こどもとIT
本物のクリエイティブツールと1人1アカウント環境が、児童生徒の「伝える力」を伸ばす
~予測不可能な時代の教育でアドビが果たす役割とは
2020年5月19日 08:00
新型コロナウイルス感染症拡大防止のため学校が直面した一斉休校処置は、学校の位置づけや現在の教育の在り方に大きな一石を投じた。答えが決まっている問題に正確に答えることをよしとする時代は終わり、日常のあらゆる場面で試行錯誤と判断、創意工夫が必要だ。予測不可能な時代を生きる子どもたちのために、今、自ら課題を発見し、創造的に課題解決できる力をつける教育が求められている。
2020年度から始まった新しい学習指導要領においても、「思考力・判断力・表現力」が生きる力として重視され、育成すべき資質・能力に位置づけられた。しかし、これらの能力を伸ばしていくためには、教育に何が必要なのだろうか。
創意工夫や創造力を駆使して表現する世界中のクリエイターたちに、40年近くデファクトスタンダードとして利用されているツールを提供するアドビ。クリエイティブの現場を支え続けてきたアドビに、これからの教育で子どもたちの表現力を伸ばすために必要なヒントを伺った。
実社会で使われているツールが、児童生徒のクリエイティビティを伸ばす
画像編集ツールの「Adobe Photoshop」やグラフィックデザインツールの「Adobe Illustrator」など、世界中のプロのデザイナーやクリエイターが使用するアドビの製品。昨今は、こうした職種に限らず、多くのビジネスパーソンがクリエイティブな作業にクラウド版の「Adobe Creative Cloud」を利用するようになった。自分のアイデアを形にし、表現豊かに相手に伝えるシーンは、どの職種でも必要で、アドビはそれを支えるツールとして重宝されているのだ。
そんなプロ用ツールのイメージが強いアドビだが、近年は教育分野の動きも加速している。Adobe Creative Cloudは、小中高校向けユーザー指定ライセンスを1人あたり年間500円以下(税別、メーカー参考価格、諸条件あり)で提供。プログラミングスクールのTech Kids Schoolと共同で、小学生向けのクリエイター育成プログラム「Kids Creator's Studio」にも取り組んできた。また2018年には、ビジュアルプレゼンテーションツール「Adobe Spark」の教育機関への無料提供を開始。世界の学校ではすでに1800万人以上の児童生徒に活用されており、日本でも、文部科学省が推し進めるGIGAスクール構想の中で、プレゼンテーションや動画編集が学習活動に掲げられる中、今後は小中学校で盛んに使われるツールとなりそうだ。
「クリエイティビティが求められる時代だからこそ、子どものうちからクリエイティブツールを文房具のように使ってほしい」。そう話すのは、アドビシステムズ株式会社教育市場部部長 小池晴子氏だ。 “Creativity for All(すべての人に「つくる力」を)”をミッションステートメントに掲げる同社は、これまでもクリエイティブ人材の育成に取り組んできた。
「予測困難なVUCA※の時代を生きていく子どもたちにとって、アイデアを形にする力、自分の考えを相手に伝える表現力、発信力は重要です。子どもたちのアイデアがツールの制約で閉ざされてしまうことがないよう、子どもたちの可能性を引き出すためにも、実社会で使われている本物のツールに触れることが大事だと考えています」と小池氏は想いを語る。
※VUCA(ブーカ):「Volatility」(不安定)、「Uncertainty」(不確実)、「Complexity」(複雑)、「Ambiguity」(曖昧)の頭文字を取った、予測困難な状況にある現代社会を表した造語
教育機関へプレゼンテーションツール「Adobe Spark」を無料提供
Adobe Sparkは、グラフィック、Web ページ、動画、という3つのスタイルでビジュアルプレゼンテーションを簡単に作成できる無料ツールだ。Web版とアプリ版があり、気軽にクオリティの高いクリエイティブを体験しながら、自分のアイデアを形にして発信できる。個人向けの単体プランは月額980円だが、小中高はもちろん高等教育などの教育機関は無料でフルバージョンが利用可能だ。
