■ 家庭内モバイルを実現するワイヤレス通信カード
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AtermRC25 |
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AtermWM56 |
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モバイルコンピューティングというと、すぐに外出先、出張先などでの利用を考えてしまうが、モバイルと呼べる利用形態は必ずしもそれがすべてではない。
たとえば、家庭内での利用を考えてみよう。ノートPCや携帯情報端末でインターネットに接続するには、必ず何らかの形で回線に接続しなければならない。PCに大枚を注ぎ込める環境なら、無線LANとルータといった組み合わせも考えられるが、正直なところ、一般家庭にとって10万円近い出費はまだまだ高い。結局、電話機の側からモジュラージャックを引き回したり、ISDNの配線に悩みながら利用するといったことになっていないだろうか。つまり、外出先では自由にモバイル環境が実現できているのに、家庭内は非常に不自由なモバイル環境しか実現できていないわけだ。
NECは10月7日、こうした家庭内モバイルのニーズに応えることができるワイヤレス通信カード『AtermRC25』を発売した。同社が以前から販売していたAtermIWシリーズや同時に発表されたワイヤレスモデムステーション『AtermWM56』と組み合わせ、家庭内のいろいろな場所からワイヤレス通信を可能にしようというものだ。ワイヤレス部分は自営標準3版に準拠しており、通信速度は64/32kbpsに対応する。8月に松下電器産業から「Let's note CF-A1R」が発売されたが、あの製品のワイヤレス通信部分を抜きだし、PCカードにまとめたものと考えればわかりやすいだろう。
また、AtermRC25は家庭内でワイヤレス通信カードとして利用できるだけでなく、屋外ではPHSと接続するデータ通信カードとしても利用可能だ。「PHS相当の機能が入っているのなら、PHS番号が投入できる端末として売ればいいのでは?」という考えもあるが、PHSとして売るとなると、購入時の手続きが面倒になる上、インセンティブ(※)なども絡んでくるため、これを避けたということだろう。ちなみに、接続できる端末は、NTTドコモの64K/32Kパルディオシリーズ及びドッチーモ、アステルの32kbpsデータ通信対応端末となっている。携帯電話が接続できないのは少々残念だが、高速データ通信を期待するモバイルユーザーの多くがPHSを所有していることを考慮すれば、現時点ではこれだけでも十分だろう。
一方、PCの方だが、AtermRC25はWindows98/95が動作するノートPC(PCMCIA TypeIIスロットを持つ機種)に加え、同社のWindowsCEマシンのモバイルギアII(MC-R700/520/320)も含まれている。WindowsCEマシンについてはいずれ別の機会に紹介するが、ここのところ、WindowsCEマシンは好調な売れ行きを示しており、こうしたマシンでもワイヤレス通信が利用できるのは非常に便利だ。
※編集部注:回線契約に対して事業者から代理店・販売店に対して支払われる報奨金
■ 家庭内での64kbpsワイヤレス通信
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MobileCard P-inをAtermIW50/Dに子機登録すると、付属のダイヤラーソフトのアンテナ表示も『OS1』に切り替わる。切り替えは環境設定の画面で行なう |
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NECでは今回の製品発表と前後して、同社のワイヤレス対応ISDN TA『AtermIW50/D』のファームウェアをバージョンアップしている。今回のバージョンアップではパルディオ611Sをはじめとする64kbps対応PHS(NTTドコモのみ)との接続を改善している。登録そのものは従来バージョンでもできたのだが、肝心の64kbps通信ができず、残念に感じていたユーザーも多いはずだ。
今回発表されたAtermRC25もAtermIW50/Dの子機として登録(収容)することが可能だが、新ファームウェアの効果を確認するため、同じPCカード型端末であるNTTドコモのMobileCard P-inをAtermIW50/Dに登録し、テストをしてみた。ちなみに、本来、登録作業は販売店やNECのサービスステーションなどで行なわなければならない。特に、MobileCard P-inのように、ダイヤルボタンがない端末は、ATコマンドでの作業が必須となるが、その方法については「Kansai PHS Janker's Page」(つかなな氏によるPHS関連情報ページ)で公開されている。ただし、ユーザー自身による登録作業などについて、NECやNTTドコモ、つかなな氏、編集部、筆者に問い合わせることはご遠慮いただきたい。ちなみに、動作確認については、NECがAtermIW50/DにMobileCard P-inを登録できることをAterm Stationで公開している。
まず、登録作業はAtermIW50/D側を登録待機状態に設定し、続いてWindows95/98のハイパーターミナルなどでMobileCard P-inに必要なATコマンドを入力し、リターンキーを押す。「OK」が返ってくれば、登録完了だ。ノートPCのPCカードスロットに挿し、MobileCard P-inのユーティリティから事業所コードレスモード(OSモード)に切り替えて、発信ができれば、無事に登録できていることになる。ちなみに、公衆モードとOSモードの切替は、このユーティリティか、ATコマンドを利用するしか手がない。あとは、ユーザーのニーズに応じて、AtermIW50/D側でワイヤレス通信時のプロトコル設定を「PIAFSスルーモード」「プロトコル変換モード」のどちらかに設定するだけだ。筆者はノートPC側の設定を変更したくないので、PIAFSスルーモードに設定している。
実際の接続は、モバイル環境時の設定をそのまま活かすのであれば、特に大きな変更点はない。当初はきちんとISDN回線経由で発信しているかどうかを確認するために、発信時にAtermIW50/Dの近くでLEDの点滅を確認した方がいいだろう。この動作が確認できれば、あとは家中、電波の届く範囲なら、どこからでも家庭内ワイヤレスネットサーフィンが楽しめるようになる。今回はWindows98が動作するノートPC(東芝 DynabookSS 3010及びソニー PCG-887)、WindowsCEマシン(日立 PERSONA HPW-600JC及びHP Jornada680)などで試したが、快調に家庭内モバイルを楽しむことができた。パフォーマンステストは行なっていないが、体感レベルでは屋外での64kbpsワイヤレス通信との差は感じられなかった。ただし、WindowsCE環境については、一部、無線チャンネルを確保したまま、無反応になることがあった点も書き加えておく。元々、MobileCard P-inはWindowsCE環境での動作を保証していないので、仕方ないが、WindowsCEマシンと組み合わせて利用するときは注意が必要だ。無反応になったときは、AtermIW50/D側の電源を再投入すれば、問題は解消する。
今回はISDN TAのAtermIW50/Dで試したが、NECからはアナログ回線向けのAtermWM56も発表されており、同様の使い方ができるはずだ。こうしたワイヤレス製品の充実により、居間や屋内配線引き込み口の近くでしか楽しめなかったネットサーフィンも、書斎や寝室、子ども部屋など、自由な場所で楽しめるようになるはずだ。屋外のモバイルだけでなく、家庭内でモバイルを始めることも検討してみてはどうだろうか。
◎関連URL
■AtermRC25製品情報(NEC)
http://aterm.cplaza.ne.jp/product/wireless/rc25.htm
■MobileCard P-in(NTTドコモ)
http://www.nttdocomo.co.jp/products/phs/lineup/p-in/
■Kansai PHS Janker's Page(つかなな氏)
http://www.mahoroba.or.jp/~tukanana/phsindex.htm
(法林岳之)
1999/10/12
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