中継機のキホンは太くて安定した基幹を用意すること!
メッシュWiFiにも対応するワイヤレスエクステンダー「Nighthawk X6S EX8000」
2018/05/15 清水理史
ネットギアから登場した「Nighthawk X6S EX8000」は、中継機としての性能を突き詰めたハイエンドのワイヤレスエクステンダーだ。Nighthawkが冠されたエクステンダーとしては、Nighthawk X4 EX7300も存在するが、本製品はトライバンド対応で中継に最大1733Mbpsの帯域を利用可能なうえ、メッシュWiFiに対応するのが特徴となっている。その実力を検証してみた。
基幹を太く、速く
無線LANの通信エリアを拡張したい!
そう考えている人も少なくないことだろう。マンションなど建物の構造上の問題で電波が届きにくい環境や、オフィスなど広い範囲をカバーしなければならない環境では、1台のアクセスポイントだけでは、電波が届きにくい場所がどうしても発生してしまう。
無線LANの電波は法律によって出力が決められているため、いくら高性能な製品を購入したとしても、その範囲には、どうしても限界がある。
そこで活用されているのが、中継機(ワイヤレスエクステンダー)だ。
中継機は、わかりやすいように例えると、無線LANの電波をバケツリレーのように中継するための機器だ。
たとえば、3階建ての建物で、3階に電波が届きにくければ、途中の2階に中継機を設置することで、1階から発信された電波が2階で中継され、3階へと届くというイメージになる。
中継機は、通常の無線LANルーターよりも低価格で販売されているうえ、コンセント直結などコンパクトな製品も多いため、無線LAN環境を快適化する方法として実際に利用している人も多い。
しかしながら、じつは中継機にも性能の違いがあり、あまり性能の高くない中継機を購入してしまうと、電波の届く範囲は広がるかもしれないが、その電波を使った通信の速度が低下してしまい本末転倒な結果を招いてしまうことも多い。
重要なのは、利用可能な帯域の数だ。無線LANは、そのしくみ上、同一周波数帯を使って、同一空間中で、同時に通信することができない。
このため、たとえば「アクセスポイント→中継機→パソコン」という構成の場合、このすべてが同じ周波数帯を使っていると、通信は同時に実行できないことになる。具体的には、「アクセスポイント→中継機」、「中継機→パソコン」という、それぞれの通信が順番に行われるイメージだ。
このため、同一周波数帯を使った中継の場合、単純に速度は半分になる。先に中継をバケツリレーに例えたが、中継機の場所でバケツをリレーする人が1人しかいなければ、片方からバケツを受け取るという動作と、他方にバケツを渡すという動作を、同時にできないため、受け取って、渡す、というように動作を順番にしなければならない。
では、どうすればいいのか? というと、中継機が使える周波数帯を増やせばいい。
たとえば、今回取り上げるNighthawk X6S EX8000は、中継機として珍しくトライバンドに対応した製品となっている。
トライバンドというのは、2.4GHz(400Mbps)+5GHz帯(866Mbps)+5GHz帯(1733Mbps)と、それぞれ独立して使える周波数帯を3つ備えているという意味だ。
先に述べたように、無線LANは同一空間中で、同一周波数帯での通信が同時にできないが、周波数帯が異なれば問題ない。
つまり、この製品は、「バケツを受け取る」という動作と「バケツを受け渡す」という動作に対して、それぞれ別の周波数帯を割り当てられるため、その両方が同時にできることになる。
しかも、この中継に使える帯域の速度は、最大1733Mbpsと超高速だ。街中の幹線道路の車線が多くなっているのと同じように、トラフィックが集中しがちな中継機の速度は高ければ高いほど渋滞を避けられる。
言うなれば、これまでの簡易的な中継とは違う、本格的な中継ができるのが、このNighthawk X6S EX8000というわけだ。
Nighthawk X6S EX8000 | Nighthawk X4 EX7300 | ||
---|---|---|---|
価格 | 実売価格 | 25,980円 | 6,667円 |
対応規格 | IEEE802.11 | ac wave2/n/a/g/b | ac wave2/n/a/g/b |
対応チャネル | 2.4GHz 1-13ch | ○ | ○ |
W52(36/40/44/48) | ○(867Mbps用) | ○(867Mbps用) | |
W53(52/56/60/64) | ○(867Mbps用) | ○(867Mbps用) | |
W56(100/104/108/ 112/116/120/124/ 128/132/136/140) |
○(1733Mbps用) | ○(1733Mbps用) | |
対応バンド数 | 3 | 2 | |
通信速度 | 2.4GHz | 400Mbps | 450Mbps |
5GHz | 867Mbps | 1733Mbps | |
1733Mbps | |||
ストリーム数 | 2/3 | 3 | |
アンテナ数 | 内蔵 | 内蔵 | |
