こどもとIT

夏休みのGIGA端末持ち帰り、知っておきたいリスクとフィルタリングで可能な対策ポイント

――「持ち帰り学習のトラブル事例とフィルタリング対策」ウェビナーレポート

全国の小中学校で1人1台環境が本格スタートしてから、初めての夏休みがやってくる。今年はGIGA端末を家庭に持ち帰り、夏休みの宿題や自由研究に活用する学校も多いようだ。子どもも、保護者も安心・安全に使うためには、どのような点に気をつけるべきだろうか。また学校はどのようなトラブルを想定してセキュリティ対策を行なうべきか。

全国多くの小中学校にフィルタリングを提供する情報セキュリティメーカー デジタルアーツ株式会社(以下、デジタルアーツ)は、教育関係者に向けて持ち帰り学習に特化したセキュリティ対策に関するオンラインセミナーを実施。ネットトラブルや情報漏洩の危険など、さまざまな課題を取り上げながら、対応すべきポイントが語られた。

持ち帰り学習の際に気をつけたいトラブル

持ち帰り学習の課題は、ネットトラブルのリスクと対策の困難さ

セミナーの内容について紹介する前に、持ち帰り学習の前提として、GIGA端末は各教育委員会・学校によってセキュリティ対策が異なるという点を知っておこう。分かりやすい例がYouTube。動画の視聴を許可している教育委員会・学校もあれば、そうでないところもある。ほかにも、24時間いつでも端末を使えるところもあれば、夜間の利用を禁止しているところもある。

このように、同じGIGA端末でもセキュリティ対策が異なるのは、それぞれに端末の活用方針が異なるからだ。情報活用能力の育成をめざして、児童生徒が「判断」しながら使うことを重視する教育委員会もあれば、端末の扱いに慣れていない児童生徒や教員に考慮して、使い方に制限を設けているところもある。そのため、保護者は持ち帰り学習にあたって、"制限ありき"を良しと考えるのではなく、まずは子どもが通う学校や教育委員会の活用方針を知っておくことが大切だ。

デジタルアーツ株式会社 マーケティング部 内山智氏

そのうえで、持ち帰り学習の際に起こり得るトラブルも知っておきたい。デジタルアーツ株式会社マーケティング部の内山智氏によると、持ち帰り学習では学校が全ての端末を管理・把握することがむずかしくなり、「学習に無関係なコンテンツへのアクセス」「健康被害」「情報漏えい」など、気をつけたい点は多々あるという。

たとえば、未知のマルウェアや標的型攻撃などウィルス感染による、児童生徒の個人情報流出の危険性も課題のひとつだ。日本ではまだ事例は少ないようだが、フランスでは2021年4月、コロナ禍のロックダウン中にサイバー攻撃によって学校の在宅学習システムが狙われ、繰り返し停止する事態に見舞われたという。内山氏は「マルウェアや標的型攻撃は日々巧妙化しており、GIGA端末においても未知の脅威に対する対策は重要だ」と説明した。

ただ安心・安全面を考慮するあまりセキュリティを強化すると、学習面での利便性も損なわれる。YouTubeを視聴できないように規制するのは可能であるが、そうすればYouTubeに公開された教育動画は視聴できない。かといって、学年に合わせたセキュリティを設定したり、見せたい動画だけをアクセス可能に設定するのは、作業も煩雑で管理の負担にもなる。

もちろん、児童生徒が自分できちんと判断して使えるよう、情報リテラシーの向上や情報モラル教育に取り組むのも、今後はさらに重要になってくるだろう。

しかし、内山氏によると、子どもたちが巻き込まれるネットトラブルは、年々多様化しているようだ。同氏は「スマホにひそむ危険やトラブルは、GIGA端末でも十分起こり得る」と話し、デジタルアーツが無料で提供している「スマホにひそむ危険 疑似体験アプリ」を紹介。同アプリは、SNSに掲載した写真の写り込みによる個人情報漏洩や出会い系被害、高額請求やネットいじめの脅威を疑似体験ができる。

デジタルアーツが無料に提供している「スマホにひそむ危険 疑似体験アプリ」

警察庁の発表では、青少年のフィルタリング利用率は4割程度で、実際にSNS被害にあった子どものうち、約9割がフィルタリング対策をしていなかったと内山氏。「安心・安全な端末利用のためには、フィルタリング対策は欠かせない」と述べた。

GIGA端末のOS標準フィルタリングに潜む盲点

では、学校から配布されたGIGA端末は、フィルタリング対策がされていないのか、というとそうではない。GIGA端末として導入されているiOS、Windows、Chromebookには、それぞれ無償フィルタリングがあり、子どもたちを有害サイトから守ることが可能だ。

