こどもとIT
EDIX東京で見たプログラミング教材、高校「情報I」の教材からデータ破壊サービスまで
――第12回教育総合展「EDIX東京」展示会場レポート⑥
2021年5月27日 06:45
第12回教育総合展「EDIX東京」(主催:リード エグジビジョン ジャパン株式会社)が、当初の予定通り5月12日から14日の3日間にわたって開催された。
前日の5月11日までの緊急事態宣言が5月末まで延長になり、当イベントの開催もどうなることかと直前まで関係者はやきもきしていたと思う。そんな中、主催者が「開催宣言」をわざわざ出すという、コロナ過での珍しい体験もあった。筆者のところに編集部から取材相談が来たときには、「やるんかーい」と心の中で叫んでしまったのは内緒である。
とはいうものの、久しぶりのリアルイベント。やはり気分は少し上向くもので、会場の「青海」展示場に足を運んだ。お約束のネタではあるが、青梅ではなくて「青海」である。
筆者が、取材に行ったのは2日目。初日に会場取材に訪れていた我らが神谷副編集長から、「新妻さんは、ここに行ってください」と会場内マップに丸印がついたデータが送られてきていた。
マップを見て、首をひねった。やけに大きく「新妻さん」と書かれているエリアがある。ここを見てこいという意味なのだろうか。と疑問に思いつつ、会場を進んでいくと、まるで、ドラクエ4のアリーナ姫のように、佐々木Pと先生Youtuberの安藤氏を伴って現れたのには、笑ってしまった。なお、その場で確認したら、佐々木Pが自慢のChromebookとペンで、たんに名前を書いていただけだったとか。
プログラミング教育や情報教育の状況としては、昨年度から必修化された小学校に続き、今年度2021年度からは、中学校の技術・家庭科で内容が改訂され、「ネットワークを利用した双方向性のあるコンテンツのプログラミング」が新たに始まった。さらに来年度には、高校の「情報Ⅰ」が必履修科目となり高校生全員がプログラミングを学ぶほか、2025年1月の大学入学共通テストからは「情報」が入試科目に追加される。
圧倒的な存在感のアーテックブース
会場内に大きなブースを構えていたのは、教育系総合メーカーとして出展し続けているアーテック。ミニセミナーや商談ブースが設けられ、小学校や中学校など 学校別に教材が多数並んでいた。なかには、2wayタッチペン、お値段なんと200円も並んでおり、さすが老舗だなと妙なところに感心する一幕も。
いろいろある中で、目を引いたのが、昨年クラウドファンディングが行なわれていた「メイクロックマン史上最大のプログラミング」のキット。Scratchベースの専用ツールと、アーテックロボを使った腕にはめるコントローラーのセットである。ちょうど、人も少なく、自由に触れられるようになっていたこともあり、ロックマンのスプライトをこっそり大きさを調整して遊んでみた(立ち去るときにちゃんと元に戻しておいたので安心して欲しい)。
ロックバスターが、なかなかいい感じに再現されていて、子どもたちがお父さんと一緒に遊んでみたら楽しいだろうと思う。
アーテックの隣は、なんとサイボウズのkintone(キントーン)
アーテックを抜けると、どこかで見たようなブースがあらわれた。なんと、昨年まで筆者も公認エバンジェリストをやっていたサイボウズのkintoneが出展していたのだ。いや、ちょっとまて、ここはIT EXPOだったっけ?と錯覚しそうになった。
kintoneといえば、最近、「ひょうけいさん」をいじったTVCMが話題だが、企業や行政含め、幅広い業種で利用されているクラウドサービスの1つ。中の人たちも顔見知りばかりだったので、ざっくばらんに話を聞いてみた。
教育というテーマでは、遡ること2018年に特定非営利活動法人「みんなのコード」との協力でkintoneを小学校の国語と理科で活用したカリキュラムが開発され、その実証授業の記事をお届けしていた。授業の中で児童たちがkintoneを活用するという内容である。子どもたちが苦も無く、使いこなしている様子に驚いた記憶がある。
今回のEDIXで展示されていたのは、これとは全く別。学校と保護者の間のコミュニケーションを支援する、紙からの脱却をめざしたデジタル化を推進するライセンス「スクール&ペアレンツライセンス」だ。なるほど、学校内の校務支援システムは、各社から提供されているが、学校と保護者の連絡に焦点をあわせた使い方はなかなか面白い。実際、学校からのお便りだったり、保護者の意向を確認したいときなど、膨大な紙のやりとりが未だに発生するケースは少なくないのだろう。
サイボウズでは、この用途のために新しいライセンス体系を設け、費用はわかりやすい定額制になるようだ。7月からの提供開始に向けて問い合わせ受付中とのことで、既に私学などからの打診も多いとか。学校現場の業務負担が増えがちな昨今、このような施策は検討に値するのではないだろうか。
他にkintoneの公認資格を専門学校の中で学ぶ事例も紹介されており、熱心に質問している人の姿もちらほら。考えてみれば、普通に社会で使われているITソリューションを、学校の中でも使えるなら当たり前に使っていけばよいはずなのだ。常々抱く感想であるが、学校現場の皆さんが、体験したり実験できる学びの場所がやはり必要なのだなと思った。
マイクラからお馴染みの安心STEAM教材が並ぶ
大物2カ所を見た後は、とりあえず会場内をうろうろしてみることに。せっかくリアルなイベントに来たことだし、どんなものが展示されているのかダンジョンを探索している気分ではあったが、今回は比較的見慣れた定番の教材が並んでいた。
