2001年10月
「シブヤ・シネマ・ソサエティ(S.C.S)」 総支配人 山下章さん

「シネクイント」支配人 斉藤 智徳さん

「ユーロスペース」劇場支配人 北條誠人さん

2001年9月
「シネアミューズ」劇場支配人 佐藤順子さん

「東宝株式会社」菊地裕介さん

「アップリンク」中村美穂さん

「セテラ・インターナショナル」加賀谷光輝さん

2001年8月
「ザナドゥー」杉山淳子さん

「ブエナ ビスタ インターナショナル ジャパン」石井恵美子さん

「スローラーナー」遠藤麻早美さん

2001年7月
「有限会社リベロ」武田由紀さん

「日本ヘラルド映画」島田いずみさん

「UIP映画」宮下恵理さん

「オンリー・ハーツ」中村洋子さん

「プレノン・アッシュ」佐藤美鈴さん


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  ◇映画好きの心を心地よく刺激する劇場
 尖った感性の集積が渋谷の街を面白くしてきた。音楽文化の発信基地はこれまでも渋谷であったし、これからも当分はそうあり続けるに違いない。
 映画文化についてもそうなりつつある。銀座を中心としたミニシアター群のハイソ感覚は依然健在だが、94年頃を境に、従来から培われてきた音楽文化を背景に、渋谷の街には、雑多で乱暴でエッジが効いていて、そしてどこか感傷的な作品群が集まりだした。シネマライズ、シネクイントを代表としたミニシアターから仕掛けられるどこか挑発的な渋谷的映画群。その発信基地の一つがCINE AMUSE EAST&WESTである。

 東急Bunkamura真向かいのフォンティスビル4階にCINE AMUSE EAST&WESTはある。そのひっそりとした佇まいは隠れ家的な印象を醸し出す。館内のフロアはフリー・スペースとして映画を観ない人々にも開放されている。併設されているカフェでお茶を飲むこともできる。映画館(あるいは映画鑑賞)と喫茶店との親和性を熟知したこの演出は映画好きの心を心地よく刺激するはずだ。
 EAST(132席)&WEST(129席)はそれぞれ赤、青を基調としたライティングが設定されている。基本的には、EASTが日本映画を含むアジア映画全般、WESTが西欧映画という区分けがあるのだが、厳密な固定化を行っているわけではない。取材日当日は、EASTで『シャドウ・オブ・ヴァンパイア』、WESTで『キシュ島の物語』が上映されていた。
 我々の取材に応じてくれたのはCINE AMUSE EAST&WESTの佐藤順子さんである。残暑の光が眩しいカフェの一角で小一時間ほどお喋りをした。話は、CINE AMUSE EAST&WESTの設立の経緯から映画館としての現状、制作会社、配給会社、興業会社の内部事情にまで及んだ。

◆興行側からみた良い作品の定義  
佐藤さん
「CINE AMUSE EAST&WESTは映画の配給会社シネカノンと、タレントプロダクションのアミューズが共同出資して造った興業会社です。社長は李鳳宇が兼任をしています。シネカノン自体はそもそも邦画の制作と、洋画の配給会社から出発していまして、制作したものを劇場で上映するまで一貫して面倒をみたい、という思いから興業会社の設立に至った訳です。日本映画を中心としたアジア映画を主として、西欧映画の佳作も取り上げていく、というのが設立の主旨でした。最近ではアジア映画と西欧映画の上映比率はほぼ半々となっています」


「CINE AMUSE EAST&WESTは日本映画の上映頻度が非常に高いですね。興業側として、最近の日本映画をどうみていますか」

佐藤さん
「エンターテインメント要素の強い日本映画を上映したい、という思いが強くあるんです。どうしても日本映画は暗くてジメジメしているというイメージがあったものですから。でも最近では、そういうイメージも払拭されつつあると思いますよ。日本映画に対する若い方達の認識も良い方向に変わってきていると思います。そういう環境の変化が、若い新人監督登場のチャンスを作り出している、とみています。CINE AMUSE EAST&WESTの席数は130前後ですので、新人監督の作品を公開するにはちょうど良いというのもありますよね。
ただ、私はいくら良質な作品でも興行的に成功しない作品は映画としては認められません。映画というのはやはりビジネスですから、海外で賞を獲得したとしても、多くの観客に観て貰わなければ意味がないんです。つまり、作品にはある種のエンターテインメント性と、独創性に富んだ宣伝力がどうしても必要だと思っています。ハリウッド大作のようなわかりやすさとは違うんですけど」