文部科学省のホームページ「1人1台端末の安全・安心な利活用について」のページで公開された各OS事業者のフィルタリングに関する概要説明資料
iOSのフィルタリング

iOSでは、主にMDM(Mobile Device Management)とフィルタリング機能を通じてWebコンテンツとアプリの制限を行なうことができる。

アダルトコンテンツのフィルタリングでは、特定のURLへのアクセス制限や許可を個別設定できるうえ、インターネット利用時間の制御が可能になっている。

Windowsのフィルタリング

Windowsのフィルタリングも、特定サイトへのアクセス制限や検索サイトのセーフサーチが可能になっている。

さらに、教育上不適切な動画を表示させない「YouTubeの制限付きモード」を備えている点もWindowsのポイントだ。

Chromebookのフィルタリング

Chromebookも、セーフサーチやWebコンテンツの制限が可能だ。特定のURLへのアクセスを制限したり、特定のURLにしかアクセスできないよう設定することもできる。

しかし、これら3OSのフィルタリングについて内山氏は、「どのOSもアダルトコンテンツを制限することがメインとなっており、一見、セキュリティ対策として十分役割を果たせているように思えるがいくつか盲点がある」と指摘。児童生徒にアクセスさせてはいけないサイトは、アダルトだけではない。リスクのあるSNS利用や自殺サイトの閲覧なども対策が必要なうえ、未知の脅威は日々新たに生まれており、なかにはそれまで問題なくアクセスしていたのに急に危険なサイトに変貌する改ざんサイトの脅威もある。

3OSとも、安全とみなしたWebサイトのみアクセスを許可する「ホワイトリスト」運用は設定可能ではあるが、管理者が1つ1つのURLを登録せねばならず、これらの作業はとても手間がかかる。セキュリティ対策として、教員や教育委員会の担当者がこの作業を行なうのは負担が大きいだろう。

フィルタリング対策には柔軟な制御とリスク回避が不可⽋

内山氏はフィルタリング対策で重要なポイントとして、「学習の利便性を担保できること」、何かトラブルが起きたときに備えて「児童生徒のICT活用とリスクを把握できること」、「未知のサイバー攻撃を防ぐこと」の3つを挙げた。

フィルタリング対策で大切な3つポイント

たとえば、デジタルアーツが提供するフィルタリングサービス「i-FILTER」では、学習の利便性を担保できる機能として、Webサービスの閲覧制御をサイトごとに細かく設定することが可能だ。YouTubeにおいても、学習用の動画提供チャンネルのみを許可したり、インターネットの利用時間を曜日や時間帯ごとに細かく設定し、放課後や深夜帯の利用について制限を設けられる。

「i-FILTER」を利用したWebサービス制御。授業に不必要なサイトにアクセスさせない環境を実現している
インターネットの利用時間を制限できる時間割機能も実装されている

またトラブル時の対応として各種ログを取得したり、ユーザーの個別ログの確認も可能。学校で利用しているホームページの改ざんや、端末のマルウェア感染の疑いをメールで知らせるサービスも提供されている。さらに未知の脅威に対しても、膨大なデータベースで不審なURLを振り分け、万が一ウィルスに感染した際には、その疑いのある端末をネットワークから隔離する機能も備えているのだという。

なお各社が展開しているフィルタリング製品には、「URLフィルタリング」と「DNSフィルタリング」の2種類がある点も留意したい。URLごとにブロック対象かを判断するURLフィルタリングに対し、DNSフィルタリングはドメインだけで判定されるためWebページ単位での柔軟な閲覧設定は難しくなっている。どちらの方式を取るかによって、有害サイトをブロックできる確率も異なるため、導入時には入念に検討したいポイントだ。

DNSフィルタリング、URLフィルタリングの違い

1人1台環境の整備では、端末やネットワークに重点が置かれ、フィルタリング対策まで行き届かなかった自治体も多いことだろう。しかし、子どもたちが端末を安心・安全に使えるよう、環境を改善していくことは必須であり、今後の活用にも大きく影響する。持ち帰り学習などを良い機会と捉えて、セキュリティ対策を見直すきっかけにしてほしい。

一方で、子どもたちはGIGA端末だけでなく、家庭でさまざまなデバイスに触れている。いくらGIGA端末にセキュリティ対策を施しても、子どもたちの安心・安全が保障されたわけではない。保護者は家庭でどのような対策ができるかを考えていくことが重要だといえる。

本多 恵

フリーライター/編集者。コンシューマーやゲームアプリを中心とした雑誌・WEB、育児系メディアでの執筆経験を持つ。プライベートでは6歳と2歳の男の子を育てるママ。来年小学校入学を控えた子を持つ母として、親目線&ゲーマー視点で教育ICTやeスポーツの分野に取り組んでいく。