こどもとIT

学校現場の先生の声が詰まった「プログラミングゼミ」、教員のかゆいところに手が届くアプリと授業で使える教材も

——「プロゼミ for Teachers」レポート

2020年7月18日、株式会社ディー・エヌ・エー(以下、DeNA)は、小学生向けプログラミング学習アプリ「プログラミングゼミ」の教育者向けオンライン研修、「プロゼミ for Teachers」を開催した。このオンライン研修は、コロナウイルス感染症の影響で教育関係者の集合型の研修がむずかしい中でも、プログラミング教育推進を支援したいという思いから開催された。

プログラミング教育必修化が決まる前から学校現場に入って授業などを支援してきたDeNA。教育関係者の声を聞きながら、アプリの改良を重ねてきたという「プログラミングゼミ」は、授業で使える機能やコンテンツが充実しているようだ。どのような学習ができるのか。研修の様子をレポートする。

DeNAが提供する小学生向けプログラミング学習アプリ「プログラミングゼミ」

プログラミングの本質に集中できるアプリ

DeNAは、2014年から社会貢献活動(CSR活動)の一環でプログラミング教育に取り組んでいる。同社が掲げるプログラミング教育の目標は、「アプリやゲームは自分で作れるものだと自然に考えられるようになること」「プログラミングを知ることで、より豊かな想像力を働かせることができるようになること」「それを楽しいと感じて、もっと学びたいと思ってもらうこと」の3つで、子どもたちがプログラミングに触れ、楽しむことを重要視している。

当日の研修で講師を務めた末広章介氏も、「アプリやゲームなど、子どもたちが普段触れているものは自分で作れることを知ってほしい。我々がめざすものは文科省と同じであり、プログラミングを楽しいと思ってもらいたい」と想いを語った。

株式会社ディー・エヌ・エー CSR推進グループ 末広章介氏。公立小学校のプログラミング授業やイベントなどで累計7000人以上の子どもたちに講義をしてきた経験を持つ

プログラミングゼミが最初に登場したのは、2014年のことだ。DeNAは同年に佐賀県武雄市の小学校でプログラミングの授業を実施し、好評だったことから、2015年には横浜市の公立小学校にも取り組みを広げた。2017年にプログラミングゼミを正式リリースした後は、1人1台の取り組みが進む渋谷区の教育システム「渋谷区モデル」にも採用。同区の小学校のタブレットにプログラミングゼミが導入され、モデル校でのプログラミング授業などで活用されている。

DeNAがプログラミングのアプリを自社開発した理由は、プログラミングの本質に子どもたちが集中し、先生が教えやすいものを作りたいと考えたからだ。たとえば、プログラミングゼミでは子どもが描いた絵をタブレットのカメラで取り込み、それを動かすことをキーコンセプトにしている。これは、「子どもはデジタルでイラストを描くと絵を描くことに凝ってしまい、プログラミングの本質ではないところに時間をかけてしまうからだ」と末広氏は語る。そのため図工で描いた絵などを取り込めるようにしたのだ。

プログラミングゼミは、自分の描いた絵を取り込み、それに動きをつけるのが特徴

また、低学年でも使える「50音キーボード」や、専門用語ではなく子どもにわかりやすい語句を使ったことも工夫した点だ。たとえばキャラクターを消す際も「消す」でなはく「おうちにかえる」と表現するなど、学校の先生のアドバイスを受け入れて、子どもに違和感のないポジティブな言葉を使うようにした。

ほかにも、プログラミングのレベルによってブロックの出し分けも可能。むずかしいブロックが見えてしまうと子どもの集中が散ってしまうため、そのレベルで使わないブロックはそもそも非表示にした。さらに、学校で使いやすいよう指導案やワークシートなどを無料公開しているほか、オフラインでも使えるようになっている。

プログラミングゼミは小学1年生から使えるのが特徴。50音キーボードやレベルによるブロックの出し分けができる

体験を通して「身近なものがプログラムで動いている」ことに気づく導入

ワークショップがスタートすると、参加者はZoomで末広氏の解説を見ながら、自身のタブレットやスマートフォンなどで、実際にアプリを動かしながら進めていく。最初にニックネームを入力するが、「年度、学年と組、出席番号の数字に統一するとわかりやすい」というアドバイスがあった。また、アプリではヒント動画が用意されているが、学校ではあまり使わないので、レベルを5に設定して表示されないようにした。

プログラミングゼミの最初の画面

参加者たちが最初に挑戦したのは、プログラミングの基礎をゲーム感覚で学べる「あつめよう」のメニュー。ステージをクリアするごとに宝石がもらえて、使えるブロックの種類も増える仕組みだ。参加者たちは、キャラクターである「そらもん」の数を増やしたり、ピンチイン・ピンチアウトで大きさを変えたりして、基本的な操作を学んだ。子どもたちの場合は、「小さくしたり大きくしたりするのがうける」と末広氏。

