Minstrel V インターネットワイヤレスモデム
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KADUHI
趣味で「パチもん」ばかり発明しているシリコンバレー在住のエンジニア。HP 200LX日本語化やPalm用キーボードThumbTypeなど、時にはまともなものも。過去の発明品はこちら(の第5回)をご覧ください。
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今回は、全米の主要な都市をワイヤレスでフルカバーしている、Palm V用のインターネットワイヤレスモデム「Minstrel V」(写真1)をご紹介しよう。
■ ライバルは Palm VII?
今回紹介する「Minstrel V」は、前回ご紹介したPalm III用「Minstrel III」のPalm V版で、大きさがPalm Vに合わせて小さくなったものである(写真2)。Palm V用のモデムと同じく、Palm Vの背面にピッタリと貼り付くような感じでセットして使用する。Palm OSから見ると、通常のモデムと同じように見えるので、特別なソフトウェアを使用せずに、標準のネットワークスタックだけでPPP接続が可能となる。ソフトウェアも、Palm上で動くネットワークソフトウェアが全て使用可能なので、やろうと思えばPalm Vからワイヤレスで telnet や ftp までも可能である。
重さはバッテリーを含めて約130gで、Palm Vと合わせると約240gとなる。Palm Vに装着した場合、厚さが倍近くになってしまい、手に持ってみると一回り大きなPalm Vといった感じである。筐体はIIIのプラスチック製から、Palm Vと同じような金属製へと変更されており、質感、デザインともにかなり向上している。筐体内にはリチウムイオンバッテリーが内蔵されており、連続で約3時間の使用が可能である。3時間は短いのではないか? と思われるかもしれないが、実際の使用では常に電波を送受信しているわけではないので、ウェブブラウジングなどで使用しているのであれば実質8時間以上の連続使用が可能だ。
ちなみにこのバッテリー、Palm Vの内蔵バッテリーと同じように一切交換はできないという、徹底したPalm V仕様(?)となっている(Palm Vのように筐体が接着されているわけではないが)。充電は専用のACアダプタを使用し、Palm Vを載せたままでも可能であるが、その場合でもPalm V側のバッテリーは充電されないので、そのつど別々に充電する必要がある。
付属のCD-ROMには、専用のラウンチャーをはじめ、Email、ウェブクリッピングなどのアプリケーションが入っていて、専用のインストーラにより自動的にインストールおよびセットアップが行なわれる。ただし、一部のアプリケーションはROMのアップグレードを伴うため、Palm V以外のPalmシリーズや、日本語版のWorkPad c3などでは使用できない。
その他には、ウェブクリッピングサービスでおなじみの「AvantGo」も添付されている。こちらは、通常の使用ではホットシンク時に、購読しているページが更新されるというサービスであるが、このOmniSkyを使用すればそれがワイヤレスで、いつでも更新が可能となり、常に最新の情報を保つことが可能となる。
■ 速さ vs 定額料金
ワイヤレスの通信方式であるが、「Mistrel III」と同じCDPD方式(Cellular Digital Packet Data)を使用している。データ通信としてのスピードは約19.2kbpsであるが、実際に使用した感じでは、だいたい9.6kbpsくらいの感覚となる。PHSを使った64kbpsや128kbpsという高速データ通信と比べてしまうとかなり見劣りしてしまうスペックであるが、いくら使用しても「月額定額」という、PHSの高速性とはまた違った魅力的な面があることは否定できない。
みなさんの中にも、「iモード」でちょくちょく暇つぶしをしていて、結構な課金請求が来て驚いた人がいるのではないだろうか。そんな心配が不要なのが定額制のいいところである。ちなみに気になる月々の料金だが、現在のところ月々49.95ドルよりは安くなる、ということらしい。というのも実は現在ベータテストの期間で、月々の使用料は四月末まではタダなのである。
実はこのMinstrelシリーズ、古くはPalm Pilot時代から存在するのである。赤外線ポート付き携帯電話「Nokia NM207」を使用して、インターネットにアクセスしている一部のユーザーを除き、日本ではまだWorkPadやPalmをワイヤレス環境で使用する機会はあまり無いが、ここシリコンバレーでは、すでに数年前から、今回のようなPalm用のワイヤレスモデムが存在していたのである。
■ いにしえのワイヤレス端末たち
しかし、Palm用と限定しなければ、このCDPDを使用したワイヤレスデータ機器はさらに古くから存在している。90年代前半にはすでに、Apple社のNewton OSを搭載した「Marco」や、MagicCapを搭載した「envoy」などがモトローラから販売されていた(写真3)。これらなどは、大きさを今のPalm IIIくらいにすれば、まだまだ十分実用的なのではないであろうか。誰か「Newton emulator for Palm」なんてのを作ってくれないかしら?
