オフィスにおけるプリンター環境は、「ビジネス」に特化したインクジェットプリンターの登場によって、今後、さらにもう1ステップ先の環境へと進化することになりそうだ。

 これまで、オフィスの部門単位で共有していたモノクロレーザーがネットワークによって管理されるようになり、さらに複合機へと統合され、管理の集中と高効率化、そしてコスト削減が行なわれるようになってきているが、このような変化の中で取り残されてしまっているニーズがある。気軽なカラー印刷の利用だ。

 昨今厳しくなりつつあるコスト管理の影響もあり、カラーレーザーや複合機を使って印刷できる書類の種類、数などが制限されていることも多い。このため、資料の説得力を高めたい、ハガキを印刷したいなどなど、本当はカラーで印刷したいが、仕方なくモノクロ印刷でガマンするというケースも少なくないだろう。

 オフィスによっては、ユーザーからの手軽なカラー印刷のニーズに応えて、部門単位で家庭用に販売されいてるカラーインクジェットプリンターを導入するケースも増えてきているが、これは「シゴト」で使うという観点では物足りない部分もある。

 「キレイだが印刷に時間がかかる……」、「すぐに用紙やインクがなくなる……」、「また紙づまり……、またドット抜けか……」など、家庭での利用に特化したカラーインクジェットプリンターの場合、過酷なオフィスでのニーズに対応しきれない製品も少なくない。

 一方、チラシやPOPの制作など、カラーが必須という環境では、コストを犠牲にしているケースも存在する。クオリティと信頼性を確保しつつ、ビジネスに最適化されたプリンターはないものか? そう探している人も少なくないだろう。

 つまり、ビジネスシーンにおいては、カラーレーザーの導入や複合機によるプリンター統合が進む一方で、それと同時により手軽に利用できるカラー印刷環境が求められているわけだ。

 そこで注目したいのが、高生産性、高信頼性、ローコスト、エコロジーと「シゴト」に求められるニーズを徹底的に分析し、これまでのインクジェットプリンターの弱点と言われていた課題をことごとく解消したエプソンのビジネスインクジェットプリンター「PX-B500」だ。「ビジネスにはビジネスの」そんなコダワリさえ感じさせるビジネス利用に特化した製品だ。

 では、実際にPX-B500の特徴を見ていこう。PX-B500は、A4サイズの用紙に対応したカラーインクジェットプリンターだ。小型化が進む家庭用インクジェットプリンターと比較するとサイズは大柄だが、これにはそれなりの理由がある。ビジネスシーンに欠かせない速度や信頼性を確保するための数々の技術が惜しげもなく投入されているからだ。

 ビジネスシーンでインクジェットプリンターに求められる要件は以下のように大きく分けると6つが挙げられる。

1.速度 素早く印刷できる高い印刷速度
2.信頼性 大量印刷や長期利用に耐える高い信頼性
3.用紙 利用できる用紙の種類が豊富
4.メンテナンス性 インクや用紙の交換が簡単にできる
5.コスト カラーでも安心して使えるランニングコスト
6.エコ 地球環境に配慮したエコロジー性能
 このため、これらの要件を実現するためには、それを実現するための技術をプリンターに搭載しなければならないわけだ。

 では、具体的にPX-B500では、これらの要件がどのように実現されているのだろうか? 要件をスペックから判断すると以下のようになる。

1.速度 最高約37枚/分(カラー/モノクロ)
2.信頼性 印刷耐久枚数10万枚
3.用紙 窓付き封筒も印刷可能。多彩な用紙に対応
4.メンテナンス性 インク交換や給紙など、主要なメンテナンス部分が前面に集中
5.コスト 大容量インクカートリッジの採用、A4カラー1枚約4.8円
6.エコ 両面印刷ユニット装備、エコマーク・国際エネルギースタープログラム適合

 これだけ見るだけでも、インクジェットプリンターでありながら、レーザープリンターに匹敵する性能を持ち合わせていることがわかるだろう。なかでも、対応用紙の豊富さについては、熱をかけないインクジェット方式ならではの利点だと言えるだろう。もちろん、このほかにも機能的な要件としてネットワークへの対応も挙げられるが、PX-B500では標準で10BASE-T/100BASE-TX対応のネットワーク機能を搭載している。まさに、ビジネスのために生まれたインクジェットプリンターというわけだ。

(注:低価格モデルのPX-B300は、ネットワーク非搭載、両面印刷ユニットオプション対応、大容量インクカートリッジはMサイズのみ対応)。

前面の給紙カセットには普通紙500枚。背面からは普通紙150枚。合計で650枚の大容量給紙が可能
レーザープリンターでは難しい、窓付き封筒にも印刷可能
ボディ背面に用意されている両面印刷ユニット。PX-B500では標準装備する
PX-B500はネットワークにも標準対応。
 とは言え、スペックだけ見ても、プリンターの実力は判断できない。そこで、なぜPX-B500が高い性能を実現しているのか、その理由に迫ってみよう。

