こどもとIT

GIGAスクール端末、ちゃんと使えてる? ICT環境整備と保守サポートを現場が赤裸々に語る

――「GIGAスクール構想 現場のホンネ覆面座談会」レポート(中編)

GIGAスクール構想の整備も終わりつつあり、学校現場は今、本格的なICT活用のフレーズへと移行している。しかし、突然の1人1台環境に戸惑う関係者も多い。どのような課題が表面化され始めているのだろうか。一般社団法人 日本教育情報化振興会(JAPET&CEC)は、教育ICT分野に取り組む現場の教員や管理職、行政担当者や有識者など豊富な知見を持つメンバーを集結し「覆面座談会」を開催。前編ではGIGA端末が導入された学校の状況を中心にレポートした。中編では、ICT環境や保守サポートについて掘り下げていく。

ファシリテーターを務めた国際大学グローバル・コミュニケーション・センターの豊福晋平准教授(左上)、主催したJAPET&CEC 教育ICT課題対策部会長の砂岡克也氏(右下)、6名の教員や管理職、行政担当者、コーディネーターが座談会に参加

充電保管庫は必要か?端末の持ち帰りを想定したACアダプター2台運用も

豊福氏: 具体的なハードウェアや充電保管庫についてもお話を聞かせてください。問題とかありませんか?

F氏(中学校教諭): 私の学校では、普通教室の出入り口辺りに40台近くの端末を入れられる充電保管庫を置いています。一気に充電するのではなく、夜間に端末を1台ずつ順番に充電して、翌日までにフル充電にするような仕組みになっているのは賢いなと思いました。

うちのローカルルールでは、中学生ということもありますが、先生が許可すれば生徒が机の上に端末を置いて、Wi-Fiでつないで自主的に調べものをしても良いことになっています。現在は先生が許可したデータしかクラウドで共有できないため、作ったものをどう共有すればいいのかといった課題もありますが、子どもたちにとっては便利なものではあり、自分たちで調べられるということは前向きに受け止められています。

C氏(小学校教諭): 保管庫に全員分の端末を入れると、取り出すのに時間がかかってしまいます。その時間が使うより長い、という馬鹿らしいことが起きています。もし、これから学校を作るのであれば、ロッカーに個人別に置くとか、保管庫を分散して置くとか、何らかの普段使いにフィットした体制が模索されていくのかなと。これが具体的な課題かと思っています。

豊福氏: ACアダプターを充電保管庫に設置してしまうと、子どもたちが端末を家庭に持ち帰ったときに困りますよね?

C氏(小学校教諭): うちの場合はACアダプターが2つあります。使い方は試行錯誤中ですが、私のクラスでは1つは学校の充電保管庫に、もう1つのACアダプターをランドセルに入れて持ち歩くようにしています。これは持ち帰りとともに、学校で端末のバッテリーが切れた際の対策にもなっています。

「先生、バッテリーが切れました」と子どもが申告して充電する仕組みでは、授業進行にも支障があります。そこで教室内の何カ所かに電源の延長ケーブルを置き、バッテリーが切れそうになったら自分で充電できるようにしました。

E氏(小学校校長): うちも自治体が充電保管庫を導入しましたが、ほぼ利用していませんね。学校では端末を机の中に入れ、教科書をカバンの中に入れています。一番よく使うものを机の中に入れましょう、ということになりました。

端末の持ち帰りをしているので、充電は家庭で行ないます。充電保管庫には端末についていたACアダプターが設置されているので、それとは別にACアダプターを家庭に配布しました。ただ、充電を忘れてしまう子もいるので、昼間も充電保管庫で充電できるよう設定し直しました。充電を忘れる子がいっぺんに10人出ることはほぼないので、一気に充電することで学校が電力不足になるような事態は起きていません。

初期不良は何%くらい?子どもがキッティングをすると何が起きる?

豊福氏: メーカーによって初期不良率にも違いがありますよね。私がお手伝いをしたとある学校では、Wi-Fiがほぼ使えないという初期不良が相当数あり、USBのWi-Fiアダプターを差してネットに接続しました。

D氏(自治体支援ICT導入コーディネーター):  初期不良も切り分けが必要ですよね。メカニカルトラブルか、セッティングトラブルかという違いもあります。恐らく後者が圧倒的に多いです。たとえば、iPadはMDM(Mobile Device Management、端末を一括で管理する仕組み)の下でトラブルが起こった場合、端末側からは再設定ができず、MDM側から設定し直さなければなりません。最初のキッティングの際に1台1台設定しておかないと、予期せぬトラブルが起こった際、端末側では何もできなくなってしまいます。

「MDMでまとめて設定しておけばいいんでしょ」と一括で設定を終わらせると、トラブルへの対処が本当に難しいのです。そういうことも含めて理解している業者がセッティングしてくれたものか否かで、対応に違いが出てきます。持ち帰りについても、端末側が「学校のネットワークにだけ接続できる」という設定では、生徒の自宅のWi-Fiにつなげられません。

E氏(小学校校長): キッティング段階で、初期不良は導入業者が排除してくれています。とはいえ、大量に導入した場合、例えば1万台導入して1%に不具合があると、それなりの台数で不具合が出たなという印象にはなると思います。

せっかくなので、私の失敗経験を披露したいと思います。キッティングを、箱を開けるところから子どもにやらせてみたんです。ところが、アセットID(Chromebookを管理するために付けるID)を入れるところで大問題が起きました。子どもが間違って入力したアセットIDもそのまま通ってしまうんですよ。結局、あとから1台1台修正作業を行なうことになりました。キッティング作業は信頼できる業者にお願いした方がいいと実感する経験となりました。

F氏(中学校教諭): つい先日導入が始まった本校では、40台に1台くらい不良があり、ログインできない状況がありました。しかし、そういう事態が起こった際、どう対応するかが決まっていないのです。最初の試験導入の段階であれば対処できますが、本格導入のときに同じような割合で不具合が起こったらどうなるのか、みんなで不安に思っています。

ノウハウやナレッジを共有できる仕組みが必要。5年後はいよいよBYODへ!?

