こどもとIT

“ゲーム=悪”ではない! 親が知りたい、子どもが自らワクワクして学びに向かうヒントとは

――オンライン教育フェス「遊び×学び×テクノロジー」レポート

「なかなか外出できない子どもたちに、親子でワクワクしながら学べる体験を届けたい」

そんな教育者らの想いのもと、2020年12月20日に開催されたのが、マイクロソフト認定教育イノベーター(以下、MIEE)らによるオンライン教育フェス「遊び×学び×テクノロジー」(主催:株式会社バザール、企画:MIEE Talks@Admin.)だ。当日は、日本全国からMIEEの教育者らが講師として集結し、プログラミングやマインクラフトを活用したワークショップ、さらには親や教育関係者に向けてゲームやSNSに関するセミナーなどが実施された。

6歳の息子と一緒にマインクラフトのワークショップに参加した筆者が、保護者の目線でレポートしていく。

おうちで挑戦。マインクラフトのオンラインワークショップ

ゲームの何に惹かれているか。子どもに寄り添い、中身を知ることが大切

ステイホームで子どもたちの在宅時間が増えた今、ゲームとの向き合い方は保護者にとって大きな悩みの種だろう。そんな保護者らに向けて、「子どもたちの学びも変わりつつある今、大人がゲームに対する意識を変えていくことが重要だ」と語るのは、教育版マインクラフトを授業で活用する立命館小学校の正頭英和教諭だ。

立命館小学校の正頭英和教諭

同教諭はゲームそのものは“悪”ではないとし、歴史やスポーツなど新たな興味につながり学びの入り口になることや、友達と一緒に遊ぶことでコミュニケーションも生まれやすいなどゲームのメリットを言及。また「過度なゲームは原因ではなく兆候」というオックスフォード大学の研究結果も取り上げ、「引きこもりや学習意欲の低下は、ゲームが原因だと言われがちだが、ゲームを取り上げたからといって解決にはならない。原因は他にある」と述べた。

子どもたちはゲームには熱中するのに、勉強にのめり込まない理由は何か。ゲームと勉強を比べると、「めざすゴールがある」「決められたルールがある」「フィードバックが得られる」など両者には多くの共通点があるが、勉強に対してゲーム感覚で取り組める子どもは少ない。これについて正頭教諭は、ゲームのベースにある「子どもの自発的参加」が勉強にはない場合が多く、勉強に向かわせるためには子どもたちが自ら進んで取り組みたくなる工夫が必要だと話す。

一方で正頭教諭は、「保護者は子どものやる気の火を移動させようとしすぎた」と指摘。「ゲームはあくまで表面上のフィルターに過ぎず、子どもに寄り添って、その内側にある子どもの本質を見ることが大事。保護者はゲームを大きく、一括りに捉えず、ゲームの何に惹かれているのかを見ることが大切だ」と語った。

子どものやる気を無理に別のことに移すのではなく、子どものやる気の火に大人が寄り添うことが重要だと正頭教諭

子どもが好きなのはゲームの戦略性なのか。それともアイテムを収集することなのか。もしくはゲームの中で何かを作ることなのか。内容まで踏み込み、そこからリアルな世界へ興味を引き出して、初めて学びへの糸口を見出すことができる。

たしかに親は子どもが何かに夢中になっていると、その情熱をなんとか勉強や別のことに傾けられないかと躍起になってしまう。筆者自身もマインクラフトで建物を作っては壊す息子の背中を見つめながら、「プログラミング的な遊び方をしてほしい」と思ってしまう節がある。

さらに正頭教諭は、保護者の子ども時代に比べて学びの価値観は大きく変わっていると指摘。以前は知識のインプットし、問題を正しく解決する力が求められていたが、今は問題発見力が重視されている。ゆえに、ゲームという遊びの中でも、問いを立て、モチベーションを持って行動し、問題発見ができる体験をしていれば、一概に「ゲーム=悪」とは言えないと述べた。

問いがあり、それがモチベーションにつながり行動に移し、それが問題発見につながる。このサイクルを繰り返すことが、今の時代に必要な学びだという

子どもがゲームに没頭しているとき、親は子どもがゲームの何に夢中になっているかも考えず、やめさせることに必死になってしまう。しかし、保護者が子どもに寄り添い、ゲームの中身を知ることで、子どもの興味・関心も広げていける。「大人が変われば、子どもが変わる」という正頭教諭の言葉には、著者自身も保護者として大きな気づきを得た。

スマホやゲームの関わり方で保護者が気をつけることは?