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写真3:マニア必見!の「Marco」と「envoy」 |
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■ シリコンバレーでiモード?
ワイヤレスでインターネットにアクセスできるようになったので、さっそくウェブブラウザをインストールしてみた。付属のCD-ROMには、ウェブクリッピングや購読ソフトはあるものの、リアルタイムのウェブブラウザーソフトは付いてこないため、ProxiNet社(現在はPuma Technology社に買収された)の「ProxiWebブラウザ」を使用してみた。
このブラウザソフトは、通常のPC用にデザインされたウェブページを、専用のプロキシーサーバーによってPalmの画面サイズに収まるように変換してくれるというスグレモノである。おまけにSSLにも対応しているので、セキュリティのかかったサイトにもアクセス可能だ。
このブラウザを使用して、しばらくは英語のサイトを見て楽しんでいたのだが、実は日本語のサイトも多少文字化けが発生するものの、なんとか見られることを発見して以来、もっぱら日本のサイトにアクセスしている。そして、もう一つの素晴らしい発見は、このPalm V + Minstrel Vのセットと「iモード対応ウェブページ」との相性の良さ、であった! 確かにProxiWebの、通常のページをPalmの画面サイズにまで縮小するテクノロジーは素晴らしいものがあるが、初めから小さな画面(=iモード携帯電話)用に作られたコンテンツなら、その必要すら無いのである。
■ 真の意味でのモバイルインターネット
筆者がこのシステムを使用し始めて一番感動したことといえば、本当の意味での「モバイルインターネット」というものがいったいどんなものなのか、身をもって体験できたということであろう。確かに米国に来てからこれまで4年間、ノートPCとともに月額定額の使い放題ワイヤレスインターネットモデム「Ricochet」を使ってきて、どこからでも時間を気にすることなくインターネットに接続できることの便利さや、その可能性は十分に知ってきたつもりである。
しかし、それが今回「ポケットに入って」しまったことで、今までとはまた違った使い方が見えてきたのだ。これなら確かに日本で「iモード」が大ハヤリするはずである!と一人ナットクしてしまった。というのも、つい先日までは、ここシリコンバレーに住む筆者にとって、日本で騒がれている「iモード」は、何か「遠い国の話」でしかなかった。しかし、このPalm V + Minstrel Vを使い始めてからというもの、今までは想像でしかなかったその「面白さ」が、別のテクノロジーを使ってではあるが体験できてしまったのである。
移動といえばほとんどが車で、電車やバスなどの公共交通機関を利用することがめったにないシリコンバレーでの生活では、ヒマつぶしにもってこいの「ちょっとした待ち時間」というのが極端に少ないために、こうしたワイヤレス情報端末がなかなか普及しないのかもしれない。それでも昼食に「IN-N-OUT Burger」のハンバーガーなんかをパクつきながら、日本時間の5:00amに「iモード掲示板」でくりひろげられている「眠れない私に誰かメールして」なんていうやり取りを見ていて、ついついリプライしてしまう……この時間と距離を越えた「お隣り感覚」のコミュニケーション手段が、こちらでブレイクするのも時間の問題ではないだろうか。
しかし、もし日本IBMが去年WorkPad c3と同時に発表した「WorkPad 30J用PHSカード」が発売されたなら、一気にまたこの「ワイヤレスPalm」の分野でも、日本側がリードしてしまうことであろう。その理由として、日本にはもうすでに膨大な量の「モバイルデバイス向け」コンテンツ、すなわち「iモードページ」が存在しているのだから。
■ iモードブラウザ for Palm
とにかくもう「iモード対応ページ」の大ファンになってしまった筆者であるが、不満なのは、現在あるPalm用のブラウザでは、完全な姿でのページを見ることができないことである。つまり、グラフィックが表示されなかったり、日本語が完全ではなかったり、iモード専用絵文字が表示されなかったり。そこでとりあえず「無ければ作っちゃえ」精神でまずは簡単なiモード対応ページ専用ウェブブラウザを作ってみました( http://www.kaduhi.com/iMBr/ )。まだアルファ版ですが、足りない機能はおいおい追加していくつもりです。
(KADUHI)
2000/02/03
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