ペアレンタルコントロールは「禁止」から「うまく付き合う」時代に
ネットギアOrbiに搭載された「Circle With Disney」のスマートさ
2018/01/22 清水理史
ネットギアの無線LANルーター「Orbi」に、非常に「スマート」なペアレンタルコントロール機能「Circle With Disney」が搭載された。アメリカでCircle社がディズニーと組んで提供しているものだが、無線LAN経由でのインターネットアクセスを手軽に制御できる機能で、利用時間の制限やWebサイトのフィルタリングに加え、有料プランで複数スケジュールの組み合わせや外出先での利用も可能になっている。これらの組み合わせによって、子どもがうまくネットと付き合う状況を想定した機能だ。その実力を試してみた。
単純な禁止では話にならない
「Circle With Disney」を実際に使ってみると、今までのペアレンタルコントロール機能が、いかに単純なものであったのかを実感させられる。
青少年ネット環境整備法の改正もあり、通信事業者による18才未満のフィルタリングサービスにも注目が集まっているが、家庭の無線LAN経由での子どものフィルタリングサービスも、今回のCircle With Disneyの登場によって、より高度な次世代のサービスが求められる時代になりそうだ。
これまで無線LANルーターに搭載されていたペアレンタルコントロール機能は、メーカーによる細かな機能の違いや使いやすさの差はあったにしても、比較的単純な機能が多かった。
ネットギアの無線LANルーターでも、従来どおりOpenDNSを利用した機能が現在も利用可能だが、基本的には以下の2つの機能によって、保護者は子どもの無線LAN利用を制限することができた。
Webフィルタリング
DNSやセキュリティベンダー提供のリストを利用することで、アダルトなど特定のカテゴリのサービスへのアクセスを禁止できる利用時間制限
特定の端末が無線LANに接続できる時間帯、もしくは接続を維持可能な時間を設定することで、使いすぎを防止できる
Circle With Disneyも、基本的には、これらの制限を踏襲するが、より細かな制御が可能になっており、たとえば、プロファイルを利用して「人」ベースで制限を設定したり、スマートフォン向けのアプリを指定して細かく利用制限を設定できたりすることができる。スケジュール設定もはるかに柔軟で、通常のスケジュールに加えて、就寝時間や勉強時間などの禁止時間を組み合わせたり、お小遣い感覚で利用時間を増やす報酬を与えることなども可能だ。
さらに、端末ごとのアクセス状況を細かくチェックしたり、外部サービス(AlexaやChores)などと組み合わることで、たとえば家事を手伝ったら報酬として利用時間が増えるといった制御も可能となっている。
つまり、従来のペアレンタルコントロールが「禁止すること」を目的としていたのに対して、Circle With Disneyでは、子どもだけでなく家族がインターネットと「うまく付き合うこと」が目的となっているわけだ。
勉強でも、スポーツでも、生活でも、スマートフォンの利用でもなんでもそうだが、最終的に子どもに必要なのは「自分で制御する力」にほかならない。従来の禁止一辺倒では、こうした力は育たないし、子どもの反発も大きくなる。そうではなく、SNSやゲームが魅力的であり、子ども同士のコミュニティで必要不可欠なものであることを認めながら、それとうまく付き合っていくことを目指した機能といえそうだ。
簡単なセットアップ
それでは、実際にOrbiを使って、Circle With Disneyを使えるようにしてみよう。
本来、Circle With Disneyは、専用機器を購入して($99前後)ネットワーク上に設置する必要があるが、Orbiでは、この専用機器の機能をルーターに統合することができる。2.1.1.12以降のファームウェアでCircle With Disneyに対応するので、こちらから最新版のファームウェアを確認し、ルーター、サテライトともに最新版にアップデートしておこう。 なお、前述したように、OrbiではOpenDNSを利用したペアレンタルコントロール機能も利用可能だが、OpenDNSとCircle With Disneyは排他となる。OpenDNSのペアレンタルコントロールを使っている場合は、これをオフにしてCircle With Disneyに切り替える必要がある。
ファームウェアさえ対応していれば、Circle With Disneyのセットアップは簡単だ。現状は、英語のみとなるが、Orbiに接続されたスマートフォンに「Circle」アプリをインストール後、表示されたウィザードを進めていくだけで、簡単にセットアップできる。
