■ Windows CEの概念を覆す発想
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モバイルギアII MC/R430
標準価格89,800円。11月16日発売。上位機種としてモデム内蔵で“MGダイヤル”装備のMC/R530が、廉価モデルとして白黒液晶のMC/R330が用意されている |
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読者のみなさんはWindows CEと聞いて、どんなマシンや用途、利用シーンを思い浮かべるだろうか。広野忠敏氏の「Windows CE通信」でも紹介されているように、本来、Windows CEマシンはWindows 98/95/NT4.0などが動作するPCと連携し、PC上で作成したデータを外出先などで利用できるということをセールスポイントにしている。しかし、CPUパワーやストレージ領域(メインメモリ)などに制限があり、モバイルユーザーに限ったとしてもまだ十分普及しているとは言えないのが実状だ。もちろん、企業には特定業務向けにカスタマイズした製品などが納められているが、少なくともコンシューマ向けには今ひとつヒットしていない……というのが業界内の見方だった。
しかし、その分析はここに来て、根底からひっくり返されてしまった。実は、ここ半年ほどの間、意外にもWindows CEマシンは好調な売れ行きを示している。売れ筋のA4サイズのオールインワンノートPCとは比較にならないが、単一機種の月間販売台数ではB5サブノートやミニノートと変わらないほどの売り上げを記録している製品もある。このWindows CEマシンの好調の要因となっているのが女性ユーザーの存在だ。
女性と言えば、ポケットボードやコミュニケーションパルといったお手軽携帯情報端末が人気を集めているが、これとほぼ同じ理由、もしくはお手軽携帯情報端末のワンランク上の商品として、ペルソナやモバイルギアII、テリオスといったWindows CEマシンが購入されているようだ。
彼女たちの多くがWindows CEマシンに求めているのは、メールやインターネットなどの機能で、Windows CEが本来持つ『PCと連携して使う』という部分はほとんど考慮されていない。多くのユーザーはスタンドアローンの状態でWindows CEマシンを利用しており、マイクロソフトが描いていたWindows CEマシンの利用スタイルとかけ離れたものになっている。先週、発表された日立『ペルソナ HWPW-50PA』、NEC『モバイルギアII MC/R430』は、こうしたユーザー層をターゲットとした開発されたものだ。
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ペルソナ50PA/50PAD
オープンプライス、11月12日発売。予想小売価格は9万円前後の見込み。はなまるメニューを用意するなど、CE機であることを忘れてしまいそうなほど徹底した女性ユーザー向けの製品作りがなされている |
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日立は従来モデルのHPW-30PAでいち早くWindows CE版のポストペットを標準搭載し、ヒットの起爆剤としたが、今回は日立が独自に開発した機能として『記念写真撮影機能』(要するに画面キャプチャ機能)も搭載し、後発モデルとの差別化を狙っている。ちなみに、従来モデルのアンケート調査によれば、HPW-30PAを購入したユーザーの内、60%近くが女性であり、約90%近くがポストペットを購入理由に挙げているという。
アプリケーションが登録された独自のメニューソフト「はなまるメニュー」を用意したことも注目に値する。Windows CEは本来、Windows 98/95/NT4.0とほぼ同じユーザーインターフェイスを持つことがセールスポイントのひとつだが、ゲームのメニュー画面にも似たメニューソフトを搭載することにより、初心者にも使いやすい環境を提供している。
しかも、はなまるメニューに登録されているアプリケーションソフトはすべてROM化されているため、購入した直後から使うことができる。Windows CEマシンではWindows CEサービスが動作するPCからアプリケーションをインストールするのが一般的だが、その作業すら必要ないのだ。登録されているアプリケーションもポストペットをはじめ、4種類の占いソフト、「ぷよぷよ for CE2」などのゲーム、100以上の無料メールマガジンへのリンクなど、娯楽性の高いものが多い。HPW-600JCなどにも提供されていた「マンスリースケジュール」には、イベントごとにアイコンシールを貼れる機能を追加するなど、女性ユーザーを強く意識したアレンジもなされている。