お馴染みのマインクラフトのプログラミング教材をモニターで流していたのは、株式会社KEC Miriz。プログラミング教室や学習塾向けのコンテンツとして、「プロクラ」と「CHATTY」が展示されていた。映像に流れていたのはプロクラの方で、マインクラフトを活用したプログラミング教材で、実際に全国の教室で利用されているそうだ。
マイクラと言えば、先にお届けした「Minecraftカップ2020の最終審査会・表彰式」が記憶に新しい。マイクラをうまく活用することで、創造的な深い学びが具現化できそうだ。映っていた映像は実際に提供されているマイクラのワールドの一部で、建築はプロマインクラフターのタツナミシュウイチ氏によるものだそうだ。これは、小学生のテンションもあがるだろう。
すぐ近くに展示されていたのが、IoT界隈では、お馴染みのObnize(オブナイズ)。メイカーフェアなどでも、よく展示されている小さなボードコンピューター。肝心なのはソフトウェアの開発環境で、ブロック式プログラミングの専用ツールから、JavaScriptによる開発まで可能。会場では、センサー類とあわせたスターターセットや組み立て済みロボットカーが展示されていた。
スイッチエデュケーションのブースでは、micro:bit本体と関連教材が多数展示。昨年新バージョンのV2も販売がはじまり、小学校の理科教材の定番の1つが、このmicro:bit。学校の授業だけでなく、民間のプログラミング教室や体験ワークショップでも、電子工作とプログラミングが手軽に楽しめることで人気がある。
micro:bitを頭脳として利用する6足歩行のロボット「プログラミング・フォロ for micro:bit」も展示されていた。別のmicro:bitをリモコンとして利用できるようにプログラミング済みで、現物は初めてだったので、その場でしばらく遊んでしまった。
このブースに限らないのだが、キープディスタンスが徹底しているのか、ほうっておいて貰えるブースが多く、筆者のような人間にはありがたかった。まさかとは思うが、怖くて声がかけられなかったのだろうか。
ロボットとしては、段ボールを使ったプログラミング教材「embot」君も、NTTドコモのブースにさりげなく展示。どういうわけか、こちらは別棟の会場の一角に並んでおり、発見したときは、なぜかちょっと嬉しかった。ダンジョン探索の気分であろうか。
様変わりする学校や授業を支援するソリューションも
通路を移動中、横からなにやら女性の声が聞こえてきた。何かの説明でもされているのかと見渡したが姿が見えない。目の前にあったのは展示用のディスプレイである。そこには、アニメキャラっぽい女性が映っていて、なにか喋っている。
ここはEDIXだよな、ゲームショーじゃないよなと首をひねったが、そこに映っているのは、やっぱりVTuberだった。カメラを向けると、「え、ポーズとかとった方がいいのかしら。えい」と喋りながら、ガッツポーズをしてくれた。なんだか不思議な体験である。
こちらは、アップル製品の導入から運用まで、トータルサービスを手掛けるTooのブースであった。こちらの記事でも詳しく紹介されているので、興味を持った方はご覧頂きたい。このような技術、遠隔授業や面白い動画制作など、コロナ以降の教育現場で需要があるんだろうなと気がついた。
会場の一番奥側には、なぜか車両が展示されているブースがあった。まさか地震の体験車だろうかと近づいてみると、壊されたハードディスクドライブや木っ端微塵に粉砕されたSSDが展示されていた。なんだここは。
これは、オリックス環境のオンサイトのデータ破壊サービスの展示。作業用のトラックごと乗り付けて、その場でデータ破壊を行なうサービスなのだという。こんなサービスの需要も、これからの学校では当たり前になるのだろうか。そういえば、GIGAスクールの端末って、廃棄とかどうするんだろうと、相当先のことまで心配になってしまった。
STEAMの意義を考えさせられたロケットの展示
さて、展示会場を巡っていると、ロケットの模型が目をひくブースがあった。こちらは、 株式会社植松電機と北海道ハイテクノロジー専門学校による展示。ロケットやロケット発射台が目を引いたが、他にも自走式探査機や、TEDの映像が流れていた。うっかりしていたが、ここはTED x SAPPOROのプレゼンテーション「思うは招く」で有名な植松氏の会社であった。
植松電機では、教育活動の1つとして北海道の本社敷地内でロケット教室を開催しているそうだ。広い大地で、そのような体験ができる子どもたちが羨ましい。コロナ過で、見に行くのは難しそうだが、機会があったら筆者もぜひ体験してみたいものである。
STEAM教材というと、ついロボットやプログラミングを連想しがちだったが、STEAMの頭3文字は、サイエンス、テクノロジー、エンジニアリング。ロケットはまさにそのものずばりな教材だ。さらに、そのロケットが目指す宇宙という壮大なテーマは、子どもたちだけでなく、大人である我々の心も揺さぶる。主体的な深い学びの方法として、うってつけの内容である。
筆者は2018年から、今回で4回連続でEDIX東京を取材させて頂いた。ここ数年の変遷から今回の会場の様子を見て、教材から、授業、校務の支援にいたるまで、今やICTの活用は、当たり前のものへと、意識が変わってきたような気がする。特にGIGAスクールについては、昨年度からの調達と展開のフェーズから、運用・活用へのフェーズにと移ってきたことを感じた。
学習指導要領にもあるカリキュラム・マネジメントや開かれた学校という課題について、1人1台環境、クラウドの利用を大前提とした新しい取り組みをスタートできるのではないだろうか。