こどもとIT

ICT×留学×探究学習で、生徒の世界を広げる中高一貫校

――東京成徳⼤学中学・⾼等学校の取り組み②

1人1台の学びが当たり前になると、一斉授業だけではない、多様な学びのカタチが可能になる。教科書に載っていない知識を獲得したり、学校や国を超えて多様な人とつながったり、ICTは生徒たちの世界を広げる武器にもなる。

こうしたICTのメリットを活かし、学びの選択肢を広げているのが、Appleの先進的教育機関「Apple Distinguished School(以下、ADS)」にも選ばれている、東京成徳大学中学・高等学校だ。

前回記事では、同校の中学生が日常的にiPadを使い、授業のレポーティングなど学びのあらゆる場面で自然にICTを活用する姿をお届けしたが、本稿では、同校の高校生たちが取り組む探究ゼミを紹介しよう。2022年度から実施される高校の新学習指導要領では探究学習が重視されるため、保護者としても知っておきたい内容だ。

東京成徳大学中学・高等学校は、日本に10校しかない「Apple Distinguished School」のひとつ

自主性・多様性・創造性を伸ばすための「探究ゼミ」を導入

東京成徳大学中学・高等学校は高入生を入れない、6年間の完全中高一貫校

東京成徳大学中学・高等学校(以下、東京成徳中高 / 東京都北区)は、学力・グローバル力・人間力を伸ばす教育を重視し、多様な未来を自分で切り拓ける人材の育成をめざしている。ニュージーランドへの全員留学や、1人1台のiPadでICTスキルの育成に取り組むなど、教育内容を充実させてきた。

そんな同校が昨年より新たに取り組んでいるのが、高校1年(4年次)の探究ゼミだ。「人と自然の関わり」や「アプリケーションを開発しよう」など、7つのゼミの中から自分の興味あるテーマをひとつ選んで、1年かけて課題に取り組んでいく。

同校の探究ゼミでめざしているものは、将来に必要な「自主性」「多様性」「創造性」を伸ばすこと。中学3年(3年次)でニュージーランド留学を経験し、自分の視野を広げた生徒たちがさらに高校生で世界や価値観を広げられるよう、多様な学びをめざす。自分は一体何がしたいのか、何に興味があるのか。専門分野に触れながら、自分と向き合い、進路や将来につながる引き出しを増やしていく。

東京成徳大学中学・高等学校 ICT活用推進部 木内雄太教諭

同校のICT活用推進部の木内雄太教諭は「生徒たちの主体性や多様性、チャレンジ精神などをもっと伸ばしていきたいですが、教科学習の時間だけでは足りません。そのため、生徒が自分の興味あるテーマに向き合って、主体的に取り組める探究ゼミを導入しました。高校1年の段階では、進路を決めていない生徒たちも多く、まずは興味を持てるテーマをやってみて、自分の世界を広げるきっかけにしてほしいと考えています」と語る。

自ら選び・動く探究ゼミは、ビジネスコンテストで3位入賞する成果も

東京成徳中高の探究ゼミは、自然環境やプログラミング、芸術やSDGsなど、さまざまな領域の講座から、自分が興味を持ったゼミを選ぶ。取材した第1回目の活動では、自分がゼミで何をやりたいのか、プレゼンで発表し合ったり、これから扱う課題のリサーチやアイデア出しなどに取り組んでいた。生徒の傍らにはiPadがあり、写真に記録したり、ネットの情報にアクセスしたり、自分の考えをまとめてアウトプットしたりと、主体的に学ぶツールとして活かされている。

「沖縄から学ぶ基礎教養」のゼミ。沖縄を通して環境問題、戦争問題、経済格差など、日本が抱える社会課題について考える。図書室で書籍やネットの情報を見ながら、テーマを絞っていく
「ものづくりとSTEAM」のゼミ。木のものづくりや、ラジオ製作、レーザーカッターや3Dプリンタなど、手を動かすものづくりを体験。この日は教員が学内からかき集めた電化製品を生徒が分解し、中身をiPadで撮影して構造を理解するという内容だった
「人と自然の関わり」に関するゼミ。自然環境の現状と保護活動を学ぶ。この日は、自分の好きな自然について発表し合った
「芸術の可能性を探ってみよう」のゼミ。音楽×物理の世界を体現するグラスハープについてアイデアを出し合う生徒たち
「アプリケーションを開発しよう」のゼミ。大学と連携して、Xcodeを使ったiOSアプリの開発に取り組む。このゼミを選ぶ生徒はiPadからMacBookへ買い替えるという。初回のゼミではMacBook購入についての説明もされる
「美味しい珈琲を淹れよう」のゼミ。喫茶店という空間や珈琲の栽培や焙煎方法を学ぶことで、生産者と消費者の立場で幸せとは何かを考える。「はてなブログ」や「note」で自分が学んだことの情報発信にも挑戦。初回はiPadで電子書籍を読みながら珈琲を楽しむ時間も
「SGDsと社会貢献」のゼミ。SDGsの社会課題を理解し、社会貢献できるビジネスプランを考える。高校生がチャレンジできるビジネスコンテスト「SAGE JAPAN」にも挑戦し、日本国内予選を通過すれば世界大会にも行ける。この日はゼミのメンバーでチームワークを深めるマシュマロチャレンジを楽しんでいた

