こどもとIT
プログラミングコンテストを子どもたちの晴れ舞台に! 各地の運営担当者が語る活性化のヒントとは
――オンラインセミナー「プログラミングコンテストの作り方」レポート
2021年2月4日 06:45
プログラミング教育の普及に伴って、全国各地で地域の子どもたちに向けたプログラミングコンテストが開催されている。IT人材育成、プログラミング教育の裾野を広げるなど、さまざまな目的で実施されているが、地域開催ゆえの課題も抱えている。
小中学生向けのプログラミングコンテスト「全国小中学生プログラミング大会(以下、JJPC)」実行委員会は、地域でプログラミングコンテストを運営する担当者を招き、意見交換の場として「プログラミングコンテストの作り方」オンラインセミナーを開催した。これからプログラミング教育を地域レベルで活性化していくためには、何が必要か。そのヒントを探る。
子どもたちが活躍できる場を地域につくり、地元を盛り上げるIT人材を育てたい
昨今、子どもたちが参加できるプログラミングコンテストは、JJPCなどをはじめとした全国レベルのものから、自治体や教育委員会、NPO法人などが中心となって開催される地域レベルのものまで多種多様だ。
JJPCではこうした地域開催のプログラミングコンテストと提携し、2020年度から「エリアパートナー」という形でサポートしている。今回のセミナーでは、そのエリアパートナーである長野県、静岡県、和歌山県、鹿児島県の4県の運営メンバーが登壇し、これまでの取り組みやコンテスト運営の課題について語り合った。
まずは、4県が各地域で実施しているプログラミングコンテストの内容を簡単に紹介しよう。
長野県:デジタル、クリエイティブの面白さを味わえる最初の入り口に
長野県が主催するプログラミングコンテスト「信州未来アプリコンテスト0(ZERO)」は2015年にスタートした。0から1を踏み出す若者を応援し、デジタル・クリエイティブ人材の育成を目的としている。長野県 企画振興部 先端技術活用推進課 主任の中村政俊氏は「デジタル、クリエイティブって面白いなと思える最初の入り口として使ってほしい」と話す。
部門は、15歳以下の「U15」、16~18歳の「U18」、社会人の参加も可能な19~29歳の「U29」の3つで、プログラミング言語は問わない。毎年テーマが決まっており、2020年は「今こそ!人にチカラを与えるアプリ」だった。
同コンテストでは高校生以上の部門で「起業家甲子園」などを開催するNICT(国立研究開発法人情報通信研究機構)、中学生以下の部門はJJPCといった全国レベルのコンテストと連携し、シードの可能性がある特別賞を設けている。「ただ地元で発表して終わりではなく、その先を目指せるように連携している。プログラミングを学び、野心のある子にもフックする大会にしたい」と中村氏は語った。
運営資金については、県の予算以外では、協賛企業に資金や賞品を提供してもらうほか、会場の協力も仰いでいる。また新しい試みとして、今年はコンテストだけでなく、長野県内のデジタル人材育成プロジェクトをまとめたお祭り「Nagano Fledge(ナガノフレッジ)」も開催。「信州未来アプリコンテスト0(ZERO)」のプレゼンテーション発表会や、ITをテーマにしたセミナー、信州の企業をつなぐ交流会などが催された。
静岡県:次世代のとがった才能を発掘し県内で育てていけるように
静岡県が主催するプログラミングコンテスト「Digital Future Fest ジュニアプロコン in 静岡」は、小学生から高校生までを対象に、テーマやプログラミング言語を問わず、「ソフト部門」と「ハード部門」の両部門を設けたコンテストだ。県の教育委員会と連携しており、県内すべての小中高校に作品募集のチラシを配布し、それを見て応募してくる子どもたちが多いという。
コンテストの運営に携わる公益財団法人 静岡県産業振興財団 ふじのくにICT人材育成プロデューサーの阪口瀬理奈氏によると、「2019年度の冬休みに、プレ開催で1回目を実施したところ大きな反響があった。“静岡県の子どもたちはこんなに頑張っている”という手ごたえがあり、半年後に2回目を開催することになった」と語る。
コンテストの目的は、次世代のとがった才能を発掘し県内で育てていくこと。「静岡は東京の大学に進学後、地元に戻ってこない傾向がある。子どものうちから県内企業に親しんでもらい、県内でも活躍の場があるというイメージをもってもらいたい」と阪口氏は話す。
