こどもとIT - 教員のICT活用
「体験」と「交流」でつながり、現場のICT活用を前進させる教育者たち
――Microsoft Education Day 2020 レポート(後編)
2020年5月13日 08:00
マイクロソフト認定教育イノベーター(MIEE)に認定された教育者らは、全国各地でICT活用の普及や、教育者同士の交流を目的にしたイベント、セミナーを開催している。なかでも、一番大きなイベントが毎年2月に行われる体験型教育カンファレンス「Microsoft Education Day Tokyo 2020」で、今年は2020年2月15日に日本マイクロソフト本社で開催された(前半の様子は『プログラミング、特別支援、学校組織改革など、ICTで学びを支え・進める教育者たちの成果が集結』を参照)。
本稿では、MIEEによるワークショップやポスターセッションなど後半の様子を紹介しよう。
体験できるワークショップで、明日への活用につなげる!
「Microsoft Education Day Tokyo 2020」は、マイクロソフト認定教育イノベーター(MIEE)に認定された教育者らが中心となって企画されたカンファレンスだ。教育者のアイデアが起点になっているため、ワークショップやセミナーなども現場目線で、子どもたちの興味を惹きそうな内容が多い。また学校現場でICT活用に取り組む教育者らが多数参加するのも同カンファレンスの特徴で、当日は参加者同士が交流する場面も多く見られた。
そんなMicrosoft Education Dayにおいて、午後から開催されたMIEEによるワークショップを紹介しよう。ワークショップは、「Sphero」や「micro:bit」などプログラミング教材を体験できるものが中心だったが、本稿ではAIを活用したプログラミングのワークショップ、特別支援で役立つアクセシビリティのワークショップを取り上げる。
「漫画家さんとAIを活用して受付キャラクターをつくろう」ワークショップ
同ワークショップの講師を務めたのは、青山学院高等部の安藤昇教諭。子どもたちがAIに親しむ授業はできないか。同教諭は、まずは教師がディープラーニングを体験してほしいと述べ、AIを活用した「Scratch」のプログラミング学習を行った。
ワークショップの冒頭は、“AIとは何か”、“ディープラーニングとは何か”、基本的な内容の説明からスタート。安藤教諭は複数の鳥の写真を提示し、その中からコンピューターがカラスを認識するにはどのような方法があるのか。プログラミングとAIを例にあげて説明した。そして、カラスの画像をたくさん見せて学習させるディープランニングを紹介し、コンピューターがカラスの特徴を自分で学習し、類似点を探して確率の高いものをカラスだと認識すると、参加者に対して分かりやすく伝えた。
その後は、“早速AIを使ってみよう”ということで、Scratch3.0で使用できる「TM2Scratch拡張機能」を用いて、自分の笑顔、怒った顔、普通の顔をAIに学習させ認識させるプログラミングに挑戦した。TM2Scratch拡張機能は、画像認識AIや音声認識AIを活用したプログラムをScratch3.0で作ることが可能で、参加者らはウェブカメラで自分の顔を撮影し、その写真をラベル付けすることでAIが学習・認識していく過程を体験した。同機能については、未来の学びコンソーシアムのページで使用方法が紹介されているので、参考にしてほしい。
これを踏まえて、次はじゃんけんプログラムの作成へ。最初に「グー」「チョキ」「パー」をウェブカメラで撮影してラベル付けし、AIに学習させる。その後、じゃんけんのどれかをウェブカメラに見せるとAIが認識して、「グー」のときは「グー」とキャラクターが言葉を発するプログラミングに挑戦した。ウェブカメラで撮影するとき、上手くAIが学習してくれない場面もあったが、AIは完璧ではなく、ミスがあることも体験しながら、楽しくAIについて学んだ。安藤教諭は「AIとはどういうものかを知り、どんなことに活用できるか。そこを考えるような授業を作ってほしい」と参加者らに伝えた。
「学びに困難さのある子どもの支援と最新のアクセシビリティ」ワークショップ
続いて紹介するワークショップは、午前中のセミナーにも登壇した高崎健康福祉大学の村田美和氏によるものだ。同氏は、学習に困難さのある子どもたちの宿題、授業、テストでの支援方法と、マイクロソフトの最新のアクセシビリティ機能が体験できるワークショップを開催した。
最初は学習支援に使えるデバイスの紹介から。村田氏はXboxのアダプティブコントローラーを取り上げ、肢体不自由の子どもの学習支援に非常に有効なデバイスだと述べた。「カチカチとクリックもでき、マウスにもなる。ゲームもできるので、病院内でも使われるようになってきた」と説明した。
