきかた”改革

アマゾンウェブサービスジャパン(AWSジャパン)は8月19日、MaaS分野でのAWS活用に関する記者説明会をオンラインで開催し、小田急電鉄とヴァル研究所が開発しているMaaSアプリ「EMot」が紹介された。

MaaSとAWSクラウド

アマゾンウェブサービスジャパン 技術統括本部長 執行役員 岡嵜禎氏

まず初めに、AWSジャパン 技術統括本部長 執行役員の岡嵜禎氏が、AWSクラウドとMaaSについて解説した。AWSクラウドは2006年からサービスを提供している。2019年のビジネス規模は350億ドル。世界24のリージョン、76のアベイラビリティーゾーン(データセンター群)から提供されている。これまでに累計で80回以上の値下げをしており、毎月数百万ユーザー、日本だけでも数十万の顧客、670社以上のパートナー企業があり、日本全国にAWS Users Group-Japan(JAWS-UG)支部がある。

MaaS(Mobility as a Service)とは、地域や旅行者の移動ニーズに応じて複数の移動サービスを最適に組み合わせて予約・決済などを一括で行なうサービスのこと。交通以外のサービスとの連携も行なうことで、医療や環境などの問題解決にも資することができる。

多様化する移動ニーズへの対応、移動弱者のフォローや低炭素社会の実現などのビジネス課題の顕在化と、車のCASE(Connected、Autonomous/Automated、Shared、Electric)化、スマホ普及、ビッグデータ/機械学習の台頭など、技術要素の進化に支えられて生まれて来た概念だ。

複数の移動サービスを組み合わせる「MaaS(Mobility as a Service)」
MaaS登場の背景

単一のサービスだけではなく複数のサービス、全てをつなげて様々なサービスにアクセスできるところが大きな価値となっているが、実現するためには様々なプレイヤーと連携する必要がある。具体的には公共交通、自動車、商店、チャージステーションなどが有機的に組み合わされなくてはならない。

データプラットフォームで様々なサービスが連携する

岡嵜氏は、AWSでは様々な領域をカバーしていると述べ、事例として自動運転プラットフォームを開発しているティアフォー、トヨタ自動車のモビリティサービス・プラットフォームでの活用、地図情報のゼンリンデータコムを紹介した。クラウドを活用することで地図情報をリアルタイムに更新し、より便利なサービス提供が可能になり、機械学習モデルの構築にSagemakerなどを活用しているという。

ティアフォーでの活用
トヨタでの活用
ゼンリンデータコムでの活用

AWSを活用することでコア領域に集中でき、使ったぶんだけの料金でアイデアをすぐに形にでき、そして迅速なスケーラビリティの利点があると述べた。また、異業種連携を支える特性も利点だという。

AWSのケイパビリティを用いることでセキュアなデータ連携、うまくいったサービスについてはグローバルに素早く展開できること、そして多くのプレイヤーが使っていることから豊富な技術情報とエンジニアがいることによる学習コストの最小化を利点としてあげた。

そして、このような利点から、交通、ライドシェア、地図、決済、エンタメなど多くのサービスがAWS上で動いており、MaaSサービスを迅速に拡大していけるという。

AWSによってビジネス実装が容易に
AWS上で動いているMaaSのエコシステム

コアとなる技術は、エッジコンピューティング、デバイスゲートウェイ、ストリーム処理、データレイク、機械学習、モバイルアプリ開発の6つ。それぞれの用途のためのサービスを提供しており、数千万のモビリティからのデータトランザクションをさばき、データをセキュアに格納し、活用できる。

今後、MaaSはより活況を呈すると考えており、2020年中には、現在提供されている「AWS Connected Mobility Solution」を大幅に機能拡張して提供する予定だ。

