こどもとIT
【連載】The Teachers' Voice~学びのアップデートをめざす先生からのメッセージ 第18回
オンライン海外交流と議論を可視化する英語学習×ICTで、自ら気づき変化し続ける人へ
〜工学院大学附属中学校・高等学校 中川千穂教諭がめざす学びのアップデート③
2021年1月27日 06:45
工学院大学附属中学校・高等学校は、英語教育の一環として交換留学や相互訪問など頻繁に海外交流を実施してきました。しかし、コロナ禍の今、生徒たちは海外を訪れたり、対面による交流はできません。
こういう時こそICTの出番です。“できないからやらない”ではなく、ICTを使ってできることを見つけていく。私の受け持つ生徒たちは、コロナ禍でもオンラインで海外とつながり、インド、ウガンダ、オーストラリア、ルーマニア、タンザニアなど、さまざまな国の生徒たちと交流をしています。
オンラインのメリットを活かして、インドの学校とは昨年の春より、週1回の定期的な交流にも取り組んでいます。毎週交代で双方の国の生徒がテーマを決め、事前に共有。生徒たちは発表内容を準備して、当日は生徒の司会で自由に議論を進めます。教師もファシリテーターとして参加しますが、基本的には生徒中心で、時間も1時間ほど。現在まで半年以上も交流が続いています。
もちろん最初の交流では、生徒たちは緊張していました。しかし、本校では英語の授業はすべてオールイングリッシュで実施していますので、すぐにスムーズな会話ができるようになります。海外の生徒はとても積極的ですが、予めテーマについて自分の意見を発言できるように用意したり、相手に質問したりすることで、有意義な議論の時間を過ごせるようになりました。
テーマについても、最初はコロナの国内状況や休校中の過ごし方など、身近な話題について話していた生徒たちですが、回数を重ねていくうちに、食べ物やファッションなど互いの文化を紹介。さらには、悩みや取り組んでいるレポート、プロジェクトなどについても議論をするようになっていきました。
ちなみに、オンライン交流は時差や学校のスケジュールを合わせるなど想像以上に準備や負荷がかかるのですが、交互にテーマを出し合うなど工夫して、双方の教師や生徒の負担を軽減するように注意しています。半年以上もオンライン交流を継続できた要因としては、「負担を減らしたこと」「毎回発見があり生徒が興味を持てたこと」「異国の同年代と共感することで安心感を得たこと」が大きいと思います。
オンラインでも、生徒の心を揺さぶる海外交流はできる
「海外交流は現地に赴いて、その国の生活を体験するのが一番。オンラインでの交流は限界がある」と思われる方もいるでしょう。確かにリアルな交流に勝るものはなく、対面の交流でしか得られないものはたくさんあります。しかし、オンラインだからといって、深い交流ができないわけではありません。
生徒たちは、コロナ禍の休校による変化や、オンラインツールの使い方などについて意見交換し、遠く離れた地に住んでいても似たような境遇にいることで、互いの立場や考えに共感し、安心感を得ていました。
一方、「スポーツ」「平和」「環境問題」といったテーマでは、文化と歴史の違いによって考え方や感じ方が異なることを強く感じていたようです。
たとえば、「スポーツ」をテーマにした際は、“どこまでがスポーツなのか”というスポーツのそのものの定義や、“チェスはスポーツだけど、ヨガは精神修行”というような捉え方の違いを知りました。また、「平和」について戦争の視点から語ることはできても、違う視点では議論ができなかった、といいます。「環境問題」では、日本の技術は素晴らしいが世界に対してどのように貢献できているのかを話せず、生徒たちは自分が無知であることを知ったと話していました。
このように、オンラインの交流であっても、生徒たちは会話を通して何かを掴み取ろうとする姿が見られます。相手の国や文化を知識として知るだけでなく、自分の経験と照らし合わせて自問自答する中で、世界には多様な考え方や解決方法があることを知り、生徒たちが発想を転換していく様子を感じました。
