E50VRができるまで“新しい価値”を生み出す現場 LGエレクトロニクスに迫る!

中国と韓国に行って来ました

中国と韓国に行って来ました

 液晶モニター製品はPCを構成する"単なる1パーツ"という認識のためか、イメージ的には、アリモノのパネルと適当なガワを組み合わせて作っているだけ…という認識の人も多いようだ。

 実際にそういう製品もないとはいわないが、一流メーカーは、市場動向を見極めた上で、コンセプト作りを行ってから、設計に着手。そして幾度もプロトタイプ製作、評価を経て量産に漕ぎ着けている。

 そう、良い製品には多くの人の"想い"が乗せられているのである。

 今回は、LGエレクトロニクスが、液晶モニターをどのように開発しているかを取材してきたので、そのレポートをお届けすることにしよう。


「LED×新しい価値」が込められるLGの液晶モニター

 ソウル・LGエレクトロニクス本社で、お会いしたのはパク・ユングン氏。氏は、現在のLGエレクトロニクスの液晶モニター製品の基本戦略について説明してくれた。

LGエレクトロニクス本社ビル

LGエレクトロニクス本社ビル
パク・ユングン氏

パク・ユングン氏

 現在、テレビを含めた、液晶ディスプレイ関連製品は、2010年以降、ビッグバンともいえるほどのLEDバックライト化への急速な流れが生まれているという。これは、エッジライト方式LEDバックライト採用液晶モニターの「省電力」「エコ」「薄型」という特徴や、「水銀フリー」という特性、そして、「高画質」などLEDが本来持つクールなイメージ、それらの相乗効果によって起きているものであり、LGエレクトロニクスとしても、この流れを敏感に感じ取り、昨年から今年にかけて急速にLED採用モデルの拡充に乗りだしたというのだ。

 「今後、液晶モニターの主戦場は間違いなくLEDになります。」(パク・ユングン氏)

超解像「Super+ Resolution」を搭載したLED液晶モニター「E50VR」シリーズ。写真は23インチのE2350VR

超解像「Super+ Resolution」を搭載したLED液晶モニター「E50VR」シリーズ。写真は23インチのE2350VR

 そこで予測されるのが、他社製も含めてのLED液晶モニター製品の乱立だ。こうなったときに求められるのはLED液晶モニターへの「新しい価値」の付与だ。パク・ユングン氏は他社製との差別化のポイントを作り出すことが急務だった、と2009年の開発当時を振り返る。

 まず、その「新しい価値」の第一弾となったのが、「表示遅延無しの超解像」であり、これが搭載されたのがE50VRシリーズということになる。

 LGエレクトロニクスは、この「新しい価値」を持ったLED液晶モニターを訴求していく上で、「LG's Sincere LED Monitor」(LGの真っ正直なLEDモニター)というコンセプトメッセージを掲げ、これを一言で表すキーワード「Sincerity」(嘘偽りがないこと。誠実なこと)を製品に込めて開発に取り組んでいく。

 価格ばかりが最優先される液晶モニター市場において、コストパフォーマンスを超える製品の魅力とは、そこに込められた「新しい価値」に見出されるはずであり、その「新しい価値」が「嘘偽りなく」ユーザーの元に届くことをLGエレクトロニクスは重視していくというわけである。


Sincere(誠実な)製品が生まれる場所

 グローバル企業として躍進するLGエレクトロニクスは、世界の各地に生産工場を持つが、日本向けのE50VRシリーズは、中国の江蘇省は南京市にあるLGエレクトロニクスの南京工場にて製造されている。

 南京市そのものの地理歴史、近年の経済状況については、W2363V-WF編にて詳しい説明がなされているのでそちらを参照して欲しい。

LGエレクトロニクスの南京工場を視察した
LGエレクトロニクスの南京工場を視察した
…筆者は実際にE50VRを製造しているLGエレクトロニクスの南京工場を視察した。

 今回、筆者は、LGエレクトロニクスの計らいで、この南京市にあるLGエレクトロニクスの工場を見学する機会を得た。工場は中国らしい広大な敷地を利用したもので、東京ドーム20個以上もあるらしい。工場の入口ゲートに書かれた「南京LG新港顕示有限公司」という巨大な表札プレートは中韓共同設立した合弁企業LG Electronics Nanjing Display(LGEND)を意味するものらしい。ゲートをくぐってしばらく車を走らせたところに、多様なディスプレイ製品を製造している工場ブロックはあった。

