2001年10月
「シブヤ・シネマ・ソサエティ(S.C.S)」 総支配人 山下章さん

「シネクイント」支配人 斉藤 智徳さん

「ユーロスペース」劇場支配人 北條誠人さん

2001年9月
「シネアミューズ」劇場支配人 佐藤順子さん

「東宝株式会社」菊地裕介さん

「アップリンク」中村美穂さん

「セテラ・インターナショナル」加賀谷光輝さん

2001年8月
「ザナドゥー」杉山淳子さん

「ブエナ ビスタ インターナショナル ジャパン」石井恵美子さん

「スローラーナー」遠藤麻早美さん

2001年7月
「有限会社リベロ」武田由紀さん

「日本ヘラルド映画」島田いずみさん

「UIP映画」宮下恵理さん

「オンリー・ハーツ」中村洋子さん

「プレノン・アッシュ」佐藤美鈴さん


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  ◇◇陰りに埋もれた作品の美しさを挑発的に提示する劇場
   ミニシアターは特異な存在である。メガバジェットの作品に目を向けず、ただひたすら日影の佇む作品に陽の光を充てようと日夜努力する。光が眩しければ、陰りの度合いは濃くなる。しかし陰りに埋もれた作品の美しさを観ようと人が集まれば、ミニシアターはそこに喜びを見出す。陰りが濃く、埋もれた作品が美しければ美しいほど、ミニシアターの喜びは増すのである。

 ユーロスペースにとって光射す作品の影の度合いは、深い。その深さがユーロスペースの掛け替えのない魅力でもある。挑発的な批評家の言説の如く、ユーロスペースは、我々に、埋没寸前の宝物を目の前に提示するのだ。「この作品はどうだ?」と言わんばかりのユーロスペースは常に攻撃的だ。我々は時に敗北し、時に共感の喜びとともに勝利を味わうのだ。その快感が堪らない。ユーロスペースとはそういう場所なのである。支配人の北條誠人氏の際どい魅力もそこにある。
◆映画館で映画を観るのは、映画の観方の選択肢の一つに過ぎなくなったんでしょうね  


「ハリウッドの大作映画をどう思いますか。やっぱり嫌いなんですか」

北條さん
「これまで見たことのない世界を見せてくれるという意味ではいいですよね。凄いです。『パール・ハーバー』とか『A.I.』とか。あそこまで行くともう何も言えないですよ。凄いの一言」

「へえ。北條さん、本音で話しましょうよ」

北條さん
「……。いや、本音ですよ。画の部分はね。でもねぇ、やっぱり登場人物がどれもこれもあまりにも薄っぺらで感情移入なんかできないじゃないですか。『A.I.』だって、未来のマンハッタンと歌舞伎町の姿を見ることができたっていうだけでいいんじゃないですか」


「やっぱり嫌いなんですね」

北條さん
「いやいや。先ずプロデューサーがそれを求めているんだから仕方がないですよ。でも、ごく当たり前の、当り障りのない、ごく普通の人情に涙を流させる作品が多くないですか?昔から決まりきった形の安心する感動。泣かせるためのシチュエーションを作っている映画が多くなって来ているのではないでしょうか。ああいうシチュエーションって、昔から変わらない形のものですよね。でもなんか、こう人間っていろいろあるじゃないですか。もっとドロドロしていたり、一筋縄ではいかないものでしょ。だから感動のスタイルって様々なはずなのに、決まりきったことを求める人が多くなっている、という気がしますね」


「確かに、ハリウッドの大作にそういう機微を求めるのは厳しいですね。でも最近の観客が“定型の感動”を求める傾向にあるというのは、何が原因なんでしょう。どう思いますか」

北條さん
「観客の映画に向き合う姿勢が変わってきたんだと思うますよ。映画を観る姿勢が変わってきたというか。今はビデオがあって、DVDがあって、衛星放送もあって…、映画館で映画を観るというのは選択肢の1つに過ぎなくなってしまったんでしょうね」

