■ コイツを待ってたんだぜ!
モバイルに利用する通信インフラストラクチャにはいろいろなものがあるが、都市圏を中心に活動するユーザーにはPHSの人気が高い。特に、昨年秋に登場したDDIポケットのH"(エッジ)は、従来のPHSのイメージを大きく覆すパフォーマンスを見せている。昨年末あたりから筆者の回りでも人気上昇中で、なかには携帯電話から完全に切り替えてしまった人も居るほどだ。
H"には高速ハンドオーバーやPメールDXなどの機能が搭載されているが、モバイルユーザーにとって最大の魅力はPIAFS2.1対応の64kbpsデータ通信サービスだ。この64kbpsデータ通信サービスを1枚のPCカードで実現するのが今回紹介する「MC-P200」だ。実は、DDIポケットが64kbpsデータ通信サービスを開始して以来、筆者はこの端末の登場を待ち望んでいたのだ。
■ カード1枚で完結する美しさ
モバイル環境でノートPCやWindowsCEマシンを利用する場合、通信手段はいくつか考えられる。少し前ならISDN公衆電話もあったが、やはり手軽さを考えれば、携帯電話やPHSに勝るものはない。自分が普段持ち歩いている携帯電話やPHSを通信手段として利用できれば、端末も1台で済み、いつでもどこでも好きなときに通信ができるからだ。
しかし、携帯電話やPHSを利用するときには、通常、端末とPCを接続するためのデータ通信カードと接続ケーブルが必要になる。モバイル環境に慣れてくると、このデータ通信カードとケーブルの存在が邪魔になってくるのだ。通信を始めるたびに、カバンからデータ通信カードとケーブルを出し、PCに装着する。続いて、携帯電話やPHSの外部接続端子のキャップを取り外し、端末とケーブルを接続する。外部接続端子のキャップが取り外し式のものになっていたりしたら、そのキャップをなくさないように注意しなければならない。利用頻度にもよるが、頻繁に通信をするユーザーにとってはケーブルを接続するという行為が面倒に感じられるのだ。将来的にはBluetoothでケーブルレスに……という話になるのだろうが、現時点で手に入らないものをどうこう言う必要はない。
余談だが、モバイルユーザーをターゲットにする携帯電話やPHSは、外部接続端子のキャップを本体に固定されるタイプにすべきだと筆者は考えている。筆者の身の回りにある端末では、J-SH02(J-フォン)やC302H(IDO)、TS01(ツーカー)、N502i(NTTドコモ)、AJ-32(アステル)などが固定式だったのに対し、F502iやD502i(NTTドコモ)、PHS-J80(DDIポケット)などは相変わらず着脱式を採用していた。開発者はユーザーの利用環境をもっとよく分析して欲しいものだ。
話を戻そう。携帯電話やPHSにデータ通信カードを組み合わせる利用スタイルはモバイルの基本形だが、ケーブルの接続作業はやはり面倒だ。そこで注目したいのがデータ通信カード一体型端末だ。PCカードスロットに装着すれば、すぐに使うことができ、面倒なケーブル接続も必要ない。普段はPC本体に挿しっぱなしにしておくことも可能だ。カード1枚で完結する姿は美しさすら感じられる。
こうしたデータ通信カード一体型端末には、NTTドコモの「MobileCard P-in」「DoPaMAX」、DDIポケットの「MC-P100」「MC-P110/TD」「TL-DC101/TD」「KX-PHS420/TD」などが販売されている。ちょっと変わったところでは、NTTドコモ初の64kbpsデータ通信対応端末のパルディオ611Sなどもある。いずれもPCMCIA TypeIIスロット(パルディオ611SはCFインターフェイス)に装着するもので、Windows 98/95などの環境で動作する。Mac OSやPDAなどに対応した製品もいくつかある。
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MC-P200に付属のユーティリティ。ダイヤラーとしても利用したり、環境設定にも使える
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今回紹介する「MC-P200」はセイコーインスツルメンツの開発によるもので、従来のMC-P100をDDIポケットのPIAFS2.1/64kbpsデータ通信サービスに対応させたものだ。接続先を3カ所までに限定することで、月額基本使用料を980円に抑えられる「Two LINK DATA」に対応した「MC-P210/TD」も発売されている。今回はMC-P200を新規で契約し、1万3800円で購入した。PHSとして見れば若干高い気もするが、データ通信カードとPHSの値段の合計から考えれば、むしろ割安と言えるだろう。ちなみに、DDIポケットでは同一名義の複数の回線の月額基本使用料を割り引く「複数割引サービス」を提供している。DDIポケットの回線を複数契約している筆者が即座にこのサービスに申し込んだことは言うまでもない。
■ H"のようでH"ではない!?
