こどもとIT - 教員のICT活用

地域や校種、教科や立場を越えた教育者の“つながり”が教育を変える力になる!

――マイクロソフト認定教育イノベーター「MIEE」インタビュー④

コロナ禍の休校措置をきっかけに、学校現場のICT活用はますます求められるようになった。オンライン授業、課題配信、デジタル教材の作成、家庭との連絡など、必要とされるICT活用も多様化している。

学校現場のICT活用を盛り上げていくにはどうすればいいか。教師のICTスキルを向上させるためにはどうすればいいか。ひとつの手段としてお勧めしたいのが、マイクロソフトが展開する教育者向けプログラム「MIEE」だ。今回は“つながり”をテーマに、MIEEに認定された2人の教育者からお話を伺った。

(写真左から)今回お話を伺った東京都新宿区立富久小学校 岩本紅葉教諭(図工専科)、北海道星置養護学校ほしみ高等学園 小林義安教諭

ICTでつながる、マイクロソフトが支える教育者コミュニティ「MIEE」

マイクロソフト認定教育イノベーター(以下、MIEE)とは、教育現場でICT活用の実戦に取り組む教育者を認定し、その活動を支援するプログラムだ。長年、教育分野に力を入れる米マイクロソフト本社のプログラムで、グローバルで展開している。MIEEの対象となるのは、日本国内の初等中等教育および特別支援教育を行う学校にてICT活用の実践を行っている教育関係者。例年5月から7月に募集し、9月から翌年8月までが活動期間になる。2019~2020年の同プログラムには、世界で約8800名以上、日本からは200名近くの教育者がMIEEに認定された。

MIEEの募集に関する詳しい情報はこちらを参照、募集期間は5月11日~7月15日(水)24時までで定員は200名となっている

MIEEに応募するメリットは何か。MIEEに認定された多くの教育者に話を聞くと、「横のつながりが築けること」と「マイクロソフトからの支援が得られる」ことだという。勤務校ではICTに取り組む教員が少なくても、MIEEのコミュニティは全員が教育ICTに関わる実践者。しかも、全国から集まっているので、地域や校種、教科や立場を越えてフラットな関係でつながりを持てるのがメリットだ。互いの実践を参考にしたり、分からないことを相談したりと、活発な交流も行われている。グローバルなプログラムなので、海外のMIEEと交流することも可能だ。

マイクロソフトからの支援については、実践機材や製品ライセンスの貸出、各種勉強会やイベントのサポートなどが用意されている。また優れた実績を残したMIEEについては、米マイクロソフトが主催する「Microsoft Education Exchange」と呼ばれる海外研修への参加チャンスもある(2020年は3月にオーストラリアで開催予定だったが、新型コロナウイルス感染症のため延期)。

一般的に、教育者がICTスキルを磨く機会は、自治体や企業が開催する研修会や、学校での校内研修会が多い。そうしたカタチも必要であるが、MIEEのような学校では得られないコミュニティと関わることも、教育者としての世界を広げてくれるにちがいない。こうした機会を活かして、自身のスキルアップや新たなチャレンジにつなげているのが、今回紹介するMIEEの教育者2名だ。

自分が成長できる場を求めてMIEEに挑戦、グローバルティーチャー賞トップ50に入選

1人目は、東京都新宿区立富久小学校で図画工作を担当する岩本紅葉教諭。同教諭はICTを活用した図工の実践で「ICT夢コンテスト2019」で文部科学大臣賞受賞、さらに2020年3月には、教育界のノーベル賞と言われる「グローバルティーチャー賞」のトップ50に入選するという華々しい活躍を見せた。「私のような一教員でも、ここまでやることができたのはMIEEとの出逢いがあったから」と岩本教諭は話す。

岩本教諭が取り組むプログラミング×図工の授業では、音楽鑑賞をしながら曲のイメージをプログラミングツール「Viscuit」に描く

そもそも岩本教諭がMIEEに応募したきっかけは、教師としての成長に課題を感じていたことだった。「学校内に図工教員は私だけ。校内で学べることは少なく、外に出なければ自分の成長はないと考えていました。MIEEに応募したのも、教師同士の横のつながりに魅力を感じたからです。活躍している先生も多いですし、家族のような雰囲気に自然につながっていけると思えました」(岩本教諭)。

