学生時代、世界史をとるか日本史をとるかという選択を迫られた時、迷わず日本史を選んだ。理由は横文字の固有名詞は覚えるのが難儀だということと、1世だの2世だのと同じ名前で数字違いの人がやたら多く出てきて混乱するからだ。結局、日本史を選んだおかけで世界の歴史に関してはめっぽう弱くなってしまったが、そんな筆者ですらはっきりと認識できる人物が何人かはいる。フランスのルイ14世もそのひとりだ。ルイ14世と言えば、フランス絶対王政最盛期の権力者で「太陽王」と呼ばれた人物。
建築、音楽、美術などの芸術を擁護し、フランスの文化をヨーロッパ全土に浸透させた人だ。フランス史上最も力を持った権力者として名を馳せ、ヴェルサイユ宮殿をきらびやかに改修し、その王朝は最も華やかだったとして知られている。ゆえに彼と彼の時代は、映画史上最も興味を持たれる題材のひとつであり、これまでも多くの名優たちがルイ14世を演じてきた。日本で言えば徳川家康、豊臣秀吉あたりだろうか。
本作『宮廷料理人ヴァテール』の中で、ルイ14世自身が登場する場面はそれほど多くないが、彼の力がどれだけのものだったのかは、王を迎える3日間の騒動を目の当たりにすれば察するに余りある。贅をつくした料理の数々、そしてその料理に相応しい豪華な演出。大饗宴の裏に渦巻く陰謀や愛欲、数々の欲の先に繋がるのは、ブルボン王朝の隆盛に他ならないのである。
ちなみにこの3日間の饗宴は実際に行われたものなのであるが、当時の宮廷生活を記した手紙によると、総費用は5万エキュだったとか。1661年のフランスの年間税収入の140分の1に相当し、それを1999年の日本の年間税収入から換算してみると約3兆5700億円に相当するらしい。あくまでも目安の数字でしかないが、どれほどの贅が尽くされたかはおおよその見当がつくというもの。その饗宴を再現するのに投じられた製作費はフランス映画史上最高の40億円とのことだが、ここまで非日常的な金額が飛び交うと果たして高いんだが安いんだか正直いってさっぱり判らなくなってくるというのが本音だ。確かに豪華な時代を映し出すべくセットもキャストもきらびやか。特に豪華絢爛な余興の数々は素晴らしく、実際に行われたものとどれだけ近いのかという疑問はさておき、かなり目を楽しませてくれる。中でも、王へのもてなしとして庭いっぱいに仕掛けられた原寸大“飛び出す絵本”風のセットが、CG氾濫のこの世の中、コテコテのアナログ感をもたらしなんとも新鮮である。
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