「最近で興行的にも作品の質的にも成功した作品というのは」

佐藤さん
「『愛のコリーダ』のリバイバル上映ですね。海外では評価されましたけど、公開当時は時代の様々な情勢が足枷となって、日本では評価されなかった作品ですが、今の時代なら受け入れられるのではないか、特に女性にはシンパシーを感じて貰えるのではないか、と思って上映したのですが、予想以上の大ヒットになりました。13週のロングランで、およそ3万人の動員です。こちらの目論見では主婦層がメインターゲットだったのですが、実際には大学生などの若い女性がほとんどでした」


  ◆ブロック・ブッキングとフリー・ブッキング

「渋谷にミニシアターが集中しているという印象を受けますが、上映したいとする作品が劇場によって被さることはないんですか」


佐藤さん
「大作映画を扱う配給会社の場合、たとえば東宝なら東宝系の劇場にブッキングするブロック・ブッキングのシステムがありまして、重なることはあまりないと思いますが、ミニシアターの場合は良くありますよ。つまり、フリー・ブッキングのケースですが。なので、配給会社が作品を買い付けする現場に、劇場の担当者も参加するという場合はよくあります。配給会社にしても、小さな作品の場合、作品のカラーに適した劇場にブッキングできなければビジネスにはなりませんので、事前に打ち合わせをするケースもよくあるんです」


「宣伝は配給会社と興業会社と別々にやるものなんですか」

佐藤さん
「最近の傾向として、ミニシアターに関しては、配給会社と劇場がディスカッションをしながら宣伝を行っていく、というケースが増えてきました。あるいは、製作の段階から劇場が絡む場合もあります。劇場というのはお客様に最も近いところにいる訳で、ニーズを吸い上げるには、最も適しているからです」


「観客のニーズを吸い上げるためのマーケティング活動をされているとか?」

佐藤さん
「アンケートや過去の作品のデータ分析はやっています。ただ劇場でチケットを扱う“もぎり”は基本ですよ。劇場は“もぎり”に始まって“もぎり”で終わります。案外、映画を観ないでカフェに寄るだけのお客様もいますし、チラシの収集だけに来られるお客様もいます。そこでコミュニケーションが生まれて、どのような映画がどれだけの動員を実現するのか、肌で感じることが必要なんです。そのためにも“もぎり”は重要なんです」

◆オープンニングは『幻の光』だった  


「劇場で行う特別のサービスみたいなものは?」

佐藤さん
「映画を習慣的に観る人ってあまりいませんよね。我々としてはできるだけ映画を習慣的に観て貰えるような仕掛けをやっていきたいと思っているんです。回数券を発行したり、会員制にしたり、イベントを催したり。普段映画を観ないような人達を引き込むことが必要だと考えています。」


「劇場で働く人達というのはどういう人達なんですか。製作や配給にいかずに敢えて劇場を仕事場として選択するということには理由があるような気がしますが」

佐藤さん
「おそらく、劇場で働いている人達というのは、最も映画を観るのが好きな人種なんじゃないかと思います。とにかく映画が好きで、フィルムが回っている環境にずっといたい、というような人達の集まりなんですよ。だから変わった人も多いですし、やたらと映画に詳しい人もいます。
 でも、単に映画が好きなだけじゃ務まらないんですよね。劇場での仕事を面白いを思えるような人じゃなきゃ、やっていけません。基本的に接客業ですから。朝は早いし、遅番もあるし、給料も安いですよ。ウチの場合アルバイトだと時給750円からです」


「初めて上映作品は『幻の光』ですか」

佐藤さん
「そうです。95年12月9日にオープンした時のオープニング作品でした。その当時は、小品の日本映画やアジア映画を上映する映画館が少なかったということもあり、そしてCINE AMUSE EAST&WESTはそういう映画を積極的にやっていこうという姿勢でもあったので。江角マキコさんは当時、頻繁に劇場にも足を運んで下さいましたよ。日本映画は作り手の人とも、密に接することができるので、「非常にやりがいを感じ、ビジネスとしても面白いです。」

(谷古宇浩司)



【劇場データ】
1995年 映画文化の中心である渋谷にオープン。アメリカやヨーロッパの優れた映画と共に、アジア映画を常に熱く見つめ、全世界の映画人を応援するというコンセプトのもと、ラリー・クラークの『キッズ』、エドワード・ヤンの『カップルズ』、スコット・ヒックスの『シャイン』などを上映。2000年に上映した『サウスパーク無修正映画版』は、シネアミューズ歴代のオープニング記録を更新した。

オープニング作品
『幻の光』
監督:是枝裕和
原作:宮本輝
出演:江角マキコ/内藤剛志/浅野忠信/木内みどり/柄本明/赤井英和/市田ひろみ/寺田農/大杉漣
『南京の基督』
監督:トニー・オウ
原作:芥川龍之介
出演:レオン・カーフェイ/富田靖子/トゥオ・ツォンホワ/ジェシカ・チャウ/ラオ・シュン/ユイン・ダッチョウ/マーク・カスバーグ/中村久美


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