変調方式(最大速度時) | 256QAM | 256QAM | |
無線LAN機能 | FastLane | ○(手動) | ○ |
One WiFi Name | ○ | × | |
スマートローミング | ○ | × | |
有線LAN | 1000Mbps×4 | 1000Mbps×1 | |
USB2.0 | 1 | × |
One WiFi NameとSmart Connectを利用可能
それでは製品を見ていこう。本体は、サイズが227×170×93mmとなっており、中継機としてはかなり大きく、据置で利用するスタイルとなっている。
そのぶん、インターフェースは豊富で、背面には1000Mbps対応の有線LANポートが4ポート搭載されており、さらにストレージを共有するためのUSB2.0ポートも搭載されている。
テレビやゲーム機など、有線LAN対応の機器をワイヤレスで接続するために、コンバーターなどの機器を利用している人もいるかもしれないが、本製品の有線LANポートを使えば、同様に有線LANの機器をワイヤレスで接続することが可能だ。
使い方は簡単で、本体背面のWPSボタンを使って既存の無線LAN環境に接続するか、電源オン後に表示される「NETGEAR_EXT」というSSIDに接続し、設定画面から手動で接続先のネットワークを指定する。
このあたりは、ネットギアの中継機に共通の仕様だが、付属のセットアップシートもわかりやすいので、はじめて中継機を使う場合でも、迷わず設定できるはずだ。
ただし、同社の従来機と違う点もいくつかある。
ひとつは、「One WiFi Name」に対応した点だ。従来の同社製中継機では、中継機に既存の無線LAN環境とは別のSSDを設定する必要があった。たとえば、既存のSSIDが「AP01」であれば、中継機のSSIDは「AP01_EXT」のようにする必要があった。
どこにつながっているのかが明示的にわかるメリットもあるが、場所によって接続先を変更しなければならず、複数のSSIDを管理しなければならないのがデメリットだった。
これに対して、Nighthawk X6S EX8000では、中継機側でも既存の無線LANのSSIDをそのまま利用することができる。
このため、他社製の無線LANルーターへの接続だろうが、中継機への接続だろうが、接続先の帯域が2.4GHz帯だろうが、5GHz帯だろうが、関係無く、「AP01」という1つのSSIDで接続できる。これは楽でいい。
同時にSmartConnectも有効化しておけば、パソコンやスマートフォンなどの端末から、単一のSSIDを指定して接続したとしても、もっとも高速な帯域が自動的に選択されて接続される。従来製品より、かなり賢くなった印象だ。
なお、従来製品では、「FastLane」という機能によって、中継に利用する帯域を明示的に指定することが可能だったが、本製品では、トライバンドに対応したFastLane3と呼ばれる機能に強化されている。
ただし、先のスペック表に掲載されているとおり、本製品の5GHz帯は、867Mbps対応のほうがW52/53のチャネルのみに対応しており、1733Mbps対応のほうがW56のチャネルのみに対応している。
このため、無線LANルーターと中継機の間の基幹を1733Mbpsで接続したい場合は、無線LANルーターの5GHz帯のチャネルを事前に100/104/108/112・・・・・・などのW56のチャネルに変更しておく必要がある。
1台だけでも十分
実際の実力も相当なものだ。
無線LANルーター(ELECOM WRC-2533GHBK2-T(1733Mbps+800Mbps))を1階に設置し、2階、3階のいずれかにNighthawk X6S EX8000を設置した場合、両方に設置した場合で速度を計測してみた。
結果は下のグラフのとおりだ。青いバーが中継機なしの状態だが、この場合、3階の窓際の速度が85.4Mbps止まりとなるが、Nighthawk X6S EX8000を利用することで、この速度を213~373Mbpsにまで引き上げることができた。
ただし、設置台数と設置場所によっては、逆転が発生する場合もある。たとえば、グラフのオレンジのバーは2階にのみNighthawk X6S EX8000を設置したケースだが、この場合、2階は349Mbpsだが、3階窓際は270Mbps止まりとなる。
これに対して、3階のみに設置したグレーのバーに注目すると、2階は347Mbpsと同等だが、3階窓際が373Mbpsまで速度が伸びている。
当たり前と言えば当たり前だが、要するに、中継機を設置した階が高速化されやすいという結果になった。
では、2階と3階の両方にNighthawk X6S EX8000を設置すれば、どちらも速くなるのか? というと、これはそうではなく、黄色のバーが示すように、3階窓際は、そこまで速度が伸びない。システム全体で利用する周波数帯が増えたことで、外部または中継機同士の中継以外の電波が干渉している可能性がある。
近隣住宅との距離が近く、間取りもそれほど広くない日本の戸建て住宅なら中継機は1台でも十分だろう。
2台あるといいことも
では、無理をしてNighthawk X6S EX8000を2台も設置しなくてもいいじゃないか?
