ところで、インターネット関連の宣伝活動とは具体的にどんな内容なのだろうか。「紙媒体や電波媒体とはまったく別物なんです。通常は、どのくらいの紙面数で、どんな企画で、という具合に媒体の方で制限があって、こちらからお出しできる資料なんかも結構融通がきくんですが、インターネットだと逆にお出しできる資料の制限が厳しいんですよ」。というのは、ウォルト・ディスニー作品の配給を行うブエナ ビスタでは、著作権や版権の管理が非常に厳しいので有名で、違法コピーがなされる危険性のあるインターネット上では「基本的に画面ショットは3枚までという制限がついているんです」というくらい。 「今はそうでもないですけど、昔は写真1枚を貸し出すのに、契約書を1枚貰っていたくらい」の厳しさだ。それゆえ、ブエナ ビスタが展開するホームページ上での宣伝がメインとなり、他のウェブサイトの場合「色々な企画を頂くんですけど、本社との制限に引っかかる内容のものや管理出来ない件などについては、かなり厳しい状況になってしまう」という。仕事内容自体は、媒体の担当者と電話で応対し、企画を進行させていくという極めてスタンダードなものなのだが。 しかし、ここまで築き上げられてきたディズニーのブランド戦略を見ると、それも仕方がないと思わせるものがある。世界最強のブランドイメージを保持するのは並大抵のことではないのだ。それだけに、石井さんの神経も休まるときが少ないのかもしれない。
だから石井さんの失敗もそういう細かい神経を配る部分で発生するのである。「こちらの意図したイメージと媒体さんの記事内容の主旨がずれているときはかなり焦りますね。あるいは、文字資料として渡したプレスから写真を流用されたりとか表記の仕方とか。本社から問い合わせがくることもあります。そういうときはもう、なんていうか・・・」。冷や汗ではすまないらしい・・・。 しかし、石井さんの最大の悩みは実はそういう失敗ではない。確かに仕事上の失敗はイタイものだが、「実は・・・、映画のことってそんなに詳しくないんです。もちろん映画は好きですよ。でもものすごく映画に詳しいという訳じゃないので、電話で色々と質問される時が一番冷や汗が出るんです。しかもディズニー系列の企業なので、多種多様なところから予想もしないような質問をされるんです。例えば、“この作品の音響はなになにを使用しているんだよね”とか聞かれて、えっ・・・何それ、みたいな。あるいは、『ファンタジア/2000』の宣伝の時に実は『ファンタジア』を観てなくて・・・とか。色々な勉強が足りないと実感しています・・・」。
先輩の社員の方にはとにかく外に出て、色々な人と話をするのが一番とアドバイスを受けているという。「あるいは雑誌の編集部ではなくても、喫茶店に行ってチラシを置いてくるとか映画館に行くとか、外に出ることが一番の勉強なんですよね、やっぱり」。 石井さんはブエナ ビスタに就職以前「編集プロダクションで働いていたことがあるんです。そこでビデオ記事の編集もやったりしていまして。でも基本的には劇場とは関係ない生活を送っていたんですよ」。 ある時、映画関係のメルマガで募集広告を見たことが、入社のきっかけとなった。『面接では、この仕事は全然華やかじゃないし、夜も遅いし、裏方の仕事なんだよ』って言われたんですけど、それでも全然構わなかったので「明日からでも来ます」といったら採用されたんです。実際仕事をしてみると、こうやってインタビューも受けているし、有名な俳優さんにもお会いできるし、全然華やかだと思いますよ。私の想像の方がかなり厳しかったのかもしれない・・・」。 とはいえ、やはり宣伝担当の方の仕事は、パブリシティだけではなく、試写会の裏方も行うわけで、色々あるのである。「『バグズ・ライフ』の試写会の時に、参加してくれた方々にお土産を配布したこともあるんです。ポップコーンのバケツとドリンクなんですけど、そのときは1回2000人の試写会を合計4回やったんですね。試写の間中、ポップコーンバケツのフタをしめて、ストローを挿す、という事を延々やっていました」。1日約8000個のポップコーンのバケツである。つまりはそういうこともあるのである。
石井さんの将来の夢は「やっぱり宣伝活動の前線に出ることですね。今は右も左も分からない状態だと思うんですよ。だから先輩を見習って」。 『パール・ハーバー』の次に控えているのは『恋におちたシェイクスピア』のジョン・マッデン監督の最新作でニコラス・ケイジ、ペネロペ・クルス出演の『コレリ大尉のマンドリン』である。石井さんの活躍に期待しよう。
(谷古宇浩司)