こどもとIT
マインクラフトのものづくりは“希望しかない”、子どもたちが自ら学び深めていく姿を見て
――Minecraftカップ2020最終審査会・表彰式レポート(後編)
2021年3月22日 06:45
教育版マインクラフトで創る作品コンテスト「Minecraftカップ2020最終審査会・表彰式」(主催:Minecraftカップ2020 全国大会運営委員会)が2021年2月21日にオンラインで開催された。前編では、アイデアあふれる「小学生低学年部門」と「小学生高学年部門」のプレゼンテーションの様子をお伝えした。後編の本稿では、「中学生部門」と「高校生部門」、そして表彰式の様子をお届けしよう。小学生と異なり、中高生にもなると“未来の学校”というテーマの捉え方や掘り下げ方にも、深みが増して面白い。メッセージ性もあり、見応えのある作品が次々に発表された。
コロナ、災害、環境、食糧問題など、扱う社会課題も広がる「中学生部門」
中学生部門は5名のファイナリストが登場した。この年齢になると、マインクラフト歴も長く、制作に長けているが、部活動や勉強が忙しく、制作時間を確保することが課題だったようだ。
松本康佑さん(福岡県):「未来地区小学校」
松本康佑さんは無機質な今の学校から、「明るくおしゃれで、通うのが楽しくなる場所にしたい」という想いを込めて、見た目にこだわった学校を作った。しかも、自動で検温や消毒ができるなどAIとの共存や、SDGsの気候変動にも対策を凝らし、体育館には避難場所や食料の備蓄できる場所、校庭の下に雨水を溜められる施設を設けた。制作時間は1日1時間と決めて、コツコツ進めたようだ。
宮崎 昭徳さん(神奈川県):「未来の学校~よりよくするために~」
宮崎昭徳さんは制作前にSDGsについて調べ、学校に行けない子どもたちの数や、世界の紛争などに理解を深めた。制作期間が2ヵ月しかなく、1週間単位で作業を管理。ワールドを横に広げて建築をしてしまうと大変だと判断し、高さを出すように工夫したそうだ。校舎はコードビルダーのビルダー機能とループ機能を組み合わせて自由に建築できるようにしたという。
辻本快馳さん(東京都):「未来のエリート学校」
辻本快馳さんの作品は、コマンドブロックをふんだんに使った仕組みで、テレポートや会話ができるのが楽しい。レッドストーン回路で作った「セキュリティのある扉」に苦労したようで、防犯システムの再現に力を入れた。アイデアをノートに書いて、また良いアイデアがでたら書き足して、提出期限のギリギリまで粘り強く取り組んだと話してくれた。
kazutaさん(東京都):「Live with nature 自然を守り自然と学ぶ学校」
kazutaさんの作品は、テクノロジーと自然の調和がコンセプト。宙に浮いた球体の建物やテレポート、学校の電力を賄える風力発電など、今はまだ実現していないテクノロジーを表現した。球体のプログラムはJavaScriptを使っている様子が見え、プログラミング経験の豊富さが伺えた。やることをノートに書き出し、1日のノルマを決めて、着実に制作を進めたようだ。
メッセージ性の強い作品が魅力「高校生部門」
最後となった高校生部門では、3作品が発表された。小学生低学年部門から見ていると、高校生はすっかり大人で、同じマインクラフトでも建築そのものではなく、ストーリーや世界観などにこだわりを持っているのがわかる。内容も、現実社会で自分が感じたことを制作につなげる様子も伺え、作品を通して伝えたいメッセージがあることを感じた。
Hoshimikan6490さん(東京都):「自分の学校への不満から生まれた、未来の学校!」
Hoshimikan6490さんの作品タイトルを聞いて、なかなか手強いと思ったが、「学校はもっと最新設備で学べる場所であってほしい」という願いが込められていた。それを表現するために、夜になると新たな設備が建設される工事音が流れるなど、世界観も表現している。制作期間が1ヵ月しかなかったそうだが、作るものをマインクラフトのノートに書き出し作業を進めたという。
Zenoさん(東京都):「V Shcool –仮想空間の学校-」
