こどもとIT
iPadで理数系の学びをカラフルに! Apple製品を授業に生かす教員たちの活用術とは
――「MATH&SCIENCEオンラインワークショップ」レポート
2021年2月19日 06:45
学校に1人1台環境が整いつつあるが、どう授業に活かすか悩んでいる教員も多いのではないだろうか。そんな中、iPadを活用した先進的な教育活動に取り組む教育イノベーター「Apple Distinguished Educators(以下、ADE)」が「MATH&SCIENCEワークショップ」を開催した。
2021年1月23日に実施したワークショップでは、算数・数学や理科を受け持つ4人のADEが講師となり、写真や動画、アニメーション、さらにはARなど、テクノロジーを活用した学習について参加者らが実際に手を動かしながら学べる場を提供。本稿では、教育関係者だけでなく、iPad初心者にも分かりやすい内容だった本ワークショップをレポートする。ぜひiPadを活用する学びの楽しさに触れて欲しい。
「敷き詰め模様」で算数と日常をリンクし、学ぶ意欲につなげる
「身のまわりには算数があふれている」と語るのは、Keynoteで作る「敷き詰め模様」のワークショップを担当した近畿大学附属小学校の外山宏行教諭だ。自然界に隠された幾何学模様を探すなど、算数と身のまわりのものをリンクさせると、子どもたちの算数に対する興味・関心が高まり、視野を広げると述べた。
敷き詰め模様の作成には、プレゼンテーションツール「Keynote」を使用。最初は、縦横比を固定した三角形や四角形を一面に敷き詰め、カラフルな模様を作成した。すき間なく一面に並べるためには、1つの頂点に集まる角の合計が360度になることが条件であるが、それを満たすのは正三角形、正四角形、正六角形の3つのみ。外山教諭は「なぜこの3図形のみになるのか、子どもたちに考えてもらっても面白い」と授業に取り入れる際のポイントを補足した。
1種類の図形を敷き詰めるシンプルなパターンを作成した後、複数の図形を組み合わせたユニークな幾何学模様や、重なった2つの図形を「交差」「減算」して作った複雑な形を敷き詰める応用編に挑戦。参加者らは完成した作品を、掲示板アプリ「Padlet」を使って共有した。外山教諭は二等辺三角形やひし形、正多角形などを利用した作品も紹介し、小学校高学年や中学生に向けた発展的な学びについても述べた。
一度取り組み始めると、大人もつい没頭してしまう敷き詰め模様だが、外山教諭は「遊びにつながったときに、子どもたちのモチベーションが上がる」と語る。実際に、普段は計算が苦手な子どもたちが黙々と作業に打ち込み、周囲をあっと言わせる発想力を発揮することがよくあるそうだ。
外山教諭の学級では「しきつめアート選手権」を定期的に開催しており、子どもたちの面白い発想に驚かされているという。実際に子どもたちの作品を見ると、パズルのピースを敷き詰めてそのうえにイラストを描いたり、矢印を敷き詰めてだまし絵のようにするなど、高レベルなものばかりだった。
このワークショップの内容は、Apple Books「しきつめ模様をつくろう」で公開されている。
カメラの仕組みを科学する、露出の数値から導き出した関数の世界
上越教育大附属中学校で理科を教える大崎貢教諭は、理科と数学の視点で楽しめる写真撮影のワークショップを担当した。ゴールは「エモい写真を撮ろう」。最初は、写真の明るさ(露出)を決める3つの要素「絞り(F値)」「シャッタースピード」「ISO感度」や、カメラの仕組みなど基本的な知識の説明からスタートした。
スマートフォンやタブレット端末のカメラはオートモードで撮影するのが主流で、F値は変更できない。しかし、大崎教諭はマニュアルコントロール撮影が可能な「Mカメラ」といったアプリを使うと自由に数値を調整できると紹介した。
加えて、照明を測定するライトメーターアプリ「Lghtmtr」を使って、F値、シャッタースピード、ISO感度の数値にある関係性を確認し、「露出を変えずに写真を撮る方法」など数学的な視点も解説。同校では、カメラ好きの数学教師が授業でこのような学習を行なっているようで、普段の授業においてもICTを活用してワクワクする学びが実践されている様子が伝わってきた。
F値やシャッタースピード、ISO感度にまでこだわって写真を撮るのは、子どもにとってハードルが高いことのように思えるが、大崎教諭は「初めて端末を触る際の入り口として、カメラは最適」と語る。ワークショップで参加者が写真撮影する間、大崎教諭がiPadやiPhoneの純正カメラアプリで撮影する際の裏技をいくつか紹介してくれたのだが、それを活用しているのは他でもない子どもたちだというのだ。
たとえば、AE/AFロックもそのひとつ。理科の実験の際、手前のビーカーを撮影したくても、ピントが合わないことがある。その場合、あらかじめピントを合わせたい対象を長押しておくと、固定できる。また、実験で炎が上がる瞬間を撮影したい時、通常は連写することが多いが、スローで撮影した動画をキャプチャ撮影する方がより細かいシーンを切り取れるという。大崎教諭は「子どもたちはその写真をどう使うかまで考え、よく考えながら撮っている」と語った。
このワークショップの内容は、Apple Books「カメラアプリで光と関数を体験しよう」で公開されている。
ミニ雪国を作成、「創造的思考力」と「空間認識能力」を養うARコンテンツ
ARコンテンツを制作できるアプリ「Reality Composer」を使ったワークショップを担当したのは、和歌山大学教育学部附属中学校で理科を担当する矢野充博教諭だ。Keynoteで作成した雪の結晶をReality Composerに取り込み、雪を降らせた仮想空間に雪だるまを出現させた。
