こどもとIT
Scratchをさせれば親は安心?子どものために大切にしたいプログラミング体験とは
~阿部和広氏・橋爪香織氏・たきりょうこ氏・うめ氏対談【サイン入り書籍プレゼント】
2021年7月21日 06:45
保護者の皆さんには、小学校で必修になったプログラミング教育はどう映っているだろうか? “成績に影響するのかな”、“将来役立つなら習わせようかな”など、⼦どもの幸せを想うあまり、いろいろ考えてしまうのが親心だろう。
⼀⽅で、プログラミングは本来、⾃由なものづくりの世界だ。必修化によって“お勉強”になってしまった感もあるが、⼦どもの頃に楽しいプログラミングの世界に触れ、創造性や発想力、思考力、自己肯定感を育んでほしい。今、⼦どもや保護者は、プログラミングとどのように関わっていけばいいのか。
そこで本稿では、6月に発売されたばかりの書籍『まんがでプログラミング 進め︕けやき坂クリエイターズ Scratch 3.0編』(インプレス刊)の阿部和広氏(監修)、橋爪香織氏(著者)、たきりょうこ氏(まんが著者)、うめ氏(まんが監修)に、プログラミング教育の課題や、本来のプログラミングのあり方などについて語ってもらった。
子どもがやりたがらないなら、強制することはない
――皆さんは、昨今のプログラミング教育の状況をどのように受け止めていますか?
阿部: Scratchの場合になりますが、保護者の反応が「うちの子が、Scratch"を"やらなくて困る」という声と、「Scratch"しか"やらなくて困る」という声に分かれますね。
小沢(うめ): 「Scratchをやらなくて困る」という声には、どのようにアドバイスされてますか?
阿部: 答えは簡単で、子どもがやりたがらないなら、わざわざ強制することはないですよって。こういうとき、親の文脈は共通していて、プログラミング検定の何級を取りたいとか、最近は入試の一部を免除している学校もあるので、そういうことを期待していますね。
橋爪: プログラミング教室に通う子どもたちの保護者からも、そういった声はよく聞こえてきます。
阿部: 良くも悪くも、プログラミング教育必修化の影響で、保護者の意識は変わったと思います。でも、肝心の子どもたちって、何も変わっていないんですよ。子どもたちにとって学校で教わるプログラミングは、理科の実験と一緒です。「乾電池をつないで豆電球をつけてみよう」と同じ流れで、プログラミングで正三角形を描いたら、そこで終わりです。
たとえば、そこから発展して、いろんなものを描いてみたり、ゲームを作ってみようと投げかける先生はまだまだ少数派だと思います。
先生が教えなくてもいい、子どもたち同士が教え合う環境を用意しよう
小沢(うめ): それって、プログラミングを学校で教えることで、かえって、つまらなく感じさせる可能性がある気がしませんか? 自分もどこかに、「プログラミングは教科書で教わるものじゃない」という前提があるのかもしれませんが。
ただ、まんがもそうですが、美大にマンガ学科が設置された時、「マンガは学校で教わって描くものじゃない」と言われていたけれど、最近はマンガ学科出身の作家も増えてきました。教える側のノウハウが蓄積されて、世の中に認知されたと思います。そう考えると、プログラミング教育は、まだ始まって日が浅いので、いろいろ歯がゆく思う部分が正直なところありますね。
操作説明や基本的な内容は授業の最初の5分で終わらせて、自由にいろいろ触れる時間がたっぷりあるといいですよね。ただ、それをやるには、今の先生たちのリソースから考えるとむずかしいことも理解しています。時間をかけて折り合いをつけていくしかないのかなと思うところではあるのですが……。
阿部: 基本的な考え方を変えていく必要がありますよね。必ずしも、先生がすべてを1人で教えなくてもいい。ファシリテーターやメンターが潤沢でなくても、授業が回る仕組みが理想的で。それは本の中で、「りお」たちが実践している、子どもたち同士で教え合うことなんですよね。
あとは、周りの大人たちがその状況を認めて、ある程度、子どもの裁量に任せることが重要です。理想論かもしれませんが、そういうところから始めてほしいですね。
たき: 子どもたちが自由に端末に触れられる、良い時間を与えてあげることが大切ですね。
自分が面白いと思ったことを大事にしよう
――最近は端末の使い道を厳しく制限したり、Scratchを禁止する学校もあります。また他のユーザーがScratchで作ったゲームを遊ぶだけの子はいかがなものかという声も聞きますが、みなさんはどうお考えですか?