続いては、合理的配慮とは何かについて、午前中のセミナー内容を軽くおさらいをした後、通常学級の学習支援にも有効な「OneNote」を活用したノートテイキングを参加者らが体験した。村田氏は、OneNoteをノートテイキングで使用する中学生の例を紹介しつつ、操作方法を説明。タッチした部分から自由に書けること、プリントを読み込んで書き込みしやすいこと、UDデジタル教科書体が使用でき、読み書きが困難な子どもたちに非常に好評であることなど、OneNoteのメリットも伝えた。参加者たちは全員OneNoteに触るのが初めて。操作方法などを確認しながら、自由に触って体験した。
その後は、読むことが難しい児童生徒のためのオンライン図書館「Access Reading」を活用した教科書の電子データの活用法について紹介した。同サイトは、障害のある児童生徒のために個人単位や学校単位で利用できるサービスで、教科書データを入手できる(利用は登録制)。教科書データはWord形式とEPUB形式の2つが用意されており、この日はWord形式のサンプルデータをダウンロードし、WordやOneNoteで使用できる「イマーシブリーダー」を活用して、テキストの読み上げ機能を体験した。
村田氏はほかにも、書きが苦手な子がプリントをOneNoteへ取り込むために台形補正機能に優れたカメラアプリ「Microsoft Office Lens」や、読みの苦手な子のためにマイクロソフトが開発した視覚障碍者向けトーキングカメラアプリ「Seeing AI」などのデモを披露。特にSeeing AIは元々全盲の人向けのアプリではあるが、スマートフォンのカメラで撮ったテキストを認識し読み上げてくれる機能は読みの苦手な子の学習支援にも有効だという。村田氏は「1人1台の環境になれば、特別な説明をしなくても、このようなツールを皆が使えるようになるのではないか。学習障害と診断されていない子も使える環境をつくってほしい」と想いを述べた。
取り組みを披露し交流し合う、25名の教育者による圧巻のポスターセッション
ここからは、自らの取り組みを披露した25名のMIEEによるポスターセッションを紹介しよう。MIEEは、教育機関でICT活用に取り組む教育者という共通点はあるが、それぞれが活躍する地域や校種はさまざま。こうした大きなカンファレンスを通して、一同に取り組みを知る機会は貴重で、多様な教育実践を知ることができる。当日は参加者らも交流しながら活発に情報共有、情報交換が行われていた。
以下、25名のMIEEを順にあげていく。
﨑村紅葉教諭(東京都 三鷹市立第一小学校)「The Moving Pictures!! ~音楽に合わせて動く絵を描こう~」
小6図画工作の授業で、ピアノの生演奏を聞いて感じたイメージをViscuitで表現。完成した作品をプロジェクションマッピングで演出し、三鷹市のコンサートや学校の展覧会で披露した。ピアニストとの実践は「東京新聞教育賞」を受賞、展覧会はICT夢コンテストにて「文部科学大臣賞」を受賞。
鈴木康晴教諭(東京都 江戸川区立東小松川小学校)「小学校段階でのプログラミング」
「Viscuit」を運営する合同会社デジタルポケットと連携し、4~6年生の図画工作でプログラミングを実施。4年生はクラス全体で楽しめる「ビスケットランド」、5年生はペアになって身体の動きを表現、6年生は回転やループを活かして模様づくりに取り組んだ。
亀田多江教授(創価女子短期大学)「地域福祉現場での実践を通したコミュニケーションロボットの活用可能性の学び」
コミュニケーションロボットの有効性について、保育園、高齢者福祉施設、障がい児童福祉施設で実践に取り組んだ。学生たちは“ロボットだからこそ” 人の役に立てる可能性があることを知り、技術を活かすためには人を思いやる心も大事であることを学んだ。
村田美和氏・菅野陽太郎助教(高崎健康福祉大学)「中学校通常学級における作文指導 ~ツールとレベルを自分で選択する~」
「読み書き」が苦手で作文が書けない生徒がいることに着目。中1と中3の通常学級において、生徒が選択してICTを使える環境を用意し、作文の型を指導。作文が得意な生徒も、そうでない生徒も論理的な作文が書ける授業を実施した。
毛利泉教諭(東京都 荒川区立尾久西小学校)「アメリカの小学生とフリップグリッド(ビデオ共有ツール)で話そう!」
児童が外国人とコミュニケーションできる機会は少ない。この課題解決に対して「Flipgrid」を活用したアメリカの小学校との交流を紹介。すべての児童が自己紹介動画を作成し、共有ページで披露。フィードバックをもらい、英語を話したい意欲向上につなげた。