最大の特徴は、教育機関で利用しやすい設計であること。教師や児童生徒の安心・安全な環境を優先し、検索項目を設定したり、完成した作品の共有範囲を制限できる。また利用に関しても新規アカウントを取得する手間もなく、G SuiteやMicrosoft 365のアカウントがあればシングルサインオンで利用可能だ(詳細は後述)。ほかにも、Web版の場合はPCへのインストールも不要。プロのデザイナーによる多彩なテンプレートが用意されているほか、作った作品に共有リンクを設け、クラスや学校内、さらには一般公開(公開範囲は設定可能)も簡単にできる。
表現すること、伝えることで社会課題を自分事に
実際にAdobe Sparkを使った、亀岡市立東別院小学校の児童の作品を紹介しよう。アドビが主催した「Hello! SDGs クリエイティブアイデアコンテスト」で優秀賞を受賞したこの作品は、子どもたちはSDGsについて調べ、自分たちに何ができるかを考えたという。クラス8人で分担してSDGsの17テーマについてポスターを作成し、説明のナレーションを追加。最後は、水問題や温室効果ガスについて自分たちができることを動画にまとめ、ひとつのプレゼンテーションに仕上げた。
小池氏は同作品について、子どもたちの担任を務めた同校の広瀬一弥教諭の話が印象的だったと語る。このような大きな社会課題を扱う課題解決型学習では、子どもたちが“どうせ自分たちの力では解決できっこない”と感じ、自分事として受け止められない傾向があるという。ところが、Adobe Sparkを使って自分たちの考えたことを表現し、世の中に対して発信できたことが、“自分たちも世の中に訴えかけられる”という気づきに変わった。
「自分が何かを伝えることで、誰かを動かせるかもしれないと子どもたちが思えたことは、教育における表現活動において最も重要なことのひとつではないでしょうか」と小池氏。自分たちの表現が“社会に通用する”と子どもたちが実感すること、それに貢献するツールがAdobe Sparkだ。
「伝える力」を突き詰めると、本物のクリエイティブツールが必要になる
2022年度の高校学習指導要領から始まる「情報Ⅰ」の科目では、新たに「コミュニケーションと情報デザイン」の項目が加わり、すべての高校生が情報デザインを学ぶようになる。アドビは、こうした授業づくりをサポートできるよう、オールインワンのデザインツール「Adobe XD」を活用した情報教員向けの研修会を開催している。
Adobe XDは、プログラミング不要でアプリの画面の見た目や操作感、遷移などをテストするプロトタイプを作ることができるツールで、プロのウェブデザイナーや開発者に広く使われている。アイデアのアウトプットと共同編集によるブラッシュアップを重視しており、ゼロからきれいに作り込むのではなく、さまざまなプラグインで作業を自動化・効率化できることも特徴だ。
たとえば、「Trimlt」と呼ばれるプラグインを使うと、自動的にテキストの長さに合わせてテキストエリアを瞬時にトリミングできる。また、「This Person Does Not Exist」というプラグインを使えば、AIが実在しない人物画像を生成してくれる。このように作業を自動化・効率化し、人間はアイデアを出すなどのクリエイティブな作業に注力できるというわけだ。
小池氏は「今まで学校現場は紙と鉛筆でアイデアを形にし、生徒たちがトライアルできる回数も限られていました。しかし、Adobe XDを使えば、効率的にクオリティの良いものが作れます。限れられた授業時間を有効に使うためにも、Adobe XDを活かしてほしいですね」と述べた。
筑駒は、伝わる研究発表をめざして「Adobe Creative Cloud」を導入