アプリの起動からセットアップ完了までは以下のとおり。
Circle With Disneyならでは設定のポイント
ポイントとなりそうなのは、まずはプランだろう。以下の表のように無料のBasicプランでも、基本的な機能は利用可能だが、月額550円のPremiumに登録することで、より高度な機能を利用できる。
まずはBasicではじめるのがいいが、Circleの真骨頂はPremiumプランにある。特に、冒頭で触れた「うまく付き合う」ことを実現するには、BedTimeやOffTimeなどの柔軟なスケジュール設定やRewordなどの機能が欠かせない。少々高いが、個人的には加入をオススメしたいところだ。
Basic | Premium | ||
---|---|---|---|
機能 | 概要 | 無料 | 550円/月 |
Filter | アクセス可能なWebページやアプリを制御 | ○ | ○ |
Pause | インターネット接続を一時的に禁止 | ○ | ○ |
History | アクセス履歴を表示 | ○ | ○ |
Usage | アプリごとの利用時間の統計を表示 | - | ○ |
Time Limitis | 利用可能なトータル時間を制限 | - | ○ |
BedTime | 就寝時間(禁止時間)を設定 | - | ○ |
OffTime | 勉強時間(禁止時間)を設定 | - | ○ |
Rewards | 報酬として利用時間を追加できる | - | ○ |
続いてのポイントはプロファイルだ。Circle With Disneyでは、フィルターや制限時間などの各機能をプロファイル単位に設定できる。これにより、たとえば、子ども、保護者、テレビなどの家族共有の機器といったグループごとに異なるレベルの設定ができるようになるうえ、子どものプロファイルにスマートフォン、タブレット、ゲーム機というように複数台の機器を所属させることで、複数機器への設定をまとめて適用することができる。 旧来のペアレンタルコントロールの場合、機種によっては端末のMACアドレスごとにフィルターを個別に設定する必要があり、設定に手間がかかったり、設定漏れが発生することがあったが、これならそうした心配もないわけだ。
たとえば、先のセットアップ例ではHOMEのプロファイルのフィルターをNONEにしているが(いわゆるブラックリスト方式)、これを「TEEN」などに設定しておくことで、未分類のデバイスはすべてTEENレベルのフィルターが自動的に適用されるようになる(これでホワイトリスト方式に変えられる)。
そのうえで、フィルタリングなしの保護者のプロファイルを追加したり、KIDSの子ども用プロファイルを追加することで、複数の制御を使い分けることが可能だ。
つながっているのにつながらない
このように設定すると、ネットワーク上の端末は、フィルターで設定されたアプリや特定のカテゴリのWebサイトへのアクセスが遮断される。
Webサイトの場合、Circleの警告画面が表示される(HTTPSの証明書エラーが表示される場合もある)。単純に遮断されたことが表示されるだけでなく、ベッドタイムや利用時間の残りなどの情報も表示されるので、利用時間外で遮断されたのか、使いすぎなのかという判断ができる。
一方、アプリの場合は、単純にエラーになる。たとえば、アプリの一覧で「Youtube」を禁止すると、スマートフォンでアプリを起動したときに「接続エラー」と表示される。
一見、サービス側のエラーにしか見えない状況は、子どもにとっても、場合によっては保護者にとっても戸惑いにつながるが、慣れれば、Circle With Disneyによるフィルターだとわかるので問題ないだろう。
Premiumならもっと細かく制御可能
ここまでは、Basicプランでも利用可能な機能となるが、Premiumプランを利用すると、さらに高度な制御が可能になる。
まずは、時間設定が可能になる。Basicプランでは、アプリとカテゴリを選択して単純にアクセスを禁止するだけだったが、Premiumプランでは、Time Limitsによるトータルの利用時間、BedTimeによる就寝時間、OffTimeによる禁止時間の3つを設定可能だ
Time Limitsは、平日と週末の2つの設定が可能で、1日あたりのトータルの利用時間のほか、アプリごとの利用時間や、カテゴリごとのアクセス時間を個別に設定できる。たとえば、1日のトータルは2時間で、Instagramは15分などといったような組み合わせだ。
フィルタリングもそうだが、指定できるアプリはプリセットされているものに限られるが、「Online Games」などのカテゴリをうまく組み合わせることでゲームなども制限できる場合もある。