AWSが提供するMaaS関連技術
AWS Connected Mobility Solutionを機能拡張予定

小田急のMaaSアプリ「EMot」

小田急電鉄 経営戦略部 次世代モビリティチーム 統括リーダー 西村潤也氏

次に小田急電鉄 経営戦略部 次世代モビリティチーム 統括リーダーの西村潤也氏と、ヴァル研究所 執行役員 CTOの見川孝太氏が、両社が共同開発しているMaaSアプリ「EMot(エモット)」について解説した。

まず小田急電鉄の西村氏がMaaSについて改めて紹介した。MaaSは、人がスマホを中心としてそれぞれのモビリティサービスにつながるようなイメージ、あるいはクラウドのまわりに色々な機能が付随しているイメージが描かれることが多い。小田急では、手のひらの上に様々な移動サービス・生活シーンがあるようなイメージとして捉えているという。

運輸業の視点から見ると、チケット予約はパソコン、携帯、スマホと進化してきた。少し前だと、ユーザーは自分で調べて自分で予約し、クーポンを印刷して店舗に持参するといったスタイルだった。それが携帯、スマホとなり、すべてが画面のなかで完結し、クーポンは自動配信されるようになった。GPSや決済機能を活用することで生活は大きく変化してきた。

西村氏はタクシーを例にして説明した。以前は電話帳でタクシー会社を探して電話していた。いまはGPSを使ってタクシーを呼ぶことができるようになり、決済まで完了するようになった。また価格を変化させて需給バランスを変化させることもできるようになった。「テクノロジーの進化によってMaaSは必然的に生まれた動き」だと考えているという。

運輸業から見るとMaaSは必然だったという

小田急は1927年に開業。戦後高度経済成長を経て多角的サービスを展開してきた。そしていま人口減少時代が到来し、新たなデジタルな顧客接点を考えて、2019年にMaaSアプリ「EMot」をスタートさせた。

小田急の歴史

EMotは、いつもの道の「行き方」の変化と、ライフスタイルの変化の「生き方」の変化、2つの「いきかた」変化を提案している。通常の経路検索だと電車バス徒歩だが、EMotではヴァル研究所の技術を用いることでタクシーやバイクシェアなども組み合わせた結果を出すことができる。アプリからタクシー配車アプリ「MOV」や「JapanTaxi」を開くことができ、ユーザーがカーシェアを選択すると、「タイムズカーシェア」の画面まで遷移することができる。小田急だけではないパートナーとの連携が特徴だ。

MaaSアプリ「EMot」
タクシーなどを組み合わせた複合経路検索

箱根フリーパスの電子版など、電子チケットにも対応している。スマホでいつでも購入し、画面提示するだけで周遊が可能になるので、チケットレスで旅が可能になる。交通チケットだけでなく、飲食チケットも販売している。対象店舗でQRコードを読み込むことで有効化する。

電子チケット機能
対象店舗で提示する

そのほか、浜松市の遠州鉄道のフリーパスや、今年行なわれた浜松駅前の飲食イベントの電子チケットなどにも対応した。

EMotには、あえて小田急のロゴをあしらっていない点も特徴だという。西村氏は、「『EMot』をダウンロードして、ぜひ新しい『いきかた』を体験してほしい」と語った。

地域イベントのチケットなどにも対応

早く作れて柔軟な環境であることからAWSを選択

ヴァル研究所 執行役員 CTO 見川孝太氏

EMotの技術に関してはヴァル研究所 執行役員 CTOの見川孝太氏が解説した。ヴァル研究所は1976年創業。おもな商材は経路探索ソフトウェア「駅すぱあと」。「EMot」にも「駅すぱあと」のエンジンを活用した。

ポイントは3点。機能単位での疎結合による拡張の容易さ、AWSを活用したサーバーレスであること、そしてPaaS(Platform as a Service)の利用による運用コストの低減だ。

具体的には、ファンクション単位で処理できる部分はAWS Lambda(ラムダ)を用い、チケッティングと決済部分はAWS Fargate(ファーゲート)を用いてコンテナで実行している。基本的には機能的に疎結合とし、すべてを自分たちで解決するのではなく外部サービスと積極的に連携している。