豊福氏: 先行して導入している学校のトラブルや課題を他の学校も活かせるよう、共有できる仕組みが大事だと思いますね。

D氏(自治体支援ICT導入コーディネーター): トラブル共有は重要なんですが、今あまりされていないと思います。先生方が初期不良だと判断されても、実際はアプリケーションの設定が間違っているだけということがあります。たとえば、Zoomのようなオンライン会議ツールの最初の設定でマイクやビデオを使用不可にしてしまい、設定し直そうとしてもMDMで設定画面が禁止されているので無限ループに陥るといったようなものです。

先生方でトラブルの共有をしておかないと、端末の不具合やトラブルに対して、きちんと予算をとってQ&Aやサポート窓口を設けている自治体はいいですが、そうではないところではトラブル頻出という事態になりかねない。その結果、使い始めようと思ったけど、最初の段階でこんなにトラブルがあるのでは、授業で使うのは不安と、結局は使われない端末になりかねません。

豊福氏: 皆さん、サポートに関しては、どのように予算をとっていますか。

A氏(教育委員会関係者): うちの場合は、そもそも4.5万円で全てをやるのは難しく、相当な追加予算が必要になると最初から考えていました。5年間を見据え、現場に定着させていこうとすると、初期不良対策なども含め、どれくらい予算が必要になるのか、ソフト、サポートまで含めて予算を申請しました。また今年度は4.5万円端末が存在しましたが、数年後は同じ価格で購入できる端末がないと考えて、予算取りをする必要があると訴えました。

予算化した時点では、予算を取ったものの必要なくなるものや、逆に当初は想定していなかったけれど新しいものが必要になる可能性もあると話をしています。

豊福氏: 授業展開上、後から必要なものが出てくるのは自然なことだと思います。でも、現状ではそうした点に配慮して予算化する話は出てきていませんよね。

D氏(自治体支援ICT導入コーディネーター): 出てきてないと思いますね。なにせ、年度更新の必要性を認識していない自治体も多いですから。

予算に絡む課題としては、5年後の買い替え時についても考えておくことが重要です。おそらく、5年後は国の予算もつかず、自治体の予算でも1人1台を整備するのは厳しいので、BYODに変わっていくでしょう。しかし、実現するためには、今回のGIGAスクールできちんと成果を出して、1人1台に対する保護者の理解を得なければなりません。また保護者が理解したとしても、いきなり5万円の端末購入をお願いするのは難しいケースもあるので、積み立てが必要になるケースも出てくるでしょう。

行政の方にとっても、来年度の予算だってわからないのに、5年後の予算なんてわかるはずがない。それは国も同じだと思いますが、せめて、どのタイミングでどういう成果を出すべきなのか、予算も含めたロードマップは示して欲しい。見通しがあるとありがたいです。また保守予算についても、参考になる数値があるとありがたいですよね。導入後の不良率がどれくらいで、経年劣化していく中で何台くらい修理が必要になるのか、データとして蓄積され、共有できればありがたいです。

Chromebookを選択した自治体に話を聞くと、保険費用が4.5万円の中に含まれていたことが選択の決め手になったと話されていました。ところが、その費用の中に一番破損しやすいケーブルやACアダプターの買い換え費用が含まれているのか、確認している自治体は少ないようです。そうした部分までロードマップ、見積り、評価項目を確認しておかないと、破綻するケースがどんどん出てくることになるでしょう。

豊福氏: 学校ならではの5年後のロードマップをきちんと考えておく必要がありますね。そういう将来像がないと、端末が届いてもどう使っていいのかわからない。

先行例をお話すると、国立大学附属の学校で3年前に端末を導入し、私は保護者に対して1人1台の必要性をお話したことがあります。その時に10人くらいの親御さんから、「我が家は誰もパソコンを使いません。子どももパソコンを使うような職業には絶対に就かないと思います。それでもパソコンが必要ですか」と詰め寄られました。これは私にとってショッキングな経験で、うなだれて帰りました。

しかし、その学校はきちんと1人1台の成果を出し、それを示したことで、次年度からは、パソコン購入について質問する保護者はいなくなったそうです。成果を示すと、保護者も「この学校は、パソコンを使いながら勉強をする」と納得するようです。5年後を見据えて、1人1台の成果を示すことができなければ、GIGAスクールを維持していくことは難しくなるのではないでしょうか。

(後編に続く)

GIGAスクール構想 現場のホンネ覆面座談会 レポート

【前編】課題山積みでスタートしたGIGAスクール構想、学校現場は今どうなっているのか?(2/15公開)
・【中編】GIGAスクール端末、ちゃんと使えてる? ICT環境整備と保守サポートを現場が赤裸々に語る(2/16公開)
【後編】今から考えておくべき、GIGAスクール構想を成功させるポイントとは(2/17公開)

三浦優子

日本大学芸術学部映画学科卒業。2年間同校に勤務後、1990年、株式会社コンピュータ・ニュース社(現・株式会社BCN)に記者として勤務。2003年、同社を退社し、フリーランスライターに。PC Watch、クラウド WatchをはじめIT系媒体で執筆活動を行っている。