■携帯電話・PHSの方向性
J-フォン端末 J-SH01 |
11月2日~5日まで開催されたCOM JAPAN 1999。4日間で16万6695人(主催者発表)が来場するという盛況の内に閉幕した。先週の「非同期通信レポートmobile」などでもお伝えした通り、COM JAPANは、通信関連では最も重要なイベントのひとつだ。ここで展示されたものが翌年のヒット商品に成長したり、業界動向を方向づける意味合いもあるからだ。では、今回のCOM JAPAN 1999で、どんな方向性が見えてきたのだろうか。携帯電話やPHSを中心に話を進めてみよう。
まず、明確になってきたのは、携帯電話のEメールサービスや情報サービスが主力サービスとして重要視されてきたという点だ。Eメールサービスについては、すでに全事業者がサービスを提供し、おそらく多くの読者も利用しているだろう。情報サービスもiモードが200万契約を超えるなど、順調な伸びを示している。今回のCOM JAPAN 1999で、J-フォンがサービスの大幅な強化を発表し、セルラーがcdmaOneだけでなく、自社及び傘下のツーカーのPDCデジタル携帯電話でもWAPサービスを展開することをアピールしたことにより、ますます各社の競争が激化しそうな気配だ。
たとえば、Eメールサービスで使うことができるメールアドレスは、「電話番号@ドメイン名」が主流だったが、NTTドコモのiモードやJ-フォンのスカイウォーカーなどで「任意の文字列@ドメイン名」を選べるようになり、今やこのスタイルが主流になりつつある。送受信できる文字数も1000文字以上をサポートするサービスが続々と増えている。おそらく今後は単純にメールを送受信できるだけでなく、転送や着信通知、添付メールの処理などを含めた使い勝手の面での争いが激しくなるだろう。
一方の情報サービスだが、これはもうコンテンツ次第だ。利用者にとって、いかに魅力的なコンテンツ、役立つコンテンツを提供できるかがポイントになってくる。ニュースや天気予報、プロ野球速報、占いといったありきたりのものだけでなく、特定の利用者のニーズに応えられるコンテンツをどれだけ揃えられるかが勝負だ。たとえば、11月4日にセルラー/IDOがニュースリリースで紹介した損害保険会社代理店向け保険料計算システム『EZそんぽくん』(開発元:(株)エスティーエス)などもそのひとつ。これは業務用コンテンツだが、こうしたものも含めたトータルなコンテンツの魅力がその情報サービスの利用者増につながるはずだ。ちなみに、筆者が最近、気に入っているのはパソコンの価格情報を伝える「kakaku.com」のiモード版だ。特定製品の最安値店などを知ることができるのだが、毎週、秋葉原を徘徊するような人だけでなく、相場を知りたい人にも便利なサービスだ。
Eメールサービスと情報サービスの競争が激しくなるということは、端末のスタイルも変わることになる。たとえば、NTTドコモのiモードは二世代目となる502iシリーズでカラー液晶を搭載する機種が登場し、J-フォンが12月上旬に発売するJ-SH02もカラー液晶を採用している。当然、これらはカラーのコンテンツが登場することを指し示しているわけだが、次世代携帯電話のIMT-2000でカラーテレビ電話をやろうというのなら、自然の流れだ。現段階のカラー液晶搭載モデルでしっかりとノウハウを蓄積しておけば、次世代でも技術的に優位に立てるというわけだ。
カラー液晶搭載携帯電話が登場したからと言って、モノクロ液晶搭載携帯電話が完成形に近づいているかというと、そうでもない。ここ1年、フォントの改良や大画面化、バックライトのバリエーション追加など、さまざまな改良が加えられてきたが、今後もメールや情報サービスを見やすくするための改良が加えられることになりそうだ。たとえば、入力方式もそのひとつだ。先日、富士通が携帯電話などにも適した新しい入力方式を発表したのが記憶に新しいところだが、Eメールサービスや情報サービスの利用頻度を上げるためには、こうした面での工夫も必要になるだろう。
こうした一連のトレンドを眺めてみると、ちょっと不自然に見えるのがNTTドコモの208シリーズだ。先週、パケット通信をサポートしたことで208シリーズもモバイルユーザーに適した端末になったという話を紹介したが、よく考えてみると、せっかくパケット通信をサポートしているのだから、iモードと同じようにEメールの送受信を搭載しても良さそうなものだ。従来のNTTドコモの製品展開から見ても、「Eメールをしたければ、iモードへどうぞ」とは、とても言いそうにない。20xシリーズでもEメールを送受信するための機能が追加される可能性は十分あるのではないだろうか。あくまでも筆者の個人的な予測に過ぎないが、意外に早い時期にEメール送受信機能を搭載した新製品が出てくることを意味しているのかもしれない。
■各社の新お手軽携帯情報端末は売れるか?
