教員のICT活用 - こどもとIT

先生たちがマインクラフトとプログラミングを学ぶ夕べ

――「祝10周年!マイクラ教育 Night for Teachers」レポート

2019年6月20日、日本マイクロソフトは「祝10周年!マイクラ教育 Night for Teachers」と題し、教育版マインクラフト「Minecraft: Education Edition」を体験できる教員向けのワークショップを開催した。

子どもたちに絶大な人気を誇るマインクラフトであるが、昨今は教育分野での周知も広がり、プログラミング教育や協働学習のツールに活用したいと話す教育者が増えているという。一方で、“マインクラフトを触ったことがない”と話す教育者も多く、このような機会が設けられた。当日は30名近くの教育者が集まり、カジュアルな雰囲気でマインクラフトを楽しんだ。

マインクラフトは2009年にリリースされてから10周年を迎えた

ゲーム誕生から10周年!新たなテクノロジーで広がるマインクラフトの限りない世界

ワークショップの最初は、10周年を迎えたマインクラフトの近況について紹介された。進行役を務めたのは、日本マイクロソフト パブリックセクター統括本部 文教本部 ティーチャーエンゲージメントマネージャーの石山将氏と、Minecraft公式プロマインクラフターのタツナミシュウイチ氏だ。

直近のニュースで、マインクラフトファンを一番喜ばせたのは、マインクラフトがついに世界で一番売れたゲームに君臨したことだ。2019年5月にマイクロソフトは、マインクラフトの有料版が1億7600万本を突破し、それまで1位だったテトリスを抜いて2位になったと発表した。2009年に誕生したマインクラフトであるが、その人気は未だ衰えることがない。

10周年を記念して無料配信された公式配布マップは、Java版とBEの両方に対応
2009年当時のマインクラフトをブラウザ上で楽しめる「Minecraft Classic」も公開された

ゲーム内のストアでは、10周年を祝って無料の記念マップが配布されているほか、公式サイトでは2009年当時のマインクラフトを楽しむことができる「Minecraft Classic」が無料で公開されている。ほかにも、マイクロソフトからは10周年を記念してマインクラフトのARゲーム「Minecraft Earth」も発表された。

マイクロソフトが発表したマインクラフトのARゲーム「Minecraft Earth」の動画も、参加者たちに共有した

また、教育版マインクラフトにおける大きなニュースとして、Microsoft Azureのマーケットプレースで、教育版マインクラフトのサーバーが提供される、という紹介もあった。今までは、教育版マインクラフトでLAN外とマルチプレイを行うときは、ポート開放が必要であったが、Azureのサーバーが提供されることで、その煩雑な作業が不要になった。これにより、学校ではよりマルチプレイが実施しやすくなるはずだ。ちなみに、一度にAzureのサーバーにアクセスできるのは、30人までとのことだ。

Microsoft Azureのマーケットプレースで、教育版マインクラフトのサーバー提供開始

子どもたちは「想像」「調査」「試行」「修正」「発信」の思考プロセスで学ぶ

続いて、マインクラフトの教育利用について語られた。仲間で一つの建造物を造ることによる協働的な学びの側面や、テーマに基づいて目的を達成する課題解決型学習、電子回路といった装置の仕組みが学べるレッドストーンなど、マインクラフトはあらゆる学習で利用できるという。

マインクラフトが教育に有効である理由は、子どもたちがものづくりをしながら「想像」「調査」「試行」「修正」「発信」の思考プロセスに自然と身を置けることだと説明した。

例えば、建築の場合、作りたいものをイメージし、それを形にするために動画やネットで情報を集め、実際に手を動かして作り始める。しかし、大抵の場合は、一度で思い通りの形にすることができず、何度も修正を行い、完成に辿り着く。そうしてできあがった作品は、誰かに伝えたい気持ちを育み、発信を促す。こうした思考サイクルは、子どもたちが熱くなれるマインクラフトだからこそ、築きやすい学習環境だというのだ。

マインクラフトでは、子どもたちが「想像」「調査」「試行」「修正」「発信」の思考プロセスで、ものづくりに取り組む

その後、参加者たちが実際に教育版マインクラフトを体験する時間へと移った。この日、初めてマインクラフトを触るという参加者も多かったため、まずは基本操作のレクチャーからスタート。そして、ブロックが置けるようになると、参加者たちは「5×5×5の家をつくる」というお題に挑戦した。5ブロック四方の家であれば、デザインや材質は好きに作ってよいという自由度の高いルールだ。なかには、操作がおぼつかない参加者もいたが、同じテーブル同士で互いに教え合ったりしながら、終始、和やかな雰囲気で進められた。

ここでタツナミ氏は例として、数文字のコマンドを1つ入力するだけで、前出の5×5×5の家を作ってみせた。もちろん、これはプログラミングで操作されているわけだが、同氏は「プログラミングであれば、同じ家をいくつも作ることができたり、数値を変更するだけでサイズの違う家を瞬時に作ることができる」など、プログラミングを使うメリットを語った。

