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マイクロソフトとPNNL、リチウムを7割削減できるバッテリー素材

1月9日(米国時間)、マイクロソフトとパシフィック・ノースウェスト国立研究所(PNNL)は、全固体型リチウムイオンバッテリーの素材に関する共同研究を発表した。PNNLは米・エネルギー省傘下の研究機関で、材料工学や高性能コンピューティングなどの研究で知られている。

新しい素材では、バッテリーに使うリチウム素材を最大70%削減できる可能性がある。新素材はすでに特定された上合成が行なわれ、概念検証のためのプロトタイプが製造されている。プロトタイプからはすでに電力の発生にも成功しているという。

今回発見・合成に成功した全固体バッテリー用極素材。製造に必要なリチウムの量を、従来に比べ最大70%削減できる

今回、新しい材料の発見には、マイクロソフトの研究向け高性能コンピューティング(HPC)インフラである「Azure Quantum Elements」が活用された。

Azure Quantum Elementsは、素材研究のような、膨大な組み合わせ計算を必要とする課題に特化したHPCインフラで、2023年6月にリリースされている。

Azure Quantum Elements解説ビデオ

素材を絞り込む過程では膨大な「組み合わせ問題」の解決が必要となるが、既存のコンピュータアーキテクチャでストレートに解いた場合、効率が悪く、どうしても長い処理時間を必要とする。そうした課題では「量子コンピュータ」による演算が向いているが、現時点では量子コンピュータ自体が実験的な存在であり、大規模な課題解決にはまだ適さない。

そこでマイクロソフトは、量子演算を「機械学習による推論」、すなわちAIに置き換えた。こうすれば、既存のHPCを使って高速に結果を得ることが可能となる。ただし推論が常に正しいとは限らないため、HPCを使ったシミュレーションによる検証を組み合わせ、確実性を高めている。これが「Azure Quantum Elements」の仕組みだ。

結果として、今回の課題の場合、処理速度は「従来に比べ最大50万倍」になったという。

過去に行なわれた同様のプロジェクトでは、検討開始から新しい素材の設計までに「数年」の時間を必要とした。

今回は、昨年8月に3,200万以上の有効である可能性がある素材から、より確実性の高い50万種類にまで絞り込む作業を行ない、さらにそこから18のより有望な素材を選別している。3,200万種類から50万種類への絞り込み作業には「8日間」、今回、8種類へと絞り込む作業は「80時間」で完了しているという。

なお、発見された素材について、実用的なバッテリーとしての利用に耐えるかどうかの検証はこれから。最終的に実用可能な素材として使えない可能性も残されている。

だが、数年単位の時間が必要だった新素材の検討が、HPCとAIの組み合わせで劇的に短いものに変わる可能性を示せたことは、今後の科学研究を大きく加速させる可能性を示している。

両者は今回の成果をもとに、さらに研究を継続する予定だという。