こどもとIT
GIGAスクール活用の鍵となるデジタル教材、学習コンテンツの未来とは?
――第12回教育総合展「EDIX東京」展示会場レポート⑤
2021年5月26日 13:30
5月12日から14日の3日間、東京ビッグサイト青梅展示場にて「EDIX東京」(主催:リード エグジビジョン ジャパン株式会社)が開催された。緊急事態宣言下の実施で出展社も来場者も少なめだが、GIGAスクール構想によるデジタル化の動きを感じる機会となった。本記事ではデジタル教材を中心に展示会で見えた傾向をご紹介しよう。
クラウド時代に「調べる」を強力にサポートする辞書、事典サービス群
今回もっとも注目したいのは、辞書、事典サービスだ。これまでも調べ学習などでPCが利用されることは繰り返されてきたが、インターネットでの情報収集の際に、情報ソースや情報の掲載時期を確かめるなどの適切な指導が行なわれないケースが残念ながらまだ多い。一方で辞書や百科事典等で調べるという習慣は今の子どもたちにはあまり浸透している様子はない。クラウド前提の1人1台環境が整ったことで、良質な辞書を利用できるサービスは伸びる予感だ。
これまで辞書といえばダウンロード型アプリのイメージが強かったが、各社個人のIDでアクセスしてブラウザベースで利用するサービスとして提供している。このスタイルならば、GIGAのPCや個人のPC、スマートフォンからでも等しく利用できて非常に便利だ。
ジャパンナレッジSchool:最新の統計データブックや地図ライブラリ、書籍まで!40以上の辞書や事典が利用可能
辞書・事典検索サービスを運営する同社が、中学校・高等学校向けに2021年4月から開始したサービスが「ジャパンナレッジSchool」(株式会社ネットアドバンス)。その検索可能コンテンツの層の厚さが特徴で、40以上の辞書や事典が利用可能だ。国語や英語はもちろんのこと、最新の統計データブックや地図ライブラリなども含まれる。書籍も複数提供されるので、教科書掲載以外の作品を教材として取り上げるのにも便利だ。
検索するとひとつのキーワードに対して複数の資料がヒットするので、辞書による表現の違いをひき比べしたり、思わぬ資料から情報を得られることもある。また、調べた意味をコピー&ペーストすると引用元の辞書名も一緒にペーストされるというから、便利な上、出典を表記するというルールに慣れる機会にもなる。学校が契約し、生徒ひとりあたり年間3,300円(税込)で利用できる。
Brain+ Simple Edition:ブラウザ型の中高生向け辞書教材サービス
アプリ型で展開していた辞書サービス「Brain +」(シャープ株式会社)のブラウザ型サービスが「Brain+ Simple Edition」。中高生向けの国語と英語関連の辞書が利用できるほか、付属機能で、コピー&ペーストした英文のレベル判定をすることも可能。G Suiteアカウントと連携して簡単にログインできるのも魅力だ。またアプリ型の「Brain+ Standard Edition」では、探究学習にも活用できる『ブリタニカ国際大百科事典小項目版』を収録したパックも用意されている。
MottoSokka!:小学校低学年~中学生向け電子書籍読み放題サービス
子ども向けの百科事典ポプラディアを出版しているポプラ社は、インターネット版百科事典「ポプラディアネット」を運営しているが、この後継となるサービス「Sagasokka!(さがそっか!)」を2022年4月に提供する予定だ。
すでに自社の電子書籍読み放題サービス「Yomokka!(よもっか!)」の試用をスタートしていて、両サービスを合わせたサービス全体の入り口となる「MottoSokka!(もっとそっか!)」には、2021年9月に「朝日小学生新聞」のニュースコンテンツも掲載される予定。小学生をターゲットにした総合的な調査リソースになりそうだ。
1人1台のPC環境をいかした生かしたオンライン教材
デジタルの強みを生かしたオンラインの学習サービスは、従来から存在したが、GIGAスクールの1人1台環境で、より現実的な教材となる。個別に取り組めるので、紙ベースの一斉指導ではできなかった個々のペースや進度にあった学習をサポートできる。英語の話す、聞くの学習にも力を発揮する。
