こどもとIT
【連載】The Teachers' Voice~学びのアップデートをめざす先生からのメッセージ 第10回
教育クラウドの活用で、へき地のハンディを超え、学びをさらに広げる!
〜青森県 つがる市立育成小学校 前多昌顕教諭がめざす学びのアップデート②
2020年10月28日 12:00
クラウドにつながる学習環境があれば、学びは広がる!
私が務める小学校は、へき地性のある地域にあり、ICT環境も決して恵まれた状況ではないことを、前回紹介しました。
私の教室にあるICT機器は、10人の子どもたちが1人1台環境で使える型落ちのタブレットPCと、ディスプレイモニターだけです。多くの学校に導入されている授業支援システムのようなものはありませんが、全く困っていません。
なぜなら、いつでもインターネットにつながるネットワーク環境があるからです。もちろん、予算が限られているので、充実したWi-Fi環境が整備されているわけではありませんが、人数が少ないため、クラスの子どもたちが同時にアクセスできるような環境は整っています。
私はこうしたICT環境でも、できることが沢山あると思っています。むしろ、立派な授業支援システムよりも、子どもたちが自由にネットにアクセスできることの方が大切で、MicrosoftやGoogleなどが提供する教育プラットフォームがあれば十分だと考えています。
従来の教育支援システムの多くは、教師が授業を管理したり、制御したりするのに便利でした。しかし、子どもたち一人ひとりの学習スタイルに寄り添ったシステムであるとは言い切れません。それに対して、MicrosoftやGoogleの教育プラットフォームは、ネットにつながる環境さえあれば、いつでも、どこでも活用でき、海外の学校と連携した授業も簡単に行なえます。GIGAスクールについても、1人1IDを配布し、教育プラットフォームが使える環境でなければ成功しないと思っています。
「Flipgird」を活用して、非同期によるネイティブとの英語学習を実現
私が最も活用しているのは、Microsoftが提供する動画ベースの教育機関向けソーシャルサービス「Flipgrid」です。ほぼ毎日、1日に何度も使うツールになります。
Flipgridを使ってできることは非常にシンプルで、教師が作ったトピック(課題)に対して、子どもたちが動画で答えるだけです。
たとえば国語では、音読の練習に使えます。ただ声を出して音読すると単調ですが、読んでいる姿をタブレットで動画撮影し、その動画を後からFlipgridで共有することを想定しながら音読することで、相手意識が生まれます。Flipgridには、毎日の音読練習の動画が蓄積されるので、自分で上達を確認することもできます。
また、音楽ではリコーダーや歌のテストにも使用しています。個別にタブレットに向かって自分が演奏・歌唱しているところを動画撮影し、最もうまくいった動画をFlipgridに投稿することで、個人差に対応しながら効率化も実現できます。
子ども一人ひとりにメールアドレスやIDが付与されていなくても、教師がログイン用のQRコードを個別に発行できるため、小学生でも簡単に利用できます。また、カメラ付きのパソコン、スマホ、タブレットなど様々なデバイスで利用でき、比較的動作が軽いので、古い型落ちの機種でも十分使えます。
Flipgridの表記は全て英語なのですが、勤務校では1、2年生の子どもたちも英語表記のままで活用しています。それくらい、操作がシンプルで直感的なので、文字を読まなくても使えるツールなのです。
ほかにも、FlipgridのURLを共有することで、簡単に遠隔地と動画を通じて交流できる点が魅力です。最近はTeamsやZoomといったツールを使って、リアルタイムにビデオ会議で交流する事例をよく目にしますが、双方の日程調整が課題となります。しかし、Flipgridは録画した動画による交流なので、日程の調整が不要です。これにより、日本国内だけでなく、時差がある国や全世界との交流も簡単になりました。URLも簡単にアクセス権限を設定できるため、セキュリティ上のリスクも抑えられます。
特に外国との交流にFlipgridは有効です。通常、英会話に慣れていない小学生がネイティブスピーカーを前に会話をするのはむずかしく、何も言えずに終わってしまうことが多いと思います。
しかし、Flipgridを使った非同期の交流であれば、相手が送ってくれた動画を何度も繰り返し聞き直し、必要であればFlipgridの音声読み上げ機能「イマーシブリーダー」で翻訳して、じっくりと相手が言うことを理解することができます。そして、時間をかけて話すことを考え、十分に練習を積んでから返事の動画を投稿できるのが良い点です。
子どもたちは、外国の子と英語で交流できたとき、最高に嬉しそうな表情を見せてくれます。普段、津軽弁で会話している友達に対して「Do you like red?」と質問して、「Yes, I do.」と返ってきても嬉しくないですが、外国人からの「Yes, I do.」は、最高に嬉しいようです。
「Teams」を活用して学びを継続、地方のハンディを克服して社会とつながる学びへ発展
