つなげば有線、はずせば無線!
自動で中継方法を変更するネットギアOrbiの「イーサネットバックホール」機能
2018/03/02 清水理史
無線LANの電波が届きにくい! そんな悩みを解決するのに最適なネットギアのトライバンド・メッシュWiFiシステム「Orbi」。ネットギアがいち早く市場にリリースしているが、ルーターとサテライトの複数台の機器を設置して、家中を無線LANでカバーするシステムだ。そんなOrbiに追加されたのが「イーサネットバックホール」と呼ばれる機能だ。有線接続も併用して、より安定した通信環境を構築できる新機能を試してみた。
「バックホール」?
「イーサネット」はいいとして、「バックホール」ってなんだろう?
率直にそんな疑問を持つ人も多いことだろう。バックホールとは、通信網のアクセス回線と基幹網をつなぐ中継回線のことだ。携帯電話のネットワークがわかりやすいが、街中にある基地局と、その先にある交換局をつなぐ回線のことを指す。
家庭内のネットワークや無線LANなどでは、これまであまり使われることがなかった言葉だが、ネットギアのOrbiのような新しいタイプの無線LAN製品が登場したことで、使われるようになった言葉だ。
ネットギアのOrbiは、いわゆる「メッシュ」構成にも対応できる無線LANシステムだ。通常の無線LANルーターは、1台の親機で家中を通信エリアとしてカバーしようとするが、Orbiはルーターとサテライトという役割の違う複数台の機器で通信エリアをカバーするシステムとなっており、たとえば、2階建ての住宅で、1階にルーターを、2階にサテライトを設置することで、それぞれのフロアの通信エリアを分担してカバーすることができる。
似たような製品には、いわゆる、無線LAN中継機があるが、Orbiは、ルーターとサテライトは標準でペアに設定されているうえ、中継機と違って場所によって接続先(SSID)を使い分ける必要もないなど、複数台の機器をシームレスに使えるように工夫されている。
そんなOrbiに、今回、新たに搭載された機能が、先に触れた「イーサネットバックホール」機能だ。Orbiのルーターとサテライトを結ぶ中継網にイーサネット(有線LAN)を利用できるというのが、その正体となる。
無線システムなのに有線LAN? と少し不思議に感じるかもしれないが、「中継」はOrbiのような複数台の機器を連携させる無線システムでは、生命線と言っていいほど重要な部分となる。
たとえば、市販の中継機やメッシュシステムを使っても、いまひとつパフォーマンスが出ないという場合、その多くは中継がうまくできていないケースがある。
また、1階の親機と2階の中継機の間が2.4GHzの低速な無線LANでつながっていたり、5GHz帯であっても中継とクライアントの接続で帯域を共有しているようなケースでは、複数台で中継するより、むしろ1台の親機でカバーしたほうが快適な無線LAN環境を構築できる場合もある。
Orbiでは、こうした中継の重要さに早くから着目しており、もともとルーターとサテライトの間に5GHz帯の専用帯域(1733Mbps)を利用することができたり、トライバンドで5GHz帯を2系統同時に使えるメリットを活かして中継用の5GHz帯とクライアント接続用の5GHz帯(866Mbps)を独立して使えるようになっていた。
このようなメリットから、複数台で構成する無線システムとしては、もともと非常に高度な中継のしくみを利用していたのだが、この中継に、新たに有線LANも使えるようにすることで、通信の安定性をさらに高めることができるようになったというのが、今回の「イーサネットバックホール」対応のメリットというわけだ。
Orbiのファームウェアを最新(2.1.1.12以降)にアップデートすることで、イーサネットバックホール機能が追加される(同時に以前紹介したCircle With Disneyも使えるようになる)。
イーサネットバックホールを使ってみる
それでは、イーサネットバックホールを実際に使ってみよう。
と言っても、使い方は簡単だ。単にOrbiのルーターとサテライトを有線LANで接続するだけでいい。
Orbiは、ルーターとサテライトの間の通信を自動的に選択してくれるため、通常はルーターとサテライトの間を無線LANを使って接続するが、ひとたび有線LANが接続されていることを検出すれば自動的に有線LANをバックホールの接続に利用するように切り替えてくれる。
LANケーブルでの接続を認識すると、Orbiが自動的にバックホール接続を切り替える。変更前(左)は5GHzの無線接続だったが、有線接続後自動的に有線に切り替わった
前述したように、Orbiはバックホール接続に専用の5GHz帯を利用可能なため、最大で1733Mbpsでルーターとサテライトを接続することができる。しかしながら、ルーターとサテライトの距離が遠かったり、間に壁などの遮蔽物が存在すると、その速度は半分以下に低下してしまう場合もある。
これに対して、イーサネットバックホールを利用した場合、ルーターとサテライトの間は理論上で1000Mbpsだが、実効速度が距離や遮蔽物に影響されない有線LANのため、環境によっては理論値に近い速度での通信が可能になる。
通信の安定性という意味でも有線LANのメリットは高い。無線LANの場合、同じチャネルを使っているアクセスポイントが近隣にあると、干渉が発生する可能性がある。このため、バックホール用のチャネルが周囲で使われていると、その影響を受ける可能性があるが、有線LANであれば、まず心配は無用だ。
利用環境や外部の影響を遮断できるという意味では、イーサネットバックホールを利用する価値はとても大きいと言えるだろう。
実際、イーサネットバックホールの場合と5GHz帯の無線LANでバックホール接続された場合の違いは以下のとおりだ。ルーターにPC1を、サテライトにPC2をそれぞれ有線LANで接続した状態で、両者のPINGの結果を比較した。
イーサネットバックホール(上の値)は1msと非常に安定しているが、無線LANのバックホール接続の場合は、3~5msと値がばらつく。ルーター、サテライト間の安定性という意味では、やはりイーサネットバックホールを使うメリットは大きいと言えそうだ。
さまざまな接続形態に対応
このように、手軽にイーサネットバックホールを使えるOrbiだが、その接続形態も多彩だ。
ルーターの有線LANポートに複数台のサテライトを接続するスタートポロジでの接続に加え、ルーターからサテライト1、サテライト1からサテライト2と数珠つなぎにしていくデイジーチェーントポロジでの接続も可能となっている。もちろん、ルーター、サテライトともにスイッチに接続する方法も可能だ。
こうした接続は、ミスをするとループバックが発生し、ネットワーク全体が機能しなくなってしまう可能性もあるが、Orbiの場合は、どのような接続であっても自動的に判断して正常な状態を保つことができる。このカシコサは、まさにOrbiならではのメリットだ
もちろん、有線LANを敷設する必要があるため、フロアや部屋をまたがる環境では利用が難しいが、オフィスなどではフロアに有線LANが敷設されている場合も多いし、家庭でも壁の内部に有線LANが敷設されている場合もある。こうした環境ではイーサネットバックホールが使えるメリットが活きてくるだろう。
無線LANの通信エリアを広げるには、確かに中継機の利用が手軽だが、設定の手間にうんざりしたり、運用開始後に通信速度に不満を覚えるケースも少なくない。そんなリスクを考えると、最初からOrbiのような性能と拡張性に優れた無線LANシステムを導入しておくべきだろう。