こどもとIT

情報は「だいふく」で確認、LINEの「情報防災訓練」で学び防災に貢献できる存在に

――情報リテラシー×防災の教材「情報防災訓練」公開授業レポート

LINEは元々、東日本大震災をきっかけに「災害時でも大切な人と連絡を取れるサービスを」という思いから生まれたコミュニケーションアプリだ。これまでにも、災害時に役立つ機能の充実や防災・減災の取り組みに力を入れてきた。

東日本大震災から10年の今年、一般財団法人LINEみらい財団は、静岡大学教育学部発達教育学専攻の塩田真吾准教授と共同で災害時の情報とのつきあい方・デマの見極め方を学ぶ情報リテラシー×防災の教材、「情報防災訓練」を開発。今春より、全国の小中学校でオンラインでの出前授業を行う。

2021年3月9日に青山学院大学系属 浦和ルーテル学院中学校(埼玉県さいたま市)で行われたLINE 情報リテラシー×防災公開授業をレポートする。

公開授業が行なわれた浦和ルーテル学院中学校の生徒たち

SNSで情報を入手する子どもたち

静岡大学教育学部発達教育学専攻 塩田真吾准教授

当日は、塩田真吾准教授によるオンライン授業の形で授業が行われた。

冒頭で塩田氏から生徒たちに、新型コロナの情報をどこで入手しているかという問いかけがあった。「NHK」「民間放送(テレビ・ラジオ)」「新聞」「Yahoo!ニュース」「LINE NEWS」「Twitter」「YouTube」「その他」から手を挙げてもらったところ、LINE NEWSが多かった。

総務省の「新型コロナウイルス感染症に関する情報流通調査報告書」(2020年)によると、教室の結果と同様、10代の若者は他の世代よりもTwitterやLINE NEWSなどのSNSから情報を入手する割合が高くなっている。

10代の若者は他の世代よりもSNSから情報を入手する割合が高い

メディアの特性から考えると、情報の伝達速度には、テレビは情報が「やや早い」、新聞は「遅い」、SNSは「とても早い」という違いがある。災害時にはSNSの情報が役に立つはずだが、信頼できない情報も混じっていることがある。

その情報は信頼できるのか?

ここで、ワークシートとカードが裏返しで配られた。スマホ画面の形をしたカードは、11:50に投稿されたものが4枚、19:10に投稿されたものが4枚の合計8枚ある。表側はTwitterに似たSNSの投稿となっている。

生徒一人ひとりにワークシートとカードが配られた

設定では、自分は田山市に住んでおり、住む街(田山市)に大型台風が近づいている。家族と一緒に自宅の2階にいて、スマホで様々な情報を集めていることになっている。

11:50と19:10のカードからそれぞれ一枚ずつ選んで表に返し、自分ならその投稿をシェアするかどうかを決めてもらった。そして、ワークシートの「SNSで拡散・シェアする」「SNSで拡散・シェアしない」のどちらかに置いていく。

時間帯別にカードを1枚ずつ選び、内容を見て拡散・シェアするかを判断

その後、8枚全部のカードを開いて、「信頼性が高い」「信頼性がやや低い」「信頼性が低い」に分けてもらった。分けた後にどこに着目して判断したかについてグループで共有させたところ、生徒たちはお互いの結果を見て、「なぜそうしたの」と盛り上がっていた。

8枚のカードに書かれたSNSの情報の信頼性についてグループで共有

続いて、それぞれのカードをどう判断したかについて全体に聞いていった。中には意見が分かれたものもあり、判断の難しさがよくわかった。

善意や思い込みでも広がる「デマ」

災害時には、どのような誤った情報が流れてしまうのか。過去には、熊本地震で動物園からライオンが逃げたという誤った情報が拡散された。新型コロナでは、ウイルスが熱に弱いとか、トイレットペーパーが不足するとか、濃厚接触者に関する誤った情報が拡散された。このような誤った情報を拡散すると、他人の名誉を傷つけたり、業務を妨害したとして罪に問われることもある。

災害時に善意や思い込みでデマ情報が広まってしまうことも

「デマは悪意がある人が拡散するものと思ってはいないか。災害時には、善意の人が広めることもある」と塩田氏は言う。

たとえばカードの中には、「防災大学の先生が『田山工場から流れ出た有害物質が身体被害を及ぼすので、田山川の水に触れないで!』と言っています。田山市の人には必ず共有してください」というものがある。このようなものは、善意の人が、「緊急だからみんなに早く知らせてあげなくちゃ」と考えて広めてしまうことがあるという。

この背景にあるのが、SNSの特性による「思い込み」だ。SNSでは「同じ意見を持つ人」が集まりやすく、異なる意見が見えにくいため、同じ意見だけを繰り返し目にすることで「みんながそう言っている」という思い込みが生まれやすい。これが、デマが広まる背景となっているのだ。