ほかにもコンテストだけで終わるのではなく、入賞者に対しては事後にプログラミングキャンプを予定している。「コンテストで裾野を拡大し、とがった”テックエリート”を対象に、“県内でもこんな学びできる”と横の繋がりを作り、静岡県内のコミュニティを形成したい」という。コンテストは将来的には、県外からの応募も受け付け、参加者ら同士が繋がる構想もあるようだ。
和歌山県:プログラミングを学んだ子どもたちに発表できる場を
「きのくにICTプログラミングコンテスト Switch Up WAKAYAMA」は、和歌山県の教育施策「きのくにICT教育」の一環として開催されているコンテストだ。同県は県知事の強い思い入れのもと、プログラミング教育の必修化を全国より先駆けて実施。小学校にアーテックロボット、中学校では1人1台のmicro:bit、高校では各校に15台前後のタブレット端末を整備するなど県レベルで力を入れている。
一方で、和歌山県 商工観光労働部 企業政策局 産業技術政策課 副主査である矢野貴大氏は、「プログラミング教育に力を入れ、学校の部活動などに地元のエンジニアやSEを派遣するなど学びたい子をさらに伸ばす機会をたくさん作っている。しかし、発表する場がないことが課題であり、プログラミングコンテストを実施するきっかけになった」と語った。
「きのくにICTプログラミングコンテスト Switch Up WAKAYAMA」は、2019年からスタートし、今回が2回目。プログラミング言語やテーマは自由で、「ロボット、ゲーム、AI、IoT、セキュリティ等に関するプログラミング作品」となっている。
和歌山県も静岡県と同様に、地元に人が残らないという悩みを抱えている。矢野氏は、「若者が和歌山に戻らない理由として、そもそも地元企業を知らないという仮説もあった。コンテストの協賛企業になってもらい、地元企業に良いイメージをもってほしいという思いもあった」と語った。
鹿児島県:子どもたちに学んだスキルを活かす場を提供したい
「鹿児島Kidsプログラミングコンテスト」の運営メンバーのひとり、株式会社現場サポート 取締役 商品開発部長の川畑勇喜氏は、「本コンテストの特筆すべき点は、民間ベースでやっていることだ」と語る。
同コンテストが始まったきっかけは、実行委員長を務めるIT Kids LaB代表の伊牟田雅子氏の問題意識からだった。同氏はプログラミング教室を営んでおり、小学校のクラブ活動や出前授業に関わるなかで、「鹿児島の子どもたちには、学んだスキルを活かす場がない」と課題意識を持っていたようだ。
そこで、2018年からコンテスト開催に向けて準備を開始。助成金の申請やスポンサー探し、教育機関への協力依頼などを進め、2019年春に第1回の開催に漕ぎつけた。同コンテストは、鹿児島を盛り上げることを目的として、小学1年生から中学3年生を対象に、「Scratch」を使ったゲームアプリなどの作品を募集。協賛企業には県内企業だけでなく、県内に事業所のある企業も含めて17社が参加している。
現在は、賛同した6名がコンテストを主催するNPO法人鹿児島インファーメーシーョンに参加して進めている。川畑氏は、「メンバーには大学教員やプログラミング教室の運営、ICTコンサル経営、現役エンジニアなどがいるが、全員が何らかの形でプログラミング教育に関わってきた。だからこそ、熱意をもって運営できているのかもしれない」と話す。
さらに、コンテストの運営資金についても、第1回は約40万円で実施したことを明かした。「40万円のうち、50%は鹿児島市の助成金で、残りは企業からの協賛金で補ったが、来年以降は協賛金を中心にしたい」とスポンサー集めに力を入れる考えを述べた。
参加者集めやスポンサー探しも地域コンテストの課題
以上、長野県、静岡県、和歌山県、鹿児島県と4県のコンテストが紹介された後は、JJPC実行委員/角川アスキー総合研究所主席研究員の遠藤諭氏とNPO法人CANVASの土橋遊氏がモデレーターを務める座談会が行なわれた。
まず、コンテスト運営の苦労として挙がったのが、「参加者集め」だ。
「特にコンテスト1年目は苦労した」と語ったのは長野県の中村氏だ。「広告費は限られているうえ、認知もされていない。工業高校や高専に足を運んで生徒に応募をお願いしたり、校長会などで告知をしたりして、3年目からやっと数が集まってきた」と話す。
