こどもとIT

特別支援から創造的な学びまで、マイクロソフト認定教育イノベーターが紹介するICT活用の実践

――「Microsoft Education Day 2021」レポート(後編)

ICTを日頃から授業や学校生活で活かす教育者は、どのように活用しているのだろうか。GIGAスクールをきっかけに多くの教育者がICT活用にチャレンジし始めている中、教育者同士の情報共有の場は貴重だ。

マイクロソフト認定教育イノベーター(以下、MIEE)らは、2040年に活躍し、社会を担う子どもたちのための教育について語り合う教育カンファレンス「Microsoft Education Day 2021」を2021年2月27日に開催。3つのセミナーをレポートした前編に続き、後編の本稿では、特別支援やGIGAスクールなど多彩なテーマが取り上げられた分科会の模様をお届けする。

※本文中の所属は、2021年2月取材当時のもの。

マイクロソフト認定教育イノベーターらによる教育カンファレンス「Microsoft Education Day 2021」が開催(主催:株式会社バザール 共催:日本マイクロソフト株式会社 企画協力:MIEE Talks@Admin.、Atelier Funipo)

「ICTだからこそできる『つながり』と子どもの心のケア」(両川晃子氏、田中愛教諭、小林義安教諭、関口あさか教諭、圓井健史教諭、山口禎恵教諭、福島学氏)

長野県でICTインクルーシブ推進委員を務める両川晃子氏

コロナ禍でさまざまな制限のある日々を送っている子どもたち。スクールカウンセラーとして多い時には1か月に100ケース以上の親子と接してきた両川晃子氏は、「まだまだ子どもたちには心のケアが必要だが、カウンセラーは足りていない」と語る。そこで、すべての大人が子どもたちの困難に向き合えるファーストタッチができれば予防的対応につながるとして、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンが出している『子どものための心理的応急処置(PFA)』を紹介した。

セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンが出している『子どものための心理的応急処置(PFA)』のパンフレット

両川氏は子どもの心をケアするPFAは決して専門家にしかできないものではないと前置きしたうえで、「見る・聴く・つなぐ」という3つのポイントがあると言及。それぞれについて、周りの大人はどのようなことができるかを説明した。また、子ども同士、あるいは子どもと教員を「つなぐ」際に、ICTの活用が大きな役割を担うことも強調。「遊びや学びなど、子どもたちが必要としている特有のニーズを理解し、情報を提供することが支援につながる」と述べた。

後半は、子どもたちとできるICTのつながりとして、Excelを使った共同編集を紹介した。「あなたが今一番話したい人は誰ですか?」「一番楽しかったことは何ですか?」など5問の質問について参加者が一斉記入し、コミュニケーションの広がりを感じた。

Excelを使った共同編集で「つながる」を場面を披露。アンケートを取る方法もひとつであるが、全員の答えが見えることでコミュニケーションが広がると両川氏

その後は、「コロナ禍での子どもの様子で困っていること」について、両川氏に具体的なアドバイスを求める時間に。家庭への声かけなど教育者らが抱えている課題を共有した。両川氏は「違う立場や違う学校の先生と一緒に話し、学び合う場の大切さに気づかされた」とコメント。教育現場ではカウンセラーの巡回の機会が限られていて、教員が自身の悩みや課題を共有し合う機会はそう多くない。こうして専門家から直接新しい知見が得る時間は、まさにICTだからこそできる「つながり」だと感じられた。

「特別支援×Teams×WELL-BEING」(豊吉淳教諭、海老沢穣教諭、 杉岡伸作教諭、滑川真衣教諭)

東京都の特別支援学校に務める教員の間で、ICTを活用してWell-being(心身、社会的健康や幸福)を高める学びが注目を集めている。本分科会では「特別支援×Teams×WELL-BEING」と題して、4つの特別支援学校の教諭がTeamsを活用した教育実践を発表し、オンラインでつながることで生み出される特別支援教育の可能性について熱い議論を交わした。

東京都立多摩桜の丘学園 豊吉淳教諭(写真左上)、東京都立青峰学園 滑川真衣教諭(右上)、東京都立石神井特別支援学校指導教諭 海老沢譲教諭(左下)、東京都立葛飾ろう学校 杉岡伸作教諭(右下)