生徒たちに自分が選んだゼミについて選択理由を聞いたところ、「ニュージーランド留学をして、日本をもっと知りたいと思い、沖縄のゼミを選んだ」という生徒や、「小さい頃から、ものづくりが好きだった」「プログラミングは将来に役立つと思う」といった生徒たちの意見が聞かれた。木内教諭は探究ゼミについて「自分は何が好きで、何に興味があるのか。生徒自身が迷いながらも自分で選び、自分でやると決めることが大切です。主体性を育むためにも、このプロセスを大切にしています」と語る。

高校2年生の渡部りささん

生徒たちは探究ゼミでどのような内容に取り組むのか。昨年、「SDGsと社会貢献」のゼミを受講した、高校2年生の渡部りささんのエピソードを紹介しよう。渡部さんのグループ「Sirius」は、東京成徳中高が女子用のスラックスを導入したことをきっかけにLGBTに興味を持ち、ゼミのテーマとして選択。自分がLGBTでなくても、LGBTの人を支援する「アライ」の存在を知り、もっと社会に広めようと動きだした。

現状調査と問題点を整理するため、中学3年生にGoogle FormでLGBTの認知度アンケートを実施。LGBT当事者のセミナーの聴講や、LGBT支援者を紹介してもらい理解を深めていった。そして、「アライ」の存在を広げるには可視化することが必要だという気づきから、中学生向けのセミナーの開催、教師からの寄付金募集、グッズの制作・販売、という3つのアクションを通してLGBTの理解者を広げていったという。この一連の取り組みは「SAGE JAPAN」という高校生向けのビジネスコンテストに応募し、見事3位に輝いた。

グッズのイラストや資料などはiPadでデザインしたという。制作前にどのようなグッズなら購入対象になるのかもGoogle Formでアンケートを実施した

木内教諭は探究ゼミについて、生徒たちが社会とつながり、自分から動くことを大事にしていると話す。「プロジェクトが予定通りに進まなかったり、自分たちのアイデアを上手くカタチにできなかったり、やるべきことが分かっていても一歩が踏み出せなかったりと、高校1年生は失敗も多く、実際にやってみないと分からないことが多くあります。そうした経験を探究ゼミでたくさん重ねて、失敗しても、次の行動につなげられるようになってほしい。“先生に言われたことは上手くできるけど、自分から動くことはできません”という人にはなってほしくないですからね」と語る。

渡部さんも、探究ゼミに限らず、東京成徳中高では自分で選べる機会が多く、自発的に取り組む活動が多いのが良いと話してくれた。普段の学びの中で、自分の成長を実感できる機会を持っていることがよく分かる。

当たり前のICT活用は、実はとても恵まれた環境だった

探究ゼミやニュージーランド留学など特色ある教育を実施し、ICTスキルの育成にも取り組む東京成徳中高。ここで学ぶ生徒たちは同校の教育をどのように感じているのだろうか。

渡部さんは、「留学が決め手でこの学校を選びましたが、ニュージーランド留学では英語力も伸びて、視野も広がりました。将来は英語を活かして、海外の文化を学んでいきたいと考えています。小さい頃から英語に興味がありましたが、この学校で早くに留学を経験し、この勉強を続けていこうと意思も固まりました」と話してくれた。

高校2年の大橋紡さん

高校2年の大橋紡さんは、ニュージーランド留学について「英語力も伸びましたが、モノの見方や価値観が大きく変わりました。自分は先生になりたいと思っていましたが、ニュージーランドに行って、日本人の先生が日本語学校で教えているのを見て、海外で仕事をする選択肢もあると思えるようになりました」と語ってくれた。

