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Palm専用音響カプラ―?「PocketMail BackFlip」

かづひ
KADUHI
趣味で「パチもん」ばかり発明しているシリコンバレー在住のエンジニア。HP 200LX日本語化やPalm用キーボードThumbTypeなど、時にはまともなものも。過去の発明品はこちら(の第5回)をご覧ください。




■ 確定申告シーズン到来

 年が明けて一段落した今の季節、ここシリコンバレーでは毎年恒例「確定申告」シーズンの到来である。この時期になると、「Turbo Tax」や「TaxCut」「TaxSaver」などの「確定申告用」ソフトウェアが、パソコンショップはもとより、デパートや電器屋、そしてオフィス文房具店などのあらゆるお店に山積みされるようになる(写真)。

 日本では、個人事業者やよほどの年収の人、転職をしたり家を売買した人以外はあまり縁の無い確定申告であるが、こちらアメリカでは、収入のある人は全員、そう、例え0歳の赤ん坊であっても、もし収入があれば必ず確定申告を行なう必要がある。「0歳の赤ん坊に収入? ばかいっちゃいかんよ」と思われるかもしれないが、、毎日64人ずつミリオネラー(億万長者ですね)が生まれるここシリコンバレーでは、私の知り合いのように、税金対策のために4歳の娘に毎年、普通の人の年収をはるかに上回る金額を「遺産相続」させている人もいる。当然この4歳の娘も、毎年確定申告をしているのである。

確定申告ソフト 確定申告ソフト
この時期になると店頭に山積みされる確定申告ソフト



■ 究極の使い捨てソフト

 ある意味、ソフトウェア会社にとってこの「確定申告用」ソフトウェアは、なかなかおいしい商売ではないだろうか。というのもこのソフト、毎年毎年買い換えないといけないわりには、実際の使用時間が1年間にたったの15分という、それはもう究極の「使い捨て」ソフトウェアだからである。さらには、同じ会社のソフトであれば、前年度のデータを自動的に引き継いでくれるため、名前や住所などの決まったデータを何度も入力する必要がないという便利さがあり、ついつい去年と同じ銘柄のソフトを買ってしまうのである。

 おまけにこのソフト、なんと「国税用」と「州税用」の2パッケージに分かれていて、普通の人であれば両方まとめて買っていくので、それだけでも2倍の売上となってしまう。しかし、よくできたもので、本連載でも以前紹介したように「いま国税用ソフトと州税用のソフトをいっしょに買うと、もれなく州税用ソフトの料金を後から払い戻します」という「Mail-in-Rebate」クーポンが付いてきたりするので、2本買っても結局1本分の値段で済んだりしてりまう。

 日本でも、もっとSOHOだか何だかがハヤリにハヤって、何千万人もの人達が毎年確定申告するようになれば、このような「確定申告ソフトウェア」市場というのもまた生まれてくるのではないであろうか。

 ちなみに確定申告の締め切りは、毎年4月15日(今年は土曜日なので17日)の消印まで有効なのであるが、期限ギリギリにならないとやらない人というのはどこの国にもたくさんいるようで、このような人のために、この日はなんと夜中の12時まで郵便局が開いていて、確定申告の受け付けをしてくれるのである。しかし最近では、わざわざ郵送しなくとも、これら「確定申告」ソフトとモデムを使って「電子的に」申告することが可能となった。



■ 日本の消費税との違い

 税金の話で思い出したのだが、ここシリコンバレーでの「消費税」に関する面白い話がある。ご存じの通り、アメリカは州ごとに法律や州税まで違うのであるが、消費税のパーセンテージに関して言うと、もっと小さな「カウンティー」という単位で決められている。例えばここシリコンバレーは、「サンフランシスコ」「サンマテオ」「サンタクララ」「アラメダ」の4つのカウンティーにまたがっている。そしてその内容も日本と比べるとなかなか変わっていて面白い。税率だけを見ると、私が住む「サンタクララカウンティー」の場合、8.25%と日本よりかなり高めであるが、これが即実際の消費税額に結びつかないのである。

 日本のスーパーで買い物をすると、買った品物の値段の小計に5%を足した合計が、実際に支払う金額となる。日本ではこれがごく当たり前だが、この「常識」はこちらでは通用しない。

 私が近くのスーパーで買い物をしたとしよう。「牛乳」0.5ガロン(1.89リットル)と卵1ダースを買った場合、なんと消費税は「ゼロ」。では同じ店で「シャンプー」と「リンス」を買った場合どうなるかというと、これにはちゃんと8.25%の消費税がかかるのである。

 日本の考え方ではおそらく「全ての品物に一律5パーセントの消費税をかけることがすなわち公平である」ということなのだろうが、こちらでは「食品などの生活必需品に関しては消費税はゼロにして、そのぶん他の物から取る」という考え方こそが公平なのである。ちなみに先ほど計算したところ、先月1カ月間に近所のスーパーで買い物をした支払い額のうち、税金はわずか1.2%にすぎなかった。私の場合、スーパーで買う物といえばほとんどが食品類なので、当然といえば当然の結果なのであるが、同じ物を日本で買うと、きっちり5%取られることを考えると、その違いにあらためて驚かされるのである。



■ Palm専用音響カプラー?