東京都立青峰学園の滑川真衣教諭はTeamsで行なったオンライン文化祭について紹介。ビデオ会議で文化祭実行委員が各クラスに生配信をしたオープニングの模様や、生徒が計53本の動画コンテンツを制作し、Google Formsを使って動画コンテストを実施した取り組みについて発表した。

2014年から東京都立石神井特別支援学校でiPadを活用し、子どもたちの創造性と表現力を引き出す教育活動を行う海老沢穣教諭は、PTAと連携したSDGsの取り組みについて発表。産休中の元担任と子どもたちをTeamsでつなぎ、赤ちゃんを紹介してもらった実践を紹介した。

「UDトーク」を活用して授業を受ける、東京都立葛飾ろう学校の生徒たち

続いて「障害のある子どもたちにとってICTは武器になる」と語ったのは東京都立葛飾ろう学校 杉岡伸作教諭だ。3カ月前に本格導入したMicrosoft 365を活用し、協働的な学びを深める生徒の取り組みについて発表。その中で、聴覚障害のある生徒が、音声認識を使って文章を入力するコミュニケーションツール「UDトーク」を活用した学びについて語るインタビューが紹介された。

それを受け、東京都立多摩桜の丘学園 豊吉淳教諭は「生徒がICTを活用した学びを自分の言葉で表現し、その姿に成長ぶりを感じる伸作さんのコメントに大変感動した」とコメント。自身もMicrosoft 365やTeamsを活用した東京都立多摩桜の丘学園の実践を紹介するなかで、「特別支援教育にWELL-BEINGを加えることで、これから押し寄せてくるGIGA時代をより良い状態で受け止めて前に進む力にしたい」と感想を述べた。

「Microsoft教育営業マンに聞くICT支援員が知りたい、Windowsで何ができる?」(福島学氏、五十嵐晶子氏、石山将氏)

東京都と神奈川県でICT支援員を務める、「合同会社かんがえる」の代表・五十嵐晶子氏と日本マイクロソフト文教部門の石山将氏が主催する分科会では、Microsoft 365のアカウント管理や運用などについて、あらかじめ教員たちから寄せられた質問や要望を石山氏に投げかけた。

合同会社かんがえる代表 五十嵐晶子氏(写真左)、日本マイクロソフト文教部門の石山将氏(写真右上)、福島学氏(写真右下)

具体的には、「Office365とMicrosoft 365の違い」や「OneDrive とSharePointの違い」、「年度更新」、「担当者の引継ぎ」、「転入転出」のやり方のほか、快適なTeamsの活用など、1人1台環境を支えるテクニカルな部分について、学校現場として知っておきたい知識が多く挙げられた。

授業や課外活動、校務など、シーンに応じたMicrosoft 365 Educationサービスの活用方法が紹介された

ほかにも、分科会ではグループ内でのStream共有と権限設定の方法やSharePointによる書道作品展示の方法といった、学校での具体的な活用を前提とした使い方の紹介も。五十嵐氏は新年度を迎えるにあたって、非常に価値のある情報交換が行えたと手ごたえを述べ、「Microsoftを支援する立場としても、管理運営をする立場としても明日使える知識がたくさんありました。新年度活用がスタートしたところで、またさらに授業や校務で活用するための情報を集めていきたい」とコメントした。

「この答案どう採点する?テストから見える子どもの困難さとICTでの支援方法」(村田美和氏、関口あさか教諭)

内容は理解できているのに、文字を正しく書くことや正しく計算することに困難さがあることで、テストで力を発揮できない子どもたちがいる。そうした児童生徒の評価はどうすべきか。埼玉県立特別支援学校さいたま桜高等学園の関口あさか教諭は、2018年に実施した調査結果に基づいて、多くの教員は「正しく書く力」や「計算を正しく行う力」に重きを置きすぎることによって、理解度そのものを評価できていない傾向にあると発表した。

高崎健康福祉大学 講師 村田美和氏(写真左)、埼玉県立特別支援学校さいたま桜高等学園 関口あさか教諭(右)

同調査は、関口教諭が東京大学先端科学技術研究センターの平林ルミ氏、高橋麻衣子氏と共同で実施したもの。小学校と高校、900人以上の教員に対して、答えは合っているが漢字が間違っているものや、立式はできているのに計算ミスがあるといった内容の答案用紙を採点してもらった結果、漢字や計算など表記の段階でミスがあるとテストの評価に影響することが明らかとなった。

