こどもとIT
学校で始まるICT利用、保護者の不安に応えるには?
――「GIGAスクールセミナー~保護者との協働、宝仙学園小学校・横浜市立鴨居中学校の歩み~」レポート
2021年12月16日 06:45
1人1台端末の活用が広がる中、持ち帰り学習などをきっかけに、保護者が子どものICT活用に関わる場面も増えてきた。一方で保護者は、“どのようにサポートするのか分からない”、“健康やモラル面は大丈夫なのか”という不安もあり、保護者の理解・協力を得ることが学校のICT活用を推進していくうえで重要になってきている。
ICT先進校の中には同様の課題に対して、 家庭と連携を取りながら上手く取り組みを進めている事例がある。そうした事例を紹介するセミナー「GIGAスクールセミナー~保護者との協働、宝仙学園小学校・横浜市立鴨居中学校の歩み~」(主催: 株式会社教育ネット)が2021年10月に開催されたのでレポートしよう。
子どもの利用状況を把握せず、ネットの使いすぎに不安になる保護者
セミナーの最初は、教育ネットが実施したネット利用実態調査に関するアンケート結果が紹介された。同調査の対象は、小1から中3までの児童生徒16,230人と、保護者10,639人で、子どもと保護者、両者のネット利用に関する実態や傾向が表れている。
教育ネットの浅井香穂氏は、その中でも保護者と子どもの間でネット利用の認識に違いがあることを指摘した。たとえば、「子どもが過去1年以内で使ったことがあるインターネットサービス」を訊ねる質問では、「Twitter」を利用していると回答した子どもと、それを把握している保護者の割合に、大きな差があった。特に学年が上がるにつれ、認識の差が大きくなる。
また「Instagram」や「TikTok」といった画像・動画SNS、「荒野⾏動」や「FORTNAITE」などのゲームでも同様の結果が⾒られた。浅井氏は「スマホの個人所有が増えるにつれて、保護者が子どもの利用状況を把握しづらい傾向にある」と述べた。
また保護者に対して、「インターネットの使い方について、子どもとどんな話をしているか?」と聞いたところ、「使い方について注意する」という回答が多く、なかでも「長時間利用」を気にかける保護者が多い結果となった。一方で、多くの保護者がネット利用については「自分の知識が不足している」と回答しており、浅井氏は「子どもがどういう使い方をしているのか分からないので、利用時間にばかり注意が向いてしまっているのではないか」と指摘した。
ゲームやYouTubeの視聴時間など、保護者はつい子どものネット利用について否定的な声かけをしてしまうものだが、「子どもたちのICT機器の利用を肯定的に捉えることで、隠れて使用することを防ぐことができる」と浅井氏。日頃から子どもの利用状況を把握しながら、トラブルが起きた時に保護者に相談しやすい関係性を築くことも大切だと語った。
学校のICT活用については、好意的な保護者が多いことも同アンケートで明らかになった。「学校でのICT活用に対し、保護者として期待することは?」という質問に対し、「きちんと使えるようになってほしい」という前向きな意見も寄せられ、「学校は、情報モラル教育や学習で協力してほしいことを保護者に伝え、味方になってもらうことが大切だろう」と浅井氏は語った。
保護者の声をコンスタントに集めることが大切
横浜市立鴨居中学校は、2020年に起きたコロナ禍の休校をきかっけに、「学びを止めない」「コミュニケーションを止めない」をモットーに、ICT活用や家庭との連携に取り組んできた学校だ。休校時は、課題のWeb配信や朝礼動画の配信、Googleフォームを活用した保護者向けの24時間相談窓口を設置するなど、学校と家庭のつながりを重視してICT活用を進めてきた。
当時、同校では「Communication」と「Study」の2本軸でICT活用を進めており、学校で取り組んでいる内容を「鴨居チャレンジC&S」として保護者にもわかりやすい形で発信。体系化して情報を伝えることで、保護者もICT活用の全容が理解できるようにした。
鴨居中学校の齋藤浩司校長は保護者との関係性について、「生徒や保護者の声をコンスタントに拾っていくことが、家庭と協力体制を築くことにつながる」と話す。
たとえば、2021年に夏季休業延長と分散登校が決まった際も、同校では事前に家庭のネット環境調査や在宅学習希望者の調査を実施したり、オンライン学活の準備にも着手したりするなど、家庭と連携を取りながら急な休校に備えることができた。その結果、分散登校後は端末を持ち帰り、ライブ配信による双方向型のオンライン授業を実施することができたという。
また、分散登校時の学習についても生徒と保護者にアンケートを実施してリアルな声に耳を傾けた。その結果、生徒と保護者共に「家庭での学習について」8割近くが肯定的に受け止めている一方、ネットの接続や黒板の文字の見え方など、技術や配信スキルに関する改善点も挙がった。
