こどもとIT

小学生がマインクラフトで魅せた本気の表現力、人と環境にやさしい未来の学校

――Minecraftカップ2020最終審査会・表彰式レポート(前編)

2021年2月21日、教育版マインクラフトで創る作品コンテスト「Minecraftカップ2020最終審査会・表彰式」(主催:Minecraftカップ2020 全国大会運営委員会)がオンラインで開催された。第2回目となる今回は、エントリー数は1770を超え、応募総数は483作品、その中から一次審査、二次審査を突破した20名のマインクラフターたちが最終審査会に集結した。前編の本稿では、小学生低学年部門、小学生高学年部門のプレゼンテーションの様子をお届けする。

大賞をかけて、20名のマインクラフターたちが熱いプレゼンを繰り広げた

テーマは「未来の学校」。SDGsやSociety 5.0を視野に理想の学校を表現する

Minecraftカップ2020のテーマは「未来の学校~ひとりひとりが可能性に挑戦できる場所~」。コロナ禍で休校を経験し、制限の多い学校生活を送っている子どもたちは今、どのような学校を理想に描いているだろうか。マインクラフトで自分が望む学校をつくろうというのだ。しかも、ただ建築するだけではなく、SDGsやSociety5.0の要素を盛り込み、プログラミングやレッドストーン回路も用いなければならない。また期日内に作品を仕上げられるよう、計画を立てて進めることも大切だ。

子どもたちが利用するのは、教育版マインクラフト「Minecraft:Education Edition」で、エントリーした大会参加者に無償でライセンスが提供された。普段遊び慣れているマインクラフト とは若干の違いはあれど、プログラミングができる「Microsoft MakeCode for Minecraft」の呼び出しが簡単だったり、Windows 10、MacOS、iPadに加えて、Chromebookで利用できるといったメリットもある。

今回のオンラインによる最終審査会は、子どもたちが事前に収録したプレゼンテーション動画を披露し、その後、審査員がリモートで質問するという流れ。審査基準は5項目で「構想力」「調査力」「技術力」「計画力」「作品完成度」が評価される。子どもたちが作ったプレゼンテーション動画では、学校の見どころをアピールするとともに、アイデアの着想や情報収集、プログラミングで苦労した部分や、制作を進めるうえで工夫したポイントなどが語られた。この動画が普段からYouTubeを見ている子どもたちらしく、完成度が高くて見ているだけでもかなり楽しい仕上がりであった。

配信を盛り上げる工夫もいろいろ。Microsoft Teamsを活用して参加者・審査員が一同に並んでご挨拶

ちなみに筆者は、マイクラに特別詳しいわけでもなんでもない。ただの1プレイヤーである。しかもどちらかといえば、平和にワールドで建築を楽しんだり、ネコをはなしがいにして愛でるような遊び方が中心だ。レッドストーン回路やMakeCodeの知見はあるものの、そこまでがっつり自分で作品を作っているわけではない。そんな程度のプレイヤーの感想なので、案外世間の保護者や先生方の視点に近いのではないかと思う。

自分の“好き”を形にした、自由な発想の学校が並ぶ「小学生低学年部門」

小学生低学年部門は、4名のファイナリストが発表した。小学3年生までの部門だが、あなどってはいけない。幼稚園の頃からマインクラフトを触っていたとしたら、すでにマイクラ歴は数年になるのである。ファイナリストの作品はどれも、大人の想像を遥かに超えた、スケール感のある構築物がワールドの中に広がり、その想像力と具体化された世界には驚かされっぱなしであった。

須崎有哉さん(徳島県):「ゆっぴースクール」

1番手は須崎有哉さん。作品名は「ゆっぴースクール」。学校の説明動画もユーモアたっぷりな流れで、見ているだけで楽しい気分にしてくれる。作者の須崎さんは、審査員のひとりでもあるYoutuberのKazu氏が大好き。素直な気持ちを口にしていたのが印象的だった。

みんなが仲良く学べる楽しい小学校
プログラミングやレッドストーンも駆使して20個ほどの装置を作った
ワールド内の動画もユーモアたっぷり

りゅうきさん(福岡県):「レッドストーン小学校」

りゅうきさんはSDGsを調べて差別があることを知り、ゾンビも一緒に勉強ができる学校をつくるという、心の優しさが伝わってきた。学校内の設備もレッドストーンやプログラミングを駆使した自動化が図られており、農場の収穫物が入ったチェストがベルトコンベアで移動したり、壮観な四段ピストンエクステンダーなど、レッドストーン愛があふれていた。ちなみに、この学校はレッドストーンも学べるようで、コンセプトが面白い。通ってみたいものである。

