こどもとIT
小中高生の多様な好奇心が集う、“未踏”なプロジェクトの数々
――未踏ジュニア 2020年度最終成果報告会レポート(後編)
2021年1月27日 06:30
小中高生の開発者を支援するプログラム「未踏ジュニア」。特に顕著な成果があった8件10名が2020年度「未踏ジュニアスーパークリエータ」に認定されたが、最終報告会に参加した採択メンバーの作品は、いずれも引けをとらない飽くなき好奇心と技術力が注ぎ込まれた作品揃いだ。
本稿では前編・中編に続き、惜しくもスーパクリエイターには選ばれなかったものの、長期の開発に取り組み成果を出した2020年度採択メンバーたちのプロジェクトを紹介していこう。
鎌谷天馬さん(高校3年生):GUInfra - GUIで建てるインフラストラクチャー
高校3年生の鎌谷天馬さんは、AWS(Amazon Web Services)などのクラウドインフラの設定や学習が難しいという声が大きいため、挫折する人を減らしたいと「GUInfra」を開発した。初心者が学習のためにおさえておきたい最低限の設定項目だけに絞り込み、絵的にわかりやすい設定画面からAWSの設定ができるツールだ。
宇枝礼央さん(中学1年生):Color Overlap - 光の三原色RGBを使ったパズルゲーム
中学1年生の宇枝礼央さんは、光の3原色であるRGBのブロックをモチーフにしたゲーム「Color Overlap」を開発。3色のブロックを重ねて白になると消えてポイントとなる。もともとScratchでパズルステージを解くタイプのゲームとして完成させていたものを、Unityで新たに作り直し、ストーリー性を加えゲーム性を高め、新たなゲームとして生まれ変わらせた。イラストや音楽も自作だという。
伊藤寛子さん(高校3年生):Poet - 詩人のための創作ツール
高校3年生の伊藤寛子さんが開発した「Poet」は、詩を作るためのアイディア整理アプリ。詩を書くのが趣味で、数々の入賞実績がある伊藤さんの経験から着想した。満員電車でもどこでも、言葉が浮かんだ瞬間に言葉を書き留め、言葉の位置を入れ替えたり階層化したりして、さまざまな語の組み合わせを検討することができる。また、頻繁に使う辞書機能は、自然言語処理により分かち書きを自動で行ない、ワンタップで自書を引けるようにしたという。
高木皓介さん(高校3年生):GliderGun - ブラウザOSを簡単に作成できるツール郡
高校3年生の高木皓介さんが開発した「GliderGun」は、Linuxのディストリビューションを簡単に作成できるツールで、簡単な設定でブラウザOSを作成できる。例えば、デジタルサイネージのように多くの機能が不要なPCを大量に用意したいときに、ブラウザOSの使用価値は高まるという。ブラウザは基本的にFireFoxを使用しているとのこと。
萩原爽太さん/大垣連さん(ともに高校2年生):Align - バッテリー残量からはじまるエモチャット
高校2年生の萩原爽太さんと大垣連さんが開発した「Align」は、スマートフォンのバッテリー残量が近い人同士をマッチングするチャットアプリ。互いの残量が離れれば自動的にチャットは終了する。「エモい」という感覚を「名残惜しいような感覚」とし、バッテリー残量という偶然性とチャットが唐突に終わる可能性で「エモい」感じを体験できると考えたという。ユーザーテストを経て、引き続き開発中だ。
安東鷹亮さん(中学1年生):ForceBook - つよつよ自作ノートPC
中学1年生の安東鷹亮さんは、デスクトップPC用のパーツを使い、開発者やゲーマーの使用に耐えるハイスペックなノートPC「ForceBook」を開発。筐体の設計から作成、パーツ選定と配置配線、組み立てまで全て行なった。さらにRaspberry Piとタッチパネルでトラックパッドを自作。さまざまな指の動きにアクションを割り当て、好きなアプリを登録できるアプリショートカットの機能も盛り込んだという。
饗庭陽月さん/磯崎孝太さん/大崎夏太さん/寺門幸紀さん/弓削隼大さん(いずれも高専3年生):Rocat - モデルロケットを使ったSTEM教育
高専3年生の饗庭陽月さん/磯崎孝太さん/大崎夏太さん/寺門幸紀さん/弓削隼大さんの開発した「Rocat」は、ロケットのSTEAM教材。ロケット本体とビジュアル型のプログラミングツール、ロケットの加速度などのデータをリアルタイムでグラフ表示できるツールを開発した。5名のチームでGitHubで管理して主にリモートで開発を進めたという。実際に学校でワークショップを実施して改善につなげ、指導用カリキュラムも用意されているそうだ。
10代のスピード感とパワーに圧倒された2020年度未踏ジュニア
2020年度の未踏ジュニア採択プロジェクト全体を通して特筆すべきは、小学生を含む10代が自らの力で技術をひも解き、つかんだ先から使っていく、その驚異的なスピード感とパワーだろう。
開発のステップで特に印象に残ったのは、ユーザーテストを多くのプロジェクトが重視していたことだ。ユーザーテストを最後の仕上げではなく、方針決めや機能整理する段階として位置づけている。最初に決めた設計通りに完成させるというような方針も、それを良しとする予定調和の評価もここにはない。ウォーターフォールではなく、アジャイルに近い手順で開発を進める経験を10代からするというのは、大きな強みだ。
また、前年度に小学生向けのコンテストでScratchの作品で活躍した小学生が、未踏ジュニアに採択されていたことにも驚かされた。また開発環境もScratchではなく、JavaScriptやUnityで作品を完成させている姿もあり、成長のスピードを目の当たりにすることにもなった。
未踏ジュニアを運営する一般社団法人未踏は、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が行う25歳以下のIT人材の育成をする「未踏事業」の卒業生を中心とした団体。未踏ジュニアのメンターは多くが未踏事業のOB・OGでもある。自身の専門フィールドに近い採択者のメンターとして伴走してきた。最終発表会では、10代を見守るメンターの視線や両者の関係性も垣間見え、暖かい空気が感じられた。
可能性だらけの10代のパワーが、これからさらに発揮されていくのが楽しみだ。
未踏ジュニア 2020年度最終成果報告会レポート
・【前編】300個のリレーでCPUを自作!? 小中高生が自分の「好き」を極めた“未踏”なプロジェクトたち(1/25公開)
・【中編】小中高生がユーザーテストを回し、独自の視点と技術力で“未踏”の課題解決に取り組む(1/26公開予定)
・【後編】小中高生の多様な好奇心が集う、“未踏”なプロジェクトの数々(1/27公開)