と思うかもしれないが、じつは、そのメリットもある。
Nighthawk X6S EX8000は、複数のアクセスポイント間を相互に網目状に接続するメッシュWiFiに対応しているのだ。
通常の中継機の場合、複数台をどうつなぐのかというのが、じつは結構悩ましい。たとえば、筆者宅の場合であれば、1階の無線LANルーターに2階と3階の中継機を両方つなぐのか? それとも1階の無線LANルーターに2階の中継機を接続し、3階の中継機は2階につなぐのか? と複数の組み合わせから形態を選択しなければならない。
しかしながら、メッシュWiFiに対応したNighthawk X6S EX8000であれば、こうした悩みは不要だ。先に触れたOne WiFi Nameを利用して、2階の中継機も3階の中継機も同じSSIDに接続しておくだけで、その構成が自動的に選択される。
試しに、1階に無線LANルーター、2階と3階にNighthawk X6S EX8000を設置してみたところ、[1階の無線LANルーター]—(5GHz:1733Mbps)—[2階のEX8000]—(5GHz:867Mbps)—[3階のEX8000]という構成で接続された。離れた場所を数珠つなぎに接続する妥当な構成だ。
もちろん、メッシュWiFiのメリットはこれだけでない。たとえば、この構成で2階のNighthawk X6S EX8000の電源を意図的にオフにしてみよう。
普通に考えれば、3階のNighthawk X6S EX8000は、2階のNighthawk X6S EX8000につながっているので、2階がダウンすれば、3階もダウンしてしまうはずだが、メッシュWiFiの場合はそうならない。
2.4GHzでも接続されているため、そのルートも使えるが、3階のNighthawk X6S EX8000が5GHz帯の接続先を1階へと自動的に切り替えることで、接続を自動的に維持することができる。
この恩恵は、オフィスなど、さらに多くの中継機が接続されるような環境で恩恵が大きいが、家庭などでも、万が一の障害に強いのは大きな魅力だ。
なお、パソコンやスマートフォンなどの端末側も、基本的に共通のSSIDに接続しておけば、近くの接続先に自動的に接続されるが、802.11kに対応したデバイス(iPhoneなど)では、ローミングによって、自分がいる場所に応じて、最適な接続先に切り替えながら、常に高い速度を維持することもできる。
このようなメッシュWiFiは、細かな使用がメーカーによって異なる場合もあり、通常は、無線LANルーターも含め、同一メーカーのセット製品でないと利用できないが、今回のテストで使ったELECOM製ルーターのように、Nighthawk X6S EX8000は他社製のルーターと組み合わせてもメッシュWiFiが機能する点が特徴だ。
価値のある中継機
以上、ネットギアのNighthawk X6S EX8000を実際に使ってみたが、1台のみで使った場合でも1733Mbpsの5GHz帯を中継用に使えるメリットが大きいが、さらに2台以上で組み合わせることでメッシュWiFiでも使える非常に高性能な製品になっている。
実際の設置効果も高く、環境にもよるが、一般的な住宅なら、家中くまなく200~300Mbpsでカバーするといったことも不可能ではなさそうだ。
最近では、回線の高速化によって、プロバイダーなどでレンタル提供される無線LANルーターもIEEE802.11ac対応のものが増えてきているので、こうした製品と組み合わせて利用するのもおすすめだ。価格は高いが、それだけの価値がある中継機と言えるだろう。