レッドストーンについて学べる学校。ゾンビも一緒に学べる優しさあふれる場所
学校のいたるところに自動化装置が並ぶ
見所の1つ四段ピストンエクステンダー。絵力がすごい

吉川岳人さん(静岡県):「天空の学校 西洋のお城と日本のお城」

吉川岳人さんは、お城愛にあふれる小学校を発表してくれた。壮大な西洋風のお城の校舎と、日本風のお城の体育館が合体され、ひとつの学校を形成。独特なアイデアを、細部にわたるまでこだわって建築したところが、なんともすごい。吉川さんは、この建築に取り組むにあたって、地元の掛川城をモデルにし、実際に足を運んで観察したそうだ。

西洋のお城と日本のお城が見事に融合した壮観な建物が表現
校舎側の建物は壮大な西洋風のお城
掛川城を参考にしたという体育館

高田豊彬さん(大阪府):「光る学校」

小学生低学年部門の最後は、高田豊彬さん。学校の様子を見て、仰天した。本当に学校の校舎全体が光り輝いているのである。発想も凄いが、きちんと隅々まで光るようにブロックを構築していくエネルギーに感心した。建築の方法として、同じ構造物を何回も再現できるストラクチャーブロックを活用したとか。そんなものがあるなんてこの日初めて知りましたよ。学校全体がひとつの回路でうまく動作させるのが大変だったと苦労も語っていた。

電気の発電についても詳しく調べている
学校全体がその名の通りに光っている様子
建築にあたっては、さまざまな工夫が。ストラクチャーブロックの説明も

各プレゼン後には、審査員と質疑応答が行われた。その全部を紹介するのは難しいので、1組だけ筆者も見ていて思わず笑顔になってしまった、マインクラフターのタツナミ氏と2番手に登場した、「りゅうき」さんの様子を少しだけご紹介。タツナミ氏は、話ができることが嬉しくてたまならい様子で、笑いながら「本当に小学生ですか」と技術や努力を高く評価している気持ちが伝わってきた。りゅうきさんも最初は緊張気味だったものの、次第に打ち解けていく様子が見え、世代を超えたマインクラフター同士の交流が垣間見えた気がした。

笑顔がとまらないタツナミ氏とりゅうきさんの様子

一段レベルアップした表現力、審査員が唸る力作揃い「小学生高学年部門」

続いては、小学生高学年部門。北は青森から、南は沖縄まで、計8名のファイナリストが登場した。4部門の中では層の厚さも一番で、低学年の元気が溢れるプレゼンテーションに加えて、この部門の子どもたちは円熟味を感じさせる。発表の中でも、しれっともの凄い技が紹介されていて、見ている方もテンションがあがりっぱなしであった。

川島蒼太さん(茨城県):「Let’s go to school!」

1番手は川島蒼太さん。誰もが行きたくなる学校を表現するために、バリアフリーにし、外観をレンガ用いた温かみのあるデザインにするなど工夫を凝らした。学校を設計する前に、親や友達から今の不便な点や改善要望などを実際にヒアリングし、リアルな声を取り入れて学校をデザインしたところが素晴らしい。

誰もが行きたくなる学校を再現するため、いろいろな工夫が
温かみのあるレンガのデザインがとてもよい
飲み物が提供されるマインクラフトカフェコーナーも校内にある

原田 優月さん(青森県):「Sea school」

原田 優月さんは、SDGsを調べていて、水や食料の大切さを感じ、海を守りたいという想いから海の中に学校を作ることを思いついた。質疑応答では、建築中にガラスが割れてしまい、水が入って大変だった苦労談も聞かれた。筆者も同じことをやったことがあるので、その大変さがよく分かる。食料に困っている人たちにも視野を広げ、食料庫が作られているのも注目ポイントだ。

海を守るために海の中に学校作ったというメッセージ性。SDGsの17項目のうち特に食料と海について調べた
地上部分の校舎、海の中にも学校が広がっている
細やかなデザインの食料庫の様子、これで食料に困ったときも安心かも