プログラミングについては、画面左横にある「お願いブロック」をつなげて組み立てていく。「黄色のブロックはしてほしいこと、ピンクのブロックはいつやるかというタイミングを表すので、てっぺんにつける」と末広氏は説明した。最初は「ジャンプする」に触れるとキャラクターがジャンプするとか、ブロックをつなげると順番に実行していくことを子どもにつかんでもらうのが良い、と同氏は語る。

画面左の「おねがいブロック」をつなげてプログラムを組み立て、キャラクターの動きを確認するときは、右下の青いスタートボタンを押し、キャラクターにタッチすれば動きを確認できる

お願いブロックをつなげて完成した後は、右下の青いスタートボタンを押してキャラクターの動きを確認する。できていない子を確認する言葉かけとして、「キャラクターを動かせたら宝石がもらえるので、『宝石をもらった人!』と聞いて、もらえていない子を手助けするといい」という。

こうして簡単なプログラミングを体験した参加者たち。ここで末広氏から、「パソコン、タブレット、スマートフォン以外に教室にありそうなコンピュータは?」という問いが投げかけられた。身近なものにコンピューターが使われていることを知り、それらがプログラムで動いていることに気づくねらいがある。参加者からは、テレビやエアコン、扇風機などの答えが挙がった。

「電気で動くものは、ほとんどプログラムで動いている。オンオフのスイッチだけでは機能の数だけスイッチが増えてしまうので、プログラムで動かしている」と末広氏の解説があった。たとえばエアコンは中にマイコンがあって、風を設定した温度に温めて外に出すというプログラムで動いているというわけだ。

家にあるものはどうか。炊飯器、洗濯機、冷蔵庫などの回答が出た。そのほか、車や電車、信号、ロケットなど、電気で動くあらゆるものを挙げ、身の回りのさまざまなものがプログラムで制御されていることを実感した。

実際の授業では、この部分を子どもたちから引き出し、プログラミングに親しみを持てることが重要になるだろう。「画面のキャラクターを動かすところから入って、プログラミングがあらゆるものに使われていると知るまでが、プログラミングの導入となる。低学年ではこれで1コマになる」と末広氏は述べた。導入の長さは、学年に合わせて調整するとよさそうだ。

目的と見通しを持ってプログラムを組む

続いて、参加者たちは「パズル」のメニューを体験することに。パズルのゴールは、キャラクターを動かしておやつを食べさせることだ。末広氏は「ミッションに対して見通しを持ち、自分が意図した通りにキャラクターを動かすことがパズルのねらいだ」と説明があった。前出の「あつめよう」ではステップバイステップで学ぶが、パズルはプログラムをドリル的に学んでいく。

「パズル」メニューの画面。キャラクターを動かしておやつを食べさせることがミッション。ひとつの問題をクリアすれば、次に進める

「最初の一問は子どもと一緒に考えながらやるといい」と末広氏。「プログラムはやり直しができるところがいい。コンピュータは壊れないので、とりあえずわかるところまで動かしてみて、だめなら直せばいい。怖がらせず先へ進むことが大切」と参加者にアドバイスした。

なお、おやつを全部取ると宝石がもらえるが、どんなプログラミングでも良いわけではない。子どもたちの中には、遠回りをしておやつを取るプログラムをつくる子もいるため、最短のルートのプログラムを作れば宝石が3つもらえる仕組みとなっている。これは、プログラミングの世界では、手順の少ないシンプルなプログラムが良いとされているためだ。末広氏は「低学年では最適解がわからないことも多いので、回り道をするプログラムも認めていいだろう。おやつを全部取ればオッケーとして先に進めばいいし、完璧じゃなくていい」と語った。

子どもたちに自由に作品を作ってもらいたい

最後は、「あたらしくつくる」のメニューから自由な作品づくりに挑戦した。といっても、学校現場では子どもたちがいきなりプログラミングで自由に作品をつくるのは、ハードルが高い。そこで、自由な作品づくりをサポートしてくれる「はじめてのストーリー」に挑戦した。

はじめてのストーリーには、「青い四角」と「赤い丸」が用意されていて、これをモチーフに作品を考えていく。たとえば、青い四角から赤い丸が飛んでいくようなプログラムを組み、四角を怪獣、丸を火の玉に見立てれば「怪獣が火の玉を吐く」作品ができあがる、という具合だ。ほかにも四角を花屋のお姉さん、丸をお花にしたら、「花屋のお姉さんが花をプレゼント」という作品ができるというわけだ。

