2001年10月
「シブヤ・シネマ・ソサエティ(S.C.S)」 総支配人 山下章さん

「シネクイント」支配人 斉藤 智徳さん

「ユーロスペース」劇場支配人 北條誠人さん

2001年9月
「シネアミューズ」劇場支配人 佐藤順子さん

「東宝株式会社」菊地裕介さん

「アップリンク」中村美穂さん

「セテラ・インターナショナル」加賀谷光輝さん

2001年8月
「ザナドゥー」杉山淳子さん

「ブエナ ビスタ インターナショナル ジャパン」石井恵美子さん

「スローラーナー」遠藤麻早美さん

2001年7月
「有限会社リベロ」武田由紀さん

「日本ヘラルド映画」島田いずみさん

「UIP映画」宮下恵理さん

「オンリー・ハーツ」中村洋子さん

「プレノン・アッシュ」佐藤美鈴さん


[an error occurred while processing the directive]
 
 


 セテラ・インターナショナル(以下セテラ)の加賀谷さんは、今回の連載中唯一の男性である。紆余曲折を経て、映画の配給会社に到達したその経歴はかなり異色。マシンガンのような高速の喋りと非常に丁寧な言葉遣いの微妙なギャップは、彼が映画とはまったくの異業界で営業を担当していた頃を彷彿とさせるようだ。
 


「いきなり路頭に放り出されまして・・・」
 加賀谷さんがセテラに入社したのは99年6月のこと。学生時代から映画業界で働くことを希望していたが、「どこもそうだと思うのですが、通常の新卒採用を行う配給会社はほとんどありませんで・・・」、大手食品系商社に営業として就職した。しかし、入社からおよそ4年後、親会社が倒産。子会社である加賀谷さんの会社も整理されることになり「いきなり路頭に放り出されてしまいました」。

 「こうなったら自分の本当に好きなことをするしかない」。ともかく映画業界に入り込むことが先決と判断した加賀谷さんは、配給会社ではなく、映写技師協会(昭和13年6月結成)の門を叩く。「しかし・・・、技師の空きがなかったんです。でも、そこで映画館での仕事の口を紹介していただいて、千葉県松戸市にある松戸サンリオシアターに1年間営業として勤務しました」。その後、映画業界紙の求人広告をみて、セテラに応募、「大学卒業から5年目にしてようやく映画の配給会社に入ることができたんです」という、ユニークな経歴を誇る。


「基本はすべて観客の皆様に良い作品を観ていただきたい、という思い」
 現在、セテラで加賀谷さんが行う主な業務は10月上旬に公開予定の『エスター・カーン めざめの時』と『ムッシュ・カステラの恋』の宣伝である。ただし、加賀谷さんはもともと営業としてセテラに入社している。なぜ、宣伝を?「昨年、『倦怠』を公開するに際して、宣伝人材が足りないということで、営業と宣伝を兼任することになったんです。確かに、営業と宣伝というのは、違う職種なのですが、基本的にはあまり変わりはないと思うんですよ」。

 宣伝は、雑誌やテレビなどの媒体を通して、作品の良さをアピールしていく仕事。営業は、劇場に作品を売り込むほか、テレビ局に対してVIDEO、DVDの放映権利を売る。しかし、「間接的に、観客の皆様に対して、作品の良さをアピールしていくという根本的な点では共通しているんです」と加賀谷さんは言う。だから「映画の配給という仕事は、営業や宣伝というカッチリとした枠組みで区切ることはできないと思うんですね。基本はすべて、観客の皆様に良い作品を観ていただきたい、という思いがあるわけですから」。


「興行予想ですか、当たりませんね・・・」

 配給会社の方々に取材をしていて、実は以前から、疑問に思っていたことがある。配給会社は作品の公開に際し、目標興行成績を設定し、宣伝費などを差し引いた結果としての利益を算出する。映画にかかわる事業というのはとかく「博打に似ている」という声をよく聞く。実際、配給会社の興行予測というのは、どこまで正確なのだろうか?営業を経験してきた加賀谷さんなら、数字に関してはきわめて厳しい目を持っていそうである。そこで、加賀谷さんに聞いてみた。すると「・・・正直言って、予測を当てるのはものすごく厳しいですよ」という、半ば期待していた答えが返ってきた。

 やはりそうなのか。「弊社の山中(社長)共々、映画の配給というのは、ビジネス面だけで測れるものではないと考えているんです。とにかく良いものを紹介したい、という熱意がありまして、でも一方でビジネス面も重視しなければならないため、非常に難しいんですよ」。しかも、単館系の、特にフランス映画というのは、良質の作品が揃っているにもかかわらず、業界全般で「ヒットを狙うのはかなり難しい」というここ最近の定説があるのも事実だそうだ。たとえば、昨年日本でヒットした単館系フランス映画では『クリクリのいた夏』があげられるが、興行収入はおよそ5000万円である。確かに、拡大公開ではあるが『TAXi2』の興行収入は13億円だったとはいえ、ハリウッド系大作の億単位とは比較できない規模である。



「もっとヨーロッパ映画の佳作を観ていただきたいんです」

 しかし、それでも加賀谷さん(とセテラ)は単館系にこだわる。「将来の夢とも絡みますが、日本の皆様にもっとヨーロッパ映画の佳作を観ていただきたいんですよ。良い作品がそのまま埋もれてしまうのはどうしてもやるせなくて、何かしら観客の皆様に観ていただける要素を探し当てて、ご提供していけるような力をつけられれば、と思っています」。現在、加賀谷さんの頭の中には、コスト的にフィルムでの上映が難しい作品に関して、「たとえばネットで配信できるような、しかもコストがかからない仕組みがないものかどうか」など、試行錯誤の仕組みがグルグル回っている。もちろん、必ずしもパソコンを活用する必要はなく、さまざまなアイデアが加賀谷さんの頭の中に渦巻いている状況である。

 『ムッシュ・カステラの恋』試写状にセテラの住所を印刷するのを忘れてしまう、というような「細かい失敗」を繰り返しながらも、加賀谷さんは丁寧な言葉使いのマシンガントークで、今後も驀進していくこと、確実である。

『エスター・カーン めざめの時』
(原題:『 ESTER KAHN』)
2000年 フランス、イギリス
145分
ジャンル:恋愛ドラマ
監督:アルノー・デプレシャン
出演:サマー・フェニックス、イアン・ホルム、ファブリス・デプレシャンほか
配給:セテラ・インターナショナル

10月上旬シャンテシネにて公開

□オフィシャルサイト(仏)へ

 

 

 

(谷古宇浩司)

 

 

 
 
・・・LINK
□『エスター・カーン めざめの時』オフィシャルサイト(仏)
http://www.bacfilms.com/estherkahn/

□MOVIE Watchシネマプレビュー『エスター・カーン めざめの時』
http://www.watch.impress.co.jp/movie/column2/2001/08/21/index.htm

 



[ MOVIE Watch ホームページ ]

Copyright (c) 2001 impress communications corporation All rights reserved.