Zenoさんは、仮想空間をマインクラフトで再現した。大会のテーマでもある“ひとりひとりが可能性に挑戦できる場所”を批判的な思考で捉え、病気や家庭の事情、精神的な不安から学校に足を運べない人のために、仮想空間の学校を考えた。こだわったのは、現実から仮想空間へ移動するアプローチ。マインクラフト自体がバーチャルだが、そこに構築された仮想空間かと思うと、想像力の広がりを感じさせてくれた。
マインクラフトのワールドで表彰式。取材も飛び入り参加
20名のプレゼンテーションも終わり、表彰式の時間となった。なんと、今回の表彰式は、マインクラフトの中に作られた特設会場で行なわれるという。事務局のご厚意で、この表彰式のワールドに参加させていただいた。なんだか特別カメラマンにでもなったような気分で、表彰式の開始前に会場をうろうろしてしまった。
この会場に全ファイナリストと審査員のアバターが一同に集まっているのかと思うと、いきなり未来に来たような感じだ。各賞が発表されると、選ばれたファイナリストが、表彰台に向かって歩いてくる。なんだか、リアルより緊張する。この様子も、YouTubeで配信され、マインクラフトの中の様子と現実世界のファイナリストたちの様子がうまく画面構成されていた。
それでは、各審査員賞から紹介していこう。
・大西一平賞:高田豊彬さん「光る学校」
・Kazu賞:須崎有哉さん「ゆっぴースクール」
・神谷加代賞:松本康佑さん「未来地区小学校」
・鈴木寛賞:かずねさん「未来の学校」
・タツナミシュウイチ賞:たけるさん「電気学校」
・髙崎正治賞:リュウトラゴンさん「未来の学校~気候変動に強く、地産地消に取り組む学校~」
・コロコロコミック賞:吉川岳人さん「天空の学校 西洋のお城と日本のお城」
・Microsoft賞:原田優月さん「Sea school」
審査員賞の中で、ひときわ喜びの声を上げていたのは、一番手の「ゆっぴースクール」須崎さん。プレゼンの中で「KAZU」賞に選ばれたいと語っていたが、それが叶った。笑顔で大好きなKAZU氏からマインクラフトの中でトロフィーを受け取っていた。
続いて、各部門賞の優秀賞に輝いた作品を紹介しよう。
・小学生低学年部門:りゅうきさん「レッドストーン小学校」
・小学生高学年部門:しょうたさん「エネルギーが学べる学校 その名はたかさご小学校」
・中学生部門:山口翼さん「未来の学びの島!」
・高校生部門:なおぴえさん「科学と社会の学校~学問とICTと自然の融合~」
そして、大賞に選ばれたのは、小学生高学年部門で発表した浦添昴さんの「未来への5つの約束 ~キレイな水と渓谷の洞窟学校~」だ。石垣の自然を連想させる壮大な建築や地元愛が感じられたこの作品が堂々の大賞に選ばれた。未来に向けての5つの約束の高らかな宣言が大人たちの心にも刺さった。技術やデザインは、誰もが素晴らしかった中、最後はその努力が素晴らしかったと讃えられていた。
今、改めて考えたいマインクラフトの可能性
本大会の締めくくりとして、運営委員長の鈴木寛氏は「今回のこの大会の様子を1人でも多くの人に見てもらいたい、そこには希望しかない。子どもたちは見ている人に希望を与えてくえた」と力強く語った。また頑張った参加者はもちろん、こうしたデジタルものづくりの場を支えているコンピューター、ソフトウェア、インターネットなどIT分野に関わるへ人達への感謝も伝えていた。
鈴木氏は、保護者や教育関係者に対して、「より良いデジタル環境の中で、子どもたちが楽しく学び、成長につながる機会のひとつとして、Minecraftカップをやっている」と説明。マインクラフトは単なる遊びとしてのツールではなく、楽しみながら学び成長できるコンテンツとして、その効果も学問的にも明らかになってきている段階だと語った。ただ、一点だけ注意事項として、「4時間以上はやらない方が良く、3時間ぐらいに留めるのがよい」と伝えて、締めくくった。
今回のMinecraftカップ2020は、いろいろな制約の中でも、マインクラフトというツールがもつ多様な可能性を改めて見せてくれた。また、マインクラフトを活用することで、子どもたちが自ら楽しく学び、深められることも示してくれた。これほど子どもたちの創作意欲や創造性を刺激できるツールはなく、「学び」と「遊び」のあるべき姿を教えてくれる。来年度も開催が検討されているとのことで、多くの子どもたちにチャレンジしてもらいたい。