一方、BedTimeは就寝時間、OffTimeは勉強時間などに割り当てられる。曜日ごとに設定可能で、OffTimeに関しては勉強時間と食時間など、複数の異なるスケジュールを登録できる。
このように、個別に設定できることで、たとえば試験前用のスケジュールを作成しておき、定期試験一週間前にオンにして、定期試験が終わったらそのスケジュールをオフにするといった運用がワンタッチでできる。組み合わせ次第で複雑なスケジュール設定が手軽にできるので、かなり実用性は高いといえそうだ。
このほか、Premiumプランでは、Usageで利用時間の統計も見ることができる。「Oneline Games」や「Search & Reference」など、それぞれのカテゴリにどれくらいの時間アクセスしているかが表示されるので、単に「使いすぎ」がわかるだけでなく、「ゲームしすぎ」などといったように具体的な使い方を把握できる。
そして、何より、Circle With Disneyが優れているのは、こうした制御を外出先からも設定できる点だ。ルーターのファームウェアだけでなく、クラウドサービスも組み合わせてサービスが提供されているため、Circleアプリを使って外出先から制御することができる。
Basicプランでも設定変更やPauseを利用した一時停止ができるので、たとえば会社で仕事をしている最中に、お母さんから子どもの約束違反が報告された場合でも、手元のアプリから子どものプロファイルを指定してインターネットアクセスを無効にしてしまうことができる。
Premiumプランでは、この逆にRewordを使ってご褒美として利用時間を延長することが可能となっており、「テストで100点だった」などの報告に対して、その場でTimeLimitsを延長したり、BedTimeの適用を短くすることなどができる。
フィルタリングなどの子どもの利用を制限する場合によく言われるのは、「子どもとよく話し合って一緒にルールを決める」ということだが、Circle With Disneyでは、こうしたルール決めのタイミングだけでなく、運用後もこれらの機能を通じて、親子のコミュニケーションを図ることができる。
こうした双方向性もCircle With Disneyならではの特徴といえるだろう。
子どもが外出先で使っても安心
このように、家庭内でのペアレンタルコントロールを実現できるCircle With Disneyだが、同社が提供している「Circle Go(月額550円)」を利用することで、無線LAN環境だけでなく、LTEや公衆無線LAN接続などの外出先でも端末のコントロールが可能になる。
使い方は、若干、手間がかかり、保護者の端末にインストールしたCircleアプリでCircle Goを契約後、子どものスマートフォンにMyCirlceアプリをインストール。その後、アプリからサービスを有効化し、子どもの端末にVPN接続用のプロファイルをインストールする。
これで外出先でもCircleによる制御が可能になり、端末で無線LANを無効にすると自動的にVPNによって、Circle GOのサービスに接続され、フィルターが適用されることになる。なかなかユニークなしくみだが、暗号化なしの無線LAN環境などのプライバシーの保護にも役立ちそうなので、保護者の端末でフィルターを弱くした状態でセットアップしておくのもよさそうだ。
このほか、Premiumプランでは、CONNECT機能を利用して、AlexaやIFTTTと連携させることができる。ユニークなのは、Choresと呼ばれる雑用管理アプリで、ここで家族で設定したお手伝い(庭掃除など)をクリアすると、子どもに自動的にRewordを与えることなどもできる。これはいいアイデアだ。
ベンチマークとなる存在
以上、ネットギアのOrbiで利用可能になったCircle With Disneyを実際に試してみたが、非常によくできたサービスといえる。英語のみであるのが欠点だが、設定に柔軟性がある点、子どもとのコミュニケーションが重視されている点、外出先でも利用可能な点などが優秀で、国内のWebサイトもきちんとフィルタリング対象として登録されている。
間違いなく、ペアレンタルコントロールサービスのベンチマークとなる存在で、今後は、これを基準にサービスの良し悪しが判断されることになりそうだ。
Circle With Disneyを単体で利用することも可能だが、専用のハードウェアは国内では現状入手不可能なことを考えると、Orbiとの組み合わせで使うのがベストだ。手軽に無線LANのエリアを拡張できる製品としても魅力的なので、子どもがいる家庭はぜひ導入を検討したいところだ。