EnglishCentral:ニュースや映画予告など、1分程度の動画教材で英語を練習
EnglishCentral(株式会社EnglishCentral)は、ニュースや映画予告編、有名人のスピーチなどを含む大量の動画コンテンツから実用的な英語を学べるサービス。1分程度の短い動画を題材に、リスニング、スピーキング等の練習ができるように工夫されている。スピーキングは自動で判定も。生徒同士の対面のロールプレイよりも恥ずかしがらずに声を出せるようだ。プランによって、マンツーマンのオンラインレッスンを利用することもできる。
スクールTV :学校で使っている教科書に合わせた学習動画を提供
スクールTV(株式会社イー・ラーニング研究所)は、小中学校の教科書対応の授業動画サービス。個人向け「スクールTV」と学校向けの「スクールTVProfessional Edition」がある。1本は10〜15分で、勉強に苦手意識のある子どもが身近に感じながら続けられるように工夫して作られている。学校の学習を補完するために長期休みの学習教材としたり、学習サポートが必要な児童向けに導入するケースも。試聴、学習履歴等の管理機能もある。
すらら:学年に関係なく、アダプティブに学べる個別学習教材
すらら(株式会社すららネット)は、小中学校の学習内容に合わせたレクチャーとドリル、テストがオンラインで進められる学習教材。個々の理解度に応じてふさわしい問題出るようになっていて、個別に進めることができる。学習状況や理解度が管理画面で把握できる。
紙の教材をデジタル化、キャリア学習系の学習プランなど、選択肢も多様に
そのほかのデジタル教材として、紙の教材からのデジタルへ展開したものを紹介しよう。紙を前提にした連動や、デジタル版ならではの機能が追加されている。
株式会社文理のブースでは、紙の英語の教科書ワークと連動したアプリ「おん達」を展示。教科書ワークの付録である単語カードと「おん達」アプリを組み合わせて、単語の発音練習ができる。発音はAIが採点する。また株式会社Libryは、大手出版社や教科書会社と提携し、既存の教科書や問題集をデジタル化するプラットフォーム。学習履歴を記録したり、生徒に合った問題を提示するなど、デジタルの良さを生かしている。
デジタル学習教材やプログラミング教材が多い中でもう一つ傾向が見えたのが、キャリア教育や探究学習のための学習コンテンツだ。学校等に向けてプランと教材、各種サポートを提供する会社が複数見られた。アナログ、アナログとデジタル、サポートや研修をオンライン対応など、提供形態は様々。
中高生向けの探究型キャリア教材「ENAGEED」を提供する株式会社エナジード、同じく中高生向けの探究学習やキャリア学習教材「みらい&アカデミー」を手掛ける株式会社インタープレジデント、小学生向けのキャリア教育コンテンツ「子ども未来キャリア」を提供する株式会社イー・ラーニング研究所などが、そうだ。
GIGAスクール構想の1人1台端末が動き出した2021年度、すでに「どう使うか」に焦点を当てて各サービスが動き出している。クラウドと常時ネット接続前提で、マシンパワーを使わないブラウザベースのソリューションが中心だ。出来上がったソフトウェアをマシンにインストールするという時代ではなく、アップデートしつづけるサービスをネット経由で利用するというのが教育の世界でも当たり前になっている。クラウド時代、各ツールの内側にユーザーが閉じ込められるような使い方ではなく、ユーザーの意志でツールを渡り歩き、ネット上のサービスを使い回るイメージを持つ必要があるだろう。
個別の学校を見れば、まだまだ、紙のかわりにデジタル化されたドリルを使っているだけというような状況の学校も多い。使い方や用途を細かく指定して許可制にしてしまうのではなく、良質なツールやコンテンツへの入り口はたくさん提供し、ユーザーである子どもたちが自分の意志でツールを組み合わせて使う余白を確保してあげて欲しいと思う。
【お詫びと訂正】「Brain+ Simple Edition」について、初出時に「探究学習にも活用できる『ブリタニカ国際大百科事典小項目版』も収録」としていましたが、現時点ではアプリ版の「Brain+ Standard Edition」のみの収録でした。お詫びして訂正いたします。