 まず注目したいのは、やはり速度だろう。カラー/モノクロとも最高約37枚/分という印刷速度は、モノクロではハイエンドのレーザープリンターや複合機と同等、カラーではこれらを凌ぐほどの速度だ。

 インクジェットプリンターは、インクを噴出するヘッドを左右に移動させながら用紙にインクを吐出するというしくみで動作する。このため、印刷速度を向上させるには、一度により多くの範囲を印刷し、かつ用紙を高速に送る必要がある。

 そこでPX-B500では、1インチという従来よりワイド化したヘッドを採用。これにより、一度のヘッドの移動でより多くの範囲を印刷することに成功している。もちろん、大型ヘッドは、インクジェットプリンターの印刷速度向上にはよく採用される手法だが、PX-B500ではさらにヘッドからインクを吐出するためのノズルをブラック、マゼンタ、イエロー、シアンの各色2列ずつ計4列用意し、しかもそれを左右対称に配列している。

 つまり、シアン:イエロー:マゼンタ:ブラック:ブラック:マゼンタ:イエロー:シアンというようにノズルを配置しているわけだ。これはなぜか?

[動画]従来よりワイド化したヘッドで、一度のヘッドの移動でより多くの範囲を印刷できる
[動画]ヘッドには、インクを吐出するためのノズルを、各色左右対称に配列している

 前述したように、インクジェットプリンターはヘッドを「左右」に動かしながらインクを吐出して印刷する。つまり、このように左右対称に2系統のノズルを用意しておけば、左右どちらの方向にヘッドが移動する場合でも、均等に無駄なく正確に、しかも素早く印刷ができるというわけだ。

 また、ヘッドから1回に吐出するインクも、従来比50%容量をアップし、7plから11plへと向上させている。これにより、たとえば1つのドットを印刷するために従来3回の吐出が必要だったものが、1回に多くのインクを吐出できるため、2回などに軽減することが可能となり、より速くヘッドを次のドットへと移動させることが可能となった。

 つまり、より広い範囲をより速く印刷することで、約37枚/分という速度が実現されているというわけだ。




 このようにPX-B500では画期的な技術で高い印刷速度が実現されているわけだが、高速化は、その一方で信頼性の問題を発生させる可能性がある。なかでも、考慮しなければならないのが「紙づまり」だ。

 いくらヘッドで高速印刷が実現できても、紙を高速に送れなければ意味がない。しかし、高速に紙を送ろうとすると、そもそも紙送りの速度を速くする必要があったり、用紙と用紙の間隔を短くする必要があり、紙が重なったまま送られてしまったり、ローラーにつまってしまうなどのトラブルが発生する確率も同時に高くなってしまう。

 そこで、PX-B500では、この高速化と信頼性のジレンマを解決するために新開発の紙送り機構を採用している。

 用紙カセットにセットした用紙は、ローラーによって内部へと送られるのだが、この際、中間ローラーの部分に用意された2つのセンサーによって、用紙の先端と後端を確実に検知できるようにしている。これにより、用紙が重なったまま送られた場合でも、先端の検知後、後端が検知できないことから用紙が重なっていることが確実に判断できる。

[動画]新開発の紙送り機構の動作イメージ

 そして、もしも用紙が重なって送られてしまった場合でも、先端検・後端検の各センサーの中間に配置されたリタードローラーの重送防止爪が用紙側へと反転することにより、重なった用紙を爪で引っ掛けるようにして止め、前の用紙と正常な間隔を開けてヘッド側に送られるように調整することができる。

 このリタードローラーは位置を可変にすることで摩耗を減少し、これによって、A4普通紙総印刷枚数10万枚というインクジェットプリンターとしては非常に高い耐久性も実現していることになる。

 また、信頼性という点では、インクジェットプリンターの宿命とも言えるヘッドのつまりによるドット抜けに対しても万全の対策がなされている点にも注目したい。

オートノズルチェック機構の概念イメージ

 これまで大判プリンターなどプロ用のプリンターに搭載されていた自動ノズルチェック機能を採用し、プリントヘッドからマイナスの電荷を加えた微少なインク滴を電極プレートに定期的に吐出。このインク滴をクリーニングキャップ上に配置された電極プレートで検出することで、マイナス電荷の数をカウント。これによって、ノズルが詰まっているかどうかをチェックすることができる。またドット抜けが検出された場合は、抜けノズル数に応じたオートヘッドクリーニングが実行されるため、ノズル詰まりのトラブルが軽減される。