またニュージーランドの学校では、ICT活用がかなり進んでいたことも驚きだったと大橋さん。「海外の学校はICTが進んでいると聞いていましたが、目の当たりにすると、やっぱり驚きました。私が行った学校はニュージーランドでも遅れている方だと聞きましたが、私から見ると、かなり進んでいるように見えました」(大橋さん)。

このように海外の学校にいけば、ICT活用の差を感じることもあるだろうが、一方で、東京成徳中高の生徒たちも負けていない。コロナ禍で留学先のニュージーランドから緊急帰国する事態になったときも、日本にいる教師やニュージーランドに散らばった生徒同士がZoomで連絡を取り合い、自力で日本に帰国したという。これは、中学生にとって決して簡単なことではなく、こうした行動力を発揮するためには、ICTスキルが必要になるのは間違いない。普段から、学びでICTを活用しているからこそ、とっさの行動力が発揮できたといえる。

高校英語の授業風景。普段の授業からICTを自然に使う。高校生になればMacBookを使う生徒もいる

大橋さんは探究ゼミについても「自分もできるようになりたいと思ってプログラミングを選択しました。普段、何気なく使っているものの中身を知ることができたのが良かったのと、プログラミングの思考は、普段の思考とは違うので視野も広がりました」と自分の成長について語ってくれた。

ほかにも、「コロナ禍で休校になったとき、小学校時代の友だちからZoomの使い方を教えてほしいと言われて驚きました。Zoomは以前から会議でも活用していたので、東京成徳ではICTを当たり前のように使っていたけど、実は進んでいたんだということを実感しました」と語ってくれた。

生徒の興味・関心を広げ、知的好奇心を育む学校であるための新カリキュラム

このように探究学習と全員留学に力を入れている東京成徳中高は、生徒のニーズと選択肢に広く対応するため、2022年度にカリキュラムを刷新するという。

留学プランについては、中学2年次に短期語学留学を新たに実施。これは中学3年次のニュージーランド留学を経験した生徒から「現地へ行く前に、もっと語学力を伸ばしておけばよかった」という声が多く寄せられたからだという。

中学3年次で実施するニュージーランド全員留学は選択制とし、「グローバル教育(留学タイプ)」と「グローバル教育(国内タイプ)」の2種類を設ける。中学3年になると自分のがんばりたいことも見え始め、生徒のニーズも多様化してくる時期。そのため、選択できる留学プランを用意し、生徒自身が自分に合った学び方を選べるようにした。どちらを選択しても、東京成徳がめざすグローバル力を育成できる学習環境だという。

中学2年次に短期語学留学を新たに実施し、中学3年次は「グローバル教育(留学タイプ)」と「グローバル教育(国内タイプ)」選択制になる

このように中学の3年次までに留学やグローバル教育を経験した後、高校からは自分の可能性や世界をさらに広げる探究学習を充実させる。高校1年(4年次)に探究ゼミ、高校2年(5年次)には少人数グループによる実地踏査や留学を取り入れ、生徒の世界を広げる学びをサポート。めざす進路や未来に向けて、主体的に獲得できる力を伸ばしていく。

同校の石井英樹副校長は新しいカリキュラムについて、「大学に入学することだけが、中学校・高校における学びのゴールではありません。学びは本来、もっと“ワクワク”するものであり、学校は生徒の興味・関心を広げ、知的好奇心を育む場所でありたいと考えています。生徒たちがもっと自分で考えて進めるように、今後もカリキュラムを充実させていきたいです」と語る。

人生100年時代と言われ、世の中の価値観もさらに多様化していく今、学校で身につけるべき能力は、学力だけではない。これから先の長い人生を自分の手で充実させていくためには、主体性やチャレンジ精神を持つことが大切であり、ICTスキルもかなり重要だ。東京成徳中高では6年間の一貫教育だからこそ、基礎から体系的にICTスキルを伸ばせる土壌があり、生徒たちは主体性を育みながら、失敗や成功も含めて、経験値を高めていくことができる。こうした学びは生徒たちの財産となり、未来の人生に寄与するはずだ。

※東京成徳中高では、6月27日(日)に学校説明会の開催を予定しています。同校の学びを詳しく知る絶好の機会でもありますので、ご興味をもたれた保護者の方は是非ご参加ください。

神谷加代

こどもとIT副編集長。「教育×IT」をテーマに教育分野におけるIT活用やプログラミング教育、EdTech関連の話題を多数取材。著書に『子どもにプログラミングを学ばせるべき6つの理由 「21世紀型スキル」で社会を生き抜く』(共著、インプレス)、『マインクラフトで身につく5つの力』(共著、学研プラス)など。