岩本教諭のICT実践で特徴的なのは、アナログな活動が多い図工の学習にICTを取り入れ、作品を作るだけでなく、より多くの人に見てもらうことで子どもたちの感性を豊かにしている点だ。たとえば6年生の学習では、音楽鑑賞をしながら、プログラミングツール「Viscuit」を用いて曲のイメージを動く絵として表現。完成作品を地元のホールが開催するファミリーコンサートでプロの演奏に合わせて投影し、多くの人からフィードバックをもらった。また学校行事の展覧会では、Viscuitの動画作品をPowerPointに挿入して、発泡スチロールでつくったお城にプロジェクションマッピングで映し出した。ほかにも、電子工作の展示やARを活用したメイキング映像なども発表した。

Viscuitで音楽のイメージを動く絵として表現し、三鷹市芸術文化センターで行われた「クリスマスファミリーコンサート」の演奏中に投影した(ピアノ:中川賢一氏)
Viscuitで作った動く絵を動画にまとめ、PowerPointに挿入した展覧会の作品は、最終的に発泡スチロールで作ったお城にプロジェクションマッピングで映し出した

こうした一連の実践をまとめて、教育界のノーベル賞とも言われる「グローバルティーチャー賞」に応募した岩本教諭は、見事トップ50に選ばれた。MIEEとしては、立命館小学校の正頭英和教諭や滋賀県立米原高等学校の堀尾美央教諭に続いて3人目の入選となる。岩本教諭は、図工×ICTの実践に加えて、ワークショップなどを通して教員研修にも尽力している点が評価されたのでは、と振り返る。

「正頭先生から“トップ10に選ばれた教育者の中には、英語が話せない人もいた”という話を聞き、自分も英語が苦手だけどやってみようと思いました。1ヶ月くらいかけて英語の論文を書き、MIEEの先生方にアドバイスをもらいながらチャレンジすることができました。分からないことや、困っていることを発信すると誰かが必ず助けてくれるのも、MIEEの教員コミュニティの素晴らしいところです」(岩本教諭)。

教育界のノーベル賞「グローバルティーチャー賞」のトップ50に入選

ほかにも同教諭はMIEEになるメリットとして、マイクロソフトから機材貸出のサポートが受けられる点を挙げた。「前任校ではパソコンはあってもネットワークが弱かったり、フリーズしてScratchを充分な環境で使えなかったりと、ハード面で課題がありました。そんな時に機材を借りて、プログラミング学習に挑戦できたことが良かったです」と岩本教諭。今後は、海外のMIEEの教育者とつながって授業をやってみたいと抱負を語ってくれた。

校種を越えた教師同士の学び合いや、想いを共有できるコミュニティがMIEEの魅力

続いて紹介するのは、北海道星置養護学校ほしみ高等学園の小林義安教諭だ。同教諭は2017年、北海道で最初のMIEEに選ばれた。そこから約3年、活動を広げ、今では北海道に20数名ものMIEEがいるという。ICT教育の取り組みにおいては、横に広げていくことが難しいと言われる中で、小林教諭は他の教育者を巻き込みながら、北海道のICT活用推進に尽力している点が評価されている。

北海道で最初のMIEEとなった小林教諭は、さまざまなワークショップや研修会などで講師を務め、この3年で北海道のMIEEは20人に増えた

小林教諭がMIEEに応募したのは、マイクロソフトの支援が得られることに魅力を感じたからだという。それまでも地域や学校向けに特別支援のICTイベントを開催していた小林教諭は、機材貸出やセミナー会場提供などのMIEEへの支援がメリットだった。特別支援の中でも知的障害を専門とする小林教諭は、地域貢献の一環として学校以外の場所でイベントを開催することも多く、こうした支援は、活動を続けるうえで大きなサポートだったと話す。