Microsoftが提供するコラボレーションツール「Teams」も、よく使用しています。勤務校では、臨時休業中の学びを止めないために、学校独自でMicrosoft 365 A1に登録して、Teamsを活用できるようにしました。春休み中にアカウントの設定を終え、5年生と6年生が先行してオンライン授業を行なえるように準備を進めたのです。
4月7日の新学期初日(本校では4月7日から一旦学校再開)にTeamsの基本操作の説明を行ない、翌日から校内でオンライン授業を前提としたTeamsを使った授業に挑戦しました。そして、何度か模擬オンライン授業を練習できたことで、4月下旬からの再休業では、スムーズにオンライン授業に移行することができました。臨時休業中は私自身も在宅勤務となったため、自宅からのオンライン授業を実施しました。
学校が再開してからも、Teamsを使ったオンライン授業をベースとした授業デザインを継続しています。また、いつ休業になっても、すぐにオンラインに移行できますし、いつでもTeamsを使えることで、授業でできることが広がりました。
たとえば、国語で様々な職業の人にインタビューする学習。これまでは学校周辺に適切な人材がいなかったため、なかなか効果的な授業ができませんでした。しかし、Teamsを使うことで、各分野の職業人と子どもたちをつなげて、インタビュー活動ができるようになりました。インタビューに応じてくれたのは、メディアデザイナー、本の著者、木質ペレット製造会社経営者、結婚相談所経営者、起業支援をしている人など。地方にいてもICTを活用することで、子どもたちを社会とつなぐことができています。
ここまでの内容を読むと、私の学級では全てがデジタル化されているような印象をうけるかもしれませんが、そんなことはありません。普通に紙のノートに鉛筆でまとめたり、振り返りを書いたりもします。私自身は全てデジタル化しても良いと思っていますが、市の教育方針は、授業スタンダードとしてノート指導についても示されており、教科のねらいや、子どもの状況に合わせてデジタルとアナログを使い分けています。
社会科のまとめでプレゼンテーション資料を作るときは、全てをデジタル化する必要はありません。文字入力が苦手な子どもは、手書きしたものを撮影して、スライドに貼り付けて発表しています。授業のねらいは、きれいなプレゼンテーション資料を作ることではなく、学習した内容を自分なりに整理して発表することなので、ICTを使うことを重要視していません。
一方で、毎回の授業の振り返りは、タブレットのカメラでプリントやノートなどを撮影し、その画像を、Teamsで提出します。最初はトリミングをして、不要な部分を削除してから提出していましたが、今では撮ったものをそのまま提出しています。これも、内容を確認するのもが目的であり、きれいな写真に編集することが大切ではないからです。
まずは、教師自身がICTを楽しもう。ワクワクした先に見えてくるものがある
これからGIGAスクール構想の機材整備が進むと、ICTに慣れていなくても活用しなければならず、不安を感じている教師も多いでしょう。
しかし、授業でどう使おうか?と考えながらだと、思考にブレーキがかかってしまいます。そこで、まずは完全に学校と関係なく、ICTを楽しんで欲しいのです。
たとえば、Flipgridなら個人でアカウントを取得し、自分の自己紹介動画を作ってみたり、グルメレポート動画を作ってみたりすると、機能を把握できます。Teamsも同様に無料アカウントを取得して、自分の仲間とオンライン飲み会やオンライン茶話会をやってみることをお勧めします。そうすることで、ツールの特性を実感として理解でき、自ずと授業での活用法が見えてくるはずです。
また、自分がうまく使えなくても気にする必要はありません。子どもたちは勝手に使い方に習熟していきます。もちろん、子どもたちの情報リテラシーは発達段階なので不適切な行動が発生するかもしれませんが、それは逆に子どもたちが学ぶチャンスだと考えてほしいのです。学校の中で失敗できる経験は貴重であり、学校の外で重大な事案に遭遇するよりも良いのではないでしょうか。
最初から教科指導に役立てようとするのはではなく、子どもたちに飽きるまで楽しませ、ICT機器が鉛筆や消しゴムと同等に珍しくない物になるのを待ちましょう。ここからが、ICT活用の本当の勝負です。
The Teachers' Voice 目次
- 生徒たちが使う端末に制限はかけさせない。こだわり続けた自由度の高いiPad導入〜近畿大学附属高等学校 乾武司教諭(全5回)
- 読み書き計算に困難のある子の学びを支える"オーダーメイド”の支援 〜つくば市立学園の森義務教育学校 山口禎恵教諭(全3回)
- へき地が抱えるICT環境の課題と、教員の世界を広げるSNS活用 〜青森県 つがる市立育成小学校 前多昌顕教諭(全2回)
- コロナ禍で見えた新しい学びのカタチ「Face to Face の教育から、学びのSide by Sideへ」 〜東京学芸大学附属小金井小学校 鈴木秀樹教諭(全5回)
- 英語を学ぶだけではない、ICTで生徒が自己発見できる学びとは? 〜工学院大学附属中学校・高等学校 中川千穂教諭(全3回)
- ICT活用が進まない本当の理由は、教師の中に潜む“使命感”にある 〜聖徳学園中学・高等学校 品田健教諭(全5回)
- 教育版マインクラフトの学習に初挑戦。授業に落とし込む前に考えたこと〜大森学園高等学校 杉村譲二教諭(全3回)