【徹底予測】

新ザウルスが描くPDAの未来 ~シャープの動向からその姿を読む

 CEATECに続きWORLD PC EXPOにも出現した新ザウルス。
実際の発表はまだだが、現在、得ることのできる情報を元に
新ザウルスの全容を探り、今後のザウルスの進む方向を推理してみたい。

新ザウルスがWORLD PC EXPOにも出現
 アジア最大のデジタル総合展「WORLD PC EXPO 2000」が10月18日~21日の4日間にわたって開催された。PCの展示会とはいうものの、話題はむしろPDAやデジタルカメラなど携帯情報機器に集まった。なかでもPDA関連は、米国パームコンピューティング社、米国ハンドスプリング社、ソニーなどが出展し、カラー液晶モデルや通信機能対応または内蔵、MP3音楽再生といったさまざまなソリューションが続々と出てきていた。
 そんな中、日本のPDA市場を開拓してきたシャープは、CEATECに続きここでもザウルスのニューモデル(以降、新ザウルス)を出品し、来場者の注目を浴びていた。

 ここで展示されていた新ザウルスは、キーボードを搭載した縦型の筐体にモデム、PHSカードなどの通信に対応するコンパクトフラッシュ Type IIスロット、SDメモリカードスロット、USBといった豊富なインターフェイスを搭載しており、パソコンとのリンクもUSB接続可能な最新型のPDAだ。さらにMP3による音楽再生機能やMPEG-4を使った動画再生も可能なパーソナルエンタテイメントマシンとしても活用できる。
 今回もCEATEC同様、実機に触れることはできなかったが、実際にMPEG 4で動画を再生している様子などが見ることができ、新ザウルスが間近に迫っていることが実感できた。
 新ザウルスは、これまでのPDAの域を超えた多彩な機能を満載して私たちの目の前に現れてくるようだが、WORLD PC EXPOで紹介されていたのは、あくまでハードのみ。これらが一体どのような形で展開されていくのかはまだ未知数である。もちろんまだ発表前の製品なので、正確な情報は正式発表を待つしかないが、これまでの同社のリリースや動向、各種報道から新ザウルスによる新しいザウルスワールドを探ってみたい。

ザウルスの枠を超え、世界を狙え
 まず、なんといっても注目したいのは、7月25日に行われた記者懇親会での同社代表取締役社長の町田勝彦氏のスピーチだろう。これは同社のウェブサイトに『下期および来年に向けた取り組み』としてまとめられ掲載されている。
 その中に「ザウルス事業」という項目がある。ここで町田社長は、「PDAも従来のビジネス中心から、ユーザー個々のニーズにあわせたものを提供しなければなりません」とし、「『e-Zaurus』として、次の戦略で大々的に世界展開してまいります」と語っている。これまでのザウルスの枠を超え、世界を狙っていく、ということなのだ。
 それでは、世界を狙うために、ザウルスはどのように進化するのだろうか?
 「ザウルス事業」では、新ザウルスの3つの商品像を紹介している。第1が『スタンドアロンで使えるザウルス』、第2が『「PCとリンク」して使う、パソコンユーザー向けのザウルス』、第3が『電話機能を内蔵したザウルス』ということだ。
 もちろんこれはあくまで筆者の推測にすぎないのだが、第1の『スタンドアロンで使えるザウルス』は、まさにCEATEC、WORLD PC EXPOで紹介されたマシンということになるのではないだろうか? さまざまな機能を満載しておりヘヴィユーザーも満足するような、その拡張性やエンターテイメント性能はこれ一台でOK、と思わせるに十分な作りと伺える。もちろん、ザウルスである以上、日本人にもっとも深く浸透したPDAとしてエントリーユーザーにもぴったりであることは間違いない。
 それでは、今後、第2、第3の新ザウルスは一体どういう形でいつ現れるのだろうか?大変興味深いところだ。

●ザウルスはどう進化する?
 新ザウルスは、これまでのザウルスを大きく進化させるものと見ることができるが、それではどう進化し、それを支えるために、ザウルスにはなにが必要で、どんな準備がされているのだろうか?