 加えて、ワイパークリーナーの搭載によってヘッドを常にきれいな状態で保つ工夫もなされている。通常、インクジェットプリンターは、ヘッドが移動するときにワイパーの上を通過するようになっており、これによってノズルのつまりを防止することができる。しかし、長期間利用していると、このワイパー自体が汚れ、その効果が低下してしまうのだ。

 そこで、PX-B500では、ワイパー自体をクリーニングするための機能を搭載している。ヘッドがワイパーの上を横方向に通過した後、ワイパー自体が今度は本体奥側へと移動する。この際、ワイパークリーナーがワイパーに付いたよごれを取り除き、そして再びヘッドをクリーニングするための定位置へとワイパーが戻るわけだ。

 クリーニング用のワイパー自体をさらにクリーニングするというのだから、その念の入れようには恐れ入る。

[動画]従来機のワイパーイメージ
[動画]PX-B500/B300のワイパークリーナー動作イメージ

 つまり、PX-B500を利用している場合、紙づまりやドット抜けなどのトラブルが、そもそも発生しにくいことになる。これは、印刷に失敗して紙を無駄にしないばかりか、メンテナンスや修理にかかる時間と労力をも無駄にしないことになる。

 さらに、インク交換・フロント給紙カセット・パネル操作部といった、プリンターのメンテナンスに必要な基本的な機能は前面からアクセスでき、操作がしやすく、さまざまな場所に設置できるようになっている。また、従来の家庭用インクジェットプリンターでは、修理センターでの対応が必要であったインクパッド交換も、メンテナンスボックスとして消耗品対応とすることでユーザーが自由に交換できるようになっており、メンテナンス性を向上させている。

   
インク交換や、パネル操作部、用紙補給、メンテナンスボックスの交換といったことはプリンター前面からアクセスできる
 
フロントパネル部でプリンターの状態が確認できたり、各種設定も行える

 紙づまりで印刷できない……、修理中でプリンターがない……、などオフィスではプリンターのダウンタイムが即座に生産性の低下へとつながる。この無駄を改善できるのもPX-B500の大きなメリットだろう。

 このように、高速な印刷による高い生産性、印刷ミスやダウンタイムの心配がない高信頼性を実現しているPX-B500だが、このほか現在のビジネスシーンでは無視できないローコストとエコロジーという点でも大きな特徴を持っている。

 コスト面では、前述した印刷ミスが少ないという点でも、そもそも大幅なコスト削減につながるが、標準で両面印刷ユニットを搭載し、手軽に両面印刷ができるようになっている。すべての用紙を両面に切り替えることで、単純で紙のコストを半分にすることも不可能ではないだけに、これはコスト削減に大きく効果がありそうだ。

 また、大型のインクカートリッジを採用することで、インク交換の手間が省けるばかりか、1枚あたりの印刷コストもA4カラーで約4.8円と低く抑えられているのもうれしいポイントだ。

 紙やインクの使用量が少ないということは、コストだけでなく、エコロジーにもつながるが、そもそもインクジェットプリンターは電子写真方式のレーザープリンターに比べて熱使用が少ないため、消費電力やC02排出量も少ないという特徴があり、環境対策としての導入効果も非常に大きい。

 A4カラーページプリンターに比べると、1ヶ月あたりの消費電力は約90%も低減可能(エプソン調べ)となっており、3年間のライフサイクルで換算したCO2排出量も約75%も低減(エプソン調べ)できる。環境対策は企業が避けて通ることができない大きな課題だが、これに貢献できることを考えると、社内での導入提案や購入の意志決定もスムーズに進めることができるだろう。

A4カラーページプリンターに比べて、消費電力量・CO2排出量を大幅に低減でき、環境対策としてのメリットも大きい(「エプソン評価条件」はエプソンのホームページを参照)
 このように、エプソンのビジネスインクジェットプリンター「PX-B500」は、ビジネスに要求される生産性、信頼性、ローコスト、エコロジーといったニーズを満足させることができる製品となっている。

 今後、オフィスへのインクジェットプリンターの導入はさらに進むと予想できるが、単純に価格などで製品を選ぶのではなく、「導入によって生産性が向上するか?」「コストは削減できるのか?」「エコロジーには貢献できるのか?」といった導入後の結果までも十分に検討して製品を選ぶ必要がある。

 そういった意味では、印刷効率や手間、コスト、エコロジーといった現状多くのオフィスが抱えがちな悩みを解決できる存在が、この「PX-B500」だと言えそうだ。

清水理史
製品レビューなど幅広く執筆しているが、実際に大手企業でネットワーク管理者をしていたこともあり、Windowsのネットワーク全般が得意ジャンル。最新刊「できるブロードバンドインターネット Windows XP対応」ほか多数の著書がある。自身のブログはコチラ