続いては、情報モラル教育と教材開発の専門家で、自身もオンラインゲーム歴20年のゲーマーだと話す、金沢星稜大学の新谷洋介准教授が登壇した。ネットによるトラブルから子どもを守る対策、家庭でのルールづくりなど、保護者はどのように関わっていけばいいか。

金沢星稜大学の新谷洋介准教授

新谷氏は最初に、自身が開発した特別支援教育関連ページ「OCTくんと学ぼう」の中にある情報モラル教材を紹介。SNS乗っ取りなど、実際に起きたトラブルの例を挙げながら、その疑似体験ができる教材であると説明した。

情報モラル教材が利用できる「OCTくんと学ぼう」のサイト
SNS乗っ取りの仕組みを疑似体験できる教材。メッセージに従って電話番号を入力すると、ログインの承認番号を求められる。解説付きで学べる

新谷氏は情報モラル教育を考えるうえで「道徳的」「技術的」「環境的」「法律的」の4つ側面があるとし、今回のセミナーでは主に技術的側面と環境的側面について取り上げた。

技術的側面では、LINEのやり取りについて、短い文字や絵だけのメッセージは相手によって受け取り方が違うことを子どもには教えておきたい。またLINEを返信するタイミングについて、同氏が特別支援学校の高校生を対象にアンケートを実施したところ、「すぐに返信をする人が多いが、時間が経ってから返信する人も意外に多い。自分はすぐに返信するからといって、相手にも同じことを求めてしまうと迷惑行為になる」と述べた。

特別支援学校の高校生を対象に実施したLINEで返信するまでの時間に関するアンケート

一方、環境的側面ではゲーム機からのネット接続について、「家庭でゲーム機を使うときにネット接続をしていないから大丈夫と安心してはいけない。コンビニやファーストフードの無料Wi-Fiやスマートフォンのテザリングなど手段が多様化している」と新谷氏。子どもでも、場所によってはいつでもネット接続が可能な環境の変化に保護者としてハッとした。

また、自身もゲーマーである新谷氏は、ゲームの形態に応じた子どもへの声かけも大切だと話す。家庭用ゲームが主流だった頃は「親にゲームの主電源を抜かれた」というエピソードはあるあるだったが、今はそうはいかない。一様に「止めなさい」と言うのではなく、スマホのアプリゲームは、「あと1回やったら終わりにしてね」や、「ログインボーナスを取ったら終わりね」など、プレイしているゲームの形態に応じた声がけが望ましいと述べた。ほかにも、「子どものゲームをやめさせる時は、ほかの選択肢を増やすことが大切」というアドバイスなども語られた。

ゲームの形態と特徴を知り、保護者も子どもへの声かけを変えていく必要がある

スマホのアプリゲームで、親を悩ませるのは「ガチャ」と呼ばれる課金ではないだろうか。新谷氏は、ガチャの仕組みを疑似体験できる「たくさん集めて!水族館」という教材をつくり、特別支援学校の高校生を対象に授業を実施。その結果、4000円分プレイして2等のアイテムを手に入れた生徒や、有償チケットを購入しなかった生徒など課金に対するさまざまな価値観の違いが見られたという。ガチャの被害にあってからでは遅く、こうした教材を活用して体験しておくことも大切だ。

「たくさん集めて!水族館」。初回にガチャ3回分の300枚のコインが、無料で付与される。追加で遊ぶ場合、授業ではお金の代わりになるチケットを消費することがルール
ガチャを疑似体験生徒の反応。授業内の仮想通貨とはいえ、「お金がかかるゲームはしない」という声も上がり、生徒の多様な価値観が明らかになった

最後に新谷氏は、来年高校3年生になる息子と交わしたスマホ利用に関する誓約書を紹介した。この契約書は、アプリのインストールの可否や利用場所、ルールを違反した際の罰則などを網羅している。注目すべき点は、ルールだからといって厳格に縛るのではなく、「夜に友だちと宿題のやりとりをしたいから使用時間を延長する」など、子どもの要望も受け入れて作成することだ。スマホのルール作りも、子どもに寄り添う姿勢が必要だといえる。