 まず、エンターテイメント機能についてだが、MP3もMPEG 4も既存技術ではあるものの、モバイルという限られた環境で満足できるレベルに仕上げるには、特別な技術開発が成されているのではないだろうか。
 むしろ気になるのは、そのソフトの供給方法だ。MP3なら携帯電話経由で楽曲をダウンロードする方法はすでに準備が進んでいるだろうし、同社には「シャープスペースタウン」というコンテンツサービスもある。
 動画については、個人で録画して楽しむ、ということがまず考えられる。これまでビデオ映像をキャプチャーするには、パソコンが必要だったが、今回シャープは、MPEG4ビデオレコーダーを用意し、まさにビデオデッキでのキャプチャーを実現しようとしている。さらに、興味深いのは、地上波デジタル放送によるテレビ放送の受信だ。10月5日付け朝日新聞の朝刊でも、「テレビ映るザウルス開発へ」と報道されているが、同社では2003年に始まるテレビの地上波デジタル放送を見ることができる機種を商品化する方針を明らかにしている。
 パソコンの分野では、TV・VTR機能を持つパソコンが、ホームパソコンとして提案されているが、新ザウルスによって、家庭での情報環境をモバイルで持ち歩くことが現実のものとなろうとしている。
 こうしたさまざまな動画コンテンツをザウルスを始めPDAの小さな画面に映し出すにはそれなりのクオリティを持った液晶技術が必要になるだろう。しかし、各社のPDAのカラー液晶はSTN液晶が多く、動画の視聴には疑問が残る。新ザウルスにはどういう液晶技術が搭載されることになるのか気になるところだ。
MPEG4
ビデオレコーダー

 次にPCコンパニオンとしてはどうなのだろう? 具体的にどういうソフトが出てくるかは定かではないが、展示モデルには[PCリンクスタート]というボタンがあるので、スムーズなPCとの連携が期待できる。
 PCとのリンクを売りにしてきたマシンと言えばPalm OS搭載機があるわけだが、Palm OS搭載機がのびてきたのは、オープンな開発環境により数多くのソフトがサードパーティにより開発されたことが一因と言われている。
 ザウルス用ソフトの開発環境として「CodeWarrior for Zaurus」が11月より提供が開始されるのだ。CodeWarrior for Zaurusは、ザウルス用ソフトウェア(MOREソフト)を開発するために、高度なオブジェクト指向のGUIフレームワークを搭載した統合開発環境で、Windows 95/98/2000/NT 4.0の各プラットフォーム上でアプリケーション開発が可能となる。 これによりさまざまなソフトの登場が期待できるというわけだ。すでに「パックマン for Zaurus」が登場しているが、今後はユーザーのMOREソフトもカラーを活かしたハイレベルのソフトが開発されることが期待できる。

 もっとも気になる通信機能についてだが、現在はまだその具体的な形は掲示されていないものの、町田社長は「一般回線、携帯電話・PHSなどの通信回線を追加せずに、直接インターネットにつながる電話機能を内蔵したザウルス」を第3の商品像として描いている。
 同社ではすでに米国ルーセントテクノロジー社、英国ブリティッシュテレコム(BT)社とアライアンスを結び、次世代携帯通信情報端末の早期開発を視野に入れた連携を行うことで合意している。
 これらはまさにW-CDMAへの移行に伴う高速、高品質化を睨んでいるのではないか。384kbpsの高速無線通信によってカラー動画の配信や情報交換を実現することで、同社はザウルスの世界戦略に乗り出そう、という具体的な姿勢が見て取れる。
 CodeWarrior for Zaurusといい、グローバル展開を睨んだ提携といい、ザウルスは「ワールド・スタンダード」への足固めを始めたように見えるのは、私だけだろうか?

Bluetooth、GPS、TVチューナーなど
10種類を超えるコンパクトフラッシュカードが
 
今後のザウルスワールドを予感させる。 


 展示モデルと既発表のリリースやニュースとここに上げた情報を総合すると、ザウルスの未来像が見えてくる。それは、僕たちが子供の時に夢見ていた“懐かしい未来”のひとつといえるだろう。【壁掛けテレビ】を具現化してくれたシャープが、2003年までには(情報端末としての)【持ち歩くテレビ通信機】を実現させてくれそうだ。
 後はまもなく行われるだろう新ザウルスの発表会で、その真実の姿をこの目で確認するだけだ。

□『下期および来年に向けた取り組み』
http://www.sharp.co.jp/sc/gaiyou/2000skaiken/3.html#22
□CodeWarrior for Zaurus概要
http://www.sharp.co.jp/sc/excite/code/index.html
□Zaurus e conceptのページ
http://ezaurus.com/
□シャープのホームページ
http://www.sharp.co.jp/

(千葉英寿)