かずねさん(東京都):「未来の学校」

かずねさんの作品は、いきなり宇宙船へのワープからはじまる。未来の学校は、地球とそれ以外の星から、子どもが通うようになるというアイデアだ。その壮大な世界観に、本当に椅子からひっくり返りそうになったと同時に、かずねさんの独創的なアイデアを表現できるマインクラフトの可能性にも驚かされた。中の施設などは、自分の学校を参考に“未来版”を考えたそうだ。

さまざまな惑星に住む未来の学校
学校の中にはさまざまな施設がならんでいる
未来の学校のエネルギー

たけるさん(東京都):「電気学校」

たけるさんが考えた作品は、なんと、稲妻をエネルギー源にした自家発電できる学校で、この作品には審査員の皆さんも驚いた様子だった。稲妻が自然の中で起きる仕組みを調べ、実際にマインクラフトの中で稲妻を再現しているのが凄い。そんなこともできるんだと、筆者にとっても勉強になった。

学校の屋上に避雷針を設け、カミナリを電源にするという発想がすごい
カミナリを発生する方法がさらっと紹介されていた、避雷針に落ちるカミナリがすごい

リュウトラゴンさん(奈良県):「未来の学校~気候変動に強く、地産地消に取り組む学校」

リュウトラゴンさんは、気候変動に対応できるように、空中に学校を浮かべた。球体の独創的なデザインや、テレポートで移動するなど、未来感あふれる学校を表現。そして何より驚いたのは、「一切手積みをしないと決め、MakeCodeのみで作るのが苦労しました」というリュウトラゴンさんの一言。ちょっと、おじさん、何を言っているのか一瞬わからなかった。つまり、この学校は全部プログラミングで作ったということらしい。まじかい。

空中に浮かぶ気候変動に強い学校。球体のデザインがおしゃれ
一切手積みをしないと決め、MakeCodeのみで作る
地産地消のメニューが並ぶ学食

しょうたさん(埼玉県):「エネルギーが学べる学校 その名はたかさご小学校」

この学校は、ワールドの中でNPCに話しかけながらストーリーを進めるRPGのスタイルで、学校自体が一種のアトラクションとして設計されている。学校の中に仕掛けられたイベントにチャレンジしていくと、名前のとおり、エネルギーについて学んでいける。未来のエネルギーとして、水素発電から核融合炉までマインクラフトで再現し、核融合炉については、那珂核融合研究所の人に資料を送ってもらったという。専門機関にまで情報収集し、その仕組みを再現しようとした点が素晴らしい。

エネルギーについて自分で体験して学べる学校
核融合炉、水素やアンモニア発電もマインクラフトで再現

浦添昴さん(沖縄県):「未来への5つの約束~キレイな水と渓谷の洞窟学校~」

石垣島に住む浦添昴さんは、地元の豊かな自然をマインクラフトで美しく表現。島々と見事に融合した建築物が壮大なスケールで作られており、圧巻である。広大な島は加工する際に、プログラミングを活用し、建築を進めていったのだとか。話を聞いても、とても楽しく作業に取り組んでいたようで、「毎日作りたかったので、学校から帰って来るとまず宿題をすることにしました」という発言に、見ていた大人はほっこりした。

自然と建物の融合がとても素晴らしい景観になっている
一つひとつの建築がなんとも素晴らしい

喜納正直さん(沖縄県):「環境とエネルギーについて考える学校」

高学年最後の発表は、喜納正直さん。オンライン授業で、環境とエネルギーを学ぶことができるというコンセプト。学校内の一つひとつの設備が壮大で、修学旅行用の水素ロケット、研究発表のための光る広場、食料を無限に供給できる農場など、未来感を感じさせるアイデアが表現されていた。

災害に備えて地下に建設されている学校、オンラインで家でも研究ができる
上空から見た学校の全体像
夕日がはえる風力発電所が壮観だ

以上、小学生低学年部門と小学生高学年部門の作品をお届けした。どの作品も、子どもたちの発想豊かなアイデアやこだわりが表現されており、見ている大人を楽しませてくれた。後編では、中学生部門、高校生部門、そして表彰式の様子を紹介しよう。

新妻正夫

ライター/ITコンサルタント。2012年よりCoderDojoひばりヶ丘を主催。自らが運営する首都圏ベッドタウンの一軒家型コワーキングスペースを拠点として、幅広い分野で活動中。 他にコワーキング協同組合理事、ペライチ公式埼玉県代表サポーターも勤める。