これからスマホを使う子どもを持つ親として、とても参考になる本格的なフォーマット

作曲に化学実験!マインクラフトを活用をしたオンラインワークショップ

セミナーに続いて開催されたオンラインワークショップも、子どもや保護者の興味を惹くものばかりだった。ソニー・グローバルエデュケーションが提供するプログラミング教材「KOOV」を使った動くロボットづくりや、ビジュアルプログラミングアプリ「Springin’」を用いたゲームづくり、さらにはYouTuber講座など、今どきの保護者が子どもに”ちょっとやらせてみたい”と思えるものが企画された。

YouTuber講座の様子

ここでは、子どもたちに人気にマインクラフトのワークショップを紹介しよう。筆者は、特別支援学級の先生たちが企画したマインクラフトの音符ブロックを使ったワークショップに、今年ステイホーム中にマイクラデビューした6歳の息子と参加。マインクラフトの音符ブロックの基本的な使い方を学びながら、「サンタが街にやってくる」の演奏に挑戦した。

音符ブロックは1回たたくごとに音が半音ずつ高くなり、24段階まで音階がある

まず音符ブロックとレッドストーンをつなげて音が鳴る仕組みを理解した。音符ブロックは下に置くブロックの種類によって音色が変わり、土のブロックはピアノ、砂系統のブロックはドラムの音が鳴る。暇さえあればYouTubeでマイクラについて独学している息子は音符ブロックの存在は知っていたけれど「こんなに色んな音が出るのは知らなかった!」と嬉々としながら羊毛ブロックでギターのサウンドを楽しんでいた。

筆者親子も含め参加者がいちばん苦戦したのは、楽譜通りに音が鳴るようにブロックを並べることだった。音符ブロックを配置するだけでは、装置を起動した時にすべての音が同時に鳴ってしまう。音符に合わせて音が鳴る長さを変えるために、レッドストーン反復装置(以下、リピーター)を使用した。

リピーターをクリックする回数によって、音の長さが変化する。楽譜の音符と資料を見比べながら、ひとつずつ小節を完成させていく

ワークショップはZoomで行われたが、小学生の参加者がチャットや反応スタンプで意思表示して、分からない時は自発的に質問する姿が印象的だった。限られた時間内ではあったが、なかには全小節分組み終えて曲を披露する参加者も。筆者親子もなんとか2小節分組むことができ、曲を通して演奏すると息子から「すごいすごい!」歓声が。「今度は『鬼滅』の曲を作って友だちに見せてあげたい」と興奮交じりに語っていた。

マインクラフトで、音符ブロックを1小節分並べた時の画面

ワークショップを受けた際、筆者が把握している以上に息子がマインクラフトの世界を熟知していることに驚かされた。翌日以降、しばらくプレイする様子を見ているとレッドストーンを使って自在にブロックを組み立てる姿も。子どものモチベーションはとにかくシンプルで、「楽しい」「知りたい」と思った時に顔を出す。その姿を見ながら、「子どものやる気の火を移動させようとする」ことの野暮さをあらためて感じた。

マインクラフトで化学実験のワークショップも

ほかにも、マインクラフトを使って化学実験が楽しめるワークショップも開催された。最初にホウ酸や塩化ナトリウムなどが入った炎色反応の実験キットを使って、おうちでリアルな化学実験に挑戦。炎の色が異なる楽しさを味わった後、MIEEの教育者が作成した化学実験が楽しめるマインクラフトのワールドへ。

マインクラフトでは、熱ブロックをつくる実験にトライした。水素や酸素など元素のブロックを化合物作成機に並べて、水と塩化ナトリウム(塩)を作り、その後、実験テーブルに鉄・水・木炭・塩を並べて熱ブロックを作成。できた後は、氷の上に並べて、水になって溶ける様子を見ながら楽しんだ。

炎色反応のリアルな実験を体験
実験テーブルで熱ブロックを作成
氷の上に熱ブロックをのせて溶かす

子どもは観て、体験した世界をベースに興味と行動を広げていく。今回のイベントのようにZoomを使って自分の好きな分野にアクセスする体験は、子どもたちにとって刺激的な体験になっただろう。まだまだコロナ禍で外出する機会が制限されているが、このような子どもたち主導で参加できるオンラインイベントがもっと増えることを願っている。

本多 恵

フリーライター/編集者。コンシューマーやゲームアプリを中心とした雑誌・WEB、育児系メディアでの執筆経験を持つ。プライベートでは6歳と2歳の男の子を育てるママ。来年小学校入学を控えた子を持つ母として、親目線&ゲーマー視点で教育ICTやeスポーツの分野に取り組んでいく。