生徒たちは質問に対して、答えられないことがあるたび、次回はもっと自分の意見と理由を言えるようにしようと準備をしますし、話す相手がオンラインであっても目の前にいることで、伝えたい、分かり合いたい感情を持つことができます。今やインターネットがあれば、世界の様子を知ることができますが、分かり合えるためには、人との対話や交流が必要であることを実感してくれたと思います。
とはいえ、生徒全員が積極的に英語で議論できるわけではありません。私から生徒に話を振ることもありますが、基本的には自発的な発言を待つようにしています。教員が助け船を出して発言できたとしても、生徒の進歩はありません。話ができなかった生徒には、そのセッションの振り返りで、自信を持って話ができるようなアドバイスをしています。
英語のディスカッションを測定して可視化。次の目標をつくる
いくら教師が生徒に積極的に英語で話をするように言ったとしても、英語で議論をするのはやはり難しいものです。また教師にとっても、高等学校英語の指導要領で定められた議論のスキルをどのように伸ばしていくかは課題です。
そこで、私の授業では、英語のディスカッションにおいて、発言のタイミングや発話量を測定できるシステム「Hylable Discussion」を導入しています。
Hylable Discussionは、グループごとに卵型の装置を置き、多方向からの音声を集積し、会話の内容を分析してくれます。個人の発話量、盛り上げ量、重なり量など測定するとともに、会話に参加していない生徒は数値から読み取れます。音声は録音されているので、発音や会話の中身をあとで確認できるのもメリット。教師は授業時間中にすべてのグループの議論を聞くことができないので、助かっています。
今まではディスカッションをしても生徒同士の相互評価や教員の評価で終わっていましたが、Hylable Discussionを活用するようになり、データに基づく客観的指数から生徒自身が自分の会話を省察し、気づきを得られるようになりました。
生徒たちは議論の分析結果を見て、自分の発話量や発言の傾向を振り返り、次の目標を立てます。めざすのは、発話量の数値を増やすことではなく、分析結果を見て、自分で課題を認識し、特性を判断できるようになることです。発言量は少なくとも、他者に多くの影響を与える生徒もいますし、発言量は多くとも、ほぼ相槌や同調である生徒もいます。
Hylable Discussionで「会話を可視化」できるようになり、積極的にたくさん話す生徒が増えました。クラウド上で全生徒の議論を後で聞き、分析結果を見ることができるので、発言にも責任を持つようになりました。たくさん話したつもりでも、意外にそうでもなかった場合など数値で確認し、次回はもっと話をしよう、話すネタを考えよう、テーマについて知識を得ておこうと、話すことに対する意欲向上の効果がありました。
生徒たちに気づきを与えることが教師としての私の役割であり、そのために私はICTを大いに活用しています。気づきから考え、よりよい自分に変わっていく術を日々の学習から得て、ICTを自分の武器にし、社会や時代の変化に合わせて柔軟に自らを高め続けられる大人に成長してほしいと願っています。
The Teachers' Voice 目次
- 生徒たちが使う端末に制限はかけさせない。こだわり続けた自由度の高いiPad導入〜近畿大学附属高等学校 乾武司教諭(全5回)
- 読み書き計算に困難のある子の学びを支える"オーダーメイド”の支援 〜つくば市立学園の森義務教育学校 山口禎恵教諭(全3回)
- へき地が抱えるICT環境の課題と、教員の世界を広げるSNS活用 〜青森県 つがる市立育成小学校 前多昌顕教諭(全2回)
- コロナ禍で見えた新しい学びのカタチ「Face to Face の教育から、学びのSide by Sideへ」 〜東京学芸大学附属小金井小学校 鈴木秀樹教諭(全5回)
- 英語を学ぶだけではない、ICTで生徒が自己発見できる学びとは? 〜工学院大学附属中学校・高等学校 中川千穂教諭(全3回)
- ICT活用が進まない本当の理由は、教師の中に潜む“使命感”にある 〜聖徳学園中学・高等学校 品田健教諭(全5回)
- 教育版マインクラフトの学習に初挑戦。授業に落とし込む前に考えたこと〜大森学園高等学校 杉村譲二教諭(全3回)