大高伸吾教諭(栃木県 大田原市立大田原小学校)「小学校における『外国語活動』×プログラミング教育」
小3外国語活動おいて「micro:bit」を活用したプログラミングを実施。さまざまな形を表示するプログラムを英語モードで作成し、友だちが欲しい形を英語で聞いてmicro:bitで表現した。教科書に載っていない形も興味を持ち、英語で伝えることができた。
川上尚司教諭(東京都 武蔵村山市立第八小学校)「公立小学校内CoderDojo校内実践」
ICT環境の地域格差を克服する環境づくりをめざして、プログラミングに関する学習活動のE領域で、小学校校内にプライベートのCoderDojoを立ち上げた。そのプロセスや具体的な方法について紹介。保護者の関心が高く、数名は定期的に通うようになったという。
山口禎恵教諭(茨城県 つくば市立学園の森義務教育学校)「子どもたちの真の『学び』へ繋げる自立活動~自尊感情が高められるように,ICTを活用して~」
自閉症情緒障害学級2~8年生を対象にembotを使った動画づくりや、マインクラフトによる創作活動、Springin'を活用したプログラミングの学習を実施。苦手なことを頑張るのではなく、好きなことを生かして自尊感情を高め、学びたい意欲につなげる学習をめざした。
加藤朋生教諭(宝仙学園小学校)「チーム学校ビルディング」
時代に合わせた学校をめざし、組織はどう変わるべきか。「教師全員でつくるディプロマポリシー」や「研究授業の廃止」、教育関係者を巻き込む「宝仙学園小学校のハブ空港化」など、同校が2年間で取り組んできた学校改革の内容を紹介した。
鈴木英之教諭(愛知県 新城市立鳳来寺小学校)「日常の学習への手軽なICT活用」
Microsoft Excelを活用し、効果的なICT活用をめざした教材を開発。「1分間の計算ドリル」や「地図記号のフラッシュカード」、計算手順を確認できる「たし算ひき算のひっ算」などを紹介。また小2のふるさと探検では教室と家庭の資料共有にMicrosoft OneDriveも活用した。
澤田千代子氏(慶應義塾大学SFC研究所)「グローバルなコンピュータサイエンス教育とマインクラフト~AI教育を視野にいれたプログラミング教育とは~」
教育版マインクラフトを活用し、コンピュータサイエンス教育の実践例が学べるワークショップを実施。「MakeCode for Minecraft」によるプログラミングや、レッドストーン回路、化学実験ができる「Chemistry Resource Pack」使った学習を行った。
前多昌顕教諭(青森県 つがる市立育成小学校)「ふだん使いのFlipgrid」
学習のあらゆる場面で活用できるFlipgridの事例を紹介。授業の振り返り、簡易プレゼンテーション、歌唱・演奏のテスト、外国との交流、音読練習など、動画共有による学習のメリットは多い。児童が驚くほどスラスラと発表できるようになったと手応えも。
和田祐二教諭(東京都立新宿山吹高等学校)「マインクラフトを使った課題解決型学習」
同校の情報科を知ってもらうために、生徒たちがイベントを企画し、運営する課題解決型学習に挑戦。中学生が楽しめるマインクラフトのゲームを制作し、ゲームの世界観をパンフレットや動画でも表現した。外部の講師やマイクロソフトからも指導を受け本格的に取り組んだ。
ラムジー・ラムジー教諭(武蔵野大学附属千代田高等学院)「『僕のプログラミングアカデミア』! アニメでゼロからプログラミングの基本を学ぼう!」
中3と高1を対象にPythonを活用した英語と日本語によるプログラミング授業実践を紹介。人気アニメ「僕のヒーローアカデミア」をモチーフに、順序、選択、繰り返しというプログラミングの基本を学び、最終的にヒーローの個性を当てるゲームをつくる。
薄井健太教諭(栃木県 大田原市大田原小学校)「社会科×プログラミング 江戸を世界一人口の多い町に発展させよう」
小6社会で自作教材によるシミュレーションに挑戦。江戸の町は人口がどのように増えたのか。Scratch3.0で作られた江戸の町の中に、家を建築し人口が増えるシミュレーションを体験する。土地の開拓と文化の起こりの両面から江戸の発展を考えることができた。
田中愛教諭(長野県 伊那市立伊奈東小学校)・桂本憲一教諭(長野県 松本市開智小学校)「keyタッチ×scratchで創造的思考を育むプログラミング教育」
特別支援学級と小学6年生、2つのクラスで創造的思考を取り入れたプログラミング学習を実施。MakeyMakeyを改良して作った入力デバイス「Keyタッチ」を用いて、特別支援では楽器づくり、小学6年生はゲームコントローラーづくりに取り組んだ。
竹林芳法教諭(大分県 臼杵市立福良ヶ丘小学校)「教科でビスケットを活用(プログラミングB分類)」