現在、鴨居中学校ではICTを活用しながら、さまざまなカタチで家庭との連携を築いている。Google フォームを使ったアンケートはもちろん、在宅学習を希望する生徒や不登校生徒に対しては学習管理アプリ「Studyplus」を採用。また学校だよりをFacebookで公開するなどオープンな情報発信を行なっている。齋藤校長は、ICT活用や保護者との協働を進めるために大事なことは「進化し続けることだ」と語っており、学校がさらに良くなるためのマインドを強調した。
“ICT活用のゴール”を保護者と共有
「ICT導入当初から保護者と方向性を共有し、一緒に考える姿勢で進めてきた」と語るのは宝仙学園小学校 教頭 正路進氏だ。2015年にいち早くICTを導入した同校は「ICTはツールの1つ。使いこなすことが目標ではなく、子どもたちの可能性を広げ、学びを深めるためもの」という考えのもとICT教育を推進してきた。2020年度には1人1台iPad環境を整え、2022年度からマルチOSのBYODを予定している。
宝仙学園小学校では、ICT活用のゴールは「情報活用能力を含めた学力向上を目指すもの」とし、そのゴールを保護者と共有。小学校段階で正しい使い方を身につけるためには、大人の伴走が欠かせないとし、保護者にもICT活用に対する理解と協働を求めている。これは、iPadの制限を厳しくしても、情報活用能力は身につかないという考えからで、フィルタリングなどで安心・安全な環境に配慮しつつも、保護者の協力を得ながら「ブレーキだけでなく、上手にアクセルが踏めるように見守り支えていく」ことの大切さを正路氏は述べた。
ICT教育研究部 主任 吉金佳能氏は保護者との取り組みとして、新入生の保護者を対象としたiPad導入説明会を挙げた。説明会は計3回行なわれ、その内容は同校のICT教育の方針や、学校や家庭でのルール、iPadの機能制限、スクリーンタイム、各アカウント作成など多岐にわたる。入学前に、保護者も学べる環境を用意することで、ICTに対する理解を深めてもらう。
もう1つ、同校の取り組みで画期的なのが各学年で身に着けたいICTスキルを整理した「ICTリテラシーマップ」だ。段階ごとに習得したいスキルが可視化され、保護者と共有している。
ほかにも安全面における配慮として、ICT機器の使用に関する健康被害や、家庭での使用ルールを子ども主体で話し合う取り組みも実施。iPadに関する疑問に対してはサポート窓口が設置され、1、2年生の保護者にはiPad親子講座も開催されている。そこでは各家庭のルールを共有する機会があり「こんな使い方が良かった」「ちょっと怖いこともあった」など、保護者同士が”他の家庭ではどうしているんだろう”といった疑問や意見を交わし合う貴重な機会となっているようだ。
こうした取り組みとあわせて、同校が大切にしているのが保護者に向けて実施するアンケートだ。保護者対象のICT体験会や毎学期行なわれる授業参観、行事の後など、保護者の声を募る機会を多く設けている。吉金氏は保護者から寄せられた声に対し「自由記入欄には、ICT活用に対する不安も寄せられ、そうした声に丁寧に対応するのが保護者との協働において重要だ」と語った。
学校と保護者が共に考え、ICT活用をより良いものに
セミナーの後半では、宝仙学園で1、2年生を担当する加藤朋生教諭、五嶋仁美教諭、PTA業務のアウトソースサービスを運営する増島佐和⼦⽒が加わり、座談会が行なわれた。
保護者代表として座談会に参加した増島氏から、「子どもが不適切な行動をとった時は、ルールで一律に縛るのではなく、何がダメだったのか、正しく使うためにはどうすればいいのか、学校でも指導してほしい」という本音が語られた。子どもたちの“やらかし”は必ず起きてしまうものだが、学校によっては、子どもたちがなぜ悪いのかを学ぶ前に、同じことが起こらないように端末の使用を禁止してしまうケースもある。
これに対して五嶋教諭は、「トラブルが起きた時に子どもに説明することも大事だが、保護者の方を巻き込んで協力を得ることも大事」だと述べ、家庭に状況をしっかり伝えることの大切さを語った。また加藤教諭は宝仙学園小学校での取り組みを振り返り、「子どもたちが不適切な使い方をしてしまうこともあるが、最近はかなり落ち着いてきた。やっていいこと、悪いことの分別もつくようになった」と述べ、学校が情報活用能力の育成に取り組むことによって、子どもたちの使い方も良くなることが伝えられた。
GIGAスクール構想で端末活⽤が進むにつれて、保護者は学校のICT活⽤に興味を持つと同時に、不安も募らせている。こうした状況を放置せず、学校は保護者を上⼿く味⽅につけて巻き込んでいく姿勢で臨むとともに、保護者も我が子のICT利用に理解を深めることが大切だ。そのためにも、1人1台時代の小中学校に子どもを通わせる保護者と教師同士が、これからの社会で避けては通れない子どものICT利用について、もっと語り合う場が必要になってくるだろう。