システムの構成
チケッティングと決済部分はAWS Fargate

プラットフォームについてはAmazon EC2ベースと比較しても監視対象が少ないこともあり、運用負荷が低下。また、シンプルな機能群として整理したためフロント実装の複雑性が低下しているという。ただし現時点ではフロントとプラットフォームのスコープが曖昧になりやすいという注意点もあると指摘した。

AWSを選んだ理由は4点。ビジネス速度が最優先だったため、実現したいものを早く作成できたこと、今後の変更に柔軟に対応できること、そしてビジネスとして計画している以上、スケールできる環境が非常に重要だったこと、需要に応じて伸びていける環境である必要があったことなどを挙げた。

「ビジネスの優先順位として、早く作れて柔軟な環境が必要だった」という。そして、もともとヴァル研究所のメンバーが使い慣れたクラウドだったことも理由だったという。ヴァル研究所では2012年頃からAWSを利用しており、社内でも知識・経験が蓄積しているクラウドサービスであることからAWSを選定したと述べた。

ビジネスは陣取り合戦からネットワーキングの時代へ

小田急の西村氏は最後に、以前の運輸業は増大する人口を奪い合っていたが、これからはもっともよいモビリティサービスを提供するために他社とも連携し、デジタルな顧客接点を提供することが重要だと考え、基盤サービスを提供することを想定していると述べた。

海外も視野に入れて展開しており、海外の旅行客が来た場合にも日本のサービスをそのまま提供できるようなビジョンを思い描いているという。

これからは連携によるネットワーキングの時代へ

また交通だけではなく、買い物・食事・温泉に入る・宿泊など、移動の目的となる生活・観光サービスとも連携していく。一例として新百合ヶ丘の商業施設「エルミロード」で2,500円以上買い物したら、新百合ヶ丘駅発着の小田急バスに乗車できるチケット(往復分)が「EMot」で受け取れるというサービスを紹介した。QRコードを「EMot」で読み取ると、チケットを受け取れるというもので、スマホで完結する。このようなサービスを将来に向けて開発していると述べた。

生活・観光サービスも組み合わせる
移動だけでなく移動目的とも連携

そして4つの機能を開発中だと述べた。1つ目はチケット譲渡機能。代表者が購入し、他のアカウントに一枚ずつ譲渡できる機能だ。駅で落ち合ってチケットを分配する必要がなくなる。2つ目はリアルタイム運行情報。遅れが生じている場合はその情報が提供される。今後はそれまでの情報をベースにした混雑予測も表示する予定だ。

チケット譲渡機能
リアルタイム運行情報

3つ目は新しいお得な電子チケット。箱根湯本にある温浴施設「箱根湯寮」で、お得な電子チケットを提供する。通常の入浴料金だけでレンタルタオルセットが無料になる。

4つ目が2020年内に導入予定のAIを活用した周遊プランニング機能だ。8月18日にリリースされた。SNSやウェブ上の口コミ情報をAIが解析して話題のお出かけスポットを提案する。そのなかから、ユーザーは行きたいところを適当にタップすると、最適にまわれる周遊ルートが自動提案される。MaaS連携しているミックウェアのおすすめスポット提案サービス「BeatMap」を活用している。

お得な電子チケットの販売
AIを活用した周遊プランニング機能

今後、新型コロナウイルス対策も踏まえて、顧客接点のデジタル化、キャッシュレス化を進め、電子チケットを揃える。そして運行情報や混雑予報、観光スポットなどの情報を提供していく。小田急・西村氏は、「人々の移動を担う事業者として移動がしっかりと都市や人を支える、移動によって人が都市の様々なサービスを享受できる社会、モビリティライフを創造していきたい。幅広いパートナーと連携しながら、会いたいときに、会いたい人に、会いに行ける生活や社会を生み出していきたい」とまとめた。

新しいモビリティライフの創造へ