西川善司の Playstation2の魅力を探る
第1回:EEとGSってなんだ?
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西川善司
中学時代からコンピュータに親しみ、高校時代にはすでにライター業に手を染めていたが、大学院卒業後、日本の大企業に就職。筆者のプロフィールについては、筆者のホームページが非常に面白いので一度ご覧ください!
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ついに発売された新世代ゲーム機「Playstation2(以下PS2)」。これまでのゲーム機とは一線を画するアーキテクチャが採用されており、単なるゲーム機以上のポテンシャルを秘めている。
この短期集中連載ではPlaystation2の機能性、活用性を見ていくことにする。
まずは、PS2を構成するハードウェアで中核となるのがEmotionEngine(EE)とGraphicSynthesizer(GS)だ。EEとGSがPS2でどのような役割を果たしているかを見ていくことにしよう。
より詳しい、ハードウェア的なお話は本連載の最終回に行なうので、今回は概要について解説していく。
■ EmotionEngineの秘密
EmotionEngine(エモーションエンジン、以下EE)はPS2の頭脳でありながら心臓部にも相当する部分で、さまざまな演算を行うCPUとしての機能だけでなく、さまざまなコントローラやインターフェイスの機能を併せ持っている。
EEがこれまでのパソコンのCPUなどと決定的に違うのは、一般的な演算機能だけでなく、マルチメディア機能を非常に重視した設計が行なわれている点だ。
EEに含まれる機能ブロックのうち、それを最も感じさせてくれるのがIPU(Image Processing Unit)と呼ばれる部分。IPUの役割はずばりMPEG2のデコードだ。MPEG2とはDVDビデオの映像の圧縮フォーマットでIPUはこれのデコード(解読≒再生)を受け持つのだ。PS2のDVDビデオ再生機能はこのIPUがあるからこそ実現できたと言っていい。
IPUは非常に優秀で、単にDVDビデオを再生するだけではない。MPEG2で圧縮されたアニメーションにテクスチャマッピングするという、現在のパソコンのグラフィックシステムでは実現できていないことまで可能なのだ。
そしてEEの最もセンセーショナルな部分がベクトル演算器、VPUと呼ばれる部分だ。
EEには3Dグラフィックに特化された演算器が2基搭載されていて、並列に動かしたり直列に動かしたりすることができる。これはどういうことかというと、3Dグラフィックを実現する際の複雑な演算を非常に高速に行なうことができるということだ。下のグラフはEEとPentium系の演算性能を図示したもの(ソニーによる発表資料)。500MHzのPentium IIIを遙かに凌駕する性能を見せていることがわかる。
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Playstation2とPentium III 500MHzの浮動小数点演算性能を比較した表(ソニーが1999年3月にはじめてPlaystation2の記者発表会を開催した際の資料)。左がPentium III 500MHz、右がEmotionEngine 300MHz |
EmotionEngineとGraphicSynthesizerチップ |
(C)Sony Computer Entertainment Inc. |
(C)Sony Computer Entertainment Inc. |
PS2用ソフト「ダーククラウド」(2000年冬発売予定)。自動生成する3Dダンジョンでジオラマのパーツを集め、自分の街を育てていく |
PS2用ソフト「FANTAVISION」。3月9日発売、5800円。花火の粒子ひとつひとつがリアルタイムの物理計算によって描画される。EEの性能を使えば、こうした花火を同時に数百個まで表示できる。Playstationでは同時に表示できるのは2~3個程度というから、そのパワーの違いがよくわかる |
■ GraphicSynthesizerの秘密
GraphicSynthesizer(グラフィックシンセサイザ、以下GS)はパソコンで言うところのビデオカード(ビデオチップ)に相当する部分だ。
PS1のグラフィック機能からはだいぶパワーアップされており、ライバル機であるセガのドリームキャスト(DC)や、現在最も人気の高いパソコン用ビデオチップであるnVIDIA GeForce256などと同等の表現能力を持っている。