DDIポケットのH"が好調であることは冒頭でも紹介したが、MC-P200はどういう位置付けになるのだろうか。MC-P200は64kbpsデータ通信サービスに対応しているが、実はH"のラインアップには含まれていない。
H"には大きく分けて、3つの条件がある。ひとつはベストエフォート型64kbpsデータ通信サービス。2つめは1つの電波をキャッチしながら、常に感度の良い電波を探し、接続が確認できた時点で高速に基地局を切り替えるツインウェーブ機能。3つめはDDIポケットのメール&コンテンツサービスのPメールDXだ。この3つの条件が満たされて、はじめてH"端末として扱われるのだが、実はMC-P200はこれらの内、64kbpsデータ通信サービスにしか対応していない。つまり、DDIポケットが定義するところのH"端末ではないというわけだ。
では、MC-P200がH"とまったく無関係かというと、そういうわけでもない。端末にはツインウェーブの機能は搭載されていないが、DDIポケットはH"を実現するために基地局の改良を積極的に行なってきている。そのため、利用可能なエリアは従来よりも確実に拡がり、基地局の性能も確実に向上している。この恩恵はMC-P200を利用するときにも受けられるわけだ。
また、PメールDXについては、端末のみでは利用できないものの、Windows 98/95が動作するPCにDDIポケットが配布している「H"向けアプリケーションソフト」をインストールすれば、PメールDXをPCの画面上で利用できるようになる。厳密には対応機種に含まれていないが、同アプリケーションを収録したフロッピーディスクがパッケージ内に同梱されており、無保証ながらも事実上の対応機種という扱いになっているようだ。
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正式な対応機種ではないが、H"向けアプリケーションも問題なく動作する
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PメールDXの情報サービスにアクセス。VAIO C1-XEだと、ご覧のように画面下が切れてしまう。これって直りません?
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これらのことからもわかるように、MC-P200はH"に対して、非常に微妙な位置付けにある。実際の利用する上では使えるかどうかが重要なのだが(笑)、「H"端末ではないが、H"端末並みに快適に使える」というのが現時点での位置付けになるだろう。
■ ライバルとの比較
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データ通信カード一体型PHSの2機種。どちらもモバイルユーザーにはうれしいアイテム
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MC-P200の直接のライバルとなるのは、MobileCard P-inだ。方式の違いこそあれ、共にPHSで64kbpsデータ通信サービスに対応し、PCMCIA TypeIIスロットに装着して利用する。筆者もこの製品を発売以来、愛用してきたが、筆者の回りではPC Watchの連載でおなじみの一ヶ谷兼乃氏がJornada690に使っているくらいで、あまり利用者は多くない。しかし、MobileCard P-inはNECのワイヤレス対応ターミナルアダプタのAtermIW50に子機として収容でき、家庭内で64kbpsワイヤレス通信ができることもあり、それを狙って購入するユーザーも多いという。ちなみに、接続テストはしていないが、MC-P200も自営標準3版に準拠しており、AtermIW50に子機収容できる可能性がある。
外見はどちらもPCMCIA TypeIIのカードにアンテナ部分がはみ出した構造になっている。MobileCard P-inは可動式アンテナを内蔵しているのに対し、MC-P200は突起部分にアンテナを内蔵する構造だ。イヤホン端子も共に備えているが、MbileCard P-inは付属ケーブルを利用することにより、PDCデジタル携帯電話のデータ通信カードとしても利用できる。このあたりは携帯電話とPHSの両方をサービスしているNTTドコモの強みだろう。
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MC-P200をVAIO C1-XEに装着。突出部分は約25mm |
MobileCard P-inをVAIO C1-XEに装着。突出部分は約30mm |
次に、通信機能だが、MobileCard P-inはPIAFS2.0、MC-P200はPIAFS2.1対応だ。対応プロバイダはPIAFS2.0の方が圧倒的に多いが、PIAFS2.1対応も3月頃から増えてきそうな気配だ。国内のプロバイダに数多く採用されているインターネットワーキングシステム(旧アセンドコミュニケーションズ)のアクセスサーバのMAXシリーズのPIAFS2.1対応ファームウェアがほぼ完成し、間もなく配布が始まると言われているためだ。実際には評価期間などもあるため、4月以降になる可能性もあるが、PTE経由での接続が無料となる今年5月末までには何とか状況を改善できそうだ。