青い四角と赤い丸をモチーフにプログラムで簡単な動きをつける。たとえば、青い四角から赤い丸が飛んでいくようなプログラム。その後、青い四角を自分で描いた絵や写真に置きかえる
青い四角を怪獣に置き換えて、「怪獣が火の玉を吐く」という作品をつくる場面。イラストは、プログラミングゼミのサイトで用意されたものを使うことも可能

そうして作品のイメージができあがったところで、青い四角を自分の好きな写真か絵に変更する。絵は、自分で描いてもいいし、プログラミングゼミのサイトで用意されたものをダウンロードして使用することも可能。自分で描いたものを取り込む場合は、「イラストを認識しやすくするために、黒のペンなどで絵に縁取りがあるといい」とアドバイスがあった。さらに、絵を取り込むときはトリミングが必要であるが、子どもたちは最初、この操作がむずかしいという。そのため末広氏は「説明するときは、タブレットをふせて注目させるのがいい」と語った。

続いて、怪獣を触ったら赤い玉が出てくるようにプログラムをするが、赤い玉にはあらかじめ「少しずつ進んで、少しずつ待つ」というサンプルのプログラムが用意されているため、次々と飛び出すように見える。また、この段階では繰り返しのプログラムを習っていないので、「同じブロックをたくさんつなげたプログラムにしている」そうだ。プログラムを間違って消してしまっても、歯車ボタンからプログラムも呼び出せるようになっており、限られた授業時間の中で、子どもたちのうっかりミスを防ぎ、プログラミングに楽しめるよう配慮されている。プログラムを組んだ後、赤い玉も絵などに変更すれば完成だ。

子どもがどういうものを作ったらいいのかわからないときは、『くみたてよう』の中にサンプルの作品がたくさんあるので、参考にするといいだろう。たとえばモグラたたきなど簡単なプログラムでできるものが用意されており、そこから自分なり工夫を凝らして作品づくりを広げていけそうだ。ワークショップでは、子どものやりがちなミスや盛り上がりポイントなども言及され、授業を組み立てる際にイメージしやすく、非常に具体的でわかりやすかった。また、リカバーの方法もきめ細やかに用意されているのが使いやすそうだ。

「何を作っていいのかわからない」という子どもたちは、サンプルの作品も用意されている

教科の中で使えるコンテンツも充実

末広氏は学校の授業で使えるコンテンツとして、「くみたてよう」の中の「がっこう」に用意された教材を紹介した。算数・理科・国語・音楽・家庭科など教科ごとのプログラムや板書に使えそうなヒントもそろっている。家庭科の炊飯器でご飯を炊くシミュレータや、国語の「おみせやさんごっこ」など、バリエーションが豊かなので参考になりそうだ。

算数の正多角形を作図する教材。一般的に他のツールでは外角を使用してプログラムを組み立てるが、プログラミングゼミでは既習内容で作図できるのが特徴。サイトには指導案も用意されている
理科では、タブレットに内蔵されたセンサーを活かして電池の量や画面の明るさを計測し、グラフにするプログラムを組み立てる。ロボットやセンサーを用意するのが大変という学校が多く、こうした教材を開発したという。ほかにもタブレットの傾きセンサーや加速度センサーを使った教材もある
写真左)家庭科の授業で使える「炊飯器シミュレータ」。写真右)国語の授業でつかえる「おみせやさんごっこ」の教材

DeNAではプログラミングゼミを通した教材提供だけでなく、昨年は横浜市限定で「キッズクリエイターコンテストYOKOHAMA」を開き、発表の場も用意した。横浜市の子どもたちから200作品くらいが集まったという。ある1年生は、表示された言葉が横浜に関係していたらタッチし、正解すればスイマーが進むというクイズの作品をつくり、発想のユニークさが評価された。また、地図のアイコンを触ると写真が出る作品では、「社会のハザードマップを作っても使えるだろう」と評価されたという。

参加者の教員からは「楽しんで使えてわかりやすい」「わかりやすくて子どもが喜びそう」とワークショップ中にコメントがあり、好評だったことが伺える。プログラミングゼミは、小学校の授業という枠組みの中で使いやすさを追求したアプリだけあって、参加した教員たちもどのような授業ができるのか、イメージしやすいようだ。末広氏は「簡単で自分でもできそうと思うことが大切。触ってみてプログラミングに対する敷居を下げてほしい」と語った。小学校のプログラミング教育では、どのツールを使うか迷うところであるが、プログラミングゼミは最初の一歩として使いやすいだろう。

高橋暁子

ITジャーナリスト。 LINE・Twitter・Facebook・InstagramをはじめとしたSNSなどのウェブサービスや、情報リテラシー教育などについて詳しい。元小学校教員。「ソーシャルメディア中毒 つな がりに溺れる人たち」(幻冬舎エデュケーション新書)ほか著書多数。書籍、雑誌、ウェブメディアなどの記事の執筆、監修、講演、セミナーなどを手がける。http://akiakatsuki.com/