Viscuitを使って、教科内でプログラミング学習を実施。小2国語は主語述語プログラム、小2算数でしきつめ模様プログラム、小6理科で光合成のシミュレーションプログラムなど多くの教科で取り組んだ。学びを深めるツールとして有効な手立てであるという。
柳川和歌子氏(工学院大学附属中学校・高等学校)「マインクラフトを使った課題解決」
高校生が小学生に対してマインクラフトを用いたeスポーツイベントを開催。生徒たちはマインクラフトでゲームを自作、アイデア出しから制作まで自分たちで進めた。他者を満足させるゲームやイベントを作るにはどうすればいいか、その価値と課題を考えた。
渡邉祐子教諭(北海道 札幌市立新発寒小学校)「ビスケットで、物語の世界を表現しよう」
小3国語と図工を組み合わせ、プログラミング学習を実施。『モチモチの木』を題材に、印象に残った場面をViscuitで表現。情景を表した風景画や主人公の行動を表した紙芝居タイプ、ビスケットのタッチ機能を活かしたゲームタイプなど、さまざまな作品ができあがった。
谷岡広樹助教(徳島大学、CoderDojo Tokushima)「表現のためのプログラミング」
プログラミングを自己表現の手段として活用した実践事例を紹介。小5国語では枕草子『秋は夕暮れ』を題材にScratchで秋を表現。徳島大学と徳島県が実施した夏休みのイベントでは、教育版マインクラフトでエージェントが阿波おどりをするプログラミングに挑戦した。
北代大宙教諭(神奈川県 横浜市立桂台小学校)「電気と私たちの生活~情報活用能力育成を図るための授業力向上とICT機器を効果的に活用した授業デザイン」
小6理科でMESHを活用。学校内でエネルギーが無駄に使われている場所を探し、センサーを活用して、効率的にエネルギーを使うプログラムを考えた。プログラムで制御された場合とそうでない場合をコンデンサーの残量で比較し、プログラミングの良さを実感した。
圓井健史教諭(兵庫県 加東市立社中学校)「中学校英語におけるICT(機器・アプリ)の利活用」
中1通常学級と特別支援学級1~3年生の英語の授業で、ICTを活用して表現活動の充実をめざす個人学習、協同学習を実施。グループで対話場面を録画し、クラス内で共有したり、オリジナル英作文を授業支援システムで共有。生徒たちは工夫を凝らし、積極的に取り組んだ。
関口悠教諭(明照学園樹徳高等学校)「すべての子どもにプログラミングを」
CoderDojo前橋を立ち上げた経緯やこれまでの実践、プログラミング教育に地域として取り組む課題点などについて紹介。子どもたちのモチベーション維持がむずかしいことや、作りたいものを作るというCoderDojoの理念への理解、経済的な課題などを取り上げた。
金洋太教諭(宮城県 登米市立佐沼小学校)「学びを深める『micro:bit』」
小4総合的な学習の時間を使って「福祉」をテーマにした課題解決型学習のプログラミング授業を実施。身体的障害のある人について調べ、キャップハンディ体験の経験を通して、micro:bitでできる製品を考案。段差があったら教える製品などをmicro:bitで作成した。
海外の教育者らの実践紹介(ファシリテーター:堀尾美央教諭 滋賀県立米原高等学校)
他のポスターセッションとは一線を画し、海外の教育者らの実践をポスターセッションで聞くコーナーも設けられた。SkypeとFlipgridを使ってSDGsの学習に取り組んだベトナムの教育者や、マインクラフトを課題解決型学習に活用したマレーシアの教諭、遠隔授業に取り組むベルギーの教諭など、国を越えてICTでつながるMIEEのコミュニティーの広がりを感じることができた。
以上がポスターセッションの内容となる。
このように「Microsoft Education Day 2020」は、ICTを通して教育を良くしたいと想う教育者らが集まり、交流するカンファレンスで、学校では得られない教育者同士のつながりを築けるのが魅力だ。学校現場は未だ、ICT活用を進めるにあたりハードルも多いが、教育者同士が校種や地域を越えてつながることで、一人ひとりの現場での挑戦が増えるにちがいない。子どもたちの学びのために、“自分もできる”と思う教育者が増えてほしい。
ちなみに、マイクロソフトでは、MIEEによるセミナーや研修などを全国各地で定期的に実施している。コロナ禍の現在は、MIEEによる実践報告を含むMIEE応募説明会を2020年6月24日18:00~19:30(第1回)と6月27日14:00~15:30(第2回)にオンラインで開催する予定とのことだ(詳細はhttps://aka.ms/miee2020jを参照)。MIEEの活動に興味のある教育者は、こちらもぜひ参加してみてほしい。