たき: 本書に登場する「しゅう」も、自身はプログラミングをせず、プレイして意見を言うだけの立場ですが、プレイヤーは作る人にとってモチベーションを上げてくれる大切な存在です。今はプロゲーマーという職業もありますし、上手にプレイしようと思ったら、ゲームの仕組みについて理解する必要がありますよね。遊んでいるだけの子の存在も大事だと思います。
妹尾(うめ): 遊んでいるだけの子に、光が当たらないのが現実ですよね。すごい作品を作る子に対して、受け身で遊ぶだけでいいの? と思う教員や保護者は少なくありません。
阿部: そこで考えなくてはいけないのは、「すごいゲームって何?」ということなんですよね。
Scratchの基本理念は、プログラミング初心者でも楽しめる「低い床」、頑張れば高度なことも可能な「高い天井」、興味にあわせていろいろ作れる「広い壁」です。なのに、我々はつい、高い天井のことばかり挙げてしまいがちです。むしろ、重要なのは、広い壁なんですよ。
最近、Scratch上でブームになった超短編アニメがあるのですが、内容としては、ネコが2匹出てきて、大人から見れば、くだらないことを言って爆発するだけなんですね。でも、それがすごく人気になりました。プログラミングが得意でなくても、ストーリー構成が上手いとか、気の利いたセリフが思いつくとか、プログラミングの世界はそうしたことも評価される場であることを、みんなに分かってもらいたいですね。
一方で、Scratchには傾向というページがあって、そこの何位にランクインしたとか、フォロワー数で競い合う子どもたちの姿を目にするのですが、人からの評価ばかり気にすることが気になります。人からの評価はモチベーションの源泉にはなりますが、他人の目を気にせず、「自分が面白いと思ったものを大事にしませんか?」と強く問いかけたいです。
誰かと比べて「自分の作品はつまらない、こっちの方が面白い」は、呪いの言葉ですよね。ここは、大人も特に気をつけなくてはいけないことだと思います。
「考えたとおりに動くの、楽しい」という感動を大切に
橋⽖︓ 実は、本書のストーリーって、私が⼦ども頃に「こういうことがあれば良かったのにな」と思うものを書いたんです。
私が⼩学⽣の頃は、プログラムやITに関わることもなかったし、⾃分たちの⼿でパソコンクラブを⽴ち上げるような、学校の組織を動かすこともなかった時代。でも、今は教育も変わってきているし、もしかしたら、そんなことも、できるかもしれない。プログラミングを通して何かを変えていけるよって、⼦どもたちの背中を後押しできたらと思ったんです。
たき︓ プログラミングって、そういう⼒がありますよね。本書の「みらい」が初めてプログラミングに成功したとき「考えた通りに動くの、楽しい」って言うんです。
私自身、まんが家になる前はSEだったのですが、初めてプログラミングに触れた時に、まるで⾃分が魔法使いになったような感動を味わったんですね。現実世界では⼿から炎を出すことはできないけど、ゲームの中ではそれが可能になる。その感動を伝えたくて、限られたコマ数の中に私の実体験をギュッと詰め込みました。
学校にもプログラミング作品を発表できる場を
たき︓ うめさんのお⼦さんは、はんだ付けでPCを⾃作したり、IchigoJamやUnityも触ったりされていますよね︖
妹尾(うめ)︓ そうなんです。夏休みの⾃由研究でも⾃分で作ったIchigoJamとゲームを提出していました。 ウチの子が特別ということもなく、夏休みにプログラミングに取り組む子はそこそこいますね。クラスに1人か2人くらい。
