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Amazon Go的なレジ無し店舗技術続々。NRF 2019に見る小売の変革

全米小売協会(NRF)主催の小売業界をターゲットとした展示会「NRF 2019 Retail’s Big Show」が今年も米ニューヨークで1月13日から開催されている。

NRF 2019が開催されている米ニューヨークのJacob K. Javits Convention Center

昨年のSears倒産をはじめとして、ここ最近は毎年のように大規模小売チェーンの倒産や大規模閉店にともなうリストラが発表される一方で、Amazon.comらオンライン事業の伸びが伝えられるなど、オールドエコノミーと新興勢力の対比が鮮明化しつつある。NRFを率いるのはWalmartやMacy'sといった従来ながらの老舗小売業者であり、ある意味でオールドエコノミーの象徴的存在だ。だが全米の労働人口の4人に1人が小売業界に従事しており、全米の雇用を支えるとともに消費経済に占める影響力も大きく、同時にロビー活動を通じた政治への影響力も大きい。

このように「人ありき」の側面が大きく、周囲への影響力を喧伝してはばからないNRFであるが、時代の波にどう自らを適合していくかが現在大きな課題になっている。例えば最大のライバルであるAmazon.comだが、従来のモール出店の小型ポップアップ店舗にとどまらず、最近ではWhole Foods Market買収に始まり、Amazon GoやAmazon Book Storeといった直営店舗の出店、さらにはAmazon Four Star Storeといった新しい業態の店舗への挑戦など、リアル店舗における攻勢を強めている。リアルとオンラインの境が曖昧になるなか、既存事業者がどのように買い物のユーザー体験を改善していくかに注目が集まっている。

今回のNRF展示会では、Amazon Go型の店舗を実現する展示が多くみられ、いかに新しい店舗とユーザー体験の形に小売店が興味を持っているかを改めて認識する機会となった。現在はまだトライアルの段階であり、実際に商用店舗が出現するまでに若干の時間がかかるかと思うが、今後1-2年でいわゆるAmazon Go型店舗が世界中のあちこちに出現することになるのは確実だろう。展示会で見られた最新ソリューションを紹介していく。

従来ながらのショッピング体験を変えることをアピールする企業も多い

NCRがAmazon Goライクな「Grab&Go」のコンセプト店舗を設置

NCR(National Cash Register)はその名の通りレジやPOSなど、小売業界向けのソリューションでは最大手の一角だが、昨年2018年のNRF以降は特にセルフレジのラインナップを大幅に強化しており、顧客となる小売店のニーズの多様化に対応している。今年2019年はさらにAmazon Go的な「レジなし」という同社的には発想の転換に近いコンセプトの実験店舗もブース展示しており、来場者の注目を集めていた。

店舗スペースや商品は限定的、カメラも現状で1台+α程度の規模だが、店舗内店舗や企業内店舗など、一部パートナーと共同で技術開発を進めており、近いうちに何らかの形で実験店舗の開設が行なわれる見込みだという。

NCRブースに設置されたGrab&Goのコンセプト店舗コーナー
店舗内の様子。部屋全体を俯瞰できる監視カメラが1台設置されている
店舗内の動きは全部追跡されており、行動パターンや現在持っている商品がリアルタイムで表示される

新技術を開発するスタートアップ企業が続々と登場

NRFでは一昨年の2017年から展示会場最上階にあたる4階フロアをInnovation Labと命名し、少し未来的で興味深いコンセプトを持つスタートアップ企業を紹介する場所としている。今回はAmazon Go的な買い物体験を実現する技術展示を行う企業が複数社あり、中でも特に話題の仕組みに近い実装を実現している3社を紹介する。

1つめはハードウェア系スタートアップの「Maxerience」で、よくペットボトル飲料などが収められたクーラーケースをそのまま自販機にしてしまう仕組みが紹介されていた。

米カリフォルニア州フリモントを拠点とするハードウェア系スタートアップ企業のMaxerience。クーラーケースを自販機にする

ケース内にカメラを2台仕掛けることで利用者の行動追跡と、手にした商品の画像を認識し、最終的にケースの扉を閉めるまでに何の商品を手にしていたかを把握する。ケースの解錠をアプリで行なうことで、利用者のアカウントを認証し、扉を閉めた段階で手にしている商品に対して決済をオンライン上で行なえば、メカニカルな仕組みのない簡易自販機ができあがるというわけだ。

後述するが、同種の仕組みは中国ですでに商用化されており、クーラーボックス自販機を駅や商用施設などあちこちで見かけることができる。すでにアトランタの会社といろいろな実験を開始しているとのことで、比較的早いタイミングで実験サービスがお披露目されることになるかもしれない。

コーナーに設置された2カ所のカメラで利用者がどの商品を手に取っているかを認識する
カメラその1。位置は右上にあり、ケースの内側に設置される
カメラその2。位置は左下の底面にあり、ケースの扉を閉めている状態では扉で隠れる位置にある
扉の開閉にはアプリを用いる。登録済みアカウントで本人認証を行ない、支払いは自動会計となる
こちらは汎用的な“棚”に設置して、「手に取った商品を認識する」仕組みを提供するカメラ装置

