こどもとIT

AIぬいぐるみがグランプリ!小中学生がAIで課題解決に挑戦

――Google「キッズ AI プログラミングコンテスト2021」ファイナルイベント レポート

グランプリに輝いたのはLEGO太郎さん

2021年10月2日、Maker Faire Tokyo Online の中で、Google主催の「キッズ AI プログラミングコンテスト 2021」ファイナルイベントが開催された。夏休み期間中に作品募集されたこのコンテスト、当日はファイナリストに選ばれた5名によるプレゼンテーションが行なわれ、グランプリが選ばれた。子どもたちがAIを使って作った作品とはどのようなものか。その力作をお届けしよう。

AIとプログラミングで身のまわりの課題解決に挑戦!

今年で2回目となる「キッズ AI プログラミングコンテスト」は、ScratchとAIを使ってクリエイティブなモノづくりに取り組む小中学生向けのコンテスト。身のまわりの課題に対して、AIとプログラミングで解決できる作品づくりに挑戦する。作品の評価ポイントは、イノベーション、チャレンジ、完成度の3つで、ファイナルイベントでは、Googleのエンジニアらが審査員を務めた。

「キッズ AI プログラミングコンテスト」の審査員を務めたGoogleのエンジニア

子どもたちが挑んだAIプログラミング、利用するプログラミング環境は、大きく2つに分かれる。

まずGoogleが提供する「Teachable Machine(ティーチャブルマシン)」。パソコンのカメラ、マイクを使って、映像や音声のデータを取り込むことで、機械学習のモデルを簡単に構築できるツールだ。このプログラミングコンテストに限らず、AIの学習等に幅広く利用されている。

Google提供のTeachable Machineでは、画像、音声、人体ポーズの3種類のモデルが作成できる

2つ目が、Teachable Machineで作成した学習モデルを使ってプログラミングを行なうための「Stretch3(ストレッチ3)」。多くの子どもたちが慣れ親しんでいるScratchをベースにしたもので、本家のScratchには、まだ提供されていない「TM2Scratch」他のAI関連拡張ブロックを利用できる。有志によって開発/運営されているもので、こちらも無料で利用できる。ちなみに、AI関連以外にも独自の拡張ブロックがいろいろと提供されているので、興味がある人は覗いてみて欲しい。

TM2Scratch他のAI拡張ブロックが使えるStretch3

それでは、選ばれた5人によるプレゼンテーションの様子を順に見ていこう。

mebumebuさん:たっちゃんひとりでできるもん

mebumebuさん

最初のプレゼンテーションは、mebumebuさん。昨年開催された同コンテストにも応募し、グランプリを受賞した。前回作品「おじいちゃんのお酒飲みすぎ防止システムII」」は、こどもとITでもレポートしているのでご記憶の方もいるだろう。今年は、弟さんとお母さんをサポートをするシステムを開発。その名も「たっちゃんひとりでできるもん」。名前も楽しそうだ。

たっちゃんは、4歳。幼稚園に行く前に支度をするわけだが、朝が忙しいお母さんに頼ったり甘えたりして困らせていたようだ。mebumebuさんもそんな弟を見て、もう4歳だし、できるだけ1人で支度をしてほしいという思いを持ったという。そこで、AIプログラミングでたっちゃんを支援するシステムを考案した。着替えや食事といった支度ができると花丸をつけるといった工夫もあり、優しさが溢れている作品である。

幼稚園に行く支度を支援するという発想が面白い

ちひろさん:1日を楽しく過ごすための忘れ物チェックプログラム

ちひろさん

続くちひろさんが作ったのは、妹さんが学校に行くときに忘れ物をしていないかどうかをサポートするプログラム。忘れ物をすると、1日残念な気持ちになり楽しくすごせないからという話に、忘れ物が多かった筆者は、身につまされた。

ちひろさんの工夫の1つとして、「まあいいか」という基準を設けたところ。用意ができたできないの区別だけでは、忙しい朝の時間、かえってストレスがたまってしまう。そこで、とりあえず学校でなんとかなることなら、それもOKにするという、なんとも優しい選択肢がうれしい。例えば、えんぴつを削り忘れても、それは「まあいいか」という扱いにもできる。人間的な配慮がとても深い。

妹さんが気持ちよく1日をすごせるようにというテーマが素敵だ

田上雄喜さん:姿勢直しシステム

田上雄喜さん

田上雄喜さんが開発したのは、なんと「姿勢直しシステム」。田上さんが使ったのはAI関連の拡張機能の中の1つ「TMPose2Scratch」。これは、人間のポーズ専用の学習モデルを利用する最新のAIブロックの1つ。

プログラムの内容もゲーム感覚で楽しくできるように採点機能をつけるなど工夫したそうだ。コロナ禍の中で在宅ワークも増え、腰痛に悩む大人たちからYouTubeライブのチャット欄に「欲しい」のコメントがついていた。

