こどもとIT
10代のゲームクリエイターが魅せる作家性、LEVEL-5日野氏「インディーズゲームでもおかしくないレベル」
――日本ゲーム大賞2021「U18部門」決勝大会レポート
2021年11月8日 06:45
2021年10月14日、次世代を担うゲームクリエイターの発掘をめざすゲーム制作コンテスト「日本ゲーム大賞2021 U18部門」(主催:一般社団法人コンピュータエンターテインメント協会)の決勝大会がオンラインで開催された。
今年で4年目を迎える同コンテストには、7歳から18歳まで幅広い年齢層の参加者がエントリーした。また、新たな試みとして今年から応募作品のプラットフォームにScratch 3.0を追加。若年層も挑戦しやすくなり、コロナ禍の逆風を感じさせない盛り上がりを見せた。決勝大会には予選大会を勝ち抜いた6名のファイナリストが登壇し、事前に準備したプレゼンテーション動画を披露した。上位3賞に輝いた作品を紹介しながら、大会の様子をレポートしよう。
総合芸術作品としての完成度と“作家性”を兼ね備えた上位3作品
決勝大会では、作品の娯楽としての「面白さ」や「独創性」はもちろん、ゲームとして実装するうえで無理のない「構成力」と「技術的な完成度」が審査基準となる。また、それと同時に「ストーリー構成」や資料の工夫、話し方など高いプレゼンスキルも求められる。ファイナリストたちは緊張した面持ちであったが、プレゼンでは作品に込めた想いも伝わってきた。
金賞:古市太郎さん作「Balloon Head」
「Balloon Head」は、頭部が風船の主人公を操るスクロールアクションゲーム。風船を膨らませたり、萎ませたりすることでさまざまなギミックを攻略し、ステージクリアを目指す。「重さや空気抵抗の違いを使ったゲームを作りたかった」と語った古市さん。"主人公の頭が風船"というユニークなアイディアの発想元について聞かれると、「風船は宙に浮くものの象徴なので、ゲームのコンセプトを視覚的に表現するのに最適だった」とコメントした。
古市さんが目指したのは、「ユーザーが何度も挑戦したくなる楽しいゲーム」。ステージの随所に「達成感」が味わえる仕掛けを施し、各ステージ中に学んだことを使わないとクリアできない仕様にした。ユーザーがトライ&エラーをくり返しても、ストレスを感じさせない親切なゲーム設計も印象的だった。
金賞受賞の選考理由について、日野氏は「上位3作品いずれも甲乙つけがたいなか、総合芸術作品としての完成度が最も高かった。さらにブラッシュアップすれば、インディーズゲームとして世に出してもおかしくないレベル」と述べた。
銀賞:山口 登さん作「マグロの惑星」
「4足歩行で迫りくるマグロ」に人類が立ち向かう、斬新な世界観で異彩を放っていた「マグロの惑星」。資源が枯渇し、新たな移住先を求めて調査団がたどり着いた惑星・オケアノスを、突然変異したマグロの脅威をかいくぐりながら脱出するのが目的のゲームだ。「B級映画のような世界観」と語る山口さんの言葉通り、面白味と強烈なインパクトを残した。
プレゼンの中で「人からのアドバイスの大切さを実感した」と語った山口さん。決勝大会に向けたブラッシュアップでは、マップのデザインや不具合の解消を含め、綿密な改良を行なった。そのなかで「プレイヤーがゲームを続けたくなる“欲求”も必要」だと感じ、マグロからダメージを受けた際に画面の端が暗くなるよう視覚効果を追加。ユーザーがゲーム中に画面から読み取る情報量を強化した。
「そもそも何故マグロ?」という日野氏の質問に「ハロウィンの仮装で被った、マグロの着ぐるみがきっかけだった」と語り、笑いを誘った山口さん。審査員の石戸氏は受賞理由に寄せて「独創的な世界観を構築しながら、ゲームとしての完成度も極めて高い。グラフィック、デザイン、仕掛けの面で、ユーザーの情緒に働きかけ心を揺さぶる作品」と評価した。
銅賞:くまちゃんず作「AGARES」
「AGARES」は時間を操ってゴールを⽬指すゲーム。プログラミング担当 熊渕貴⼤さん、コース制作担当 藤原優司さん、ゲームグラフィックデザイナー 熊澤⾢河さんという3⼈チームで、役割を分担しながら、アイディアを出し合い制作を進めた。プレイヤーが「時のランタン」に近づくと時間が進み、離れると時間が戻る。時間を操作しながらさまざまなギミックを攻略し、ステージクリアを目指す。
作品の完成度はもちろん、「AGARES」が銅賞を受賞する勝因となったのが、決勝大会前に取り組んだ“作り直しに近い”レベルのブラッシュアップだった。ゲームの核でもある「時間の変化を分かりやすく伝える表現」を模索し、ステージに雨を降らせる演出にたどり着いた。熊淵さんは「雨を降らせたことでステージの奥行きが出て、美しい映像表現につながった」と語る。
日野氏は「大きな修正を行なうことはプロの世界でもよくあることだが、その決断ができたことは素晴らしい」と評価した。また三代川氏は、「ゲームのルールを雨という世界観に結び付けて表現する手腕が素晴らしかった。凝ったギミックがあふれるステージを作り、さらに良い作品に仕上げて欲しい」とエールを送った。
参加者の平均年齢は14.1歳、コロナ禍でゲーム制作を始めた参加者も
回を重ねるごとに、ファイナリストの作品が高レベルになっていくU18部門。作品の完成度はもちろん、今年は“作家性”を感じさせる個性や世界観をゲームデザインとリンクして表現する姿が多く見られた。
また、一方で金賞を受賞した古市さんのようにコロナ禍をきっかけにゲーム制作に興味を持ち、作品を応募した参加者がいるのも興味深い。ほかにも、今年は参加者の年齢も7歳から18歳と幅広く、平均年齢は14.1歳と去年よりも1歳若返ったことも注目だ。これには、小学生の応募とScratchの応募が倍増したことが影響しているようで、ゲームづくりは若年層の子どもたちにとっても魅力あるものづくりであることが分かる。来年はどんな作品が見られるのか、今から楽しみだ。