だが、最初は「正直言って、電話をかけることさえ、こんなに難しいことなのか」 と思ったという。何を喋ればいいのかさえわからない。そこで、先輩の手を借りて原 稿を作成し、それを手元に置きながら電話をかけた。毎日緊張しながらの電話だった が、ある日、作品を紹介するために訪れた雑誌編集者に言われた一言が、彼女の気持 ちを大きく変えたという。 「電話での印象と随分違うね、とっても明るい人なんだ」。確かに彼女は低めの落 ち着いた声をしている。さらに作品の特徴やデータなど、伝えなければいけない情報 を漏らすことなく伝えなければいけないと必死になってしゃべっている時もあった。 「緊張しながら構えて電話をしていたけれど、自分なりの話し方で楽しく伝えればいいんだ、と気づきました」。以来、武田さん宛てに電話をもらうことも多くなり、気心の通じる担当者も増えてきたという。 「武田さんはいらっしゃいますか、と言っていただけるようになって、宣伝担当者として今まで以上に責任を感じるようになりました」。仕事の楽しさを感じているようだ。
武田さんが映画に目覚めたのは中学生の時に観た『プリティ・ウーマン』がきっか けだ。物語が進むにつれてジュリア・ロバーツが綺麗になっていく姿に感動したそうだ。その後、高校2年生の時にアメリカに留学した。「ホームステイ先の家族と一緒に『アポロ13』を観たのですが、ロケットが無事に帰還したシーンで全員が涙を流していたんです。これは衝撃でした」。言葉が違っても、映画は世界中の人々に同じ感動を与えてくれることを身をもって体験したのだ。映画の持つ力強さに気付いたとき、武田さんは映画の仕事に就きたいと考えるようになった。 高校3年生の時に帰国し、青山学院大学へ入学した。「映画関係の仕事につきたい、そして英語を活かせる仕事がしたい」という留学当時からの気持ちを実現すべく、就職活動は映画関係の企業を探した。そして、知人の紹介でリベロにアルバイトとして入社することとなった。
「将来は、映画の買い付けがしたい」と武田さんは言う。そのためには、映画の世界を知らなければならない。「作品の買い付けをするにも、売り方を知らなければ何を買えばいいのか判断するのは難しいと思います。作品の売り方を身につける為にも宣伝の仕事を学びたいんです」。入社を決めるときに意識していたことを、この会社で学べるのがとてもうれしいと言う。 リベロは、カンヌで話題をまいた衝撃の韓国映画『魚と寝る女』、大槻ケンヂ原作の『STACY』と多彩なジャンルの作品を擁する。さらに、ジャッキー・チェンとクリス・タッカー出演の『ラッシュアワー2』も控えている。「今回は、香港を舞台にクリス・タッカーとジャッキー・チェンの凸凹コンビもパワーアップしています。共演にはジョン・ローンやチャン・ツィイーの豪華キャスト。文句なく楽しい作品ですよ」。自分の言葉で伝えようと努める武田さんは、笑顔で作品を紹介してくれた。 寝る暇もないほどの多忙な日々を過ごすなか、雑誌に作品の紹介記事が掲載されたりと、自分の努力が形になる喜びも知るようになってきたのが嬉しいという。「映画の買い付け」という夢を実現するために、彼女は今日も奮闘する。
『ラッシュアワー2』 2001年 アメリカ 監督:ブレット・ラトナー 出演:ジャッキー・チェン、クリス・タッカー、チャン・ツィイーほか 配給:ギャガ・ヒューマックス/松竹共同配給 今秋丸の内ルーブルほか全国松竹・東急系にて公開
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(谷古宇浩司)