映画『バトル・ロワイアル』は、2000年末の公開時にちょっとした“もめごと”を起こした問題作である。子供に観せてしまってよいのかどうか、それが焦点であった。 多発する少年犯罪に業を煮やした大人たちは、新世紀教育革命法を可決した。通称BR法。それは全国の中学3年生4万3000クラスの中から、1クラスを無作為に抽出、 3日間に渡り無人島で最後の一人になるまで殺し合いをさせるという恐るべき法律だった。 「今日はみんなに、ちょっと殺し合いをしてもらいます」。ビートたけしが放つこのセリフはあまりにも衝撃的で有名である。このセリフからもわかるように、確かに本作は、犯罪の低年齢化になすすべを失った大人たちが子供たちに殺し合いをさせるという内容は過激極まりない。だが、過激度だけでなく本作が持つメッセージ性は非常に高い。よく考えてみるとわかることだが、巷に氾濫しているバトルゲームに比べれば、社会に対してさまざまな問題を提起している本作に何ら不都合な点など見つからない。本作では殺し合いを余儀なくされ戸惑う生徒たちの姿を通し、人を殺すということの残虐さ、やるせなさ、理不尽さが浮き彫りになる。そしてその末に生き残ったものですら決して勝者ではありえないという現実をつきつけるのだ。この作品には、子供たちに対する非常に大きな教育効果があるように思う。大人が社会の中で子供に伝えきれなくなった命の尊さというものを、感覚として伝えることができる映画なのだから。 こんなご時世だから、できれば暴力的な映画など観たくない。今、誰もが思うことだろう。だがあえてここで本作を紹介することにしたのは、こんなご時世だからこそ人を傷つけること、暴力や殺人がなぜいけないのかとういうことを、大人も子供も皆があらためて考えてみる必要があるはずだと思ったからである。刺激的な表現が氾濫し、多くの人々が暴力を嫌悪する感覚を麻痺させている現在。戦争を身近に感じざるを得ない現在。だからこそ我々は、こういった作品を通して自らの思考をクリアにするべきなのではないだろうか。
本DVDには幻のエンディングが収録されている。<レクイエム>と名づけられたその映像は、ある女性徒が見た夢にまつわるものなのだが、本編では彼女が夢の中で教師・キタノと交わした会話は謎のままだ。あの時、どんな言葉が交わされたのか気になっていた人もさぞ多いことだろう。そう、今、霧が晴れるのである! ほんの数分という短いシーンなのだが、そこでの二人のやり取りは作品を理解するうえでの非常に重要な鍵となる。夢というのは潜在的意識や願望を反映すると言われているだけに、現実世界との繋がりは強い。そう考えて見てみると、人物像、物語の展開にちょっとした発見があるかもしれない。 ところで、この作品を撮ったのは本作が60本目の映画となった日本映画界が誇る巨匠、深作欣ニ監督。特典映像でお目にかかれるのは舞台挨拶の映像でくらいというのが少々残念なのだが、そこで姿を見せる白髪の紳士は“過激”からは程遠い印象だ。生徒役の若手俳優たちと並んでいると、孫とおじいちゃんのようにも見えてくる。「作品に取り掛かる前に、いい年して何をやるんだという悪評もたちましたし、妙ちくりんな騒ぎも起こりましたので果たしてどうなることやらとちょっと心配でもありました」という本音もチラリ。監督というと、つい作品と人柄を結びつけてしまいがちだが、それは大きな間違いだ。過激な映画を撮るから過激な人とは限らないのである。むしろその反対であることが多く、人柄と作品がかけ離れていればいるほど優れた表現者として賞賛されることが多いように感じる。深作監督が若手監督、俳優たちからも「凄い人」と称される理由は、そんなところにもあるのかもしれない。本作の中でそんな深作監督のイメージに一番近いと感じたのが、<レクイエム>だ。過激作品の中にあり、唯一ほんわかと暖かく穏やかなイメージが監督の姿と重なるのである。
■片面2層 ■画面サイズ:シネスコサイズ(16:9) ■収録時間:114分 ■音声仕様: 1,日本語 サラウンド 2,日本語 ドルビー5.1ch