携帯電話・PHSと並び、今回のCOM JAPAN 1999で話題になったのがいわゆる「お手軽携帯情報端末」だ。従来は、NTTドコモのポケットボードに始まる一連のモバイル製品ラインアップ、シャープのコミュニケーションパルなどしか存在しなかったが、ツーカー、J-フォン、DDIポケット(Panasonic)から相次いで製品が登場し、NTTドコモからもさらに「エクシーレ」「ポケットモペラ」といった新製品が出品されていた。お手軽携帯情報端末の二回戦開幕といった様相だ。
ところで、よく「ケータイでメールできるんだから、そんなのいらないんじゃないの?」という解釈を耳にするが、携帯電話・PHS単体でやり取りするメールと、こうしたお手軽携帯情報端末でやり取りするメールは、ユーザー層も目的もスタイルもまったく異なる。携帯電話・PHSのEメールサービスが進化したとしても、当分、お手軽携帯情報端末の人気が失われることはないだろう。
さて、今回出品された製品は、いずれもディスプレイはモノクロ液晶、入力はキーボード、自社及び同一グループ内のプロバイダサービスとの連携、実売2万円以下の価格設定と、まるで初代ポケットボード(現在のポケットボード ピュア)をお手本にしたような構成だが、それぞれに独自の特徴を持ち合わせている。ツーカーの「Cara」は無料で利用できるプロバイダ「Internet FreeWay」を提供、J-フォンはメロディ付きメールの送受信機能などを搭載、Panasonicの「Pocket・E」はデジタルカメラを本体に内蔵、「エクシーレ」はパケット通信の電話機を一体化、「ポケットモペラ」は208シリーズのパケット通信をサポートといった具合いだ。初心者にとっては、おそらくどれもが魅力的な機能に映るだろう。余談だが、NTTドコモからお手軽携帯情報端末2つもが登場したのは、取り扱う部署(ビジネス部のこと。一般の会社で言えば、事業部に相当するとも言える)が異なることに起因するようだ。
ただ、これらの製品群がポケットボードやコミュニケーションパルに匹敵するヒット商品になるかというと、「?」を付けざるを得ない。確かに、プロバイダが無料なのはうれしいし、メールにメロディが添付できれば楽しい(どこかのドラマみたい?)。デジタルカメラで撮影した画像をメールで送信する面白さはソニーのVAIO C1でも実証済みだし、パケット通信の切れにくい通信環境も魅力的だ。しかし、市場がポケットボードやコミュニケーションパルによって掘り起こされた後であることを考慮すると、もうひとつインパクトに欠けるような気がするのだ。
初代ポケットボードは女性ユーザーのメールに対するニーズを的確に捉え、新しい市場を掘り起こすことに成功した。初代コミュニケーションパルは、ポケットボードを使えない他事業者の携帯電話ユーザー、ホームページを見たいというユーザーに支持された。ポケットボードプラスは「ポケボーじゃ、かわいすぎて持てないよ」「プロバイダのメールの送受信ができないと……」というビジネスマンのニーズに応えた。これに相当するようなヒットのトリガーも今回の新製品には見当たらないような気もするのだが……。
とは書いてみたが、2年前にポケットボードの試作品を見て、「こんなの誰も買わないよ」と言ってしまった人が多かったのも事実。かく言う筆者も肯定的には見ていなかった(1997年COM JAPAN Telecomレポート参照)。今後、お手軽携帯情報端末がどのように受け入れられ、進化をしていくのかをじっくりと見てみたい。
◎関連URL
■[COM JAPAN 1999]この冬注目のケータイ
http://www.watch.impress.co.jp/mobile/news/1999/11/02/phone.htm
■[COM JAPAN 1999]メール端末が勢ぞろい
http://www.watch.impress.co.jp/mobile/news/1999/11/02/mail.htm
■法林岳之の非同期通信レポートMobile
http://www.watch.impress.co.jp/mobile/column/hidouki/1999/11/04/...
(法林岳之)
1999/11/02
|