配給会社の方々に取材をしていて、実は以前から、疑問に思っていたことがある。配給会社は作品の公開に際し、目標興行成績を設定し、宣伝費などを差し引いた結果としての利益を算出する。映画にかかわる事業というのはとかく「博打に似ている」という声をよく聞く。実際、配給会社の興行予測というのは、どこまで正確なのだろうか?営業を経験してきた加賀谷さんなら、数字に関してはきわめて厳しい目を持っていそうである。そこで、加賀谷さんに聞いてみた。すると「・・・正直言って、予測を当てるのはものすごく厳しいですよ」という、半ば期待していた答えが返ってきた。 やはりそうなのか。「弊社の山中(社長)共々、映画の配給というのは、ビジネス面だけで測れるものではないと考えているんです。とにかく良いものを紹介したい、という熱意がありまして、でも一方でビジネス面も重視しなければならないため、非常に難しいんですよ」。しかも、単館系の、特にフランス映画というのは、良質の作品が揃っているにもかかわらず、業界全般で「ヒットを狙うのはかなり難しい」というここ最近の定説があるのも事実だそうだ。たとえば、昨年日本でヒットした単館系フランス映画では『クリクリのいた夏』があげられるが、興行収入はおよそ5000万円である。確かに、拡大公開ではあるが『TAXi2』の興行収入は13億円だったとはいえ、ハリウッド系大作の億単位とは比較できない規模である。
しかし、それでも加賀谷さん(とセテラ)は単館系にこだわる。「将来の夢とも絡みますが、日本の皆様にもっとヨーロッパ映画の佳作を観ていただきたいんですよ。良い作品がそのまま埋もれてしまうのはどうしてもやるせなくて、何かしら観客の皆様に観ていただける要素を探し当てて、ご提供していけるような力をつけられれば、と思っています」。現在、加賀谷さんの頭の中には、コスト的にフィルムでの上映が難しい作品に関して、「たとえばネットで配信できるような、しかもコストがかからない仕組みがないものかどうか」など、試行錯誤の仕組みがグルグル回っている。もちろん、必ずしもパソコンを活用する必要はなく、さまざまなアイデアが加賀谷さんの頭の中に渦巻いている状況である。 『ムッシュ・カステラの恋』試写状にセテラの住所を印刷するのを忘れてしまう、というような「細かい失敗」を繰り返しながらも、加賀谷さんは丁寧な言葉使いのマシンガントークで、今後も驀進していくこと、確実である。
(谷古宇浩司)