さらに、ボディカラーもクリアオレンジとクリアブルーの2種類がラインアップされている。このカラーリングは「CLEAR TEXTURE」と呼ばれる仕上げによるもので、テクスチャ処理をしたベース部分にクリア(オレンジとブルー)のカバーを掛けたような構造になっている。ちなみに、開発時にはスケルトンなども検討したが、ユーザー調査での評価が芳しくなく、このデザインを中心に開発が進められたそうだ。
一方、NECのモバイルギアII MC/R430は、従来モデルのMC-R520をベースにしながら、若年層や女性ユーザー向けのリファインを図っている。MC/R430もペルソナ同様、Windows CE版ポストペット、ATOK Pocketを標準で搭載し、ボディカラーもクリアホワイトを採用している。ROM化されたアプリケーションソフトはやや少ないが、インターネット接続のための設定ソフトを標準で提供するなどの工夫も見られる。ちなみに、通信機能は携帯電話(PDC/DoPa)に加え、cdmaOneをサポートし、PHSもNTTドコモの64Kデータ通信サービスに対応するなどの改良を図っている。ただし、アナログ回線用のモデムは内蔵されていない。
■なぜWindows CEマシンが選ばれるのか
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ペルソナ50PA/50PADの『はなまるメニュー』
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ところで、これらのWindows CEマシンを女性ユーザーは、どのような判断基準で選んでいるのだろうか。
まず、ヒットのトリガーになっているのがポストペットであることは、誰の目にも明らかだろう。Windows CEマシンが最も手軽にポストペットが楽しめる『お手軽ポストペット端末』として評価されたということだ。もちろん、電源ONですぐに起動するというアドバンテージも大きい。価格面のメリットもある。20万円台半ばのA4サイズのオールインワンノートPCより、20万円前後のミニノート/サブノートPCより、7~9万円以下で購入できるWindows CEマシンという選択だ。それぞれの製品には「できること」に大きな差があるが、ポストペットやインターネットメール、Webページ閲覧などに的を絞れば、初心者はWindows CEマシンでも不足に感じることはないだろう。
通信回線については、メーカー側の調査によれば、およそ6:4~7:3程度の比率で、携帯電話の利用率が高いそうだ。親と同居する環境の人も、自宅に帰ってから携帯電話でメールの送受信などをしているようだ。本体の携行については、重量が約800gもあるため、さすがに常時とはいかないようだが、週に数回、会議や打ち合わせがあるとき、友だちと会うとき、他の荷物が少ないとき、出張や旅行のときなどに持ち歩いているのではないかと見ている。
しかし、注目すべきはこれらの製品が選ばれる基準には、ハードウェアのスペックがほとんど含まれていないということだ。CPUのクロック周波数もなければ、メモリ搭載量も関係なく、OSが何なのかも知る由もない。要するに、その製品を自分が購入することで、何ができるか、何が得られるかが判断のポイントになっているわけだ。考えてみれば、ごく当たり前のことだが、最近、PCの高速化・高性能化にばかり目を奪われているユーザーやマスコミは少し忘れ掛かっていた感覚なのかもしれない。
とまあ、そんな難しい話や分析はともかく、Windows CEマシンが使いやすくなってきていることは事実だ。もし、自分の彼女や奥さんが「私もインターネットしてみたい」と言っているのであれば、ペルソナやモバイルギアIIをプレゼントするのもいいアイデアだ。もしかすると、プラダのバッグよりも効き目があるかもしれない……。
◎関連URL
■ペルソナ HPW-50PA 製品情報
http://www.hitachi.co.jp/Prod/persona/seihin/hpw50pa.htm
■モバイルギア製品情報
http://www.nec.co.jp/mg/
(法林岳之)
1999/10/26
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