 さて、今回紹介するモバイルグッズは、PocketScience社の「PocketMail BackFlip」写真)だ。正面から見ると、なにやらアヤしい形をしたクレードルにしか見えないこのBackFlip、なんとこれと電話機さえあれば、あなたのPalmがりっぱなメール端末になってしまうのだ。

PocketMail BackFlip PocketMail BackFlip
PocketScience社の「PocketMail BackFlip」

 簡単に説明すると、まだまだモデムが一般的に使われていなかったその昔、データ通信用に黒電話の受話器を「パコッ」とはめて使用する「音響カプラー」なるものが存在したのであるが、それを現代の最新技術で蘇えらせ、Palm用としてリバイバルさせたもの、といえば理解してもらえるのではないだろうか。

 つまり、通常であれば、必ず電話回線や携帯電話に「ケーブル」で接続することによって行なってきたデータ通信を、「マイク」と「スピーカー」により、「音」として電話機に送り込むことによってデータ通信を行なうものなのである。

 ここまで読んだ読者の方で「ははーん、14.4kbpsモデムに小型カプラーを合体させただけのものだな」と想像している人もいるかとは思うが、それは大きな間違い。決してそんな単純なものではなく、実はなんと、いかなる過酷な通信条件でもサクサク通信できるように特別に考案されたという、PocketScience社独自の変調方式およびプロトコルを採用しているのである。これこそがこのPocketMailシリーズの最大の特徴であり、PocketScience社が他のモデムメーカとは違ったアプローチを取っている部分なのである。

 そのおかげで、通常は音響カプラーやアナログモデム等によるデータ通信が不可能なはずの「音が悪い」デジタル携帯電話ですら、データ通信が可能となっているのである。これはちょっとした驚きだ。しかし「そんなの、データ通信カードを使えばいいだけの話じゃないの?」と疑問に思われる方も多いとは思うが、残念ながらここアメリカでは、そのテのカードはまったく普及していないのである。そのかわり、最近ではシリアルインターフェイスを持った携帯電話が出回っていたりするのであるが。

 このような新しい方式を採用しているBackFlipであるが、実は同じ通信方式を採用した機器は、以前からいくつか発売されていて、1998年9月にはすでにSharpとJVCからそれぞれPocketMail対応のPDAが発表されている。そういう意味では、特に新しいテクノロジーではないのであるが、今回、Palmプラットフォームに対応したことで、より身近なものとなった。

PocketMail BackFlip PocketMail BackFlip
「PocketMail BackFlip」の使い方


■ 月額9ドル95セントで使い放題のPocketMail Network

 先ほどから「独自方式」と説明していることからもわかるように、このBackFlipでは通常のモデムとは違う通信方式を採用している。そのため、一般的なインターネットプロバイダー等には接続することができない。そのためPocketScience社では、このBackFlip用に独自のメールサービスを提供している。それが「PocketMail Network」だ。

 このサービス、使い方は簡単で、あるフリーダイヤルに電話をかけると「PocketMailユニットを受話器にあてて、PocketMailボタンを押してください」というアナウンスが流れるので、すかさずPalmをセットしたBackFlipを受話器にあてて「PocketMail」ボタンを押すだけ。あとは専用のPalmアプリが起動して、自分宛のメールが受信される。もし送信待ちのメールがあれば、それも同時に送信される。まさにメール専用サービスと言っていいだろう。

 ちなみにこのサービス、月額9ドル95セントの定額料金で何度でも無制限に利用できる。さらには、自分がいつも利用しているプロバイダのPOP3やIMAP4サーバに来たメールを、このPocketMail Network側から取りに行くことも可能である。

 気になるスピードの方だが、半角(英語)で1500文字のメッセージを送信するのに25秒ほどかかる。確かにあまり速いとはいえないが、とにかく電話さえかけられれば、どこからでもメールの送受信ができるというのは、なかなか便利ではないだろうか。

 しかし、どこに行ってもISDN公衆電話があり、PHSや携帯電話でのデータ通信があたり前のように行なわれている日本では、あまりこのテの機器が普及する余地はないのではないだろうか。それより何より、外でメール読むんだったら、わざわざPalmなんか持ち歩かなくても携帯電話だけで読めてしまうわけだから……ほんと、そんな日本が実にうらやましい!


(KADUHI)
2000/03/02


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