地下鉄表参道駅から3分ほど歩いた住宅街に、知る人ぞ知る映画専門ショップ「CINECITY」がひっそりと佇んでいる。運営母体はプレノン・アッシュ。香港を中心とする中国語圏の作品、ハリウッド黄金期の知られざる傑作群の発掘から出発し、ウォン・カーウァイ作品---『恋する惑星』(95年公開)、『天使の涙』(96年公開)、『ブエノスアイレス』(97年公開)---で単館興業の年間1位を獲得した実力派映画配給会社である。
今回紹介する佐藤美鈴さんはそんなプレノン・アッシュの最も新しいスタッフだ。入社は去年(2000年)の10月。ホームページの人材募集ページを見て応募し、念願の映画会社に就職となった。
ところで、配給会社の面接では何を聞かれるのだろうか。かねてよりの疑問をぶつけてみた。すると、「最近観た映画の感想などを聞かれました。その後、プレノンアッシュが配給する作品の試写会に招かれまして、観た映画の感想や紹介など、どのようにこの作品を薦めるかという広報・宣伝の実地訓練みたいなことをさせられました」という答えが返ってきた。佐藤さん自身、配給の仕事がどういうものか、まったく知らなかったという。つまり事前準備は一切せず、ぶっつけ本番で面接にのぞんだことになる。佐藤さんは「運良く採用してもらいました」と謙遜気味に笑うが、適正はバッチリだったということなのだろう。
また、映画にかける情熱も採用の大きな原動力となった。学生時代の休日は映画を観ることがスケジュールの中心だったという。「映画が好きだったんです、やっぱり。他大学の文学部に映画の講義を聴きに通っていたこともあります。レポートはほとんど提出しませんでしたが・・・(笑)」。
獨協大学の外国語学部フランス語学科を卒業後、アルバイトをしながら映画関係の職を探していたという。映画への執念か、のんびりした性格のなせる業か。「死なない程度にはお金を稼いでいました」という彼女の言葉からは残念ながら真実はわからなかった。
仮に、映画への情熱が異常に激しかったとしてみよう。想いが先行した場合、実際の現場を体験すると、ギャップが生じるのはよくあることだ。就職する前とした後の職業に対する感じ方にギャップはあったのだろうか。「ありましたね~。入る前は、なんかこう、華やかなイメージがあったんです。確かに、そういう場面もあるんですが、基本的には、監督さんや俳優さんを立てるための裏方です(笑)」。確かにギャップはあったらしい。それでも、失望にはほど遠いようだ。そのことは、彼女の嬉々とした喋りから伝わってくる。
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