「だいふく」に着目して情報を見きわめよ

では、デマに騙されないためにはどこに着目して見ればいいのだろうか。塩田氏いわく、「情報を見きわめるには、『だいふく』(だ:誰が言ったのか、い:いつ言ったのか、ふく:複数の情報を確かめたのか)を意識するといい」という。

これに着目して8枚のカードを振り返ってみると、たとえば「1」や「7」には公式マークがついているので信頼性が高いことがわかる。「2」は防災大学の先生のアカウントのようだが、本人かどうかはわからず、なりすましの可能性もある。つまり、この場合も過去の投稿内容など、複数の情報から確認する必要があるというわけだ。「3」のように伝聞のものも確かではないので、こちらもやはり複数の情報から確認する必要がある。

SNSの情報を見きわめるポイントが8枚のカードに含まれている

「5」はコメントが46きているが、このような点も着目するポイントだ。「コメントを見ると、この投稿がどのように扱われているのかがわかり、判断につなげやすくなる。拡散して間違っていたら工場に風評被害があり、訴えられる可能性もある」。

「いつ言ったのか」に着目すると良い情報もある。「8は、よく見ると11:50の情報をリツイートしたもの。つまりその時点では事実だったかもしれないが、既に情報が古くなっている可能性がある。いつ発信された情報なのか確認するべき」。

「誰が言ったのか」「いつ言ったのか」「複数の情報を確かめたのか」を確認することを意識する

最後に塩田氏は、「自分の街の情報はどこが発信しているのかを確認してほしい。落ち着いて、この情報をSNSで発信してもいいのかを判断することが大切。SNSが得意なみんなこそ活躍できるはず」とまとめ、授業を終えた。

今回の防災情報訓練の授業で、生徒や教師は何を感じただろうか。ある女生徒は、グループで共有したとき、人によって情報の信頼性に対する判断が違ったという。「自分で判断することを大切にし、発信は自分で正しいか考えてからしたい」と慎重さを見せる。またある男子生徒は、「普段情報を調べるときにも、違う情報が紛れ込んでいることがある。たくさんの情報を調べてから判断していきたい」と考えを述べた。

担任の教諭は、「生徒たちはスマホを持ち始めている時期。SNSのことが問題として学校に持ち込まれることがある」という。匿名のSNSで「~かも」「~と思う」という不確かな情報が広まって問題になることもあるそうだ。「個人間のグループチャットでも、同じようにしっかり判断して振る舞ってほしい」と防災に留まらない、SNSの情報リテラシーについて課題感を示した。

教材が開発された背景とは

災害時はフェイクニュースが拡散しやすく、社会問題となっている。この教材は、東日本大震災10年目にあわせて開発されたが、コロナ禍であることも影響している。「社会情勢がかつてと変わり、SNSの果たす割合が大きくなっている。正しく使うことは命を守ることにつながる」(塩田氏)。

一方、若者世代ほどフェイクニュースに接し、共有・拡散しているという調査結果もある。そこで、災害時のSNS利用の重要性を考え、情報の防災訓練として教材を開発、公開したという。情報の見極め方の訓練も必要な時代に、信頼できるもの、共有・拡散していい情報を見極める方法を楽しく学ぼうという内容となっているのだ。

ポイントは以下の3つだ。

・ポイント1 災害時の「情報の見きわめ方」を学ぶ
どんなところに着目して情報を見きわめればいいかを「だいふく」をキーワードとして学ぶことができる

・ポイント2 「守られる存在」から、「貢献できる存在」へ
子どもたちは災害時に「守られる存在」だったが、SNSに触れることが多い子どもたちは、災害時に素早く情報を集めたり、安否情報や被害情報を発信したりすることで、地域防災に貢献できる可能性がある。SNSを通じて防災に貢献できることに気づき、防災への意識を高められる。

・ポイント3 15分で実施できる「ショートバージョン」を用意
15分の短い時間でできる「ショートバージョン」教材を用意、防災訓練後の時間や学級活動などの時間でも取り組める。

「今回は受け手側になった教材となっているが、今後『発信編』も作っていきたい」と塩田氏。「ICT機器がなくても取り組める紙の教材にしたが、タブレット上でも使えるように対応していきたい」。

公開授業で使われたカード型のワークシートのほか、1枚で学べるショートバージョンも用意されている

LINEみらい財団では、今春からこの教材を使って全国小中学校でオンライン出前講義を行う予定だ。興味がある学校は直接問い合わせをしてほしい。

高橋暁子

ITジャーナリスト。 LINE・Twitter・Facebook・InstagramをはじめとしたSNSなどのウェブサービスや、情報リテラシー教育などについて詳しい。元小学校教員。「ソーシャルメディア中毒 つな がりに溺れる人たち」(幻冬舎エデュケーション新書)ほか著書多数。書籍、雑誌、ウェブメディアなどの記事の執筆、監修、講演、セミナーなどを手がける。http://akiakatsuki.com/