ARを取り入れた授業を行ない、YouTubeチャンネルでもICT活用の有益な情報を発信している矢野教諭。最初に自身が作成したWebページ「理科のARとVRの部屋」を取り上げ、電気や磁石の力を可視化したARコンテンツや、いろいろな気象現象をARで表現した教材を公開し、ARでどのような授業ができるのかを紹介した。矢野教諭が語るAR教材の良いところは、「目の前に現れたコンテンツを自在に拡大縮小して、自分の見たい方向から見ることができる」ことだという。
たとえばモーターの原理について学ぶ際、モーターが回る仕組みをいきなり口頭で説明するのはむずかしい。しかし、ARコンテンツで具体物を自分の目で観察できれば、言葉にしやすい。矢野教諭の授業では、ARコンテンツで観察した後に、観察物の仕組みについてクラスメイトに説明し、その後、ロイロノート・スクールで文章にまとめて提出するという。矢野教諭は、「普段あまり積極的に発言しない生徒がクラスメイトに一生懸命説明する姿が見られた」と語った。
その後は、いよいよAR体験。Keynoteにある星の図形を組み合わせて雪の結晶を作成し、Reality Composerに読み込んでアニメーション付きのARを作った。雪だるま作りを含めた詳しい作成方法は矢野教諭のYouTubeチャンネルに掲載されているので、ぜひチェックしてほしい。
ARコンテンツの作成は、「創造的思考力」と「空間認識能力」が鍛えられると語る矢野教諭。筆者もワークショップを視聴しながら挑戦してみたが、オブジェクトの座標を掴むのに苦労した。同様の活動は矢野教諭の授業でも行なわれており、ワークショップの前半では「パンチすると吹き飛ぶ雪だるま」といった応用バージョンを作成する生徒の姿が見られた。口頭での発表や文章、映像など表現方法は数多くあるが、ARの技術を活用すれば自分の考えを表現する幅が広がりそうだ。
このワークショップの内容は、Apple Books「ARでミニ雪国の世界を作ろう」で公開されている。
数学はアート!Clipsで作る、身近な数字の秘密を探るビデオ
「動画作成を用いれば、誰もが学びのストーリーテラーになれる」と語るのは、新渡戸文化中学校で数学を教える芥隆司教諭。誰でも簡単に動画が作れる動画編集アプリ「Clips」を使って、日常にある数学の世界への窓を開く。身のまわりにある「数」をテーマに、その数が何に使われているのか動画で表現しようというのだ。
ワークショップの前半はClipsを用いた動画作成の簡単なレクチャーが行なわれた。芥教諭は日頃からAppleのラーニングプログラム「Everyone Can Createビデオ」を活用し、積極的に動画作成を授業に取り入れている。Clipsには動画のタイトル画面になる「ポスター」や動画を装飾する「エフェクト」などのテンプレートが豊富で、アプリ上で手軽に動画撮影と編集ができるのが魅力だ。
「身近な数の秘密を探る」動画は、ベンチの板の枚数や、サイコロの数字など、身近な数を発見し、その数をもとに問いを作り、数の性質を考え、問いに対する自分の考えをまとめるもの。芥教諭は「大切なのは作品の完成度ではなく、多様な考えや答えが生まれること」だと述べた。授業で取り入れる際には、協働学習などで活発な議論を交わしながら作業をすると、新鮮な発見が生まれることだろう。
芥教諭はワークショップの最後に、今年度取り組んできた学習活動について動画で紹介。「数学で俳句!」や、「Earth Day」にちなんだ作品など、数学と作品作りを結びつける活動が目を引いた。また、「Why Math?(なんで数学をするの?)」という問いかけに対して生徒が作った「ワイワイ!数学」というスライドは、数学が何の役に立つのか疑問を持ちながらも、楽しく学ぶ姿が表されていて深く印象に残った。iPadを活用した新しい学びは「理科」や「数学」の教科の枠を越えて、子どもたちに創造的な活動をもたらしている。
このワークショップの内容は、Apple Books「身近な数を発見しよう!」で公開されている。
iPadを使って、身の回りにあふれる算数・数学や理科の世界を楽しもう
iPadは、操作性の良さ、映像の扱いやすさ、教育系アプリの充実など、教育との親和性も高く、GIGAスクール構想でも多くの自治体が採用している。そんなiPadを活用して、新しい学びを模索し、子どもたちの可能性を広げることはできないか。「算数・数学や理科はむずかしいイメージもあるが、iPadやテクノロジーを活用することで、楽しく学べることを知ってほしい」と本ワークショップの企画・運営をした廣重求教諭(東京成徳大学中学校・高等学校)は、開催の想いをそう語る。
本文中でも紹介したが、各ワークショップの詳細をまとめた無料のデジタルブックが、iPhoneやiPadで読める「Apple Books」で公開されている。興味のある方はダウンロードして体験してみてほしい。
今回のワークショップは短い時間ながら、実に濃いテーマとスキルが詰まっていた。この内容をいきなり授業で実践しようとすると、ハードルが高く感じられるかもしれない。しかし、今回ワークショップでプレゼンテーターを務めたADEは何よりもまず大人自身が楽しむことを推奨していた。まずは教員同士で楽しみながら体験し、知見やスキルを活発に共有し合ってはどうだろうか。その輪を教室にも広げていくことで、新たな学びがもっと身近になることを期待したい。
なお、同ワークショップは2月21日(日)15:00~17:30に第2弾を開催するという。このレポートで興味を持った教育関係者は、ぜひ参加を検討してはいかがだろうか。