【新連載】 ゼロ・ハリのモバイル一宿一飯
|
ゼロ・ハリ
「日本のモバイルキング」、「中年ガジェットキング」など数々の異名を持つ。数多くのパソコン雑誌に執筆。購入した携帯グッズはそろそろトン単位に突入か?
|
|
■ コンピュータ+通信の夜明け
筆者が友人達と、今は死語となった「パソコン通信」のホスト局を自宅のたった1本の電話回線を使用して深夜から明け方迄だけ開局したのは、1980年代の中頃だった。深夜の0時になると、それまでごく普通の電話回線として利用していた電話回線をモデム専用に切り替えるのだ。
まだまだ、パソコンを電話につないでいったい何ができるのか、誰も想像すら出来なかった時代だ。もちろん機種ごとに異なる通信ソフトやホスト側のソフトウエアまでも、自作するより他に道はない。当時のモデムスピードはたったの300bpsで現在の56kbpsモデムやISDN回線と比較したら20分の1以下の遅さだった。パソコンから送られるコマンドで各種設定が可能な、当時の米国製最新モデムは、それだけで20万円近くした。
誰でもがホームページを持てる現代とは異なり、パソコン通信ホスト局を運営することは、まだまだアクセスする人間は少なくて、膨大な投資が必要でも、当時としては強力な自己表現の場であったのだ。見ず知らずの人間が、どこからかホスト局の電話番号を知ってアクセスしてくることが多くなり、生まれて初めて見ず知らずの他人とチャットした興奮は今も鮮明に覚えている。本来音声で話すことを前提に開発された電話を、あえて不便な文字だけのコミュニケーションである「筆談」に新鮮な感動を覚えたのは不思議な現象だ。「チャット」という言葉が生まれたのもちょうどこの頃のことだ。
■ 往年の愛機「WordBankノート」
それから2~3年後、筆者は国内外の出張には常に、当時筆者にとって最高の通信ガジェットであったエプソン社のモデム内蔵パーソナルワープロ「WordBankノート」を携帯していた。たった4行表示のモノクロ液晶ディスプレイとフルサイズ・キーボードをシンプルに配列した単3乾電池駆動のウェポンは世界中で筆者を確実にサポートしてくれた。
最初にこのウェポンが活躍したのは、シアトル郊外のホテル「レジデンス・イン」から、現在はすでに無い、当時世界最大のネットワークであったCompuServe経由のニフティサーブ電子メールだった。パソコン通信ホスト局を運営して、生まれて初めてチャットした時ほどではないにしろ、同じような感動を覚えた。
さすがにまったく使わなくなったが、エプソン社のWordBankノートだけは現在も大事に保存してある。最近のエプソン社は、確かに良いプリンタは作れるようになったが、「ドキドキハラハラ」しない健全な優良企業になってしまった。プリンタで勝ち取った勲章の裏に失った代償も大きかったと筆者だけは勝手に思っている。
■ モバイル・ロードウオーリアの条件
読者の中には、既にモバイルPCを仕事に、プライベートに活用している達人の方もいれば、これからモバイルに最適なパソコンやPDAを購入予定という方も多いだろう。筆者はAC電源でしか使えない「Macintosh」や東芝の超ヘビー級ラップトップパソコン「J3100」を実際にモバイルしていた頃から、足かけ15年間、そして今も毎日、仕事に遊びにモバイルPCを持ち歩き、日本中はもちろんのこと世界のあちこちに出没しながらも、未だ「真のモバイルPCとは何か?!」という答えを見つけられないでいる。
世間一般には、こういう怪しい人種を単に「モバイルおたく」と呼び、業界雑誌の人は「モバイルの達人」と誉め殺す。しかし他人がなんと呼ぼうがかまわない。大事なのは自分自身の意識なのだ。筆者はこの15年間、自分自身を「モバイル・ロードウオーリア」だと信じて疑わない。
モバイル・ロードウオーリアは、最新鋭のモバイルパソコンをゲットさえすれば、誰でも即座になれるわけではない。そこにはいくつかの基本的な条件があるのだ。
まず最初に、これが一番重要なのだが、「一見してモバイルの達人に見えないこと」。パソコンが全米で急激に普及し、多くの優秀なフリーウエアやシェアウエアが毎日のように登場し、自称ハッカーやクラッカーが数多く出現した古き良き時代に言われた有名な言葉に、「真のハッカーはスーツを着てネクタイをしている」というのがあったが、常に突出した技量の持ち主は、意外と日常に埋没している、という今も昔も変わり無い真理である。ただ残念ながら、これは一朝一夕にスタイルだけを真似てもでき上がるものではない。できればできるほど、解れば解るほど、その言動や行動は深く表面から遠ざかるのだろう。
つぎに大事なことは、パソコン初心者で思い悩んだ頃の初心を忘れず、好奇心をもって他人のモバイルスタイルを研究できる余裕と努力の灯を絶やさないことだ。モバイルの達人がポケボーを操作する女子高生に教えられることも多い。そして最後に最も大事なことは、パソコンにインターネット一発ボタンがついても、電子メールボタンがついて、一見ハードウエア的には誰でも使えるブラックボックスに見えても、それをどう扱うかという方法は常に研究しなければならない。
よく「パソコンは単なる手段であり、本当に必要なのはそれを道具のように使うことだ!」と、悟ったようなことをいう普通の人がいるが、簡単な操作やそれを習得するための小さな努力や勉強、研究すらできない人間にパソコンを活用して玉石混交のインターネットの世界を正しく渡れるとは筆者には到底思えない。真のロードウオーリアは、「あふれる好奇心」と「初心の謙虚さ」と「努力する姿勢」を抜いて語ることは出来ないのだ。
■ ビジネスマンに贈る、一宿一飯インプレッション
モバイル・ロードウオーリアの代表選手は、ビジネスで日本中はおろか世界中を携帯パソコンを携え移動する20~50代のビジネスマンだろう。昨今はビジネスマンの出張もインターネットの普及のお陰で、エアーチケットの手配も、ホテルの予約も快適にスピーディーになったが、実際のホテルにチェックインするまで、そのホテルの実際の価値や設備のユーザビリティーは知る事ができない。日本や世界のホテルを単なる旅行者として評価、推奨した旅行ジャーナリストのペンによるガイドブックは数多いが、残念ながらモバイルパソコンを常備のツールとしてビジネストリップする「モバイル・ロードウオーリア」やその予備軍のための有益な情報は極めて少ない。
次回から始まるこのコラムでは、筆者の実際の国内外の出張やバケーションで利用した、航空会社や鉄道等のキャリアーの情報、宿泊したホテルのモバイル度や近郊情報、それらの見つけ方や予約方法、そして、ほんの少しはごくありきたりでお決まりのチェックポイントも「モバイル・ロードウオーリア」である筆者の独断と偏見でご紹介してゆくつもりだ。
できる限り定期的な連載にはしたいが、次の出張や旅行のプランが決まらない限り続編はないので、実際には不定期掲載になる可能性が大だ。まず次回の第一回目は、国内出張編からお送りしよう。超高機能なモバイルパソコンをゲットしても、それだけではまだまだモバイル・ロードウオーリアの要件の10%にも満たないのだ。
(ゼロ・ハリ)
2000/01/20
|