Adobe XDは、20以上のクリエイティブツールやサービスを提供する「Adobe Creative Cloud」に含まれているツールの1つだ。Adobe Creative Cloudは個人で契約すると月額5000円以上だが、小中高校向けライセンスはユーザー1人あたり年間500円以下(税別、メーカー参考価格、諸条件あり)で提供。Adobe PhotoshopやAdobe Illustratorなど、プロ用ツールのフルバージョンが利用できる。
この「Adobe Creative Cloud」を全校生徒が使用できるように環境を整えているのが、最難関校として知られる筑波大学附属駒場中学校・高等学校だ。小池氏の話によると、同校は高校2年生で「課題研究」や「理科課題研究」に取り組み、国際科学オリンピックをはじめとする各種コンペに参加するという。ところが年々生徒たちがレベルアップするにつれ、研究内容は優れているにも関わらず、プレゼンテーションの部分で伝わらない、評価を得られにくい、という課題が感じられるようになった。
そこで同校では「メディア虎の穴」と呼ばれる、研究活動に必要な情報収集能力やメディア活用能力を養うセミナーの中で、Adobe Creative Cloudを導入。Adobe PhotoshopやAdobe Premiere Pro、Adobe Illustratorを中心とした動画や研究発表ポスターの製作講座を実施し、表現力の向上に取り組んだ。PC教室のコンピュータ42台にもAdobe Creative Cloudを導入し、全ての生徒が活用できる環境を整備。その後、「メディア虎の穴」は人気講座となり、クオリティの高い“伝え方”を学びたい生徒たちのニーズも増えた。
小池氏は、「伝える力を突き詰めていけばいくほど、社会やグローバルで通用するクリエイティブツールが必要になります。実社会で使われているツールを文房具として使うことを当たり前にした環境で、生徒のクリエイティビティを伸ばしていってほしいですね」と語った。
シングルサインオンで管理と利用のハードルを下げる
こうしたアドビのツールを教育機関で利用するためにはどうすればいいか。一般的にこうした実社会で広く使われているツールは、メールアドレスとパスワードでユーザー登録を行う必要がある。ただ、教育現場においては、アドビ製品を使うためだけに児童生徒一人ひとりのユーザー登録を行うのは、管理も煩雑になり、使用時には手間もかかる。
そうした時のために考えておきたいのが、複数のサービスやシステムのIDを連携できるフェデレーションIDの取得だ。G SuiteやMicrosoft 365などのクラウドサービスのアカウントとアドビのアカウントを連携することで、シングルサインオンで利用が可能になる。現状では、日本の多くの学校では児童生徒にこうしたクラウドサービスのアカウントは配付されていないが、小池氏は「GIGAスクール構想で端末を整備するにあたり、子どもたちがあらゆる学びに利用できるようにするためには、フェデレーションIDの取得が必ず必要」と訴える。1人1台で学ぶ光景が当たり前になるためには、端末とIDはセットで考えるべきだというのだ。
今後アドビは、小中学生がクリエイティブツールを使える環境作りにも注力していくという。「世界各国の教室では小学校低学年からキーボードのあるパソコンを、まさにノートと鉛筆のように使う姿が見られます。これからの子どもたちには、今の大人世代の当たり前を越えて、クリエイティブツールを使いこなすポテンシャルがあります」と話す小池氏は、日本でもGIGAスクールを追い風に、次世代を担う子どもたちの、創造的問題解決能力の育成支援を学校関係者と進めていきたい考えだ。。
1人1台が実現すれば、知識をインプットする学びから、アウトプットする学びに大きく変わる。多くの教育者たちは“大人の想像以上に子どものたちの表現レベルは高くなる”と話すが、これは単にアウトプットの回数が増えるからだけではない。紙と鉛筆の世界に比べて表現手段が増え、子どもたちの中に“伝えたいもの”が生まれるからに他ならない。この想いを高めてくれるツールが1人1台時代には必要だといえるだろう。
[制作協力:アドビシステムズ株式会社]