ただ、端末を学校に持っていくと盗難のリスクがあると いうことで、結局、「こういう作品を作りました」という紙の説明書きを置くだけの展⽰の子が多いのは、仕方ないこととはいえ、残念ですね。ウチは、何があっても学校に責任はありません、と一筆添えて、置かせてもらいました。
⼩沢(うめ)︓ 当時はまだ、学校の電源を⾃由に使うことも禁⽌されていましたしね。
たき︓ ⾃分たちで動画編集した作品も、USBメモリーを展⽰として置くだけ、という話も聞いたことがあります。
阿部︓ 作品の展⽰に関しては、これから少しずつ変わると期待したいですよね。GIGAスクールの1⼈1台環境によって物理的には可能になりましたし、あとは現場の先⽣⽅の意識が変わることが⼤切だと思います。
そのためにも、プログラミングを通じて、それぞれの得意を発揮できる⼦がどんどん出てきて、その活動を⾒た先⽣⽅が「これはいいものだ」と思ってもらうことが⼤事だと思います。
先生も保護者も、子どもと一緒に試していっぱい失敗しよう
橋⽖︓ 本書も、先⽣や保護者の皆さんにも読んでいただきたいですね。
阿部︓ そうですね。基本的に⼦どもたちのことを⼀番考えているのは現場の先⽣です。「これが本当に⼦どもたちのためになる」と先⽣⽅が⾃分事として受け取った時に、初めて物事は回っていくんですよ。
そのためには、先⽣にもプログラミングを体験してもらうことが⼤事なんですね。私は学校や教育委員会からプログラミングの教員研修で講師をしたときも、最初は「私なんて……」と話していた先⽣も、Scratchでネコが動くと楽しさを分かってもらえます。きっかけは、“ネコが動いてニャー”なんです︕(笑)
ところが、⼤体の⼤⼈はScratchを前にしたとき、⽬の前の実⾏ボタンを押さずに、まず本を読もうとするんですよ。そして「この緑の旗のボタン、押していいですか︖」と質問されるんです。まずは何も考えずに、ボタンを押して、動かしてみることが⼤切なんですよね。
橋⽖︓ 「失敗したくない」と思う人が世の中には多いんです。でも、失敗から得るものも多いんですよ。本書に登場する「みらい」がScratchのサイトに個⼈情報を書いてしまって「りお」に怒られるシーンがあるんですが、こういう失敗もしなければ知らないままになってしまいます。
阿部︓ これは巡り巡って、われわれ大人の責任でもあります。失敗に対して、ある程度、寛容になることも⼤事だと思います。
――子どもとプログラミングを始めるきっかけは、どうやって作るのがよいでしょうか?
小沢(うめ): うちの子どもたちもそうなのですが、保護者が「この本を読みなよ」と勧めると、かえって興味を削いでしまうことがあります。まずは親が手に取って面白がって読む姿や、実際にScratchのアカウントを取得して触っているところを見せてもらいたいですね。それがベストなプレゼンになると思います。
阿部: あとは、むずかしく考えず、本書のまんが部分だけ読んでみるのもいいかもしれませんね。
妹尾(うめ): そうですね。まんがを読むだけなら「楽しそうだったな」という感覚は残りますよね。「プログラミングを勉強しなければいけない」と構えずに、まずはそこから入ってもらうのもいいかなと思いますね。
橋爪: 保護者や教育関係者はもちろん、それ以外の大人の方にも、ぜひ手に取っていただきたいです。子ども向けに書いた本ではありますが、大勢の方にいろんな想いや影響を与えらればいいなと思っています。
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