現時点での対応アクセスポイントは少ないものの、実際の運用ではベストエフォート型のPIAFS2.1の方が有利なケースも考えられる。たとえば、PIAFS2.0では発信時に無線チャンネルに空きがあれば、64kbpsで接続できるが、空きがないとリダイヤルし、32kbpsで接続する。いったん接続してしまうと、回線を切断しない限り通信速度は変わらないが、ユーザーが64kbpsで通信しながら移動中、基地局のハンドオーバーが発生したとき、次の基地局に空きチャンネルが2本ないと切れてしまうというリスクも持ち合わせる。
これに対し、PIAFS2.1は無線チャンネルの空きに応じて、回線を切断することなく、64/32kbpsを切り替えられるため、通信中の移動時に回線が切れてしまうリスクは低くなる。もちろん、移動中の次の基地局にまったく空きがないと、両方式とも切れてしまう点は同じだが、無線チャンネルに空きがあれば、通信を継続できるというPIAFS2.1のメリットは見逃せない。
一方、料金体系だが、NTTドコモではMobileCard P-inを強く意識した料金プランとして「パルディオデータプラス」を提供している。月額1980円の基本使用料に、1000円分の無料通信料金が含まれ、1000円を超える通信は標準的なプラン270と同額というものだ(1000円を超える音声通話はプラン270の3倍!)。これに対し、DDIポケットはデータ通信を意識した料金プランを提供していない。
動作環境についてはどうだろうか。MobileCard P-inはWindows 98/95が動作するパソコンを対応機種としているのに対し、MC-P200はWindows 98/95/NT 4.0/CE 2.0、Mac OS 8.1/8.5/8.6、各種PDAと、かなり広範囲をサポートしている。もちろん、MobileCard P-inはWindows CEでも動作する(筆者所有のJornada690などで確認した範囲だが)のだが、MC-P200は開発元のセイコーインスツルメンツが従来モデルから積極的に動作確認情報を同社のWebページで公開していたという実績もある。ユーザーとしては非常に心強い限りだ。
エリアについては一概に比較できないが、NTTドコモの64kbpsデータ通信サービスは全国の都道府県所在地などの都市圏を中心にエリアを展開しているのに対し、DDIポケットの64kbpsデータ通信サービスは昨年夏のサービス開始時にほぼ全基地局が対応したため、DDIポケットのエリア内であれば、基本的にはどこでも64kbpsデータ通信サービスが利用できるという違いがある。都市圏以外にも移動するモバイルユーザーにとって、これは大きなアドバンテージと言えるだろう。
最後に、販売価格を見てみよう。MobileCard P-inの新規契約時の購入価格は、発売から半年近くが経過したこともあり、都内のドコモショップでも3000~4000円という低価格を設定しているところが多い。新宿西口の家電量販店では2000円を切る価格を設定しているところもある。MC-P200は発売直後のため、1万円を超えているところが多いが、MobileCard P-inも発売当初は2万円弱だったことを考慮すれば、まずまずと言えそうだ。
■ データ通信向け料金プランを期待したい
面倒なケーブル接続のいらないデータ通信カード一体型端末「MC-P200」は、モバイルのお供に最適のアイテムだ。特に、ノートPCやWindowsCEマシンのユーザーで、頻繁にメールチェックやWebページ閲覧をする人にはおすすめのアイテムだ。PCカードスロットに挿しっぱなしにしておき、PCを起動すれば、すぐに使える環境は非常に快適だ。
また、接続先を限定できるのであれば、Two LINK DATA対応のMC-P210/TDを選ぶのも手だ。接続先は自分の契約するプロバイダがPIAFS2.1に対応していれば、そこを指定するわけだが、未対応であれば、完全従量制のDIONモバイルパックを契約するのもいいだろう。あるいはDDIポケットが提供するポケットMALへの対応状況も要チェックだ。
欲を言えば、DDIポケットにはNTTドコモのパルディオデータプラスに相当するような料金プランの提供をお願いしたい。今年1月末にはデータ通信料金の値下げも発表されたが、MC-P200のもう一歩踏み込んだサービスの展開を期待したい。
◎関連URL
■ MC-P200製品情報(DDIポケット)
http://www.ddipocket.co.jp/syohin/i_mc-p200.html
■ MC-P200製品情報(セイコーインスツルメンツ)
http://www.sii.co.jp/js/mc-home/mcp200/mcp200.htm
■ PIAFS2.1対応プロバイダ(DDIポケット)
http://www.ddipocket.co.jp/data/i_64k_pro.html
■ DIONモバイルパック
http://www.dion.ne.jp/dialup/service/mobile/mobile.html
(法林岳之)
2000/02/15
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