「house 5」とコマンドを入力すると一瞬にして5ブロック四方の家が作られ、参加者から感嘆の声が漏れる

ここで参加者たちも、教育版マインクラフトを活用したプログラミングにも挑戦。教育版マインクラフトでは、「MakeCode for Minecraft」を使ってプログラミングすることで、“穴を掘る”、“ブロックを置く”といった作業を自動化できる。MakeCodeはブロックをつなげてプログラムを組み立てるビジュアルプログラミングが可能であるため、学校の授業でも活用が広がっているのだ。

教育版マインクラフトでプログラミングを体験

ちなみに、筆者の個人的な想いであるが、教育版マインクラフトを使ってプログラミング学習を行う際は、ぜひともこのワークショップの流れを参考にして体験させてみてほしい。なぜなら、マインクラフトでプログラミングを行う時にありがちなのが、“手で操作した方が早いから”という理由で、多くの子どもたちはプログラミングをしないまま、手動で作品を作ってしまうからだ。

もちろん、一つひとつのブロックを積み上げていくマインクラフトの楽しさも理解できるが、「手動でできること」「プログラミングを使った方が良いこと」の違いにも気づいてほしい。マインクラフトは、その“気づき”を与えるのには最適なコンテンツであり、プログラミングを通して、“同じものがいくつもできる”、“手動では作れないような巨大建築ができる”といった体験をすることが大事だと考えている。

子どもたちのアウトプットの場として「Minecraftカップ」に挑戦しよう

休憩を挟んで、後半では「Minecraftカップ 2019 全国大会」(以下Minecraftカップ)について同大会運営委員会 事務局次長で株式会社コアース代表取締役社長の土井隆氏から紹介があった。

「Minecraft カップ2019 全国大会」の概要についても紹介

Minecraftカップは、デジタルものづくりの機会創出をめざす取り組みで、教育版マインクラフトを活用したコンテスト。現在、作品の募集期間中となっている。今年のテーマは「スポーツ施設のある僕・私の街ワクワクする『まち』をデザインしよう」で、子どもたちはチームを形成し、自分たちの考える街をマインクラフトで再現して、競い合う。

同コンテストは、単に作品の最終形を競い合うのではなく、審査の評価ポイントにプログラミングやレッドストーンの活用が含まれる。大人数を収容するスタジアム、広い土地を整地して作り上げるコートなど、プログラミングを活用したものづくりの評価が高いという。教育版マインクラフトでプログラミング学習に取り組む教育者は、ひとつのアウトプットとして同コンテンストに参加してみるのも、子どもたちのモチベーションを刺激するはずだ。

教育版マインクラフトを入手するには

お気づきの方も多いと思うが、ここまで紹介した教育版マインクラフトは、一般的に販売されているマインクラフトと入手方法が異なる。利用するためには、教育機関に向けたライセンス契約が必要となるのだ。そのライセンス形態について、株式会社FIXER Universal KIDS Headmasterの田鎖美穂氏から利用手順についての説明もあった。

教育版マインクラフトを利用するには、基本的には「Office 365 Educationのアカウントを取得」し、「無料試用版をダウンロードする」、その後に「ライセンスの購入と管理」を行う流れとなる。契約できるのは、マイクロソフトが定めた教育機関とそのユーザーに限られているので注意が必要だ。1ライセンス500円(1年契約、税別)で、契約期間中であれば1ライセンスあたり1ヶ月50円で追加ができる。ただし、この金額は取り扱いパートナーによって異なる場合があり、FIXERでは1ユーザーあたり初期費用500円、ライセンス費用月額50円(いずれも税別)で取り扱っているそうだ。

教育版マインクラフトの利用を開始するための手順

ちなみに、Minecraftカップに関しては、教育版マインクラフトのアカウントを持っていなくても、募集期間中のみライセンスが貸与されるので、それを使って作品を応募することが可能だ。また、前出のマイクロソフトが定めた教育機関に所属していなくても参加できるため、今まで教育版マインクラフトを試したくてもできなかったという教育者は、ぜひ、この機会を活かしてほしい。

これまで日本においてマインクラフトは“ゲーム”だと思われており、学校現場に浸透するのは難しかった。しかし、最近ではそうした見方も少しずつ変化し、マインクラフトの良さを教育に取り入れる教育者が増えているのは喜ばしいことだ。学習に対する主体性を求めるなら、これほど子どもたちが熱くなるコンテンツを使わない手はない。これからもマインクラフトが学びを変えるツールとして、多くの教育者に広がっていってほしい。

【お詫びと訂正】初出時、教育版マインクラフトの金額を「初期費用として1ユーザーにつき500円となるが、それ以降は1ユーザー月額50円で利用できる」としておりましたが、「1ライセンス500円(1年契約、税別)で、契約期間中であれば1ライセンスあたり1ヶ月50円で追加ができる」の誤りでした。お詫びして訂正いたします。
【追加のお詫びと訂正】教育版マインクラフトの金額は、取り扱いパートナーによって異なる旨の追記をいたしました。重ねてお詫びいたします。

神谷加代

教育ITライター。「教育×IT」をテーマに教育分野におけるIT活用やプログラミング教育、EdTech関連の話題を多数取材。著書に『子どもにプログラミングを学ばせるべき6つの理由 「21世紀型スキル」で社会を生き抜く』(共著、インプレス)、『マインクラフトで身につく5つの力』(共著、学研プラス)など。