静岡県の阪口氏は「そもそもIT人材育成として、コンテストがよいのかという点も懸案事項で、講座やITキャンプを開催する方が、コンテストよりも参加者が集まるという意見もあり、不安も大きかった」と当時の葛藤を明かした。そのうえで、「有識者の方と話をして“コンテストと勉強会を連携するのはよい取り組み”と背中を押してもらったり、教育委員会の全面協力を得て県内全校にチラシを配布できたことが励みになった。1カ月の募集期間で184作品が集まった」と、その後の展開を語った。
また協賛企業への声がけについては、鹿児島県の川畑氏から具体的なコツが紹介された。1回目は協賛金額をかなり小額に設定。2回目についても、前回の協賛企業全社が再度参加してくれた。その理由として川畑氏は「子どもたちが、大人の予想を遥かに上回るプレゼンを見せたことで、大きな感動を呼んだことだろう」と語った。協賛企業に対するアンケートからも、多くの感動や賞賛の声が寄せられ、企業担当者が子どもたちのプレゼンを見ることで、開催意義の理解につながったようだ。
審査の基準は技術かストーリーか
次に挙がったのが、審査の基準だ。和歌山県の矢野氏は、「プログラミングコンテストは技術力だけを評価するのが一般論かもしれないが、和歌山県では学校のプログラミング授業をベースに発展してきたため、技術力に加えて、プレゼンで伝える力、発想や着眼点も評価している」と話した。
「なぜ、その作品を作ったのか」という理由や作品のストーリーが見えるものが高く評価されてきたと話すのは、長野県の中村氏だ。「よくあるセオリー組んでくる子と、ガチのゼロベースで組んでくる子は、プレゼンや理由に大きな違いが出て、後者の方がパンチの効いた作品が多く、評価されやすい」と話す。また作品やプレゼンがテーマに沿っているかどうかも重要だと述べた。
一方、プログラミング言語を自由にしているコンテストでは、「すべての言語をカバーしている人がいないため、審査にはかなり苦労した」という話も挙がった。静岡県の阪口氏は、「第1回のコンテストではプログラマー以外の審査員もいたため、プログラムの中身を見てもらう点が難しく、次回への反省点になった」と話す。そこで、第2回はプログラミングを見られるメンバーを中心に審査員とし、審査基準も細かく観点を分けることで、他者が見ても納得感のあるものに作り込んだという。
コンテストをプラットフォームに地域を盛り立てたい
セミナーの質問タイムでは、視聴者から「地域プログラミングコンテストとJJPCとの具体的な連携方法が知りたい」という質問が寄せられた。土橋氏は、各コンテストとの連携は、JJPCへのメールなどがきっかけだと説明。現在は広報の連携がベースだが、今後は審査での連携や、地域のブースを設けて各コンテストの優秀作品を紹介し合うような仕組みも考えているという。遠藤氏も、「優れた作品がより広く、人の目に触れることはとても良いこと。このような仕組みをお手伝いしたい」と話した。
セミナーの最後に、登壇者から今後の展望が語られた。
「子どもたちの晴れの舞台となるように、盛り立てていきたい。同時に、地域社会をもっと盛り上げていける役割を果たしていきたい」(鹿児島県の川畑氏)、「プログラミング教育に関しては行政、自治体だけで実施するのは難しく、地域や企業を巻き込むことが必要。一致団結して進めていくのがよいと改めて思った」(和歌山県の矢野氏)。
「コンテストをプラットフォームに、参加した子どもたち、審査員、協賛企業、自治体などがつながるコミュニティを作り、県内を盛り上げていきたい」(静岡県の阪口氏)、「この分野は10年位やって初めて効果が出る息の長い領域。こうと決めて計画通り進めるのではなく、臨機応変に進めていきたい」(長野県の中村氏)といった言葉が語られた。
今回、事例として紹介された4つのプログラミングコンテストは、それぞれ開催概要は異なるものの、いずれもデジタル人材の育成だけでなく、子どもたちがデジタルものづくりを楽しむことを願って開催されている点が好感だ。
実際の運営では、資金面や人材の確保、参加者集めといった様々な課題もあるが、コンテストが長く継続されることも重要だろう。また地域に閉ざすのでななく、子どもたちの世界を広げるために各地域コンテストのつながりや、JJPCのエリアパートナー制度などを最大限活用することが、コンテスト自体の活性化にもつながりそうだ。今後、地域のプログラミングコンテストを舞台に一人でも多くの子どもたちが活躍できることを期待したい。