人間のポーズ/姿勢を学習させ、ゲーム感覚で楽しくできる姿勢直しシステムを実現

LEGO太郎さん:ストップ!くちポカ ライオン

LEGO太郎さん

LEGO太郎さんは、ときどき口呼吸をしてしまう「くちポカ」を防ぐ「あいうべ体操」を楽しく行なう方法を考えた。口の動きを判断するパソコン上のプログラムにとどまらず、ぬいぐるみを使うことで、誰でも楽しく練習できるように工夫した。

ライオンのぬいぐるみの目にカメラをとりつけ、ぬいぐるみを見ながら練習をする。上手にできた場合は、呼び鈴を鳴らしてくれるようにモーターを取り付けている。動いている様子も、可愛く、誰でもやってみたくなりそうだ。

ぬいぐるみをロボット化して、親しみやすいしかけを考案

宇枝梨良さん:Dish! ~これでまんてんパパ~

宇枝梨良さん

最後にプレゼンテーションをした宇枝梨良さんも、家庭の困りごとを解決するプログラムを開発した。お困りごとはお父さんの家事である。いろいろな食器がある中で、食洗機にいれていいものと、いけないものの判別が正確にできないお父さん。これが原因でお母さんともめ事になることもあったのだとか。この様子を可愛い手書きのイラストでプレゼンテーション。

これを解決するために、お皿の種類をAIを使って判別するプログラムを考えた梨良さん。ところが、実際に学習モデルを作って試してみたところ、なかなかうまくお皿を判定できずに、角度を変えるなど工夫してようやく識別できるようになったのだとか。ちなみに、梨良さんの家の課題は、まだまだあるそうで、プログラミングの技量があがっていきそうである。

手書きのイラストも可愛い、梨良さんのプレゼンテーション

グランプリは、LEGO太郎さんの「ストップ!くちポカ ライオン」

ファイナリストたちのプレゼンテーションの後は、表彰式が行なわれた。今回、グランプリに輝いたのはLEGO太郎さんで、「ストップ!くちポカライオン」。誰にでも親しみやすい、ぬいぐるみをロボット化した工夫などが評価された。

グランプリを受賞したLEGO太郎さん

ファイナリストたちは、どのようなきっかけでプログラミングの世界に興味を持ったのだろうか。インタビューへの回答の中には、「家の近くにあったCoderDojoに参加して」という声が聞かれた。CoderDojo は7〜17歳を対象とした非営利のプログラミング道場で、アイルランド発祥の活動。日本でも現在は230を越える「Dojo(道場)」が各地で定期的に開催されている。みなさんの地域にあるかもしれないので、CoderDojo JapanのWebサイトから調べてみるとよいだろう。

また、兄弟の存在も大きかったようだ。実際、ファイナリストの中にはプログラミングの改善、工夫のアドバイスを兄弟から受けた方も。そもそも、家族の中にプログラミングを楽しそうにしている人がいれば、子どもたちが興味を持つのはとても自然な流れだと思う。

最後に「将来の夢」について聞かれたファイナリストたち。小学校低学年の参加者は、正直に「よくわからない」という答え。ごもっとも、と変に納得してしまう。その他、「教えることが好きなので、数学の先生」、「劇団に興味があるので、劇団の指導者」といった回答もあり、凄い子どもたちには違いないのだが、当たり前の小中学生でもあることに気がつかされた。その中で、グランプリに輝いたLEGO太郎さんは、「人に喜んで貰えるロボティクス開発」と夢を語っていた。

学校でもAIプログラミングに挑戦しよう

今回のコンテストのファイナリストたち、全員が家族や自分ごとの課題を取り上げ、それを解決するシステム/プログラミングに取り組んでいた。また、AIプログラミングによくある課題として、学習させるデータの質によって学習モデルがうまく働かない点がある。今回のファイナリストたちも、この点を実際にやりながら気がついて、それぞれ工夫をこらしていたのが印象的だった。

今回利用された、Teachable MachineとStretch3を使ったAIプログラミングは、まだ知らない方も多いだろう。Googleでは指導者向けのガイド「AI プログラミングを教える・学ぶためのガイド」も提供しているので、ぜひ学校でも活用して欲しい。既に多くの小中学校で配布が完了している1人1台のGIGA端末でも、Webブラウザーとカメラが使えればすぐにでも試すことが可能だ。

新妻正夫

ライター/ITコンサルタント。2012年よりCoderDojoひばりヶ丘を主催。自らが運営する首都圏ベッドタウンの一軒家型コワーキングスペースを拠点として、幅広い分野で活動中。 他にコワーキング協同組合理事、ペライチ公式埼玉県代表サポーターも勤める。