それでは実際に、GSにはどんな表現機能が備わっているのかを見ていくことにしよう(キーワードはほとんどパソコンの3Dグラフィックスでお馴染みのものばかりだが)。
・テクスチャマッピング(Texture Mapping)
ポリゴンに画像を張り付けて表現力を高める最も基本的な3Dグラフィック処理。
・バンプマッピング(Bump Mapping)
ポリゴンの表面に凹凸感の表現力を付加するテクスチャマッピングの発展形。鱗や石壁の表現などによく使われる。光源が動くと、その凹凸によってできる影もちゃんと動くので非常にリアリティ溢れる質感を表現できる。
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テクスチャマッピングの例
左:テクスチャのないオブジェクト
右:テクスチャを貼ったオブジェクト |
バンプマッピングの例
左:バンプなしのオブジェクト
右:バンプマッピングしたオブジェクト |
・フォギング(Fogging)
俗に「空気遠近法」と呼ばれ、遠くにあるオブジェクトほどかすれて見えにくくする表現方法。そのまま霧(フォグ)の表現としても使われるほか、遠くにあるオブジェクトの描画をごまかす目的でもよく使われる。
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フォギングの例
左:フォギングなしの画像
右:フォギング処理した画像 |
・α(アルファ)ブレンディング(Alpha Blending)
複数のテクスチャを任意の割合で合成あるいは重ね合わせてテクスチャマッピングする表現方法。映り込みなどを表現するいわゆる「環境マッピング」もこの機能を用いて行なわれることが多い。
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αブレンドの例
左:αブレンドなしの画像
右:αブレンド処理した画像 |
・バイ/トライ・リニアフィルタリング(Bi/Tri-Linearr Filtering)
張り付けの際に歪められたテクスチャをより自然に見せるための工夫。バイ(Bi=2)は縦横ニ次元方向に対し線形(リニア)補間処理を施す。トライ(Tri=3)は三次元的を意味し、具体的にはバイ式に加え、MIP-MAPで作られたテクスチャとも線形補間処理を行なう。
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バイ/トライ・リニアフィルタリングの例
左:バイ/トライ・リニアフィルタリングなしの画像
右:バイ/トライ・リニアフィルタリング処理した画像 |
・ミップマップ(MIP-MAP:Multum In Parvo Mapping)
ポリゴンに張り付けるテクスチャを、そのポリゴンの大きさに対して最適となるように自動補正する機能。テクスチャが小さいオブジェクトに張り付けられたときに自然に見えるようにするメリットと描画が高速化されるメリットがある。
・アンチエリアシング(Anti-Aliasing)
CG特有の格子状感を軽減させる機能。具体的には色と色の境目で、中間の色のピクセルなどを補間してスムースに見せる処理のことを指す。
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ミップマップの例
左:ミップマップなしの画像
右:ミップマップ処理した画像 |
アンチエリアシングの例
上:アンチエリアシングなし
下:アンチエリアシング処理した文字 |
・マルチパスレンダリング(Multi-Pass Rendering)
アルファブレンディングなどのような1つのポリゴンに対して複数のレンダリング処理を可能にする機構。PS2ではレンダリングした映像を再びテクスチャとして再利用する、などの高度な映像表現(相互映り込みなど)が可能になっている。
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マルチパスレンダリングの例
左上:マルチパスレンダリングなしで1枚のテクスチャが貼られた状態
右上:左のテクスチャに影のテクスチャが重ねられた状態
左:左が元の影のテクスチャ、右がその上に重ねられるスポットライト状の影のテクスチャ |
■ 次回予告
次回はPS2の、もうひとつの目玉機能であるDVD再生機能周りの話をする。今回は難しい話も多くなってしまったが、次回はだいぶ甘口になる予定。
◎関連URL
Playstation2のホームページ
http://www.scei.co.jp/ps2/index3.html
(西川善司)
(2000/3/14)
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