  ◆今後劇場は“シネコン”型と“美術館”型に二分化するんでしょう。

「1800円を払うからには、金のかかった映画を観て、それ以外の作品は家で観る、と。だからミニシアターで上映するような作品にはあまり人が集まらない?」

北條さん
「一概にそうと言ってしまってはいけないんでしょうね。劇場側としては観客に、劇場で観たいと思わせる気持ちや雰囲気をきちんとつくらなければいけないんです、やっぱり。 今後劇場は大きく二極分化するんでしょう。“シネコン”型と“美術館”型。“シネコン”型はテーマパークみたいなものですよね。いろんなものが揃っていて、一日中楽しめる。で、“美術館”型では、自分と似たような人たちが集まってきて、映画を観て、プログラムを買って、静かに深く楽しむ、と。前提として作品の質が求められるし、理想の“美術館”型を実現するには、劇場側の宣伝活動もちゃんとやらなければならないんだと思います」


「作品の宣伝活動は配給会社と一緒にやるんですか。それとも別々に?」

北條さん
「基本的に配給会社に任せてしまいますね。ただ、最近の配給会社の担当者がよく聞いてくるんですよ。アドバイスみたいなもの。そういう時には、“今まであなたはたくさん映画を観て、中にはすごく好きな作品があったでしょう。そういう作品を人に薦めるように宣伝すればいいのではないか”と」


「少し刺を感じるんですが」

北條さん
「かつては、プロフェッショナルとアマチュアの違いは歴然としていたんですよ。でも今は、音楽も出版も映画も、文化的なものがあまりにも細分化してしまって、抜きん出たプロフェッショナルというはいなくなってしまったのか、と思ったりします」


「なるほど。ところで、配給会社から買い付けた作品を提示されるわけですよね。上映してくれ、と。若い担当者の方が持ってきた作品を北條さんが選定して上映するかしないか決めるわけですか」

北條さん
「そう。試写で観るわけです。でも観終わった直後には、結論は言わないです。感想さえも言わない」 MW「え。何も言わないんですか」 北條さん「少し考えさせてくれ、と言いますね。でも顔に出るらしいです、感想が。時々作品によっては澱(オリ)のように何かひっかかるものが沈んでくる作品があるんですよ。観た直後はなんだこりゃ、と思っても。だから寝かせておくんです。でも年に1~2本は本当にどうしようか困ってしまう作品もありますね」

◆やっぱりね、好きだからやっているんですよ  


「配給会社にもいろいろあるんですね」

北條さん
「劇場で知らないことを配給会社に教えてほしいんです。それが劇場と配給会社との理想的な関係だと思うんですけどねぇ」


「ユーロスペースの作品選定の基準というのはあるんですか」

北條さん
「なんとなくね。まず若い作家の作品。多くは監督さんです。それで、表現に力を持っている人の作品。そして映画の中枢ではなく周辺国の作品です。たとえば、ヨーロッパならイギリスやフランスはまずなくて、スペインとかチェコとかロシアとかフィンランドとか。でアメリカよりもアジアとかね。こういう基準で選んでいくと、今まで上映してきた作品になるんです」


「儲かっていますか?」

北條さん
「映画産業はむくわれないよー、ホント。配給もやっていますが、打率は三割が精一杯。駄目だった時に、いかに被害を最小限に押さえるかを考えないとまずいですよ。ダメージ・コントロールね。これが大事。やっぱりね、好きだからやっているんですよ」

(谷古宇浩司)



【劇場データ】
 1977年1月に「ドイツ新作映画祭」を戦後初めて開催して自主上映活動を開始、ヴェンダース、ファスビンダーらを日本に紹介する。1982年にミニシアター「ユーロスペース」を渋谷に開館、「シネマスクエアとうきゅう」らとともに、今日のミニシアター・ブームの草分けと称される。 初上映作品『ある道化師』であった。以後ヨーロッパ、アジア映画を中心に、独自の映画配給・興行とともに、日本映画の製作及び外国映画の共同製作を行い、特異な活動を展開してる。 劇場はユーロスペース1、2の2館。それぞれ座数75席(立見25席)、106席(立見35席)。

□ユーロスペースOFFICIAL SITE
http://www.eurospace.co.jp/

 


オープニング作品
『ある道化師』
(1975年 西ドイツ作品)
監督:ヴォイチェフ・ヤスニー
原作:ハインリッヒ・ベル
出演:ヘルムート・グリーム/ハンナ・シグラ

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