これについて関口教諭は「たとえば答えを書くという部分をキーボード入力に、計算を計算機に置き換えることは書字や計算の困難さを代替する一つの手段として、文科省も例示しているが、学校現場ではなかなか受け入れられない現状があるように感じた」と述べた。

書き字や計算に困難さを感じる子どもたちが直面する、テストでの評価の問題。最終的な回答だけでなく、そのプロセスが評価されることは極めて少ない

前述の発表を受け、学習障害の専門家である高崎健康福祉大学の村田美和氏は、「学習障害は発達障害のひとつで、読み書きや計算など本人の努力ではどうしようもできない困難さがある」とコメント。何度も練習させられることで学習意欲は低下し、その結果、教員から「やる気がない子」と判断されることを危惧している。

村田氏は、読み書きに困難を抱えるディスレクシアの中学生の事例を紹介。鉛筆の代わりにSurfaceとスキャナ、プリンタを活用して授業に取り組んだ結果、1行しか書けなかった作文が、キーボード入力に変えたことで5つも作文を提出できたという。タイピングに代替されたことで、書き字の難しさやストレスが軽減し、学習へのモチベーションが上がり能力が正当に評価されることにつながった。

タイピングによる漢字変換や、スペルチェックでミスを減らすことで書き字以外の面に評価の目を向けることができる

これらの事例を受け、村田氏は「今まで大事にされてきた書字そのものの正確性は、評価の対象から外れる可能性がある」と語り、ICTを活用した合理的は配慮が、今後より浸透することへの期待を込めた。

「埼玉発!GIGAで広がる特別支援教育のOffice活用の可能性&大学×特別支援学校連携で生まれる新たな学び!」(佐藤裕理教諭、大島啓輔教諭、苅田龍之介教諭)

「GIGAタブレットの種類を選ばず活用できるのが、Office教材のメリット」と語るのは、埼玉県立越谷西特別支援学校の佐藤裕理教諭だ。PowerPointやExcelを使って作成した教材の紹介を通して、“一人ひとりが分かる、出来る”をテーマにした特別支援教育でのOffice活用について発表した。

彩特ICT/AT.laboで活動する佐藤裕理教諭(写真左)、大島啓輔教諭(写真右上)、高久聖也教諭(写真右下)

具体的には、PowerPointの機能を組み合わせて作る「自分で操作できる時計アプリ」や「自分の考えをまとめやすい新聞テンプレート」、Excelの表を用いて「お金の量の見える化」した教材だ。これらの教材は分科会中、参加者にクラウドで共有された。これらの教材は「彩特ICT/AT.labo」のサイトに公開されているので、ぜひ活用してほしい。

Officeで作成した「自分で操作できる時計アプリ」を活用する様子。PowerPointで作成されたパーツを自分で動かしてプリントの問題を解いている

後半は、埼玉県内の特別支援学校や特別支援学級の教員からなる任意研究会「彩特ICT/AT.labo」の取り組みについて紹介。日本工業大学と連携して行なった「Kinect」を用いた教材について、特別支援教育におけるICTとAT(アシスティブテクノロジー:支援機器・技術)を活用した教育の普及推進を目的に、日本工業大学と連携して、教材開発を行なっている。

同研究グループの埼玉県立騎西特別支援学校の高久聖也教諭はその一環として、Kinectを使用したアプリを紹介。Kinectはカメラが映した映像とアプリ画面を合成する機器で、「身体の不器用さのある子どもたちが楽しみながら身体を動かせる教材」をテーマに「physical training system」や「Tree decoration」など、楽しく学べるアプリを開発した。

Kinectを使用したアプリ「physical training system」、「Tree decoration」。身体の不器用さのある子どもたちが、手足を動かして楽しく遊べる

最近では大学だけでなく高校との連携も進み、毎年2回、その成果を発表する研究大会を行なっている。これらの取り組みに寄せて、佐藤教諭は「開発を行なう学生の持つ特別支援学校に必要な教材のイメージと、実勢に現場で必要とされる教材のイメージをすり合わせていく中で、学生たちは障害への理解やユニバーサルデザインについての理解が深まった」と語った。

「What is Creativity?工学院大学附属中学校・高等学校の教員を中心とした分科会」(中川千穂教諭、柳川和歌子教諭)