小林教諭は普段の授業で、どのような実践を行っているのか。力を入れているのは、コミュニケーションツールとしてのICT活用だという。特別支援におけるICT活用は肢体不自由の子どもたちに役立つアクセシビリティの用途が多いが、知的障害を持つ子どもたちが自分の意思決定や自己表現にICTを活かせるよう、日々の学習で取り組んでいる。特にこの1年は、鉛筆ではなく、タブレットで書くことに力を入れてきた。鉛筆で書かせることを頑張るのではなく、子どもたちが表現しやすいツールを使いながら、自分の言いたいことを伝えられる力を伸ばすというのだ。

画面を見ながら答案を書く学習では、鉛筆で書かないことで、内的な想いを表現できる生徒が増え、自己有用感の向上も見られるという
近隣の高校との交流で、学校祭の協力依頼文を作成するときも、タブレットを使うことで先生が作ったデータを自分たちで推敲できる

この取り組みについては、同じMIEEである東京学芸大学附属小金井小学校の鈴木秀樹教諭の実践を見て、“自分もやってみよう”と思ったと小林教諭は話す。「MIEEのコミュニティは、先生方の豊富な実践を学べるのがメリットです。他の先生の実践を知り、咀嚼して、自分なりのものを作っていく。私は高校の教員ですが、MIEEの校種を越えたつながりのおかげで小学校の実践事例も知ることができ、とても役に立ちます」(小林教諭)。

ICTの活用に取り組む教員を広げていく取り組みについて、小林教諭は「先生方の引き出しを増やすようなことを、一緒にやるようにしています」と話す。それも、むずかしいことではない。一緒に何かの作業をしながら “これを使えば、こんな授業ができるよ”と話したり、“LANケーブルを作るから手伝って”と声をかけたりと、普段のコミュニケーションの中に気軽にICTについて話す機会を設けているという。

また休みの日のイベントについては、“地域の子どもたちを教えるのも勉強になるよ”と誘ったりもする。教育者として、学校以外にチャレンジできる場を提供し、地域に貢献していく“やりがい”を若い世代にも伝えたい考えだ。「自分がメインでやるのではなく、仲間と一緒に取り組む感覚を大事にしています。あとはSNSもうまく使って、楽しく取り組んでいるところを発信していますね」(小林教諭)。リアルな関わりとネットの発信力を活かして、“自分もやって見よう”と思えるきっかけを作っている。

プログラミングの授業やワークショップの実践も豊富な小林教諭は、遊ぶ感覚でプログラミングが学べるように工夫することで、「いつの間にかプログラミングを体験していたり、気づけばICTを使っていた、そんな感覚が大事だと思っています」と語る

「教師は現場でどうしても1人で頑張らないといけないときがあります。その部分を共有できるのはMIEEのつながりがあったから。横のつながりを持つことは教師の世界を広げてくれます」と小林教諭。同じ想いを持つ仲間がいることで、現場で取り組むモチベーションにもつながっているようだ。

コロナ禍にある全国の学校には、“自分も何かICTでできることを…”と想いを持っている教育者はたくさんいるだろう。そうした想いをカタチに変え、現場の教育ICTを前進させるなら、ぜひMIEEにチャレンジしてほしい。きっと、今までとは違う教師の世界が見えるはずだ。

2020-2021年度 マイクロソフト認定教育イノベーター募集概要
対象者日本国内の初等中等教育 および 特別支援教育を行う学校にて ICT 活用の実践を行っている教育関係者
参加費用無料
申込締切2020年7月15日(結果連絡は同8月31日)
支援内容認定教育イノベーターへの登録(Web掲載)と名刺の提供
Office 365 Education の利用
Minecraft:Education Edition の利用
認定者を対象にした研修の提供
認定者登壇のセミナーやイベントの周知や弊社オフィス内セミナールームの貸与
タブレットPC端末の貸与(期間や台数に規定あり)
※変更する可能性有り
応募方法 マイクロソフト認定教育イノベーター2020-2021年度プログラムの手順に則って登録

[制作協力:日本マイクロソフト株式会社]

神谷加代

こどもとIT編集記者。「教育×IT」をテーマに教育分野におけるIT活用やプログラミング教育、EdTech関連の話題を多数取材。著書に『子どもにプログラミングを学ばせるべき6つの理由 「21世紀型スキル」で社会を生き抜く』(共著、インプレス)、『マインクラフトで身につく5つの力』(共著、学研プラス)など。