2つめは「Zippin」で、こちらはまさにAmazon Goの仕組みをそのまま実装する技術を開発する。

サンフランシスコを拠点としている同社だが、やはりAmazon Go的な店舗実現を目指してStandard Cognitionというライバル企業が同市内に拠点を構える。Zippin CEOのKrishna Motukuri氏によれば、「Standard Cognitionはカメラのみを行動分析に利用している関係で同時に2-3人程度の認識を行なうのにとどまるが、Zippinでは商品認識が可能なスマートシェルフ(棚)も組み合わせることで死角をなくし、より高い認識精度を実現する」という。

Standard Cognitionもサンフランシスコ内の実験店舗で日々認識ソフトウェアの最適化を行なっている段階で、2019年内には実験店舗を含む商用展開を開始する計画となっている。Zippinもまた、パートナーを獲得してこのレースに参加する形となる。

米カリフォルニア州サンフランシスコを拠点とするスタートアップのZippinはAmazon Goライクな仕組みを提供する
Standard CognitionというカメラのみでAmazon Goの仕組みを実装するスタートアップもあるが、同社とZippinの違いは、このスマートシェルフ(棚)の利用。これとカメラを組み合わせることで認識精度を向上させるという
Zippin CEOのKrishna Motukuri氏

3つめは「Smart Shelf」で、もともとは利用者の行動に基づいて棚のディスプレイ表示が変化するスマートディスプレイや、自動棚卸しシステム、店舗内行動解析システムを開発している企業。今回NRFに出展したAmazon Goライクなカメラを使ったレジなし決済店舗のコンセプトモデルは、新しいビジネスを切り開くものとなる。

Innovation Labの他企業に比べるとカメラの設置数がやや多い印象もあるが、今春にはパートナー含めて具体的な動きが見えているとのことで、夏以降に何らかのアナウンスがあることに期待したい。

米カリフォルニア州オレンジ郡アリソビエホを拠点とするスタートアップのSmart Shelf。やはりAmazon Go的な仕組みをカメラで実現する]
入店した利用者と行動、持っている商品はつねに追跡され、リアルタイムで状況が確認できる
4畳半ほどの空間の天井に設置されたカメラは8台。店舗レイアウトにもよるが、小型店舗であれば20-30程度のカメラできるようだ

Intelブースには中国系の先行者たちの姿も

NRFのIntelブースは毎年同社技術を駆使した世界の最新事例を持ち込んでいて非常に面白いのだが、今年はブース中央に中国系の新しい店舗システムを提案する2社が出展しており、来場者の注目を集めている。

CloudpickはAmazon Goそのままの仕組みで、アプリを使った入退場の仕組みや2Dの監視カメラ3台を組み合わせた行動追跡による自動レジ精算システムを採用している。

Intelブースでは中国からCloudpickが出展してAmazon Goライクな実験店舗がデモストレーションされている

驚くべき点は退店時の精算スピードの速さで、1-2秒程度で持ち出した商品の一覧が表示され、リアルタイム追跡できていることがわかることにある。Amazon Goでは精度を高めるために退店後に行動追跡の再計算が走って、最終的な結果表示に原稿執筆時点で数分程度(1年前に商用サービスを開始した直後は30分ほど)かかっているが、このCloudpickの仕組みであれば現在手に持っている商品をアプリ経由でリアルタイムに確認できるバーチャルカートの仕組みが比較的容易に実装できるかもしれない。

この空間で設置されたカメラは3台
入退店のシステムはAmazon Goとほぼ同じで、アプリに表示させたアカウントのQRコードをゲートにある赤外線センサで読ませ、あとは商品をつかんでそのまま退店するだけ
アプリには1-2秒程度で結果が表示される。Amazon Goが再計算に現状で数分程度を要するのを考えれば、ほぼリアルタイムで追跡して結果を出しているといえる

Cloudpickの仕組みは上海などの都市で実験店舗が商用サービスを開始していたりするが、一方でもう1つIntelブースに展示されていたJD.comの「京東到家Go」は、すでに実際に中国全土で商用展開が行なわれている。

同じくIntelブースに設置されてたJD.comの京東到家Go。中国ではすでに商用化されている仕組みで、前述Maxerienceに先行する

Maxerienceと同様に、クーラーケース内にカメラを複数設置することで利用者の行動や商品を認識し、扉を閉めた段階で自動精算を行なう。ケースの解錠はWeChatのミニプログラムを利用するため、そのままWeChat Payでオンライン会計が可能。またすでに商用サービスが展開されているというアドバンテージもあり、技術面で一日の長があるといえるだろう。

クーラーケース内に搭載されているのはIntelのCore i5クラスのプロセッサということで、イニシャルコスト的にもそこまで高くなく、それでいて画像認識技術を使った行動解析が行なえるわけだ。

京東到家Go。まずWeChatアプリでケース上部に表示されるQRコードを読み込む
WeChat内でミニプログラムが起動し、アカウント認証後にクーラーケースが解錠される
手に取った商品はリアルタイムで認識されており、画面上部のディスプレイで確認できる
このサイズのケースでカメラは内部に5台設置されており、画像認識率を上げるためにLEDライトが棚ごとに据え付けられている