工学院大学附属中学校・高等学校 中川千穂教諭。同教諭の取り組みを詳しくまとめた記事は「Teachers' Voice」で3回にわたり掲載

工学院大学附属中学校・高等学校のMIEEの教員による分科会は、中川千穂教諭、柳川和歌子教諭を中心に、教科、教務、部活、課外活動などさまざまな場面におけるMicrosoftツールの活用が紹介された。同校では、ものをつくる創造性だけでなく、考えることを創造性と捉えており、あらゆる教科で創造的な活動が取り入れられている。

具体的には「Microsoft Forms」(以下、Forms)を活用した数学、家庭科、体育の授業実践を紹介。Formsで小テストを行なう際に数式や関数を入力しやすくする工夫や、体育の授業で生徒からアンケートを募り、生活習慣の振り返りとコロナ禍での不安を見える化した取り組みを取り上げた。

また、「OneNote」を使った探究論文では、生徒たちが情報を共有し、互いに成果物を見られる環境の中で、「確認する→考える→行動する」というサイクルが生まれ、自身の問いを深めることができたという。ほかにも、修学旅行の事前学習で行った中学2年生のプレゼンテーション大会では、写真の見栄えや文字の配置、サイズにまでこだわる姿が見られ、いかに伝わる内容に仕上げていくか、創造的に活動しているのが印象的だ。

中学2年生のプレゼンテーション大会では、生徒がお互いのスライドをフィードバック。レイアウトに活かして作品の精度を上げている

参加者からは「考える力、創意工夫し問題を解決していく力、表現力それらを培うためにツールを使用されていることがよく分かった」という声や、「中高生の時代からあらゆるツールに触れることで、子どもたちが成長し社会に出たときに、自分たちがしたいことを今一番実現できるツールは何か、を確実に選ぶことが出来る能力も同時に身に着けられるのだろうなと実感した」という声が上がった。

「GIGA元年、準備はできていますか?マイクロソフト認定教育イノベーター実践のヒント!」

上記の分科会やセミナーの合間に、小中高さまざまな校種のMIEEがICTの活用実践をプレゼンした。GIGA元年と言われる今年、何から着手すべきか模索する教員に向けてマインクラフトやフォトアプリを使った授業や校務の効率化、withコロナ時代のオンライン授業のノウハウなど、簡単に始められる運用や一歩先を行く実践が紹介された。

「フォトアプリでできる!!『楽しい』授業」(板橋区立志村第二小学校 田村久仁子教諭)
「ICTド素人の私が、こんなことできました!- 主体性を育むマインクラフトを使った学習 -」(北海道北見市立上仁頃小学校 野尻育代教諭)
「学習蓄積・共有用Webサイトを活用した勉強に対する意識改革」(足立学園中学校・高等学校 瀬戸口義貴教諭)
「テクノロジーでwithコロナ!ES(Enliven School=学校盛り上げ)プロジェクト」(兵庫県尼崎市立園田小学校 林孝茂教諭)
「コロナが生んだパラダイムシフト」(工学院大学附属中学校・高等学校 中川千穂教諭)
「学年・校務分掌・会社のチーム内で、業務の見える化をし、業務効率をアップデート!」(東明館中学校・高等学校 山元祐輝教諭)

「Microsoft Education Day Tokyo 2021」は1日にセミナーやワークショップ、分科会が濃縮され、MIEEの生きた実践による授業づくりのヒントが豊富に散りばめられていた。地域や校種を越えて集まった参加者がリアルタイムで主催者に質問し、議論が深まるなどオンライン開催ならではの貴重な機会が生まれていたように思う。

未来を生きる子どもたちの教育について考える「Microsoft Education Day」が教育者の間で広く浸透し、ここで共有された知見がひとりでも多くの子どもたちに届くことを願う。

【お詫びと訂正】初出時「佐藤教諭はその一環として、Kinectを使用したアプリを紹介」としていましたが、「埼玉県立騎西特別支援学校の高久聖也教諭は~」の誤りでした。お詫びして訂正いたします。

本多 恵

フリーライター/編集者。コンシューマーやゲームアプリを中心とした雑誌・WEB、育児系メディアでの執筆経験を持つ。プライベートでは6歳と2歳の男の子を育てるママ。来年小学校入学を控えた子を持つ母として、親目線&ゲーマー視点で教育ICTやeスポーツの分野に取り組んでいく。