 中に入ると、天井に吊された無数の蛍光灯が遠近法の作画手本のように部屋の奥に向かって小さく規則正しく配列しており、あまりにもでかすぎて、その消失点は見えないほど。

 この工場ブロックでは、PC向け液晶モニターの他に、50インチを超えるような大型液晶テレビまでを組み立てている。実際、筆者が工場の中を歩き出してから、そこかしこで、LGマーク入りのディスプレイ関連製品が組み立てられている様が目に飛び込んでくる。

 幸運なことに、筆者はE2350VRシリーズの組み立てラインが稼動しているところに遭遇できたので見学させてもらえることになった。

E50VR組み立てラインを最下流から撮影したところ。

E50VR組み立てラインを最下流から撮影したところ。
液晶パネルパーツをベルトコンベアに載せているライン最上流箇所

液晶パネルパーツをベルトコンベアに載せているライン最上流箇所

 ベルトコンベア最上流では数人の工員の手により、液晶パネルパーツが開封され、ベルトコンベアに載せられていく。続く下流側では、接続端子等が組み込まれた基板が収められたバックフレームが取り付けられ、さらに下流ではコネクタの接続、ビス止め、バックパネルの取り付け…といった感じでラインが続いている。作業ミスがないように、1人1人の作業は意外にシンプルになっており、ある工員はいくつかある接続箇所のうち、決まったところのコネクタ接続しか行わない。

1人1人が担当する作業箇所はミスを少なくするため少ない。
1人1人が担当する作業箇所はミスを少なくするため少ない。
ミスを最小限にするため、1人1人が担当する作業箇所は少ない。プロセッサで言えばRISCプロセッサ式なパイプラインである(笑)

工員は若く、表情は真剣そのもの。取材しているライン以外でも私語が全くない
6秒に1台のペースで生産されていくE50VR。
工員は若く、表情は真剣そのもの。取材しているライン以外でも私語が全くない

 工員はみんな若い男女でパッと見たところ十代の人もいそうな感じだ。ただ、誰1人私語をする者はおらず、表情は真剣そのもの。「和気あいあい、楽しい職場です!」というアルバイト誌の定番求人メッセージとは対局の雰囲気が取り巻いている。

 工場スタッフによれば、E50VRシリーズであれば一ヶ月に3万台の生産が可能だそうで、見学したこの日は6秒に1台の割合で生産が行われていた。

 組み立てラインの最下流に流れてきた完成品のE50VRはカートに載せられて隣接されたQA(品質管理)ラインへと受け流される。

QAライン最上流

QAライン最上流

 単に電源が入るだけのテストに終わらず、実際にDVI端子、D-sub15ピン端子、HDMI端子のそれぞれにケーブルを接続し、映像が出るかを確認し、さらに、テストパターンを表示して正しい表示が行われているかまでがチェックされる。接続端子は背面で、表示面は表側になるため、工員側に背面が向けられ表示面の目視はQAラインに設置された鏡に映った鏡像を見てチェックするようになっていた。もちろん目視だけでなく、色調チェックは測定器によっても行われており、決してアバウトなチェックではない。

 また、E50VRシリーズはHDMI入力された音声をヘッドフォンで聞くことができるが、ちゃんと音声が出るかについても、ヘッドフォンをしたQA工員がラインを流れてきたE50VRシリーズに1つ1つ音声ジャックを挿してチェックしていた。

 E50VRシリーズは前面の操作パネルが実体ボタンではなくタッチパッドになっているので、その動作も実際にQA工員が手を触れてチェック。


タッチパッドコントロールパネルの動作チェック

タッチパッドコントロールパネルの動作チェック
ヘッドフォン着用の工員はサウンド機能のチェックをしている

ヘッドフォン着用の工員はサウンド機能のチェックをしている

画質にまつわる機能チェックは測定器と人間の目視の双方で行われる
画質にまつわる機能チェックは測定器と人間の目視の双方で行われる
画質にまつわる機能チェックは測定器と人間の目視の双方で行われる

 このように、機能のほぼ全てを工員の手と測定器でチェックしているのには、少々驚かされた。LGエレクトロニクス恐るべし、グローバル企業あなどりがたし…といったところである。

 梱包前にはボディ外装部のチェックも行われており、組み立て工程の折に傷が付いてないかもチェックされる。現場でも、「日本のユーザーの目は特に厳しい」という自覚があるようで、工場スタッフによれば、このQAラインこそが、日本向け製品には特に力を入れている部分だという。

 LGエレクトロニクスの「Sincerity」コンセプトはこの工場で「形あるもの」として生み出されている。

QAラインの下流には梱包ラインが待ち構えている。
QAラインの下流には梱包ラインが待ち構えている。
QAラインの下流には梱包ラインが待ち構えている。

こうしてE50VR立ちは日本へと旅立ち、ユーザー達の手の元へ
こうしてE50VR立ちは日本へと旅立ち、ユーザー達の手の元へ
パッキングされていく生まれたてのE50VR達。こうしてE50VR立ちは日本へと旅立ち、ユーザー達の手の元へ


「超解像付きで低表示遅延」という「新しい価値」

映像エンジン開発スタッフへの取材を元にした記事

映像エンジン開発スタッフへの取材を元にした記事は
連載第二回を参照のこと

2つのウィンドウを見やすくタイリングして並べてくれる「DualWeb」機能

2つのウィンドウを見やすくタイリングして並べてくれる「デュアルウェブ」機能は、PCのソフトウェアと連動している


 E50VRシリーズの映像エンジン開発スタッフへの取材は、本連載第二回で詳細にレポートしているが、この前後に、同スタッフからも、E50VRシリーズの機能設計の際の開発コンセプトのような話を聞いている。

 まず、E50VRでは、「今、ユーザーがどのような製品を求めているか」についてまず議論し、そこから機能設計を進めていったのだという。

 2010年というタイミングでは、既に多くのユーザーが一度は液晶モニターを購入した経験があるはずで、開発スタッフは、そうしたユーザーの買い替え、あるいは買い増しを想定し、どんな機能が魅力なのかを洗い出していった。

 第一に、なによりも画質がよいこと。

 LEDバックライトの採用で基本的な画質の底上げはなされるはずだが、HDMI端子の採用も必須となった背景も考えるとビデオ機器やゲーム機の接続が想定される。そこで「超解像」の機能の採用が発案されることとなったのだ。

 既に連載第二回で解説済みだが、E50VRの超解像はラインバッファベースの低遅延のものであり、この機能のオン/オフで表示遅延の差はない。このことも、「超解像技術搭載 LEDモニター」としての「新しい価値」だといえる。

 さらに、2009年にはWindows 7の登場もあり、Windows 7の卓越したグラフィックス機能との連動も図るため表示コンテンツに連動したウィンドウ制御と画質コントロールを行う「デュアルウェブ」「シネマモード」という機能も搭載された。この2つの機能はPC側にインストールした制御ソフトがユーザーのWindows使用状況を見極めてE50VRをコントロールするという高度な機能であり、いうまでもなく、E50VRが持つ「LED液晶モニターとしての新しい価値」ということになるだろう。
 


ウィンドウやWebブラウザー内で動画を視聴する際、動画以外の画面を10段階で暗くしてくれるので、動画に集中できる「シネマモード」。これもPCソフトウェアとの連携が実現する機能


人の感情に訴えるデザインを液晶モニターに

チョン・ウォンソク氏

チョン・ウォンソク氏

 今回の取材ではソウルにあるLGエレクトロニクスのデザイン研究センターも訪れ、E50VRのデザインコンセプトについて伺った。

 チョン・ウォンソク氏によれば、デザインの起点は、「白色LED」そのものにあったのだという。白色LEDはナチュラルな発色をし、画質面でもエコの面でも優れており、そこから「流麗な」というデザインの方向性が固まる。
「ここから『水』を連想し、さらに具体化してE50VRのデザインキーワードとして「雫(しずく)」が確定しました。イメージは『葉の上の水滴』です。」(チョン・ウォンソク氏)

 無機質なデザインが横行する「いかにもなオフィス用品」ではなく、「シームレス」で「一体感」のある「ナチュラル」な「有機的なデザイン」を心がけてデザインされたのがE50VRというわけだ。

 写真では分かりにくいし、ユーザーでも気がついていない人が多いかも知れないが、本体ボディは半透明の樹脂製で、しかも淡くグラデージョンカラーがあしらわれている。これは塗装によるものではなく、複数の樹脂材の組み合わせで実現された素材色であり、光の加減で見え方が変わる。これこそが、デザインチームのさりげないこだわりなのだという。

 テレビは、最近はインテリアの側面が重視されるようになり、凝ったデザインのものが多くなってきているが、液晶モニターのデザインはまだまだ無骨なものが多い。しかし、テレビと向かい合っている時間とPCディスプレイと向かい合っている時間、どちらが多いのか、思い返してみると、意外にも現代人は後者の方が多いのではないかという気がする。だからこそ、デザインは無視できない。いや、たとえデザインを気にしない人であっても、機能が同じならば美しいものを選ぶはずだ。

 E50VRは人の感情に訴えかけるデザインも身に付けることで、コストパフォーマンスを超えた魅力を演出しようとしているのである。


半透明の素材が使われ、光がぼんやりと透過するフロント部

半透明の素材が使われ、光がぼんやりと透過するフロント部
「雫」をイメージした流麗なラインが随所に

「雫」をイメージした流麗なラインが随所に

(トライゼット西川善司)


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